待機児童問題や保育園不足を背景に、保育士の賃金の低さはここ数年とくに問題視されています。
保育士の離職を阻止するために、政府は保育士の賃金を上げる処遇改善等加算制度を導入しました。
処遇改善等加算制度は、キャリアアップを通じて保育士の年収が上がる制度です。
この記事では、処遇改善等加算についての詳しい解説と、保育士がキャリアアップを目指すためのポイントを紹介します。

保育士の平均年収は?
厚生労働省の平成28年の賃金構造基本統計調査によれば、保育士の平均年収は額面326.8万円、男女別では、男性が363.7万円、女性が324.7万円でした。
日本の正規社員の平均年収が503万円(令和元年)であることに比べると、保育士の平均年収は他の職業に比べて低めであることがわかります。
【参考記事】保育士の平均賃金

保育士の処遇改善等加算とは?国が処遇改善を進めるワケとは
政府は、近年の待機児童の増加と保育園不足を改善するために、保育士の待遇改善に乗り出しました。
一度保育士としてキャリアをスタートした人材に、なるべく長く業界に残ってもらうため、政府は保育士のキャリアアップ制度を拡充しました。
「処遇改善等加算」とは、平成27年と平成29年に導入された保育士の賃金に対する補助金制度です。平成27年度のものを処遇改善等加算Ⅰと呼び、平成29年度のものを処遇改善等加算Ⅱと呼びます。
それでは、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
保育士の処遇改善等加算Ⅰ
政府は処遇改善等加算Ⅰを通して全体の賃金底上げを目指すと同時に、各保育施設の賃金がどのように改善されたかを把握することを目的としていました。
処遇改善等加算Ⅰでは、対象者は保育園で働くすべての職員です。キャリアアップを目指す人や役職のある保育士だけでなく、非常勤職員やパートで働く保育士も対象です。
参考:内閣府
基礎分
処遇改善等加算Ⅰによる賃金アップの内訳として、まず「基礎分」が挙げられます。
基礎分は保育園で働いている職員の業務経験年数に基づいて算出されます。
すべての職員の保育業務経験年数に対して職員の人数で割った数が、「平均経験年数」となります。
業務経験の中には、現在勤務している保育園の他に過去の幼稚園~大学までの学校や介護施設、認可外保育園での職務経験年数も含まれます。
処遇改善等加算Ⅰで定められた基礎分は、平均経験年数に基づいて加算率が変動します。0年を2%として1年ごとに1%ずつ上昇、10年以上の場合は一律12年となります。
賃金改善要件分
賃金改善要件分も、職員の平均経験年数を基準に算出されます。賃金改善要件分として施設が得た補助金は、職員の基本給としてだけでなく、一時金のためにも使うことができます。
賃金改善要件分を受け取るためには、いくつか提出しなければならない書類があります。
- 賃金改善計画書
- 賃金改善実績報告書
保育園は保育士の賃金を上げるために補助金を使っていることを政府に示す必要があるということです。
平均経験年数が11年未満の保育園には一律5%、それ以上の場合は一律6%が加算されます。
キャリアパス要件分
キャリアアップを目指す保育士を支援している保育園に対して「キャリアパス要件分」という補助金もあります。
キャリアパス要件分を受け取るためには、役職や職務内容に応じた賃金体系が設定されていなければなりません。
また、保育士のキャリアアップやスキル向上のために、保育園が研修を行っているかどうかも考慮されます。
これらの条件を満たしている保育園に対しては、保育士のキャリアアップを応援していることに対する補助金として2%が加算されます。
キャリアパス用件分の2%は、賃金改善要件分の5%(もしくは6%)の中にすでに含まれています。キャリアアップのためのサポートが十分でないと判断されると、この2%が削られてしまいます。
保育士の処遇改善等加算Ⅱ
平成29年度の導入された処遇改善等加算Ⅱは、役職についている保育士のための賃金補助制度です。
これまで保育業界には一般的な「役職」という考え方がなく、経験を積んでも特別な役職に就けないケースも多く見られました。
処遇改善等加算Ⅱでは、「保育士」と「園長」の間に存在する中堅役職として「職務分野別リーダー」「専門リーダー」「副主任保育士」を設けました。
参考:内閣府
月額4万円の処遇改善対象者
「専門リーダー」は、特定の保育分野におけるリーダーとなり、他の保育士と連携をとりながら業務を進めます。
これは、経験年数7年以上の中堅保育士が対象で、専門リーダーになるためには後から紹介する「職務分野別リーダー」を経験している必要があります。
「副主任保育士」は、主任保育士の補佐のような役割です。
業務を円滑に進めるために視野を広くもち、主任保育士のサポートをするだけでなく若手保育士の育成にも責任を持ちます。「専門リーダー」と同じように「職務分野別リーダー」を経験し、おおむね経験年数7年以上の保育士が対象です。
月額5千円の処遇改善対象者
「職務分野別リーダー」とは、食育やアレルギーなど特定のトピックのリーダーを指します。
保育園内で園児が安全かつ健康に過ごせる環境を作るため、特定の保育分野の責任を受け持ちます。専門リーダーや副主任保育士が経験年数7年以上の保育士が対象だったのに対し、「職務分野別リーダー」は経験年数3年以上の保育士が対象です。
保育士の給与アップを叶えるキャリアアップ研修とは
保育士が「職務分野別リーダー」「専門リーダー」「副主任保育士」などの役職に就くためには、「キャリアアップ研修」を修了する必要があります。
キャリアアップ研修の修了は保育士としてのキャリアを築くために、保育士としての知識を強化することを目的としています。
保育士のキャリアアップ研修の内容
保育士のキャリアアップ研修で学べる内容は、以下の8分野です。
- 乳児保育
- 幼児保育
- 障害児保育
- 食育とアレルギー
- 保健衛生と安全対策
- 保護者支援と子育て支援
- マネジメント
- 保育実践
1分野の研修時間は15時間以上であり、すべてを受講完了するためには最低でも20日以上はかかるでしょう。そして、キャリアアップ研修を受講したら、レポートを作成して提出し終了となります。
保育士のキャリアアップ研修を受講する3つのメリット
キャリアアップ研修はまとまった時間の研修を受ける必要があり、忙しい中で業務と両立するのは簡単ではありません。
しかし、保育士がキャリアアップを視野に入れるならば、キャリアアップ研修の受講には3つのメリットがあります。
➀月額4万円の給与アップが見込める
キャリアアップ研修は、国が定めた保育士の中堅役職「職務分野別リーダー」「専門リーダー」「副主任保育士」に就くために必要な研修です。
キャリアアップ研修を修了し、職務分野別リーダーを担当し、経験年数が7年を超えたら、「専門リーダー」「副主任保育士」を目指すことができます。
「専門リーダー」「副主任保育士」になると、国からの補助金として月額4万円が支給されます。
➁専門分野の知識が身に付く
キャリアアップ研修は、役職に就くための形式的な研修ではありません。
各ジャンルに関する知識を体系的に学ぶことができ、保育の実務内でも知識を活かすことができます。
大学や専門学校ですでに基礎知識を身に着けていたとしても、実務を経験してから保育の幅広いジャンルを体系的に学び直す機会は多くはありません。
また、キャリアアップ研修を通して現場で抱えている悩みに対するアンサーが見つかることもあるでしょう。
➂転職の際などにスキルの証明になる
期限も設けられていないので、一度取得してしまえばずっと有効な資格として保有可能です。また、転職の際にも「キャリアアップ研修修了済み」であることは、有利に働く可能性があるので大きなメリットといえます。
キャリアアップ研修の問題点
キャリアアップ研修は、保育士のキャリアを考える上で重要なポイントの1つです。
しかし、キャリアアップ研修にはいくつかの問題点があります。
処遇改善手当が適切に分配されていない
キャリアアップ研修は、若手~中堅保育士が経験を積みながら役職に就いてキャリアアップすることが目的です。
しかし、処遇改善手当は保育園の職員の人数や平均経験年数などによって算出されるため、すぐに収入がアップするとは限りません。
支給対象となる保育士は保育園職員全体の5分の1です。対象から外れてしまうと、補助を受けられない可能性もあるので注意が必要です。
研修を受講する時間がない
保育士のキャリアアップ研修は、1分野15時間以上、8分野で120時間の受講時間が必要です。
しかし、保育士と毎日忙しく働いていると、120時間もの時間を受講に費やせない可能性があります。
そのため、保育士としてのキャリアアップを目指しているのに、キャリアアップ研修を受ける時間がなく結果的に役職につけないまま経験年数を重ねてしまうケースも十分に考えられます。
今よりも年収を上げたいなら転職エージェントの利用もおすすめ
キャリアアップのためには、処遇改善等加算を理解し、上手に活用できている保育園で働く必要があります。
キャリアアップ研修を受ける時間がないほど忙しい、もしくは園の理解が得られないという場合には、転職を検討しましょう。
ここでは、キャリアアップを目指す保育士におすすめの転職エージェントを紹介していきます。
保育士ワーカー

保育士ワーカーは、保育士の転職に特化した転職サイトです。
保育士求人数が4万件を超えており、全国の求人から自分に合った職場を見つけることができます。サイトには紹介していない非公開求人も多数抱えており、好条件で働ける求人が見つかる可能性も十分にあります。
また、保育士専門の転職サイトなので、保育士転職の面接対策も丁寧に対応してもらえるのも嬉しいポイントです。
保育園以外にも、幼稚園、学堂、病院、企業など幅広いジャンルがあるので、気になる方はぜひチェックしてみましょう。
公開求人数 | 44,696件 |
対応地域 | 東京、大阪、名古屋、福岡など全国 |
雇用形態 | 正社員/パート・アルバイト |
運営会社 | 株式会社トライトキャリア |
公式サイト | https://hoikushi-worker.com/ |
保育のお仕事

保育のお仕事は保育士専門の転職サイトで、保育士が使いたい転職サイトNo.1に選ばれました。
人気園の非公開求人もあり、大手で働いて経験を積みたい保育士にはうってつけです。
また、面接でうまく話せない保育士でも、プロの転職アドバイザーに相談することでアピールポイントを見つけることができます。面接対策や履歴書作成のコツも指導してくれるのが保育のお仕事の強みといえるでしょう。
公開求人数 | 18,868件 |
対応地域 | 東京、大阪、名古屋、福岡など全国 |
雇用形態 | 正社員/契約社員/派遣社員/パート・アルバイト |
運営会社 | 株式会社トライトキャリア |
公式サイト | https://hoiku-shigoto.com/ |
保育士人材バンク

保育士人材バンクは、厚生労働省から許可を得て運営している保育士専門の転職サイトです。
東証一部上場なので、信頼して転職サポートを任せられます。保育士人材バンクでは、保育士専任のキャリアパートナーが転職の相談を受けてくれます。
また、独自の求人情報を集めているので、他のサイトには掲載されていないような保育園の情報を見つけることも可能です。
専任キャリアパートナーが履歴書添削、面接対策、条件交渉などの転職の不安をカバーしてくれるので、とても頼もしい存在といえます。
公開求人数 | 23,866件 |
対応地域 | 東京、大阪、名古屋、福岡など全国 |
雇用形態 | 正社員/契約社員/パート・アルバイト |
運営会社 | 株式会社エス・エム・エス |
公式サイト | https://hoiku.jinzaibank.com/ |
保育ひろば

保育ひろばは、1対1の転職相談カウンセリングを通してキャリアビジョンや条件面の希望などを相談することができます。
そのため、自分のペースで落ち着いて転職をしたいと考える人におすすめです。
完全無料で利用ができるサービスで、情報収集のためだけに利用することもできます。まだ転職を決めたわけではないけど、どんな求人があるかを確認したいという人におすすめです。
公開求人数 | 非公開 |
対応地域 | 東京、大阪、名古屋、福岡など全国 |
雇用形態 | 正社員/契約社員/パート |
運営会社 | 株式会社ネオキャリア |
公式サイト | https://hoiku-hiroba.com/ |
マイナビ保育士

マイナビ保育士は、こだわり条件から自分に合った職場を見つけることのできる保育士専門の転職サイトです。
未経験OKや産休・育休取得実績など、自分のキャリアやライフステージに応じて最適な職場を見つけられます。
マイナビ保育士はたくさんの選択肢の中からいくつかの候補を絞り込んで提案し、その中からさらに転職希望者が履歴書送付先を決定する仕組みです。
条件面のすり合わせを事前に行うので、転職活動で時間を無駄にせず効率的に転職先が見つかります。
公開求人数 | 15,442件 |
対応地域 | 東京、大阪、名古屋、福岡など全国 |
雇用形態 | 正社員/契約社員/非常勤・パート |
運営会社 | 株式会社マイナビ |
公式サイト | https://hoiku.mynavi.jp/ |
まとめ
保育士がキャリアアップと年収アップを目指すためには、政府が導入した処遇改善等加算やキャリアアップ研修制度を理解しておくことが大切です。
自分が制度を理解するだけでなく、職場となる保育園側も保育士のキャリアアップを促進する土壌があるかを見極める必要があります。
順調にキャリアを積み、中堅役職に就ければ月額4万円が支給されます。
確実に年収アップするためにはキャリアビジョンを明確に持ち、状況に応じて転職も視野に入れましょう。