監査法人で金融業を担当した経験がある方などが金融業に興味をもち、次なるキャリアとして銀行を検討する場合があります。
銀行というと新卒採用のイメージが大きいかもしれませんが、いわゆるキャリア採用も行っており、転職して入行できる可能性があります。
銀行での業務は公認会計士業務との親和性があり、公認会計士の知識やスキルを活かせる場面も多数あります。
とはいえ、銀行へ転職を果たす公認会計士はまだ少数派です。また公認会計士のキャリアが多様化する中であえて銀行を選ぶメリットはあるのか、転職した場合にミスマッチが生じないのかなど銀行への転職で不明な点も多いことでしょう。
そこでこの記事では銀行へ転職するメリットや注意点、転職後のキャリアや必要とされるスキル・能力などについて解説します。
目次
銀行における公認会計士のニーズ、市場状況
まずは、銀行における公認会計士のニーズやターゲット層、求人の状況などについて解説します。
大手銀行を中心に公認会計士のニーズがある
金融業界における公認会計士の市場価値は高く、大手銀行を中心にニーズがあります。
銀行は大きくわけて商業銀行と信託銀行があります。商業銀行は預金や融資、為替の取り扱いがある一般にイメージされる銀行のことです。商業銀行の中でも都市銀行や地方銀行、ネット銀行、外国銀行などがあります。
信託銀行は現金や不動産などの財産を信託として引き受け、管理、運用する銀行のことです。商業銀行と信託銀行のどちらも公認会計士のニーズがあります。
また銀行以外では投資銀行や証券会社などで募集をかけている場合があり、公認会計士が尚可資格や歓迎資格となっている場合もあります。
年齢は30代までが目安
銀行へ転職できるチャンスが大きいのは若手会計士です。初めて銀行へ転職する場合、年齢は30代まで、場合によっては35歳までが目安になります。
年齢制限(制限理由つき)が設定されている求人も多いので、年齢で応募条件を満たせない方もいるはずです。
銀行経験がある公認会計士であればこの限りではありませんが、それでも少しでも若いうちに行動したほうが有利になると思っておいたほうがいいでしょう。
銀行ではファイナンスや高度な金融知識が求められるため、転職後にも勉強と実務を通じてスキルアップしていく必要があります。そのため成長意欲、学習意欲を含むポテンシャル要素を加味して採用されるケースが多数です。
またハードワークとなる職場が多いため、体力や気力の面でも若い人材が好まれます。
銀行未経験で30代・40代での転職可能性もゼロではありません。しかし特筆すべき実績や高い語学力、MBA資格など目を引く実績・経歴をアピールして即戦力であることを証明する必要があります。
したがって、難易度は非常に高いです。
求人の数は多くない
銀行の求人動向は、新型コロナウイルス感染拡大を受けて一時期は採用控えがありましたが、現在はコロナ禍前と同水準まで戻っています。
とはいえ、公認会計士の一般的な転職先である会計事務所や監査法人ほどの求人数はありません。
銀行はメガバンクを筆頭に、新卒者の採用者数を減らしています。ここ数年で事務業務の効率化が急速に進み、店舗の統廃合なども行われたことなどが理由です。
そのような中で、中途採用者の枠を一気に増やすということはないでしょう。ただし、転職組は即戦力採用なので、高い能力・スキルがあれば採用される可能性があり、新卒採用とは異なる側面があります。
採用基準は高め
銀行は業務経験やスキルだけでなく顧客からの高い信用が求められる業種なので、採用基準は高く設定されています。また安定性と社会的な信用度の高さから銀行への転職を希望する方は多く、人気が高いため倍率が高めです。
公認会計士以外にも優れた経歴を持つ方が応募しているので、その方たちとの競争にも勝ち抜かなければなりません。
専門性を活かしつつ総合職としての活躍を期待される
銀行は基本的に総合職採用です。公認会計士は専門職ですが、銀行ではゼネラリストとしての活躍が期待されます。まずは前職の業務経験を活かせる部署へ転職し、その後は異動して別の部署に所属するというのがよくあるパターンです。
公認会計士は職人気質的なタイプの方が多いので、銀行業への適性という点もご自身でよく考えておくほうがよいでしょう。
公認会計士の経験を活かせる金融業の種類
銀行は金融業のひとつですが、金融業には銀行以外にもさまざまな業種があります。
公認会計士の知識やスキルを活かせるという点では、銀行以外の業種も選択肢に入るでしょう。以下では銀行以外も含め、公認会計士の転職先に適した金融業の種類について解説します。
銀行
銀行ではバックオフィス(経理)ポジションで公認会計士を求めています。とくに、複雑な会計処理が求められやすく、国際的な会計基準への体制整備を進めている大手銀行でニーズがあります。
業務内容は財務諸表や開示資料・報告書の作成、会計基準の推進などです。公認会計士業務との親和性が高いため、金融業の中では比較的転職しやすいでしょう。
バックオフィス部門ではほかに内部監査や経営企画、リスク管理などのポジションで公認会計士が求められています。
ほかの部門でいうと、投資銀行部門やコンサルティング部門での採用を行っている場合があります。業務改善やM&A企画書の作成、顧客へのコンサルティングなどを行います。
こちらは監査法人での勤務年数が3年程度の若手会計士がポテンシャル要素も期待されて採用に至るケースが中心です。
投資銀行、PEファンド
投資銀行は企業の資金調達サポートやM&A関連のアドバイザリーを提供する会社のことです。「銀行」と付くものの、銀行業ではなく証券業の一種で、預金や融資機能があり一般の人が日常使いする銀行とはまったく別ものです。
公認会計士の業務として想定されるのは、コーポレートファイナンスに関する業務やM&A、ファイナンシャルアドバイザリーです。
PE(プライベートエクイティ)ファンドとは成長期を過ぎた安定した企業に投資するファンドのことです。ファンドでは投資先の選定する際に財務面からのデューデリジェンスを行うため、こうしたポジションであれば公認会計士の知識やスキルを活かせます。
監査法人での経験に加え、M&A業務の経験を必要とされる場合があります。
投資銀行もファンドも、会計・財務の知識やスキルだけでなく、経営に関する幅広い知識やビジネスセンスが問われます。採用のハードルは非常に高く、公認会計士であっても内定を獲得できる方は稀です。
証券会社
証券会社は投資家が保有する有価証券の売買窓口となる会社です。投資銀行部門で募集をかけている場合があり、公認会計士の知見を活かせる転職先のひとつです。ただし、会計以外に高度な金融知識が求められます。
公認会計士のニーズがあるのは経理やカバレッジバンカーです。経理については、他業種の経理と業務内容は大きく変わらないため、公認会計士がなじみやすいポジションでしょう。
大手証券会社では海外に子会社や関連会社があるので、IFRSに精通している公認会計士は有利にはたらきます。
カバレッジバンカーとは、ファイナンスやアドバイザリー案件を獲得する営業ポジションです。カバレッジバンカーは財務会計やコーポレートファイナンスの知識が求められるため、ファイナンシャルアドバイザリーの経験があると評価されます。
生命保険会社
生命保険会社では海外を含むグループの拡大にともない、会計業務が複雑化しているため、公認会計士のニーズがあります。
多いのは経理・財務などのバックオフィスポジションです。連結決算業務や子会社・関連会社との折衝、開示資料の作成、IFRS分析などを行います。また稀なケースですが営業職やライフプランナーとして活躍している人もいます。
公認会計士が銀行へ就職するメリット
公認会計士のキャリアは多様化しており、転職先の選択肢は豊富にあります。そのような中で、あえて銀行を選ぶメリットはどこにあるのでしょうか?公認会計士が銀行も含めた金融業へ転職するメリットを解説します。
公認会計士としてのスキルや経験を活かせる
監査法人の業務は銀行の業務と親和性が高いため、公認会計士としてのスキルや経験を活かすことができます。たとえば企業へ投資やM&Aを行う際には、対象企業の財務状況を正しく判断しなければなりません。
そのために財務諸表を読み解く作業や企業価値を評価するバリュエーション、財務状況を精査するデューデリジェンスなどを行います。
こうした業務は公認会計士の独占業務である監査との共通点が多く、監査法人での経験を活かしやすいです。また銀行は業務上、文書を扱う機会が多く、その点も監査業務と共通しています。文書作成力やパソコンスキルなどが活かせます。
年収アップになる場合がある
一般に監査法人で働く公認会計士は収入が高いケースが多いため、監査法人以外へ転職して年収を上げることは難しいのですが、銀行への転職であれば上がる可能性があります。
とくに投資銀行や証券会社、商業銀行の投資関連部門におけるフロントオフィスの年収水準は、インセンティブボーナスがつくため年収が上がりやすいでしょう。
外資系投資銀行であればインセンティブの割合が高いため実力次第では数千万円の年収を稼ぐことも可能です。もっとも、採用基準が極めて高いため転職できるケースは稀です。
また、監査法人での収入がまだ高くない若手会計士であれば、上記以外に転職した場合でも年収が上がる可能性はあります。
収入面でいうと、安定性も銀行の魅力です。銀行は公共性が高い業種なのでビジネスが縮小・消滅するリスクが低く、銀行で働く人たちの収入が急激に減少することはあまり考えにくいでしょう。
ワークライフバランスが改善される場合がある
監査法人は大手企業の不正会計などをきっかけに監査が厳格化して業務量が増大し、以前にも増して激務となっているため、ワークライフバランスの改善を望む方が少なくありません。
銀行も非常に忙しい職場ですが、経理部門など一部の部門についてはワークライフバランスが改善される場合があります。決算時期のような繁忙期は忙しいですが普段の業務量は監査法人と比べて抑えやすいでしょう。
公認会計士が銀行へ就職する場合の注意点
メリットがある銀行への転職ですが、注意点も存在します。
転勤や部署異動が多い
監査法人は希望しない限り転勤はありませんし、部署異動も基本的にありません。これに対して銀行は全国転勤や部署異動が多い職場なので、必ずしも希望の地域や部署で働けるとは限らず、転職直後は希望通りでもいずれ変わる可能性があります。ご家族がいる場合は転職する前に転勤に対応できるのかなどを相談しておくほうがよいでしょう。
監査法人の風土とギャップがある
銀行の風土は体育会系だったり手堅い人が多かったりと銀行によって独自の風土があります。
これは監査法人も同じです。そのため両者の風土を比較するのは難しいのですが、一般に監査法人は自由な風土のところが多く、デスクもフリーアドレスで固定化されていません。
銀行の場合はもう少しタフな雰囲気だったり体育会系だったり、あるいは保守的だったりするので、ギャップを感じてしまう方もいるでしょう。
転職先によっては監査法人以上のハードワークになる場合がある
どの銀行を選ぶのか、あるいは銀行以外の金融業を選ぶのかによって異なりますが、転職先によってはかなりのハードワークになります。ノルマがあるケースも多いため、プレッシャーに感じる人もいるでしょう。
監査法人では一般に営業ノルマなどはないため、精神的な面も含めてハードに感じるかもしれません。とくに投資銀行や証券会社、PEファンドは一般にハードワークと言われています。
公認会計士が銀行へ就職した後のキャリア
公認会計士が銀行へ就職すると、監査法人で磨いた監査業務のスキルや会計知識に加えて高度な金融知識やコンサルティングスキルを得ることができ、今後のキャリアにも大きな武器となります。
銀行へ就職した後は以下のようなキャリアが考えられます。
ほかの銀行へ転職してキャリアアップする
もっとも王道なのはほかの銀行へ転職してキャリアアップを図るケースです。銀行での経験を直接活かすことができ、転職リスクも抑えられます。
採用する銀行側としても即戦力として期待できるため、内定を獲得できる可能性も高いでしょう。
PEファンド
PEファンドは外資系投資銀行や証券会社からのキャリアとして人気があります。財務会計やコーポレートファイナンスの知識、バリュエーションや財務モデルの作成などさまざまな業務経験を活かすことができます。M&Aやコンサルティング業務の経験者が優遇されやすく、英語力も重視されます。
証券会社
大手証券会社の投資部門やM&Aアドバイザリー部門などへのキャリアも可能です。
また富裕層向けのプライベートバンキング部門でも公認会計士資格があると顧客からの信頼を得やすいため一定のニーズがあります。
コンサルティングファーム
銀行で金融知識を高め、アドバイザリーなどに従事した方ならコンサルティングファームへのキャリアを展開できます。監査法人からコンサルティングファームへ転職することも可能ですが、転職リスクを抑えつつ会計知識を活かせるFAS系コンサルティングファームが中心となり、ファームの種類は選びにくいのが実情です。
しかし銀行を経由するとM&Aアドバイザリーやビジネス分析など幅広い経験を積めるため、戦略系などFAS系以外のファームへの転職可能性も見えてきます。
事業会社の経営企画、経理
事業会社の経営企画や経理部門への転職も可能です。とくに経営企画は経営に関する深い知識が求められるため、監査法人から直接転職するには難易度が高いのですが、銀行を経由すれば転職の可能性が広がります。
ベンチャー企業CFO
ベンチャー企業では事業を円滑に進めるために公認会計士や銀行出身者を歓迎する場合があります。銀行時代に高い実績を挙げた方であればCFO(最高財務責任者)として迎えられる可能性もあるでしょう。
ベンチャー企業への転職は年収が下がることが多いですが、ストックオプションが付与される場合があり、上場後に大きな利益を得られる可能性もあります。
公認会計士が銀行へ就職するために必要なスキル、能力
銀行では財務会計やファイナンスの知識が必要ですが、公認会計士であればこの点は満たしている方が多いはずです。ではそれ以外にどんなスキルや能力があると銀行への転職可能性を高められるのでしょうか。
銀行では汎用性の高いスキルが必要
銀行はゼネラリストとしての活躍が期待されるため、汎用性の高いスキル・能力が必要です。具体的には、コミュニケーションスキルや論理的思考能力、英語力といったどんなビジネスでも必要とされるスキル・能力が求められます。
また、どの業界でも歓迎されやすいIT関連の知識やスキルは銀行でも評価の対象になります。
銀行は企業と同様にDX(デジタルトランスフォーメーション)やテクノロジーを用いた業務効率化が推し進められているからです。ITに強い公認会計士は希少性が高いため、ほかの候補者との差別化を図ることもできます。
英語力
銀行では語学力が求められるケースが多いです。とくにメガバンクなどグローバルな銀行や、クロスボーダーディールが増加している投資銀行などでは英語力の高い人材が求められる傾向にあります。
投資銀行などは履歴書の見た目という意味でも英語ができるほうがよいでしょう。大手監査法人で海外案件を中心に担当していた方などは有利にはたらきます。
英語力のレベルとしては、ネイティブまたはそれに準ずるビジネスレベルでの力が求められます。
コミュニケーションスキル
銀行業務では顧客への提案やディスカッション、企業の経営層との商談などさまざまな場面でコミュニケーションスキルが要求されます。
監査法人でも仕事を円滑に進めるため、相手に分かりやすく伝えるためのコミュニケーションスキルは必要ですが、銀行ではより高度で積極性のあるコミュニケーションが求められるでしょう。
論理的思考能力
銀行はめまぐるしく変わる経済環境の中で社内外のさまざまな人と関わりながら、最適解を探していくような仕事です。
たとえば投資関連業務に就く場合、顧客のニーズをくみ取ってニーズに合った提案を行ったり、情報を体系的に整理して伝えたりするために論理的思考能力が必須です。
経理を担当する場合も、前例のない事象を会計基準に当てはめ、論理的に解決へ導く必要があるでしょう。
公認会計士の論理的思考能力は資格試験の段階で養われているケースが多いですが、仕事で十分にその能力を発揮するには普段から筋道を立てて考える習慣を身につけておくのがよいでしょう。
まとめ
公認会計士は金融業界における評価が高い職種ですが、銀行は求人数が少なく採用基準も高いとあって転職は狭き門です。
自分に合った求人を見つけるだけでも苦労することが予想されるため、転職を検討中の方は転職エージェントに相談して活動を進めることをおすすめします。
とくに公認会計士の転職事情に詳しいエージェント、金融業界に精通したエージェントのサポートが必須です。