ベンチャー・スタートアップ企業の法務で働く魅力や大変さ、適性を徹底解説

編集者
佐藤達也
【キャリアアドバイザー】国弁護士・公認会計士・税理士等の士業や、管理部門特化の転職サポートを行う人材紹介会社に在籍。士業・バックオフィスに特化した転職ノウハウ・企業調査を担当しています。分野特化だからこその、勘所を押さえたリアルな情報を発信できるよう心がけています。
ベンチャー・スタートアップ企業の法務で働く魅力や大変さ、適性は?
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テクノロジーの進化や技術改革により、ベンチャー・スタートアップ市場は活性化しています。

以前は法務職というと大企業や上場企業へ勤める安定志向の方が多い傾向がありましたが、近年ではビジネスのスピード感やチャレンジングな環境に魅力を感じてベンチャー企業を転職先に選ぶ方も増えています。

一方で、ベンチャー企業に転職したものの性格や志向が合わない、スピードやハードワークに適応できないといった理由で早期退職するケースも少なくありません。こうしたミスマッチを避けるためは、ベンチャー企業の特性やマッチするタイプなどをよく把握しておくことが大切です。

この記事ではベンチャー企業における法務の業務内容などを紹介したうえで、ベンチャー法務のメリット・デメリット、マッチしやすい人の特徴などについて解説します。

目次

ベンチャー・スタートアップ企業における法務の特徴

企業の法務部には、事業の法的リスクを未然に防止するブレーキとしての役割と、事業を推進するというアクセルとしての役割が求められます。

この点についてベンチャー・スタートアップ企業が大企業・上場企業と大きく変わるわけではありませんが、実際に業務を進める際には違いがあります。

業務の遂行スピードが速い

大企業や上場企業などの大規模な組織では、プロジェクトを遂行するにあたり各稟議が必要となるなど、実際にプロジェクトが動き出すまでに多大な時間を要します。

これに対してベンチャー企業では組織規模が小さく、立案者・実行者と経営者との距離が近いことから非常に速いスピードでプロジェクトが進んでいきます。

法務業務についても、事業部のビジネスと併走できるスピード感が求められます。

法務の業務範囲が広い

大規模組織の場合、業務は細分化・分担されているケースが多く、個々の法務人材が担う業務範囲は限定的です。

一方ベンチャー企業の場合、法務部は一人ないし数名で構成されているため、大規模組織に比べて圧倒的に人的リソースが限られます。数名の法務スタッフで自社の法務機能をすべてカバーするため、一人あたりの業務範囲は広範囲におよびます。

ベンチャー・スタートアップ法務の業務内容

ベンチャー企業における法務の業務内容は、大企業や上場企業と基本的には同じです。

ただしベンチャー企業だからこそ頻繁に発生する業務や、業務にあたり注意するべきポイントがあります。

ビジネスモデルや事業の適法性調査

ベンチャー企業では市場を切り開くために新しい事業やビジネスモデルを展開するケースが多く、その適法性については、ほとんどが法整備されていない領域で判断することになります。

したがって法務としては各法令や判例、行政への相談や問い合わせ等あらゆる手段を用いてビジネスモデルの適法性を調査しなければなりません。

ベンチャー企業の場合、単に法的リスクを排除するという役割が求められるわけではありません。法的なリスクを調査・確認したうえで、リスクがある場合にはビジネス上とれるリスクなのか、どのようにすればリスクを最小化できるのかといった点まで考える必要があります。

このように法的観点から事業や経営活動をバックアップする業務を戦略法務といいますが、ベンチャー企業の法務ではとくに戦略法務としての役割が求められるケースが多くなっています。

契約関連法務

ビジネスでは売買契約や秘密保持契約、業務委託契約などさまざまな契約を締結します。法務は契約内容を自社に有利なものにするために、また自社に不利な内容は排除して取引先とのトラブルを回避するために、契約書の作成や審査を行います。

成長ステージにあるベンチャー企業の場合、契約書は多数におよぶため契約法務は効率化が求められます。そのため案件の特徴に応じて契約書のひな形を作成するなどの効率化が重要です。

一方で個別の事情を考慮して手直しする必要がある案件も多いため、単なるひな形の使い回しにならないよう注意が必要です。

機関法務

機関法務とは、株主総会や取締役会など企業の意思決定を行う内部機関の活動が適法に行われるための法務業務のことです。

たとえば招集通知の作成・発送、議事録の作成・保管などを行います。上場対応や組織再編なども機関法務に含まれます。

機関法務はコンプライアンスおよびコーポレートガバナンスの根幹をなすものであり、法務業務の中でも欠かせない重要業務のひとつです。会社法をはじめとする各種法令にしたがい、合法的に運営する必要があります。

労働法務

ベンチャー企業の労働法務では、就業規則や36協定などの作成や各種官公庁への届出・申請、社会保険への加入など多方面にわたる業務があります。労働基準法や最低賃金法などの各法令にしたがい、従業員を受け入れる最低限の体制を整備する必要もあります。

それだけでなく、従業員が働きやすい環境を法律面から整えることで、従業員との信頼関係を構築し、離職の回避やビジネスの加速につなげられます。

知財法務・知財戦略

ベンチャー企業にとって、知財は事業の中核です。経営戦略上、極めて重要度の高い知財を保護し、自社の利益を最大化するための知財法務はベンチャー企業の法務に欠かせない業務のひとつといえるでしょう。

具体的には、知財に関する出願・権利化や管理、他社との契約や知財訴訟への対応などを行います。法務の中でもとくに専門性の高い分野なので、知財に関する知識や経験がある法務人材は市場価値も高いです。

ベンチャー・スタートアップ企業の法務で働くことのメリット、やりがい

ベンチャー企業の法務で働くメリットや魅力、やりがいなどについて解説します。

ルーティンワークが少なく刺激的

法務はもともとルーティンワークが少ない職種ではあるのですが、契約書のチェックなどある程度ルーティン化されている業務も存在します。また大企業では現体制を維持・保護するといった側面が強く、法務には守りの役割を求められる場面が多いでしょう。

一方、ベンチャー企業ではゼロからの体制・仕組み作りに取り組むことが多く、ルーティンワークはほとんどありません。

常に新しいことにチャレンジしていく変化に富んだ環境の中で、志を同じくする仲間たちと目標に向かって切磋琢磨していくため、非常に刺激的な毎日を送ることができます。

多様な業務に携われる

お伝えしたように、ベンチャー企業の法務は人的リソースに限りがあるため、法務に任される業務は純粋な法務業務にとどまりません。総務や人事などほかの管理部門業務に携わる場合も多々あります。

もちろん大変な面はありますが、一方で多様な業務に関われることは人材としての価値を上げるうえで大きなメリットになります。

人材価値が上がることで、自社内でのキャリアアップはもちろん、再転職や起業といったさまざまな選択肢も実現可能となります。

法務部門の立ち上げに関われる

ベンチャー企業では法務部門自体が存在しないケースが多く、立ち上げに関わる法務人材を求めている企業が多くあります。

何もない状態から組織や仕組み、運用体制を整えていくため大変ですが、その分大きなやりがいと成長を手にすることができます。

法務部門に立ち上げに関わったという経験は希少性が高いため、法務人材としての市場価値も高まります。今後転職してキャリアを築いていく際にも強みになるでしょう。

管理職になれるチャンスが大きい

管理職になれるチャンスが大きいことも、ベンチャー企業で働く魅力のひとつです。

大企業や上場企業の法務部で管理職になるには、優秀であるだけでなく、競合相手との争いや社内政治的な側面もクリアする必要があります。また、そもそもポジションに空きが出ない、管理職登用について年功序列制を採用しているといったケースも多いでしょう。

一方、ベンチャー企業は少数精鋭なので競合が少なく、若手でも積極的に管理職へと登用しています。経験豊富な法務人材であれば、管理職候補として迎え入れられることもあります。

年収アップにつながる

法務の平均年収は、経験年数や企業によっても異なりますが、500万円台が目安です。

一方、ベンチャー企業では600万円以上の年収を提示するケースも見られます。ベンチャー企業では年功序列的な給与体系ではなく、優秀な人材には高年収を提示するという考え方をもつ経営者が多いためです。

またベンチャー企業が法務を募集する場合は法務部の立ち上げや管理部門を横断した業務を担ってほしいケースが多く、高いスキルや管理職経験などが要求されるため、年収を上げないと入社してもらえないという理由もあります。

上場時にストックオプションがある場合も

ベンチャー企業では、資金力が十分でないために、人材を確保するために魅力的な年収を提示できない場合も少なくありません。

しかし人材の入社と引き換えにストックオプション(自社株を購入する権利)を与えることで、上場して自社株の価値が上昇した際に権利を行使すると大きな利益を得られる可能性があります。

自社株の価値が必ず上昇する保証はありませんが、上がった際には大きな利益になることからモチベーションの向上につながります。

ベンチャー・スタートアップ企業の法務で働くことのデメリット、大変さ

スピード感のあるビジネスや刺激的な環境に魅力を感じる方も多いベンチャー企業ですが、やはり大変な面は多く、人によってはデメリットになることも多々あります。

法務以外にも管理部門のさまざまな業務を兼任するケースが多い

管理部門を横断して多様な業務を経験できるということは、人材価値を上げるためにメリットとなる一方で、法務の専門性を発揮したい方にはデメリットとなります。

特に弁護士資格をお持ちの方など高い専門性がある方は、法務以外の業務を任されることに不満を抱く場合があります。

ベンチャーでは法務だけに専念することはなかなか難しい面があるので、ご自身の志向も含めて検討・判断したほうがよいでしょう。

人的リソースが限られるためハードワークになりやすい

ベンチャー企業はハードワークになるケースが多く、残業や休日出勤は日常茶飯事です。特にアーリーステージにあるベンチャーでは人的リソースが非常に限られ、資金繰りも思うようにいかないことが少なくありません。

企業全体がもっとも忙しい時期にあたるため、一人あたりの業務量や負荷は多大なものとなります。やりがいや充実感は抱きやすい一方で、ハードワークは避けられないでしょう。

長期的なキャリアを描きづらい

ベンチャー企業では規制の壁や資金繰り等さまざまな問題が立ちはだかり、事業がうまくいかないことは珍しくありません。

そのため、長期的なキャリアを描きづらい面があります。数年で密度の濃い経験ができればよいと考えているなら問題ありませんが、長く勤めたいと考えている場合には慎重に検討する必要があります。

大企業からの転職では年収ダウンになる場合がある

転職前の職場が大企業など年収水準の高い企業だった場合には、年収ダウンになる場合があります。

大企業では基本的に、定期昇給等で年齢に応じて順調に年収が上がっていくため、30代以降になると法務で600万円以上になるケースも少なくありません。管理職の場合は800万円以上というケースもあります。

そこからベンチャーに転職した場合、年収は維持またはダウンとなる可能性がある点は覚えておきましょう。

ベンチャー・スタートアップ企業の法務で好まれやすい人

ベンチャー企業の法務では、以下のようなタイプの方が好まれやすい傾向にあります。

積極性や主体性がある

ベンチャー企業では積極性や主体性をもって業務に取り組む姿勢が重視されます。受け身タイプの方や当事者意識が低い方が敬遠されるのは、ブレーキの役割を担う法務であっても同じです。

自ら提案するなど、従来の法務にはない広い視野でビジネスを推進していく必要があります。

自走力がある

ベンチャー企業の法務はいわゆる「一人法務」になることも多く、教育体制が整っているわけではありません。業務について周りに誰も教えてくれる人はいませんし、聞いても誰も知らないため、自分で調べて解決しなければなりません。

自走力がある人でないと難しいでしょう。

効率的に業務を遂行するスキルや意識が高い

ベンチャー企業では人的リソースが限られるため、すべての業務において効率化が重要です。ひとつひとつ順番に丁寧に業務を遂行するといったことは難しいので、優先順位を付けながらタスクを進めていく必要があります。

こうした点をよく理解し、意識的に業務にあたれる人材はベンチャー企業で好まれやすいでしょう。

柔軟な思考や変化への対応力がある

ベンチャー企業は成長フェーズにあるため、事業の撤退や方針転換など大きな変化がたびたび起こります。そのため柔軟な思考や変化への対応力がある方が好まれます。

「こうであるべき」といった固定化された考え方を持っている方や、定まった環境が安心する方などはベンチャー企業には向いていません。

年齢は若い人が好まれる

ベンチャー企業は経営幹部も含めて20代~30代の若い人が中心となって構成されているケースが大半です。

従業員との年齢層が近いほうが組織にフィットしやすく、ハードワークを乗り切る体力もあると判断されやすいため、年齢は若いほうが好まれます。

ベンチャー・スタートアップ企業の法務へ転職したいなら磨いておきたいスキル

ベンチャー企業への転職可能性を上げるためには、どのようなスキルを磨いておくべきなのでしょうか。

英語力

ベンチャー企業では必ずしも海外向けの商品やサービスを展開するわけではないため、英語力がなくても働くことはできます。

しかし国内市場が成熟している日本では海外に商機を見いだす企業は多く、ベンチャー企業においても例外ではありません。

英文での契約や国際法務に関わる機会も想定されることから、英語力はあったほうがよいでしょう。今後、キャリアアップを目指したいと考えているならなおさらです。

コミュニケーションスキル

法務は社内のさまざまな部署との関わり合いが多く、弁護士や官公庁など社外の人ともコミュニケーションを取る機会があります。事業部とともに契約に立ち会い、折衝や交渉に関わることもあるでしょう。

ときには事業部が疾走する中で自分だけがブレーキの役割を担い、事業部に対して的確にリスクを説明してコントロールしなければならないケースもあります。高いコミュニケーションスキルが必要です。

外部サポートやシステムの活用スキル・知識

ベンチャー企業の法務では業務量が膨大で効率化だけではすべてに対応しきれないため、外部サポートやシステムの積極活用も欠かせません。したがって、法務人材にはそれを使いこなせるだけの知識やスキルが必要です。

たとえば電子契約システムや業務効率化システム、法務支援クラウドサービスなど各事業者から提供されているさまざまなシステム・サービスがあります。

外部サービスという点において、法務では弁護士との連携も重要です。調べても解決しない問題や難易度の高い業務などについては、自社の法務だけでなく外部の弁護士も活用していくことになります。

弁護士とは日頃からコミュニケーションを取っておき、いつでも相談できる体制を構築しておくと、ベンチャーならではのスピード感を維持したまま問題解決にあたれます。

ベンチャー・スタートアップ法務へ転職するために必要なこと

最後に、ベンチャー法務への転職を成功させるためのポイントを解説します。

実務経験3年以上

ベンチャー企業では一人法務になることも多く、教育体制等も整っていません。即戦力として入社してすぐの活躍を期待されるため、少なくとも3年以上の実務経験が求められます。

また経験内容について、法務にはさまざまな業務がありますが、一人法務にも対応できるよう法務全般の経験があるのが望ましくあります。

その点でいうと、大企業の法務経験しかない場合、業務が細分化されていることから経験業務の範囲が狭いため評価の対象にならない可能性があります。

企業のビジョンに共感していること

ベンチャー企業は、強い志を持ち、ビジネスを通じて社会に貢献したいと考えている人たちの集まりです。人的リソースや資金力に限りのある中で成果を出すには、全員が共通の目的・目標を持って突き進む必要があります。

そのため経営陣は自社のビジョンに共感しているかどうかを非常に重視します。どんなに優秀な人材であってもビジョンへの共感がなければ採用されることはなく、仮に採用されたとしても方向性の違いなどから早期退職につながるでしょう。

性格や志向がベンチャー企業にマッチしていること

ベンチャー企業は性格や志向の面で向き・不向きが大きい環境なので、自身がベンチャーにマッチするかどうかは事前によく分析しておく必要があります。

安定志向やプライベートを最優先にしたい人、リスクを許容できない人などはベンチャーに不向きです。

転職エージェントに相談すること

ベンチャー企業では法務人材のニーズが高いですが、一社につき一名の募集であることが多く、求人数もそれほど多くありません。

また創業から間もないベンチャー企業の場合は情報量が少なく、どういった企業なのかを知る方法が限られてしまいます。

転職エージェントに相談すれば希望の条件に合った求人を探してくれるほか、求人企業に対するヒアリングや独自ルートを通じて入手した詳細情報を提供してくれます。

そもそもベンチャー企業の法務にマッチするのか、自身のキャリアを築くうえでベンチャーという選択肢がどのような影響を与えるのか等のキャリア相談もできます。

まとめ

ベンチャー・スタートアップ企業の法務は、チャレンジングな環境の中でスピード感をもって業務にあたれるため、短期間でも大きな成長を感じられるでしょう。

一方でハードワークや専門性を磨きにくい点などが不満につながる可能性もあるため、ご自身の志向やキャリアプランを踏まえて慎重に検討する必要があります。

ミスマッチのない転職を実現するためにも、まずは転職エージェントに相談することをおすすめします。

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佐藤 達也

弁護士・公認会計士・税理士等の士業や、管理部門特化の転職サポートを行う人材紹介会社に在籍。士業・バックオフィスに特化した転職ノウハウ・企業調査を担当しています。分野特化だからこその、勘所を押さえたリアルな情報を発信できるよう心がけています。