パワハラとは、職場の上司や先輩などからのいじめや嫌がらせを指します。

パワハラで退職を考えた際、これから先のことが不安になる方が多いでしょう。

本記事では、パワハラで退職する際の退職理由や、パワハラで退職する前にやるべきことを解説します。

他にも、パワハラで退職する流れや、退職する際に請求できるものなど、パワハラで退職する際に役立つ情報を紹介するので、検討している方は参考にしてください。

関連記事：パワハラ（パワーハラスメント）の定義とは？3つの要件と6類型を徹底解説

退職を考えるパワハラとは？

パワハラで退職を考えている方のなかには「自分が受けているのはパワハラなのだろうか？」と疑問に思う方もいるかもしれません。

ここからは、退職を考えるパワハラの具体例について解説するので、ご自分の状況と照らし合わせながら見ていきましょう。

精神的苦痛を与える攻撃

精神的な攻撃とは、言葉によって精神的苦痛を与える行為を指します。以下の事例はパワハラにあたる行動の一部です。

このような精神的な攻撃はパワハラに該当します。精神的苦痛を受けた場合、精神障害を発生するケースが少なくありません。

身体的苦痛を与える攻撃

身体的苦痛を与える攻撃は、相手に対して直接暴力をふるうことです。

殴ったり蹴ったりなどの行動を指しますが、わかりやすい行動だけではなく、以下の事例も身体的苦痛を与える攻撃に該当します。

身体に直接ダメージを与えていなくても、ものに当たって威嚇する行為や営業電話を立ったままさせることも身体的苦痛を与えるパワハラです。

過大・過小な要求

業務における過大、あるいは過小な要求もパワハラに該当する行為です。

過大な要求とは時間内に終わらせるのが客観的に不可能な仕事量を押し付けられる、上司の仕事など本人の能力を超える仕事を押し付けること指します。

たとえば、就業時間間際に深夜まで残業しても遂行不可な業務を押し付けられたり、新人社員にベテラン社員と同じ内容の仕事を押し付けたりする場合は過大な要求です。

一方、過小な要求とは、レベルの低い仕事を与えられることです。

業務と無関係の掃除を長時間させる、ひたすら単純作業をさせられるなど、能力やスキルに見合わない雑用のような仕事を与えられる行為を指します。

また、業務指示を一切おこなわず、仕事をさせない場合も過小な要求に当てはまる行為です。

個の侵害

私的なことに対して過度に干渉する行為は、個の侵害に該当するパワハラ行為です。

たとえば、上司にしか話していないデリケートな情報（性的思考や病歴、不妊治療歴など）について、本人の了承を得ずに他の同僚に暴露する行為は個の侵害です。

他にも、以下の具体例が挙げられます。

また、個人のSNSチェックや接触してくる行為は、された本人が不愉快に感じる場合は個の侵害に該当する可能性があります。

パワハラと認定されないケース

続いて、パワハラと認定されないケースの具体例を紹介します。

パワハラはケースごとに判断されるため、自分で判断するのは簡単なことではありません。

労働者がパワハラだと感じても、パワハラが認定されないことがあります。

しかし、パワハラの定義を理解しておけば、状況を判断する材料が増えるため、自分を守るために役立てることが可能です。

パワハラで退職する際の退職理由

パワハラで退職を決意した際、多くの方は「退職理由が何になるのか」気になるものです。

ここから、パワハラで退職する際に考えられる退職理由について解説していきます。

パワハラが認定されると「会社都合」

退職理由をパワハラが原因だと認められた場合、自己都合ではなく「会社都合で」退職ができます。

厚生労働省の「パワーハラスメントの定義について」では、以下の1～3すべてを満たす場合パワハラに該当すると決められています。

パワハラを認めてもらうには、パワハラの事実を証明する証拠や証言が必要になります。

証拠不十分の場合、パワハラを認めてもらえないケースがあるため、証拠集めが重要です。

また、離職証明書に会社都合だと記載するのは会社側なので、会社がパワハラを認めていない場合は自己都合による退職になる可能性があります。

会社都合の退職は雇用主に責任があると認めていることもあり、会社側には都合がよくありません。

そのため、パワハラが理由でも自己都合の退職を促されるケースがよくあります。

「自己都合」で退職しても変更できる可能性がある

会社側からの要求で自己都合で退職をしても「特定理由離職者」と認められた場合は、失業保険の受給日を早くしてもらえる可能性があります。

「特定理由離職者」とはやむを得ない理由で離職した方を指し、2ヵ月の給付制限を待たずに失業保険の受給ができます。

心身の障害・疾病・負傷を理由に退職した方は特定理由離職者として認められるため、パワハラが原因でケガや精神病を患った方は該当します。

そのため、会社側からの要求で自己都合で退職した場合は、ハローワークで「特定理由離職者」の申し立て手続きをおこないましょう。

会社都合と自己都合の違い

退職理由が会社都合と自己都合の違いは、以下の表を参考にしてください。

	会社都合	自己都合
失業給付金の給付開始日	7日後	2ヵ月と7日後※
失業給付金の給付日数	90～150日	90～330日
失業給付金の給付制限	なし	あり
退職金	全額受け取れる	減額の可能性がある
経歴	履歴書に「会社都合」と記載	履歴書に「自己都合」と記載

※2020年に失業給付金の給付開始日が改訂され、給付制限期間が3ヵ月から2ヵ月に短縮されました。しかし、5年間のうちに2回以上の自己都合による退職をしている場合は、3回目以降の給付日数が3ヵ月に戻ります。

参考：厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク（PDF）

会社都合と自己都合では失業給付金、退職金、経歴に違いがあります。

会社都合であれば失業給付金の給付開始日が早く、自己都合による退職金よりも給付日数が長いケースがほとんどです。

しかし、会社の就業規則によっては会社都合でも退職金が減額される可能性があるので確認してみましょう。

パワハラで退職を勧奨・強要された際の対処法

パワハラで退職を勧奨・強要された場合は、会社や労働組合にパワハラの証拠を提出しましょう。

パワハラの事実を証明できれば、会社都合で手続きをおこなうしかありません。

証拠は信頼性の高いものが必要になるため、映像や音声、文章などあらゆる証拠を集めておくことがポイントです。

また、自己都合を促された際の会話を録音するのも有利に働きます。

会話の際は「なぜ会社都合の退職にならないのか」「パワハラについて会社はどう考えているのか」などの内容を質問しましょう。

パワハラで退職する前にやるべきこと

ここからは、パワハラで退職する前にやるべきことを紹介します。

パワハラで退職すべきか悩んでいる方や、何か対処法を知りたい方は参考にしてください。

社内・社外の相談窓口を利用する

社内に相談窓口がある会社であれば、相談窓口の利用を検討しましょう。

パワハラは会社にとって解決すべき問題のため、相談することで当事者への注意や、人事異動などの措置をおこなってくれる可能性があります。

社内に相談窓口がない場合は、社外の相談窓口の利用をおすすめします。

「総合労働相談コーナー」は嫌がらせやいじめ、パワハラなどの労働問題を対象とした相談窓口です。

相談は電話、もしくは対面でおこなわれ、予約不要で無料で利用できます。

相談することで、具体的な対処法や解決方法をアドバイスしてもらえるでしょう。

また、費用は発生しますが弁護士に相談するのも方法のひとつです。

異動や配置転換を申し出る

パワハラの加害者が同じ部署で働いているなら、異動や配置転換を申し出ることで接点を減らせます。

直接の接点がなくなれば、パワハラ被害にあわずに済むでしょう。

異動届を出す際は、加害者に知られないように慎重におこなってください。

加害者が上司であれば、人事部に上司の変更を申し出る方法もあります。

その際も、内密に進めてもらえるように交渉をおこないましょう。

休職を検討する

パワハラが原因で体や精神的に不調がある方は、休職を検討してはいかがでしょうか。

パワハラは人によっては出社が困難になることもあり、無理やり出社すると症状が悪化する恐れがあります。

精神病は患うと治るまでに時間がかかるため、休息を取って回復させることが大事です。

病院を受診し医師から「就業困難」だと診断されると、有給が残っていない場合でも退職日まで休職ができます。

また、条件を満たしていれば、休職中に傷病手当金や労災保険をもらえる可能性があるので調べてみましょう。

就業規則を確認する

2022年4月より、パワーハラスメント防止措置が全企業に義務化されました。

パワーハラスメント防止措置では、就業規則にパワハラを厳正に対処する旨の方針・対処の内容を規定するように定められています。

そのため、パワハラを受けた際は就業規則を確認することで、会社がパワハラ加害者に対して適切な措置をおこなったかを把握できます。

他にも、就業規則では支払いのルールも確認できるため、退職金や未払いの残業代などを請求する際もチェックしましょう。

パワハラの証拠を集める

パワハラを受けたことを証明するには、証拠を提出する必要があります。

また、会社側との交渉や裁判になる場合、労働者側にパワハラの立証を求められます。

そのため、パワハラで退職をする前には、パワハラの証拠を集めなければなりません。

パワハラの証明に役立つものは、以下を参考にしてください。

パワハラを訴えても、労働者の意見が必ずしも事実とは限らないと判断されるため、無条件に受け入れてもらえるわけではありません。

本当にパワハラ行為があったのか調査が実施されるので、上記に挙げた証拠が重要になります。

十分な証拠を集めていない場合、パワハラの事実を受け入れてもらえない可能性があるので注意しましょう。

パワハラで退職をする流れ

続いては、パワハラで退職をする流れを紹介します。

流れを理解しておくことで、退職までをスムーズに進められるのでチェックしておきましょう。

退職日の1ヶ月前に退職の意志を伝える

退職意志の表明は一般的に1ヶ月前に直属の上司に伝えます。就業規則に規定されている場合は、就業規則に従いましょう。

法的には2週間前に申し出ることで、労働契約を終了できると定められています。

しかし、会社は引継ぎや人の補充する必要があるため、できるだけ早めに伝えると親切です。

退職理由について問われた際は、パワハラが理由であることを伝える必要はありません。

しかし、パワハラで慰謝料の請求を考えているなら、退職届にパワハラが原因である旨を記載しておきましょう。

有給休暇が残っている場合は、退職届を提出後、退職日まで有給休暇を使用することも可能です。

そうすることで、上司と会わないまま退職ができる可能性があります。

退職届を用意する

退職を申し出る際は、退職届を提出します。

退職届には理由を記載しますが「一身上の都合」とは書かないようにしましょう。

なぜなら、一身上の都合を理由にすると、自己都合による退職と扱われ、会社都合による退職の補償が得られなくなる恐れがあります。

そのため、退職届には具体的な理由を記載するか、空白にしてください。

パワハラで慰謝料を請求する方は、パワハラの具体的な内容や頻度、心身の状態などを記載しましょう。

退職届は補償や法的な措置を求めるための証拠にもなるため、慎重に作成してください。

退職意志を伝えられないなら退職代行の利用を検討する

退職を決意したとはいえ、上司からパワハラを受けている場合は、直接退職意志を伝えられない方もいるでしょう。

退職の申し出が難しい方は、退職代行サービスの利用をおすすめします。

退職代行サービスとは、労働者に代わって弁護士や代行業者が会社に退職の意志を伝えるサービスです。

費用は発生しますが「会社が辞めさせてくれない」といったトラブルの回避や、ストレスを軽減できるメリットがあります。

退職代行サービスのなかには違法性のある業者が紛れている可能性があるので、サービスは慎重に選びましょう。

以下の記事におすすめの退職代行サービスを紹介しているため、選ぶときの参考にしてください。

関連記事：退職代行おすすめランキング14選｜サービス内容を比較

パワハラで悩んでいるなら退職代行Jobsに相談しよう

パワハラで困っている方、退職したい方は退職代行Jobsに相談するのがおすすめです。

退職代行Jobsは顧問弁護士が指導している退職代行サービスなので、パワハラ問題も安心して解決できます。

退職できない場合は全額返金され、追加費用は一切かかりません。

手続きは最短30分で済み、24時間対応しているため即日退職連絡が可能です。

LINEで無料相談もおこなっているため、まずは試してみてください。

労災認定に必要な書類を準備する

パワハラが理由で体調を崩した場合は、労災が認定され、労災保険が受給できる可能性があります。

労災とは「労働災害」を指し、労働者が業務によって被った負傷や疾病を指します。

医師や精神科での診断書は労災認定に必要な書類になるため、大切に保管しましょう。

労災保険が認定されることで、治療費や通院費の補償などを受けられます。

しかし、パワハラによる労災認定はハードルが高く、認定を得るにはパワハラの事実を裏付ける証拠が必要です。

パワハラはその場で起こるため証拠が集めにくい傾向がありますが、メモをしたり録音したりなど、意識的に証拠を残しましょう。

パワハラで退職する際に請求できるもの

パワハラでサービス残業を強いられたり、精神病を患い働けない状態になったりした場合は、法的手段を取って受けた損害を請求することが可能です。

ここからは、以下3つの請求できるものについて解説していきます。

会社や加害者からの慰謝料

パワハラが原因で心身に不調が出て働けない状態になった場合、会社や加害者に慰謝料を請求することができます。

慰謝料を請求する際は、未払いの残業代や給与なども一緒に請求することが可能です。

パワハラの慰謝料はケースによって異なりますが、50～100万円程度が相場です。

慰謝料を請求するには労働者側でパワハラを立証する必要があるため、事実を証明する証拠集めが重要になります。

未払いの給与・残業代

サービス残業や休日出勤などで、未払いの給与や残業代がある方は、請求することで取り戻せる可能性があります。

請求するには残業や休日出勤の事実を証明する必要があるため、サービス残業や休日出勤をした場合も証拠を残しておきましょう。

会社に請求しても取り合ってくれない場合は、労働機関や専門機関に相談することで、アドバイスや支援をおこなってくれます。

解雇手当や退職金

パワハラが原因の退職は、労働者に責任がないものです。

労働条件や環境が悪いことで退職せざるを得ない状況なので、会社に制度がある限り解雇手当や退職金を請求することができます。

パワハラが認定され会社都合の退職であれば、退職金の割り増しや追加の補償を受けられるケースもあります。

就業規則や退職金の制度を確認し、必要な権利をしっかりと主張できるように準備しておきましょう。

パワハラ退職に関するよくある質問

最後に、パワハラが理由の退職に関するよくある質問にお答えします。

同じ疑問を抱えている方は、解決するために参考にしてください。

パワハラで退職した場合、転職活動に影響はある？

パワハラで退職をするのはまったく問題ありませんが、転職活動では理由の伝え方に注意が必要です。

事実とはいえ「パワハラがつらくて辞めた」「精神病を患ったから」などの理由を伝えると、転職先でも「同じ悩みを持つのでは？」と懸念されるリスクがあります。

そのため、履歴書にもパワハラを退職理由に書くことはおすすめできません。

ポジティブな印象を持ってもらうために「働き方を変えたい」「スキルアップをめざしたい」などを退職理由にしましょう。

パワハラが原因であることを伝える場合は、個人の問題と思われないように職場全体の問題であることを強調してください。

伝えない場合、採用担当者に「個人の能力が低い」「性格に問題がある」などと誤解される恐れがあるので注意しましょう。

パワハラで退職した場合、損害賠償金はいくらが相場？

パワハラが原因の損害賠償金の相場は50万円～100万円です。

弁護士に依頼する場合は費用が50万円～100万円ほどかかることもあり、損害賠償を請求しても金銭的メリットは少ないといえます。

請求には手間や精神的負担がかかるため、ケガや精神病などで働けないなどの損害がない場合は、慎重に検討して決断しましょう。

パワハラが理由で即日退職はできる？

職場でいじめや嫌がらせなどのパワハラがある場合、やむを得ない理由の退職になるため、即日退職が可能です。

退職代行サービスを利用する方のなかには、パワハラが理由で即日退職を希望する方が少なくありません。

そのため、即日退職をしたいなら、退職代行サービスの利用がおすすめです。

退職代行サービスを利用した即日退職の流れについては、以下の記事をご覧ください。

関連記事：退職代行で可能な「即日退職」の仕組み｜すぐに辞めたい人が押さえるべきポイント

パワハラの仕返しをする方法は？

理不尽なパワハラを受けた側であれば、加害者に仕返しをしたいと考えるのも無理はありません。

とはいえ、加害者の実名をネット上にさらして誹謗中傷をおこなうと、侮辱罪や名誉棄損にあたる可能性があります。

仕返しをおこなうには、自分の立場を危うくしないことが重要です。

パワハラを承認されることが仕返しにもなるため、客観的証拠を集めて人事に退職届を出しましょう。

また、今の会社よりも大手企業に転職することで、上司に大きなダメージを与えることができるはずです。

パワハラの証拠を集めて有利に退職しよう！

パワハラで退職することは、決して「逃げ」の選択ではありません。

退職を検討している方は、有利に退職するために、パワハラの事実を証明する証拠集めを始めましょう。

パワハラは訴えるだけでは事実だと判断されない可能性があるため、音声データや動画などの証拠が重要になります。

会社都合の退職ができると、失業給付金の給付開始日が早くなり、気持ちに余裕を持って転職活動がおこなえます。

自分らしく働ける会社に出会うために、勇気を出して一歩を踏み出しましょう。