保育士は子どもたちの成長を支える大切な役割を担っていますが、その一方で、職場でのパワハラに悩む方も少なくありません。

パワハラと指導の境界があいまいな場合もあり、不安を感じながら働いている方も多いでしょう。

本記事では、パワハラの具体的な意味や指導との違いを明らかにしつつ、それが保育士に与える影響や対応方法について解説します。さらに「他の保育園に転職したいが難しい」と感じている場合の具体的な対処法についても触れています。

この記事を通じて、パワハラに悩んでいる方が自身の状況を冷静に整理でき、適切な行動を起こすヒントを得られるでしょう。

職場環境の改善を目指す保育士にとっても役立つ情報が満載です。ぜひ最後までご覧ください。

あわせて読みたい⇒パワハラ（パワーハラスメント）の定義とは？3つの要件と6類型を徹底解説

パワハラは「職場の立場を利用して相手に嫌がらせをすること」

パワハラは、職場での立場を利用して、相手に精神的・身体的な苦痛を与える行為です。

指導とは異なり、人格を否定したり、過度に叱責したりする点が特徴で、職場環境を悪化させる深刻な問題となります。

保育の現場では、先輩保育士から新人への不適切な指導や、園長からの過度な要求などがパワハラに該当する場合があります。こうした行為が積み重なると被害者が強いストレスを抱え、業務に支障をきたす恐れがあります。

具体的なパワハラの内容を6つ、それぞれ見ていきましょう。

人格否定

人格否定は、相手の人間性や能力を否定するような言動を指します。

例えば「あなたは保育士に合っていない」「こんな簡単なこともできないの？」といった発言が人格否定にあたります。

これらの言葉は指導ではなく、相手の心を深く傷つけ、自己肯定感を損なわせる恐れがあるのです。

必要以上の叱責

必要以上の叱責は、ミスや失敗に対して過度に厳しく、長時間にわたって叱り続ける行為を表しています。

些細なミスに対して大声で怒鳴ったり、他の保育士や子どもたちの前で叱ったりする行為がこれに該当します。

適切な指導の場合は個別の場を選び、短時間で具体的かつ建設的な内容を伝えて終わるのが通常です。

必要以上の叱責は相手に過度のストレスを与え、心身に悪影響を及ぼす可能性があります。

特に、他の保育士や子どもたちの前で叱る行為は、相手の尊厳を傷つけるだけでなく、他の保育士や子どもたちにも悪影響を及ぼします。

職場での孤立

職場での孤立は、特定の保育士を意図的に仲間外れにしたり、無視したりする行為を指しています。

例えば、ある保育士だけをミーティングから除外する、必要な情報を意図的に伝えないなどの行為を見たことはないでしょうか。

このような行為が繰り返されると自尊心が傷つけられて、心身の不調が現れるかもしれません。

また、チームワークを重視する保育現場において、チームの一員が孤立すると業務の流れが滞るため、職場環境の悪化にもつながるのです。

過大な要求

過大な要求は、保育士の能力や経験を超えた仕事を押し付けたり、不可能な締切を設定したりすることです。

新人保育士に対してベテラン並みのスキルを求める、1人で大人数の子どもの世話を任せるなどの行為がこれに該当します。

このような要求は保育士に過度のストレスや不安を与えるだけでなく、心身ともに疲弊する原因となります。

また、過大な要求によって細やかな配慮が疎かになるため、思わぬ事故やトラブルが起こるリスクも高まるでしょう。

過小な要求

保育士のスキルに見合わない簡単な仕事ばかりを任せた場合や仕事を与えない場合は、過小な要求と言えます。

ベテラン保育士に対して雑用ばかりを押し付ける、重要な仕事から意図的に外されているということはないでしょうか。

このような扱いを受けると保育士はやりがいを失い「自分はこの保育園で必要とされていない」と感じます。そして、職場への不信感や保育の質の低下につながるのです。

プライバシーの侵害

プライバシーの侵害は、保育士の個人情報を無断で暴露し、私生活を過度に干渉する行為です。

例えば、個人的な悩みや家庭の事情を他の保育士に漏らしている、休日の過ごし方を細かく監視・干渉している行為が挙げられます。

このような場合、保育士の人権を侵害し、精神的な苦痛を与える可能性が高くなります。

プライバシーが守られない職場では信頼関係が崩れるため、働きづらいと感じるのではないでしょうか。

心理的なストレスを感じ、パフォーマンスが低下する原因となるかもしれません。

パワハラと指導は目的や方法、相手への影響が異なる

保育園で注意を受けたとき「これは指導なのか、それともパワハラなのか」と迷ったことはありませんか。

パワハラと指導は、一見似ているようで、実は大きな違いがあります。

以下3つの観点からそれぞれ説明します。

目的

パワハラの場合、相手を傷つけたり、支配したりするのを目的としています。

一方、指導の目的は、相手の成長を促すことです。

例えば、パワハラの場合は「あなたには保育士の資格がない」のような、人格を否定する発言をします。

一方で、適切な指導では「この部分をこのように改善すると、もっと良くなりますよ」といった、具体的なアドバイスがなされます。

良い指導者は相手の成長を常に願い、より良い保育士になってもらいたいと思っているのです。

方法

パワハラの場合は感情的な言動を一方的にぶつけます。大声で怒鳴られたり、他の職員や子どもたちの前で恥をかかされたりしたことはないでしょうか。

「自分はダメな人間だ」と思い込み、保育士としての意欲を失うでしょう。

指導の場合はコミュニケーションを大切にします。相手の話に耳を傾け、適切にアドバイスします。

また、プライバシーに配慮して個別に話をする機会を設けるなど、相手の立場や感情を尊重した方法で行われるのです。

相手への影響

パワハラを受けた場合、相手は強いストレスや不安を感じて自尊心が傷つきます。

その結果、仕事への意欲が低下して心身の健康を害したり、退職を考えたりするのです。

一方で、指導を受けた場合は自身の課題を理解し、改善への意欲が高まります。

また、適切な指導で自信がつくため、仕事のモチベーションが向上するでしょう。

適切な指導は相手の能力を引き出し、より良い保育士として成長する機会を提供します。その結果、保育園全体の雰囲気が良くなり、保育の質の向上にもつながるでしょう。

保育士がパワハラを受けたときの影響5つ

パワハラは保育士の情熱を奪うだけでなく、子どもたちや保育園全体にも深刻な影響を与えます。

保育士がパワハラを受けたときの影響5つについて、それぞれ解説します。

メンタル不調により体調を崩す

毎日保育園へ向かうたびに「また怒られるのか」と不安になり、胃が痛くなる…

保育士がパワハラを受けると、心と体に大きな負担がかかり「食欲がない」「眠れない」などの症状が現れる場合があります。

体調不良は保育の質にも影響するため、早めに対処することが大切です。

体調の変化に気づいたら、無理せずに休んだり、信頼できる人に相談したりするとよいでしょう。症状が深刻だと思われる場合は、病院に行くのも有効です。

子どもたちへの笑顔や優しさが減る

いつもなら「おはよう！」と笑顔で迎えられるのに、心に余裕がなくなると無表情になる、優しい声がけができなくなったと感じる場面はないでしょうか。

このような変化は子どもたちの心にも影響を与え、保育園が楽しくない場所だと思われてしまう恐れがあります。

保育士の笑顔や優しさは、子どもたちの成長にとても大切なものです。パワハラによってそれが失われないよう、早めの対策が必要です。

ミスが増える

「また怒られるかもしれない…」という緊張感が続くと集中力が低下し、ミスが増えることがあります。

例えば「必要な書類の作成を忘れてしまった」「保護者への連絡事項を伝え忘れてしまった」というミスを起こすかもしれません。

また怒られる…と思って緊張すると、さらにミスが増える悪循環に陥ります。

ミスが増えると自信が失われるため「自分は保育士に向いていない」と感じるかもしれません。

仕事への意欲が下がる

保育士としての情熱や意欲が、パワハラによって徐々に失われていきます。

「子どもたちのために頑張ろう」という気持ちよりも「早く帰りたい」「辞めたい」という思いが強くなっていないでしょうか。

子どもたちの成長を嬉しく思う余裕がなくなり、日々の業務をただこなすだけになるかもしれません。

保育士の仕事が好きで選んだはずなのに、パワハラによってその喜びが失われてしまうのは、とても残念なことです。

周りの人を信用できなくなる

パワハラを経験すると、職場の人々に対する信頼感が失われます。

パワハラをする人だけでなく、それを見て見ぬふりをする上司や先輩、同僚に対して「この人も私を助けてくれない」と感じて、不信感を抱くかもしれません。

また「相談しても理解してもらえないだろう」「みんなは私のことを悪く思っているのではないか」と思い込み、問題を1人で抱え込むのではないでしょうか。

良い保育を行うためには、保育士同士の信頼関係が欠かせません。そのため、1人で悩まず、信頼できる人に相談することが大切です。

保育士がパワハラを受けたときの対応方法6つ

保育士がパワハラを受けたときは、1人で抱え込まないことが大切です。

以下に紹介する方法をうまく組み合わせて、あなたに合った対応方法を見つけましょう。6つの方法について、それぞれ解説します。

パワハラの証拠を記録する

パワハラを受けた際は、証拠を残すことが重要です。

例えば「〇月〇日、〇〇先生から『あなたは保育士に合ってない』と言われた」などのように、ノートやスマートフォンなどへ具体的に記録します。

可能な場合はボイスレコーダーで録音すると確実ですが、相手に気づかれないよう注意が必要です。

これらの記録は、後で相談する場合や問題解決を図る際に役立ちます。証拠があると自身の主張に説得力が生まれるうえ、事実関係を整理するのにも効果的です。

上司や同僚に相談する

困ったときは、信頼できる上司や同僚に相談するのも有効な対応策の1つです。

「〇〇先生の言動で困っています。アドバイスをいただけませんか？」などと切り出すとよいでしょう。1人で抱え込まず、誰かに話すだけでも心が軽くなる場合があります。

同じような経験をしている保育士がいれば共感を得られるとともに、具合的なアドバイスをもらえるかもしれません。

職場のメンバーに相談する際は、慎重に相手を選びましょう。噂が広まると、状況が悪化する恐れがあるからです。

園長や主任にパワハラの事実を相談するのも1つの方法ですが、保育園の方針によっては適切に対応してもらえない場合もあります。

相手をよく見極めて、あなたが信頼できると思う人に相談することが大切です。

嫌だとはっきり主張する

パワハラを受けたときは、嫌だとはっきり主張することが重要です。

あなたの気持ちを正直に伝えると相手に気づきを与え、態度が変わるかもしれません。

例えば「そのような言い方をされると、とても傷つきます。もう少し穏やかに指導していただけませんか？」などと冷静に伝えるのも１つの方法です。

ただし、相手の性格や立場によっては反感を招く恐れがあるため、状況をよく見て判断しましょう。

また、1人では言いづらい場合、信頼できる同僚に協力してもらい、一緒に伝える方法もあります。

嫌だと主張するのは勇気が必要ですが、あなたの気持ちを伝えると、問題解決の第一歩につながるかもしれません。

労働基準監督署などの外部機関に相談する

園内での解決が難しい場合は、外部の専門機関に相談するのも効果的です。

労働問題のプロにアドバイスをもらうと、解決の糸口を見つけられるかもしれません。

以下は相談先とその特徴です。

労働基準監督署

職場でのパワハラや労働条件の改善について相談できます。地域ごとの窓口は厚生労働省のHPで確認しましょう。

都道府県労働局　 総合労働相談コーナー

パワハラや職場のトラブル全般について幅広く相談できます。専門の相談員が対応するため、安心して利用できます。

法テラス（日本司法支援センター）

法的アドバイスが必要な場合におすすめです。無料または低額で弁護士のサポートが受けられる制度があり、法的な権利を守るための具体的なアドバイスがもらえます。

外部機関に相談する際は「保育園でパワハラを受けているのですが、どうしたらよいでしょうか」と状況を簡単に伝えましょう。

外部機関に相談すると客観的な視点から問題が整理でき、解決の糸口を見つけられるかもしれません。

休みを取る

「今の保育園でこのまま働き続けるのは、もう限界かもしれない」と感じたら、思い切って休みを取ることも検討しましょう。

休養を取ると心身がリフレッシュでき、状況を冷静に見つめ直せるようになります。

休暇中は趣味に没頭したり、リラックスした時間を過ごしたりして、心を癒しましょう。

長期休暇を取る際は事前に保育園と相談し、適切な手続きを行います。診断書の提出を求められるケースがあるため、医師にも相談しながら進めましょう。

長期休暇を取る際は「子どもたちが不安に思うのではないか」「同僚に迷惑をかけて申し訳ない」と思う気持ちがあふれるかもしれません。

しかし、自身の健康を第一に考えて、必要な休養を取ることが重要です。現状を変えるために、まずは自分自身を大切にしましょう。

他の保育園へ転職する

パワハラが改善されず、職場環境が変わらない場合は、思い切って他の保育園へ転職するのも1つの方法です。

「子どもたちのために頑張りたいけど、今の職場では難しい」と感じたら、新しい職場で自分らしく働く道を選ぶのもよいでしょう。

転職サイトや保育士専門の求人サイトを活用して、自身に合う保育園を見つけます。

また、紹介予定派遣を利用して実際に働き、保育園の雰囲気を知ってから正式に就職を決めるのも良い方法です。

転職は新たな気持ちで保育に取り組めるチャンスです。あなたに合った保育園を見つけて、笑顔で働ける未来を手に入れましょう。

保育園からの引き止めやパワハラで辞められないときは退職代行サービスの活用もおすすめ

「パワハラがひどくて辞めたいのに、保育園からの引き止めで退職できない…」そんなときは、退職代行サービスの利用を考えてみましょう。

このサービスを活用すると、保育園とのやり取りを避けながら退職手続きがスムーズに行えます。

パワハラで苦しんでいる保育士にとって、退職代行サービスは心強い味方になるでしょう。

退職代行サービスを活用するメリット4点について、それぞれ解説します。

もっと詳しく知りたい方は以下の関連記事も併せてご覧ください。

保育園からの引き止めを防げる

退職代行サービスを利用すると、保育園からの強引な引き止めが防げます。

例えば「もう少し頑張ってみない？」「あなたがいないと困るの」といった説得を受けずに済むのです。

代行会社が手続きを進めるため、感情的になりがちな退職の場面でも、あなたの意思を保育園にしっかり伝えられます。

また「人手不足だから辞めさせられない」といった理不尽な理由で引き止められることもありません。あなたの権利を守りながらスムーズに退職手続きを進められるため、大きな安心感につながるでしょう。

保育園のスタッフと対面せずに退職できる

保育園のスタッフと対面せずに退職できるのも、退職代行サービスの特長の1つです。

「園長先生の顔を見るのが怖い」「パワハラをした人に会いたくない」と思う場合も安心です。

また「辞める理由を聞かれたくない」「最後の挨拶をするのはプレッシャーがある」という不安からも解消できます。退職代行サービスを利用すると、精神的なストレスを感じることなく辞められるのです。

法的な手続きを専門家に任せられる

退職代行サービスを活用すると、法的な手続きを専門家に任せられます。

労働法に詳しい専門家が、あなたの権利を守りながら手続きを進めるため「退職届の書き方が分からない」「有給休暇を使い切ってから辞めたい」などの悩みも解決できるのです。

また、退職日の調整や引継ぎの範囲なども代行会社が保育園と交渉します。

自分から話をするのは自信がないと感じる人でも、安心して手続きが進められるでしょう。法的なトラブルを避けながら、スムーズに次のステップへ進めます。

精神的な負担が軽くなる

「保育園に退職の意思を伝えるのが怖い」「威圧的な態度を取られるのではないか」と不安に思っているのではないでしょうか。

退職代行サービスに依頼すると、そのような心配事が解消できます。パワハラで傷ついた心を癒す時間が持てるのも、メリットの1つと言えるでしょう。

退職の手続きを代行会社に任せると、新しい一歩を踏み出すための準備期間をしっかりと確保できます。

まとめ

保育士へのパワハラは、子どもたちの健やかな成長を支える大切な仕事に悪影響を与えます。

自身がパワハラを受けているのではと思ったら、適切な指導との違いを理解して、状況を客観的に見つめ直しましょう。

証拠を記録する、信頼できる人に相談するなどの方法を取るのも効果的です。

改善が見込めない場合は、転職も視野に入れましょう。強い引き止めに遭って辞められない場合は、退職代行サービスを利用するのも1つの方法です。

代行会社があなたに代わって退職手続きを行うため、精神的な負担を軽くしながら新しい一歩が踏み出せます。

「かわいい子どもたちのために頑張りたい」と思うあなたの気持ちを大切に、より良い環境で保育士としての夢を叶えていきましょう。