税理士になるためには、税理士試験の5科目に合格しなければなりません。難易度の高い試験ですが、一度の試験で5科目に合格する必要はなく科目合格という形で年数をかけて最終合格を目指すことができます。
1~4科目に合格している人のことを「科目合格者」と呼びます。科目合格者は転職市場において価値が上がっており、税理士事務所だけでなく事業会社やコンサルティング会社などで活躍できる機会が増えています 。
本記事では、科目合格者の年収とキャリアをテーマに、科目数ごとの平均年収や科目合格者が活躍できる転職先、年収アップを目指す際のポイントを解説します。
税理士試験科目合格者の年収
まずは、科目合格者の年収相場や年収が上がりやすい科目などを確認しましょう。
合格科目数ごとの年収
税理士試験の合格科目数ごとの平均年収は、以下のとおりです。
- 1科目合格:370万円
- 2科目合格:375万円
- 3科目合格:384万円
- 4科目合格:445万円
合格科目が増えるごとに、平均年収が上がっていくことがわかります。
科目合格者が年収アップを狙うなら、知識をつけるために合格科目数を増やして評価されることが大切であるとわかります。
税理士資格保持者との年収比較
5科目合格、つまり税理士試験に合格した人の平均年収は、税理士登録済みの場合が647万円、未登録の場合が514万円です。4科目合格と比べると未登録でも70万円近くの増加、税理士登録すると200万円もの収入増加が見込めます。
税理士登録すると税理士の独占業務をおこなうことができるため、仕事の範囲が広がるとともに信頼性が高まるため、当然の結果といえるかもしれません。
ただし、税理士登録すると税理士会に支払う年会費が10万円ほどが必要です。事業会社のように資格が必須ではない職場で働く場合や、チーム単位で動く大規模な税理士法人や会計事務所で働く場合は、登録するメリットはあまりないかもしれません。
登録すると年収がどれくらい上がるのか、年会費をだれが負担するのか、登録するデメリットよりメリットの方が大きいか、などを含めて総合的に判断しましょう。
科目合格が1つ増えると年収はどのくらい上がる?
資格手当でいうと、1科目あたり月5,000~10,000円アップが相場です。年収に換算すると6万~12万円アップします。
合格科目が増えると知識の幅が広がるため仕事の幅が広がり、実績も上がっていきます。資格手当にプラスして、実績に対する年収アップも期待できるでしょう。
とくに年収が上がりやすい科目
税理士試験で合格が必要なのは、会計学に属する必修科目が2科目と、税法に属する選択科目が3科目です。選択科目のうち所得税法と法人税法はいずれかを必ず選択します。
- 会計学に属する科目:簿記論および財務諸表論
- 税法に属する科目:所得税法、法人税法、相続税法、消費税法又は酒税法、国税徴収法、住民税または事業税、固定資産税
このうち、とくに評価が高い科目は必修科目の簿記論と財務諸表論、選択科目の所得税法および法人税法、消費税法です。相続分野に力を入れている税理士事務所では、相続税法も評価の対象となります。
科目合格者が評価され年収がアップする理由は、試験勉強によって得た知識を業務に活かして会社に貢献することが期待されるからです。そのため業務に関連のある科目がもっとも評価され、年収アップにつながると言えます。
科目合格者の市場価値
税理士資格をもたない科目合格者ですが、その市場価値は高まっています。
人手不足を背景に高い需要がある
現在はどの産業・職種でも人手不足が課題となっていますが、会計業界や会計系職種も例外ではありません。とくに税理士事務所や会計事務所では、税理士はもちろん、科目合格者の需要も高く売り手市場が続いています。
また給与を上げないと優秀な人材を確保できないため、大手に限らず中小事務所でも年収のベースが上がってきています。
物価上昇を背景に求職者の賃金に対する目が厳しくなっていることも追い風になり、良い待遇で転職できるチャンスが広がっています。
税理士の高齢化による影響も
税理士の高齢化が進んでいることも、科目合格者の需要を押し上げる要因となっています。
とくに地方では税理士や会計従事者の高齢化が進んでおり、事務所の後継者候補や戦力となるスタッフの採用が難航しているケースが少なくありません。
そのため税理士資格をもたない科目合格者であっても、若手からミドル層まで高い需要があります。
科目合格者におすすめの転職先
科目合格者が活躍可能な場所は、主に税理士事務所・税理士法人、事業会社の経理、コンサルティング会社です。
税理士事務所・税理士法人
税理士事務所や税理士法人は専門性が高い職場なので、税理士試験で学んだことがおおいに発揮できるでしょう。また科目合格者の採用数がもっとも多いのも、税理士事務所や税理士法人です。
科目合格の段階では税理士の独占業務はできませんが、税理士補助として入所し、いずれは資格を取得して税理士として働くことを期待されます。
税理士事務所・税理士法人は得意分野や規模感、業務内容などに違いがあります。たとえばBIG4( KPMG 税理士法人・PwC 税理士法人・EY 税理士法人・デロイト トーマツ税理士法人)はクライアントが主に大手上場企業となり、M&Aや国際税務などほかの事務所では経験できない特殊業務を経験できます。
また、税務のほかに労務や法務などのサービスを提供する総合型事務所には司法書士事務所や社会保険労務士事務所などがグループ内に設置されているため、ほかの士業と連携する機会が多くあります。
相続税や事業継承など特定領域を専門とする特化型事務所も存在します。転職活動の際には、各事務所の特性をよく理解したうえで応募するようにしましょう。
事業会社の経理
事業会社では、経理や財務のポジションで科目合格者の採用ニーズがあります。事業会社の場合でも科目合格は税務知識の証明になるため、応募ポジションによっては選考に有利にはたらく可能性があります。
とくに、募集要項に「科目合格者歓迎」と書かれているような求人を狙うと、評価される可能性が高まります。必修科目に加えて法人税法に合格していると、一目置かれるかもしれません。
ただし、事業会社の経理では資格よりも実務経験が重視されます。税理士資格がなくても業務をおこなえるため、資格の有無が即戦力の判断基準にならないためです。
また採用担当者や経営陣が、科目合格の価値を理解していない可能性が高いでしょう。したがって税理士事務所や税理士法人と比べて、科目合格者としての評価が低い場合があることに留意しましょう。
コンサルティング会社
コンサルティング会社でも、科目合格者を歓迎している求人があります。
科目合格者の場合、とくにファイナンス領域のコンサルティングをおこなう財務アドバイザリー・FAS系ファームで評価される可能性が高いでしょう。M&Aや事業再生などの分野において、税理士試験で得た知見を活かすことができます。
また会計関連のサービスを提供している総合系ファームでも評価の対象となる可能性があります。
一方、戦略系ファームでは科目合格はおろか、税理士資格でさえ評価の対象となることは少ないでしょう。論理的思考力や調査・分析スキル、高度なコミュニケーションスキルなど、コンサルタントとしての能力が重視されるのはもちろん、学歴や年齢なども考慮されます。
科目合格者が転職して年収アップを目指す際のポイント
科目合格者が転職によって年収アップを目指す場合、必ずしも合格数が重要とは限りません。
3科目合格したタイミングが転職目安
年収を上げたい場合、3科目以上に合格したタイミングが転職する目安となります。
科目合格なしと比較すれば、1つでも科目合格している人材の評価は高まりますが、とくに3科目以上に合格すると評価が格段に上がります。1~2科目合格で応募できる求人も多数ありますが、3科目以上の合格を応募条件にしている求人となると一気に数が増えるため、応募できる求人の幅が広がるでしょう。
もっとも、ご自身の年齢や実務経験、出会った求人の応募条件などによっては1~2科目合格のタイミングで動くほうがよい場合もあります。
転職するタイミングに迷ったら、何科目合格でもまずは転職エージェントに相談することをおすすめします。
税理士試験に対して理解がある転職先を選ぶ
科目合格者が今後も試験勉強を継続し、最終的に5科目合格を目指す場合は、税理士試験に対して理解がある職場かどうかの確認が必要です。「理解がある職場」というのは、試験日近くに有休を取得しやすかったり、残業を減らしてもらえたりと勉強しやすい環境を指します。
反対に、理解がない職場の場合は受験を理由に早退や休暇申請が出しづらく、勉強や受験が思うように進まない可能性があります。とくに事業会社やコンサルティング会社では必ずしも資格の取得を求めていないことから、理解を得られず、試験近くに残業が続くということもあり得ます。
科目合格の先を見据えて、計画にあった転職先を選びましょう。
事業会社への方向転換は志望動機の伝え方に注意
税理士資格を目指して税理士事務所で働いていたものの、なかなか合格できず、資格取得を諦めて事業会社に転職するケースがあります。税理士試験は難易度が高いため、収入や体力、家庭の事情などから資格取得を諦めるケースは少なくありません。
税理士資格取得を断念すると同時に、事業会社やコンサルティング会社に転職する場合は、志望動機の伝え方に注意が必要です。
「合格できなかったため諦めた」という伝え方は、マイナスの印象を与えるため避けましょう。これまでの経験を活かして貢献したいという、前向きな志望動機を伝えることが大切です。
また科目合格者の場合、税理士資格の取得を引き続き目指すのか、取得したらどうするのかを面接で聞かれる可能性が高いため、事前に回答を用意しておくとよいでしょう。
科目合格者の転職支援をしているエージェントに相談する
科目合格者の転職活動は、転職エージェントに相談しながら進めましょう。転職エージェントを利用すると質の高い非公開求人にアクセスできるため、年収の高い職場に出会いやすくなります。
また転職エージェントは科目合格者に対する評価など、採用側のニーズや考え方を把握しているため、科目合格がより評価されやすい求人への応募が可能です。結果的に選考通過率が高まります。
税理士科目合格者におすすめの転職エージェント
最後に、科目合格者に利用をおすすめしたい転職エージェントを7社紹介します。
ハイスタ税理士
ハイスタ税理士は、税理士と科目合格者に特化した転職エージェントです。
求職者と事務所・企業の両方を同じアドバイザーが担当する両手型のエージェントなので、情報のやり取りや認識の共有がスムーズでミスマッチの少ない転職を実現できます。
科目合格者の転職支援実績が豊富なため、キャリア相談からはじめてみることをおすすめします。
公式サイト:https://hi-standard.pro/tax/
BEET
BEETは、税務や経理/財務など、事業会社の会計分野に転職したい科目合格者におすすめの転職エージェントです。
税務や経理/財務の転職に精通したアドバイザーが、転職を通じたキャリアアップをサポートします。
事業会社の優良求人に出会いたい方は、ぜひ登録してみてください。
公式サイト:https://beet-agent.com/keiriform/
マイナビ税理士
マイナビ税理士は、税理士・科目合格者に特化した転職エージェントです。
マイナビグループのネットワークを活かした多彩な求人があるのが魅力で、大手税理士法人からコンサルティングファームまで幅広く扱っています。
休日相談も実施しているため、現職が忙しく転職活動の時間が取れない方にも向いています。
公式サイト:https://zeirishi.mynavi-agent.jp/
REXアドバイザーズ
REXアドバイザーズは税理士や公認会計士、経理・財務を専門としています。とくに税理士事務所や会計事務所での経験が豊富なシニア、マネージャークラスのサポートが得意です。
REXアドバイザーズだけが保有する質の高い非公開求人にアクセスできるため、まずは相談してみましょう。
公式サイト:https://www.career-adv.jp/
MS Agent
MS Agentは、管理部門と士業の転職を専門とする転職エージェントです。30年以上の実績をもとに的確な求人紹介と転職アドバイスを提供しています。上場企業との取引数が豊富なので、上場企業の経理や財務を希望する科目合格者にもおすすめです。
公式サイト:https://ms-japan.jp/
ジャスネットキャリア
ジャスネットキャリアは、税理士や公認会計士の転職に特化した転職エージェントです。専門特化型としての実績とネットワークを活かし、BIG4やコンサルティングファームなど質の高い求人を多数保有しています。
公式サイト:https://career.jusnet.co.jp/
パソナキャリア
パソナキャリアはハイクラス人材向けの転職エージェントです。マッチング力と提案力に強みをもつエージェントなので、自分では見つけられなかった職場との出会いに期待できます。
大手や上場企業の求人が豊富なので、これらの企業で経理や財務として働きたい科目合格者におすすめです。
公式サイト:https://www.pasonacareer.jp/
まとめ
会計業界や会計系職種の転職市場では、税理士の科目合格が評価の対象になるため、高年収で転職できる可能性があります。とくに3科目以上合格している方は大幅な年収アップも可能です。
転職のタイミングや今後のキャリアについて迷ったら、転職エージェントに相談してみましょう。