「聞こえるけれど聞き取れない」
「本当に聞いてるの?と何度も言われてつらい」
聴覚には問題がないのに、聞き取りに困難を抱える聴覚情報処理障害(APD)といった症状があります。仕事上、聞き取りにくさが原因でトラブルとなるケースもあるようです。
この記事では、APDの症状について詳しく解説し、向いてる仕事について紹介します。
おすすめの仕事に加え、就職や転職の際に気をつけるべきポイントなども紹介するので、APDの症状がある方やご家族にAPDの症状を抱えている方は、ぜひ参考にしてください。
関連記事:障がい者向け転職エージェント10選|選び方や活用するポイントも解説
目次
聴覚情報処理障害(APD)とは
聴覚情報処理障害(APD)の特徴を以下の4つのポイントで紹介します。
それぞれ詳しく見ていきましょう
聴覚情報処理障害者(APD)と難聴の違い
聞き取った音を理解するのが難しいケースが多く、耳から入った音を脳で処理する過程に問題が生じていると考えられています。国内ではADPと呼ばれるのに対し、国際的にはLid(Listening Difficulties)=「聞き取り困難症」と呼ぶのがメジャーなため、ADP/Lidと併記されます。
両耳の聴力レベルが70dB以上、または片耳の聴力レベルが90dB以上かつもう片耳の聴力レベルが50d以上であれば、障害者認定を受け「身体障害者手帳」が交付されるため、さまざまな福祉サービスを受けられます。
また、軽度であれば補聴器を使用することで、日常生活の会話はかなり聞き取りやすくなるでしょう。
一方、聴覚情報処理障害は、脳の情報処理機能の問題であり、聞こえないわけではありません。聴覚検査を受けても「問題なし」と診断されるため、本当の原因が本人にもわからないまま大人になるケースが少なくないのです。
そのため、日本にAPDの方は約240万人いると推定され、日本人の約2%が該当するといわれています。
聴覚情報処理障害者(APD)あるある
「もしかして聴覚情報処理障害かな?」と感じた場合、自分が「APDあるある」にあてはまるかをチェックしてみましょう。
代表的なものが以下です。
- 聞き返しが多い
- 電車の中や居酒屋など人の多い場所で騒がしい環境での聞き取りが困難
- 会話のスピードについていけない
- 指示を理解するのが難しい
- 音声指示に従うのが難しい
- 似たような音の弁別が難しい
- 集中力が持続しない
- 発音に問題がある
- 音声刺激に対する反応が遅い
聴覚情報処理障害(APD)は治療で治らない
聴覚情報処理障害の原因は、まだ完全には解明されていません。「聞こえているのに聞き取れない」といった悩みを本人が自覚し、APDの診断ができる病院に相談することによってはじめて発覚します。
とくに、就職や進学で周囲の環境に変化があり、なじめない・仕事ができないなどの困難を感じるまで、わからないケースも少なくありません。このように本人が自覚するまでなかなかわからないのが実情です。
現在のところ以下のような要因が考えられます。
- 脳の機能的な問題
- 神経系の発達の問題
- 中耳炎などの既往歴
そもそも、病気ではなく機能の問題であるため、明確な治療方法も確立されていません。
ほかの疾患と合併するケースが多い
また、合併しやすい疾患例として以下のようなものがあります。
- ANSD(Auditory Neuropathy Spectrum Disorder)といわれる難聴
- ASDやADHDなどの発達障害
- 脳梗塞などの器質的脳疾患
- Landau―Kleffner 症候群(LKS)
- 精神疾患(統合失調症・うつ病)
そのため、APDの診断と合わせて、ほかの疾患と合併しているかの検査も同時にする必要があります。APD自体の治療方法はありませんが、ほかの疾患の治療や療育によって症状が改善するかもしれません。
参照:国立研究開発法人科学技術振興機構|聴覚情報処理障害の診断と対応
聴覚情報処理障害の診断方法
聴覚情報処理障害の診断方法は確立されておらず、専門医も全国的にほとんどいません。
正確に判断する検査方法は、まだ確立されていませんが、診断の手順として以下のような方法があります。
- 耳鼻科で聴力検査を受ける
- 難聴でないことを確認する
- 聴覚情報処理検査(APT)を受ける
- 発達や認知力の検査を受ける
これらのなかから本人に必要な検査を実施します。
また、場合によっては追加検査もあるため、手間がかかるかもしれません。
聴覚情報処理障害のある方に向いてる仕事
聴覚情報処理障害の特性から、ストレス少なく取り組める仕事や向いてる仕事は、おもに以下の2種類です。
具体的にどのような仕事があるか詳しく見ていきましょう。
デジタル系の仕事
聴覚情報処理障害のある方は、雑音が多い場所で音声の指示を聞きとるのが苦手です。
具体的な職種としては以下のようなものがあります。
- ライター
- デザイナー
- プログラマー
- イラストレーター
- ITエンジニア
- データサイエンティスト
これらの職種は、パソコンをメインに使った仕事です。
人とコミュニケーションを取ることが少ない職種となるので、APDの方でも比較的働きやすい職業となっています。
このように、パソコンを使用しリモートワークが可能な仕事を選ぶと働きやすいでしょう。
電話対応の少ない事務職
書類に向かってコツコツ取り組めるものがよく、電話対応が少ない仕事内容であることが前提です。
また、同じ事務職でも、受付や電話対応など音声での対応が必要だと、苦手なシチュエーションが増えてしまうため、おすすめしません。
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聴覚情報処理障害のある方に向いてない仕事
聴覚情報処理障害のある方の特性から、あまり向いていないと考えられる仕事は、以下の通りです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
接客業
聴覚情報処理障害があると、口頭でいわれたことを理解しにくく、忘れやすいといった特徴があります。
また、雑音下での聞き取りがとくに苦手なため、不特定多数を相手にする接客業は向いているとはいえないでしょう。
ですが、それでも人と接する仕事がしたいと希望する場合は、ノイズキャンセリング機能があるイヤホンを使用する、APDであることを周囲に理解してもらったうえで働くなどの対策をすることで、接客業で働くことができるでしょう。
電話や口頭のやり取りがメインの仕事
「聞こえているのに聞き取れない」のがAPDの特徴です。
そのため、電話や口頭のやり取りが多い仕事や音声で指示を受ける仕事が苦手です。
受付や営業、コールセンター、テレアポ、相談員などは、聞き取りがうまくできずトラブルになるケースも少なくないため、向いてないといえます。
このように、口頭や電話でのやりとりが多い職業ではなく、電話対応が少なめの仕事を探すと、上記のようなリスクを回避できるでしょう。
聴覚情報処理障害の対処方法
聴覚情報処理障害がある場合でも、適切に対処すればトラブルやストレスを軽減できます。
その具体的な方法を5つ紹介します。
それぞれ詳しく見ていきましょう
環境を整える
そのため、静かな場所へ移動してもらう、口頭でのコミュニケーションを減らしてもらい文字のやり取りを増やしてもらうなど、環境を整えましょう。
このように、聞き取りやすい環境を整えることで、徐々にコミュニケーションや聞き取りが困難と感じにくくなるでしょう。
また、聞き取りが困難なことを伝えるためのLiD/APDマークも考案されました。周囲の理解や配慮をお願いするための手段として、利用していきましょう。
参照:APDマーク公式サイト
周囲の人の協力を得る
聴覚情報処理障害があることを開示して、周囲の人に協力を得るのもおすすめです。
- 紙に書いてもらう
- ゆっくり話してもらう
- 口を大きく動かしてもらう
このように、事前に聞き取りにくいことを伝えておくことで、状況を改善していきましょう。
やりとりをテキストにする
口頭でのやりとりが苦手な場合が多いため、重要事項は文章で確認してもらうようにしましょう。約束もメールやLINEで文字で確認し合うと認識のズレを防ぐのに効果的です。
とくに、会議のあとは議事録を確認する、文字起こしツールを利用するなどもおすすめです。
また最近は、リアルタイムで文字起こししてくれるAIツールもあるので、積極的に活用しましょう。
トレーニングに取り組む
このように、文字を追いながら同じ音声を何度も聞くことによって、耳を慣れさせましょう。
また、類似した音声を区別するトレーニングや遠くの音の位置と方向を特定するトレーニングなども効果があるといわれています。
ですが、専門家によるトレーニングを受けるのは難しく、一部の病院でしか環境が整っていません。
そのため、個人でできるトレーニングとしては、本や新聞を読み、語彙力を上げるのも効果があるといわれています。
ツールを利用する
ノイズキャンセリングイヤホンを活用し、雑音を抑制するのものおすすめです。
最新のイヤホンには、人の声の協調や抑制ができる機能があります。さらに、補聴器や集音機を活用するのもよいでしょう。補聴器であれば、自分の聴力に合わせて、聞き取り体周波数帯域の調整も可能です。
そのため、自分に合ったツールを選ぶようにしましょう。
また、スマートフォンの音声認識アプリでテキスト変換すれば、視覚的に言葉を認識できます。音声をリアルタイムで文字起こしして、テキストで確認するようにしましょう。
なかには「私の取扱書」を作成して、周囲の人間に理解を求める方や「聞き取りに困難があります」という名札をつけて仕事をする方もいらっしゃいます。
聴覚情報処理障害者のある方が就職する際に気をつけるポイント
聴覚情報処理障害のある方が就職する際に、気をつけるポイントを以下の3つにまとめました。
それぞれ詳しく見ていきましょう
雇用主や同僚に障害を理解してもらう
積極的に周囲に情報を伝えて理解してもらうと、働きやすくなります。面接の機会や入社後に、自分の障害について率直に伝えましょう。
具体的にどのような場面で困ることがあるのか、どのようなサポートが必要なのかを説明することで、周囲の理解が深まりやすくなります。
また、職場環境の改善を提案してみましょう。例えば、会議の議事録を共有する、電話対応を減らすなどです。仕事が円滑に進みやすいよう、具体的な提案があれば、周囲の人間も協力しやすくなります。
就労移行支援サービスを利用する
就労移行支援サービスとは、障害のある65歳未満の方を対象に、一般就労を目指すために支援が受けられるサービスです。
聴覚情報処理障害は、障害者手帳の交付対象ではありませんが、ASDやADHDなどの発達障害がある場合は、取得が認められます。
そのため、手帳が交付されれば、各種福祉サービスを受けられ、障害者雇用枠で働くこともできるでしょう。
障害者向けの転職エージェントを利用する
聴覚情報処理障害は、障害者手帳の対象ではありませんが、場合によっては障害者向けの転職がマッチする場合があります。
そのため、障害者専門の転職エージェントであれば、各障害に対する知見が豊富なため、個々の特性に合った求人を紹介してくれるでしょう。
このように、無料で利用できるエージェントも多いため、転職や就職に不安を抱える方にはとくにおすすめです。
【関連記事】障がい者向け転職エージェント10選|選び方や活用するポイントも解説
聴覚情報処理障害者のある方におすすめの転職エージェント
聴覚情報処理障害のある方におすすめの転職エージェントを3つ紹介します。
それぞれの特徴を詳しく解説しましょう。
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- 障害者手帳を持っているまたは申請中の方
- 新卒就職でサポートしてほしい方
- 在宅で働きたい方
聴覚情報処理障害(APD)がある方に向いてる仕事に関するよくある質問
聴覚情報処理障害がある方に向いてる仕事に関する、よくある質問を集めました。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
APDの原因は?
APD(聴覚情報処理障害)の原因は、まだ完全に解明されていません。現時点で、主な原因として考えられるものに以下のようなものがあります。
- 脳の機能的な問題
- 脳の損傷
- 神経発達の問題
- 心理的な問題
- 覚醒状態の問題
- 繰り返す中耳炎
大きな原因のひとつとして注目されているのが、脳の聴覚情報を処理する領域や過程に問題がある場合です。聴力は正常ですが、情報処理過程に何らかの問題があるために、聞き取れる場合と聞き取れない場合があります。
そのほかでは、注意欠陥多動性障害などの発達障害、脳梗塞や脳出血による脳の損傷、眠気や疲労を感じやすく聴覚情報に集中できないなどが原因となる可能性もゼロではありません。
また、ストレスや不安が原因で聴覚情報に悪影響を及ぼしたり、繰り返す中耳炎が関係したりなど、聞き取りづらさがAPD以外の要因の場合もあるので、慎重に診断を受けましょう。
APDの診断はどこで?
最初に耳鼻科で聴力検査をしてもらい、難聴かどうかを確認しましょう。難聴でないのに聞き取れない場合は、APDの診断ができる医療機関で専門の検査をしてもらいます。
現在のところ、明確な診断基準がなく、専門機関も見つけるのが困難です。
まずは、かかりつけの耳鼻科に相談し、大学病院に紹介状を書いてもらいましょう。
また、APD治療を謳っている医療機関を検索して、直接相談するのもひとつの方法です。
聴覚情報処理障害(APD)の特性を理解したうえでエージェントを利用して就職・転職しよう
聞き取りにくさというAPDの特性は、現在のところ薬や手術などによる治療方法はありません。
ですが、環境を整えたりツールを利用したりすることで、困難さを軽減できます。就職や転職に際して、APDに理解がある雇用主とのマッチングは重要です。
また、聞こえにくさがハンデとならない職種を選ぶことで、ご自身のストレス軽減にもつながるでしょう。
また、APDかと思っていたら、違う障害が原因の場合も少なくありません。
まずは、医療機関で聞こえにくさの原因を解明しましょう。その際、ほかの障害が隠れていることがわかった場合は、障害者手帳を申請するのもおすすめです。
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