社団法人日本内部監査協会の「内部監査基準」では、内部監査について以下のように説明しています。
内部監査とは、組織体の経営目標の効果的な達成に役立つことを目的として、合法性と合理性の観点から公正かつ独立の立場で、経営諸活動の遂行状況を検討・評価し、これに基づいて意見を述べ、助言・勧告を行う監査業務、および特定の経営諸活動の支援 を行う診断業務である。
これらの業務では、リスク・マネジメント、コントロールおよび組織体のガバナンス ・プロセスの有効性について検討・評価し、この結果としての意見を述べ、その改善のための助言・勧告を行い、または支援を行うことが重視される。
内部監査は、組織の内部の人によって行われる監査のことで、大企業から中小企業までさまざなか企業で内部監査が行われています。特に大企業の場合は、不祥事が発生した場合、国内外で大きく取り沙汰されてしまい、上場企業ならば株価が暴落するなど損害を被ることになりかねません。
企業内部の抱えるリスクや問題点を早いうちに見つけて、解決することで問題が大きくなることを防ぎ、社会的な信頼を損なうことを避けるためにも、内部監査の必要性が叫ばれています。
また、監視機能がないと各部署により法令遵守のモラルのバラつきが出てしまいます。内部監査による監視が十分に機能すれば、全体の士気が上がり社員全員の業務のレベルアップにも繋がるでしょう。
本記事では、内部監査の具体的な内容やなぜ監査が必要なのか、監査のルールなどについて、また外部監査との違いについてもご紹介します。
目次
内部監査の主な仕事内容3つ
それでは、内部監査に求められる具体的な内容について紹介します。
リスク・マネジメント
一般社団法人 日本内部監査協会の内部監査における実務指針では、「内部監査部門は、組織体のリスク・マネジメントの妥当性および有効性を評価し、その改善に貢献しなければならない」とされています。
会社を運営するにと、さまざまなリスクに出会すことになります。そのリスクをどのように防ぐか、またリスクが顕在化した場合にはどのように排除するかなどをきちんと組織として対応できるかという点をチェックします。
参考:一般社団法人 日本内部監査協会|実務指針6.2 リスク・マネジメント
コントロール(統制)
内部監査におけるコントロール(統制)については以下のような内容を求められています。
「内部監査人は、経営管理者が業務目標の達成度合いを評価するための基準を設定しているかどうかを確認しなければならない。その上で、内部監査部門は、組織体のコントロール手段の妥当性および有効性の評価と、組織体の各構成員に課せられた責任を遂行するための業務諸活動の合法性と合理性の評価とにより、組織体が効果的なコントロール手段を維持するように貢献しなければならない」
経営者やそれに近い経営陣が掲げた目標に対して、望ましくないことが起こらないように予防や早期発見などのプロセスがコントロールされているかなどを重点的に見ていきます。
ガバナンス・プロセス
ガバナンス・プロセスとは、組織が経営目的を達成するための流れを検討し、評価することです。実務指針によると、内部監査人は以下の視点からガバナンス・プロセスの改善に向けた評価をしなければならないとされています。
1 組織体として対処すべき課題の把握と共有
2 倫理観と価値観の高揚
3 アカウンタビリティの確立(設定と解除の仕組み)
4 リスクとコントロールに関する情報の、組織体内の適切な部署に対する有効な伝達
5 最高経営者、取締役会、監査役(会)または監査委員会、外部監査人および内部監査人の間における情報の伝達
引用元:一般社団法人 日本内部監査協会|実務指針6.1 ガバナンス・プロセス
内部監査と外部監査の違い
外部監査は、独立した第三者として企業等の財務情報について監査を行い、財務情報の適正性を利害関係者(取引先・株主など)に対して保証する役割を期待されています。
上場企業や金融商品取引法においては上場企業などについて、また会社法では資本金が5億円以上または負債合計200億円以上の株式会社である「大会社」が外部監査の対象です。
外部監査を行うことができる公認会計士は、外部監査ができる唯一の国家資格であり、多くの場合は監査法人に所属して外部監査を担います。
内部監査の場合は、社内での圧力などがあれば不正を完全には防ぐことができません。完全に独立した立場である監査法人による監査の場合は、不正が見つかれば「大変な事態を招く」という心理も発生し、不正を抑制することに期待ができるのです。
ただし、上述の通り外部監査の対象は大企業に限られるので、中小企業などは独自の内部監査を強化することが大切と言えるでしょう。
内部統制報告制度(J-SOX)について
2001年のアメリカでのエンロン事件(不正会計による粉飾決算)を受けて、企業の内部統制の重要性が説かれるようになりました。その結果、財務報告に係る内部統制の有効性を評価した「内部統制報告書」の作成や、公認会計士などによる内部統制監査を受けることが義務づけられた「SOX法」が施行されます。
日本でも、2006年にアメリカにならい金融商品取引法が成立し、新たな内部統制のルールが規定されました。それが日本版SOX法「J-SOX法」であり、2008年4月1日以後に開始する事業年度から適用されることになったのです。
このJ-SOX法の導入により、有価証券報告書を提出しなければならない会社は「内部統制報告書」の作成が義務付けられており、事業年度ごとに内閣総理大臣に提出しなくてはいけません。(金融商品取引法24条の4)
内部統制報告書を偽った場合は、5年以下の懲役または500万円以下の罰金、またはその両方が課せられます。また、法人に違反行為を問う場合には、5億円以下の罰金を支払わなければいけないので、決して偽るようなことなく記載しなければなりません。(金融証券取引法197条の2)
第百九十七条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
引用元:金融証券取引法197条の2
このように、内部監査と言っても上場企業や大企業など有価証券報告書を提出する企業は、その内容を報告する必要があり偽りがあれば処罰の対象になってしまいます。
そのため、内部のチェックであったとしても、厳しい目でチェックすることができるという効果があるのです。
内部監査業務の流れ
次に具体的な内部監査の流れについて説明します。
監査計画の策定
内部監査を行う場合、まず内部監査を担当するメンバー内でどのような監査をするかなどを話し合い、必ず監査内容に組み込まなくてばいけません。
予備調査
内部監査を行う4〜8週間前に予備調査を行うのが一般的です。監査対象となる部署に対して、監査内容の説明をしたり、資料の用意を依頼したりなどをします。
監査実施
事前に計画した監査計画に沿って監査を実施します。さまざまな項目で細かく見て行きますが、業務ではマニュアルに沿って正しい操作ができているか、経理面では正しい売上計上や請求書の保管ができているかなどを確認することが多いです。
監査調書の作成
監査が完了したら監査調書を作成します。この監査調書については、内部監査部門の管理下で保管し、外部者への公開する場合は経営者から承認を得るなど、慎重に扱わなくてはいけません。
監査報告
監査内容については、経営者や監査の対象となった各部門へと報告を行います。
フォローアップ
監査で改善点が見つかった場合は、改善するためにどのようにプロセスを変えるかや、マニュアルの変更など具体的な対応を各部署へ依頼をします。改善計画の提出をしてもらい、実際に改善に向けて動き出すまでをサポートできると、問題の根本的な解決に繋がるでしょう。
内部監査担当に求められる基本的なスキル
内部監査に転職するためにどのようなスキルが求められるのかを見てみましょう。
内部監査の対象となる業務についての知見
内部監査は、社内のすべての部署を対象として行われるため、監査対象となる業務についての知識も求められます。
法務、財務会計やファイナンス、IT、営業、マーケティングに加え、WEBサービスを運用する企業であればサーバーの安全性やSSL、個人情報保護、コーポレートガバナンスまで、非常に広範な業務についての理解が求められることになります。
コミュニケーション能力
内部監査を行う際には、社内のさまざまな人たちから聞き取りを行い、業務の効率や社内の問題点を把握しなければなりません。内部監査の結果、問題点が明らかにあったときには、やはり社内のさまざまな人たちに対して改善を求める必要もありますので、物怖じしない姿勢も大事になります。
内部監査への転職時に取得をおすすめする資格
内部監査を行う人にとって、必ず取得しなければいけない資格はありません。しかし、取得することで内部監査への理解を深め、業務に役立つ資格は存在します。
公認内部監査人(CIA)
公認内部監査人はアメリカ発祥の資格で、内部監査人協会(IIA)が認定するものです。世界中約190か国で導入されており、内部監査人としての知識やを証明するグローバルに評価される認定資格になります。
日本では、1999年から日本語受験ができるようになり、一般社団法人日本内部監査人協会(IIA-J)が運営しています。同組織に登録をしてから4年以内にすべての試験に合格する必要があり、4年以内に手続きが完了できていない場合は合格科目が取り消しになってしまうので集中して学習を進めた方が良いでしょう。
内部監査士(QIA)
内部監査士も、一般社団法人日本内部監査協会(IIA-J)が運営する資格で、内部監査士認定講習会を修了した人に与えられる称号です。講習を受けた後に修了論文を提出し、講習出席状況と考慮して合格が決定します。この講習は東京・大阪・名古屋にて受けることができます。
【2023年】内部監査担当者の平均年収は671万円
転職エージェント大手dodaの調査によると、内部監査担当者の平均年収は648.6万円とのことでした。日本人の平均年収が400万円代ということを考えると、平均よりも高いといえそうです。また、1,000万円以上の割合は15%と高いことも分かりました。
参考:doda|内部監査
年収を押し上げる要因の一つは、内部監査担当者の仕事は専門性が高く責任感があるため、社内でも頼りになる存在に任せられるという点があるでしょう。また、内部監査を行う必要がある企業は、上場企業や大企業であるが故、社内全体の年収水準も高く、その結果内部監査担当者の年収も高くなることが想像できます。
内部監査を仕事にしたい場合・転職するには
最後に、内部監査担当者として仕事をしたい場合はどうすれば良いかを紹介します。
異動を希望する
会社内での人事は、入社後始めて配属される部署で固定されてしまうことも多いです。たとえば、現状は営業などで他の業種をしていて内部監査の仕事をしたいと思ったとしても、人事異動がなければその仕事をすることはできません。
内部監査の仕事をしたいのであれば、まず自分の意思を知ってもらうために、上司との面談や人事部との面談で移動したいという意思を表明することが大切です。
なかなか自分の思い通りになることは少ないかもしれませんが、ポストが空いた時にその部署へ希望する人がいるとなれば、後押ししてもらえる可能性もあるでしょう。
社内公募への応募
会社によっては、社内公募で面接や試験を受けて希望する部署への異動が認められることもあります。このようなシステムがある場合は、必ず何人かはその部署へ配属される訳なので、その枠に入ることができるように勉強したり、なぜ自分が内部監査の担当者に向いているかというアピールをしたりすることが大切です。
内部監査を募集している企業へ転職する
現在所属している社内での人事異動や公募が難しいのであれば、内部監査を募集している企業へ転職するほうが手っ取り早いでしょう。専門性が強い仕事で即戦力としての活躍が期待されるので、経験者の採用の方が多いですが、未経験でも上記で紹介したような資格を保有している場合は、知識を認められる可能性もあります。
また、内部監査担当の仕事は、経営者の立場に近い仕事を行います。そのため、経営に対する知識や他部署をまとめるマネジメント力、責任感、業務遂行能力などをアピールできるエピソードなどあると面接でも有利に働くのではないでしょうか。
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まとめ
内部監査は、職場全体での不正などを防ぐ体質を築き、社内全体の業務の質などのレベル感を合わせるためにも大変有効です。
J-SOX法の施行により、上場企業や大企業は内部監査を行った内容について「内部統制報告書」の作成と内閣総理大臣への提出が義務付けられており、虚偽の報告をした場合は処罰を受ける場合もあるので真摯に取り組まなくてはいけません。
内部監査を行う担当者に必要となる資格はありませんが、公認内部監査人(CIA)や内部監査士(QIA)といった内部監査の知識を深める資格が存在します。
このような資格を取ることにより、内部監査担当者になりたい場合に異動や転職に有利になる可能性もあるので、内部監査担当者になりたい方は取得を目指すことをおすすめします。