雇用保険には失業保険だけでなく「傷病手当」と呼ばれる給付金があります。
各制度の違いや特徴について、詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。
本記事では、失業手当と傷病手当の違いや、傷病手当とよく似ている「傷病手当金」の違いについて解説します。
また、雇用保険の傷病手当と失業保険の詳細、傷病手当金から失業保険に切り替える方法などを紹介するため、ぜひ参考にしてください。
あわせて読みたい⇒失業手当(失業保険)はどんな制度?計算方法や条件・期間・もらい方までくわしく解説
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目次
失業保険と傷病手当の違い
一般的に失業保険と呼ばれるものは「基本手当」を指し、失業時に条件を満たしている方が受給できます。
失業保険(基本手当)はハローワークに求職認定を受けることで受給できるのに対し、傷病手当は一定期間(15日以上)ケガや病気で仕事ができる状態ではない場合に受給が可能です。
どちらを受給するかは、仕事を探せない状態の期間によって異なります。
ケガや病気で仕事を探せない期間が14日以内の場合は「失業保険(基本手当)」15日以降も探せない状態なら「傷病手当」の給付になります。
失業保険と傷病手当についての詳細は後述するので、最後までご覧ください。
傷病手当と傷病手当金の違い
雇用保険の傷病手当とよく似ている言葉に「傷病手当金」があります。
傷病手当は雇用保険のひとつですが、傷病手当金は自身が加入している健康保険の手当になり、別物になるので注意しましょう。
一方、雇用保険の傷病手当はケガや病気で再就職をできない方に向けた制度なので、健康保険の傷病手当金とは対象者が異なります。
詳しくは以下の表を参考にしてください。
雇用保険の傷病手当 | 健康保険の傷病手当金 | |
---|---|---|
申請時の状況 | 失業中 | 在職中 |
利用条件 | ケガや病気などが理由で15日以上求職活動ができない | ケガや病気などが理由で3日間仕事を欠勤したうえ、4日目以降の欠勤日が支給の対象 |
法律の規定により、雇用保険の傷病手当と健康保険の傷病手当金を同時に受給することはできません。
雇用保険の傷病手当とは?
ここからは、雇用保険の傷病手当について詳しく解説していきます。
以下の項目にわけて紹介するので、受給を検討している方は参考にしてください。
傷病手当の受給条件
傷病手当を受給するには、以下の条件を満たす必要があります。
- ハローワークに求職の申込みをしている
- 失業保険(基本手当)の受給条件を満たしている
- ケガや病気で15日以上仕事に就けない
- ハローワークに求職の申込みをしたあとにケガや病気を発症した
傷病手当を受給するには、ハローワークにて求職の申込みが必要です。そのうえで、15日以上ケガや病気で働けない状態が続く場合に支給されます。
14日以内で仕事に就ける状態になる場合は、傷病手当ではなく基本手当が給付されます。
また、ハローワークに求職の申込みをする前に発症したケガや病気は、受給の対象ではありません。
傷病手当の受給期間
傷病手当の受給期間は「基本手当の所定給付日数」から「すでに基本手当が支給された残りの日数」で計算できます。
差し引いた日数のため、1日も基本手当を受給していない場合は、基本手当の所定給付日数が傷病手当の受給期間です。
また、基本手当と同じく、7日間の待期期間や、自己都合による退職の場合2ヶ月(または3ヶ月)の給付制限の間は傷病手当の受給ができません。
ケガや病気で働けない期間が30日以上続く場合、基本手当の受給期間を最大4年まで延長できます。
傷病手当の受給金額
傷病手当の受給金額は、基本手当の金額と同じです。
失業手当(基本手当)の受給金額については、「失業手当の受給金額」で詳しく解説しているので参考にしてください。
傷病手当の申請方法
雇用保険の傷病手当を受給するには、ハローワークに「傷病手当支給申請書」を提出する必要があります。
傷病手当支給申請書はハローワークの窓口や、ハローワークのインターネットサービスからダウンロードが可能です。
ハローワークに行けない方は、郵送による申請、または電子申請ができます。
傷病手当支給申請書では以下の項目を記入します。
- 氏名・性別・生年月日
- 診療担当者の証明
- 支給申請期間
診療担当者の証明は、診療担当者に以下の項目を記入してもらいます。
- 傷病の名称、程度
- 初診年月日
- 傷病の経過
- 傷病のため職業に就くことができなかったと認められる期間
- 診療機関の所在地・名称・診療担当者名
診療担当者によっては記入までに時間を要する可能性があるため、スムーズに手続きを進めるためにも早めに依頼しておきましょう。
また、傷病手当の申請をおこなうには、雇用保険受給資格者証(写真付のカード)の提出が必要です。
ほかにも、基本手当の受給から傷病手当に切り替える場合は、失業認定申告書の提出が求められます。
郵送で申請手続きをする方は、返信先を記入した返信用の封筒も一緒に入れて送ってください。
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失業保険とは?
また、失業保険と呼ばれることが多くありますが、正式名称は「基本手当」です。
ここからは、失業保険を以下の項目にわけて詳しく解説していきます。
失業保険の受給条件
失業保険(基本手当)を受給するには、ハローワークに失業状態であることを認めてもらう必要があります。
そのためには、ハローワークで求職の申込みをおこない、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる状態にも関わらず、再就職ができない状態であることが条件です。
ゆえに、ケガや病気、妊娠、出産、育児などが理由ですぐに就職できない方や、結婚などで退職して家事に専念したいと考えている方は受給できません。
また、失業保険を受給するには一定期間雇用保険に加入していることも条件です。
雇用保険の期間は、以下の退職理由によって異なります。
自己都合による退職
自己都合による退職は「一般の離職者」となり、自分の意志で退職を決めた場合は自己都合による退職になるケースがほとんどです。
この場合、失業保険を受給するには「離職日以前2年間に、被保険者期間が通算12ヶ月以上ある」ことが条件になります。
特別な理由による退職
特別な理由による退職は「特定理由離職者」と呼ばれ、自己都合でも以下の理由がある方が該当します。
- 体力の不足、心身の障害、疾病、負傷、視力の減退、聴力の減退、触覚の減退等により離職した方
- 妊娠、出産、育児等により離職し、雇用保険法第 20 条第 1 項の受給期間延長措置を受けた方
- 父若しくは母の死亡、疾病、負傷等のため、父もしくは母を扶養するために離職を余儀なくされた場合
または常時本人の看護を必要とする親族の疾病、負傷等のために離職を余儀なくされた場合のように、家庭の事情が急変したことにより離職した方- 配偶者または扶養すべき親族と別居生活を続けることが困難であることが理由で離職した方
- 次の理由により、通勤不可能または困難であることが理由で離職した方
ⅰ) 結婚に伴う住所の変更
ⅱ) 育児に伴う保育所その他これに準ずる施設の利用または親族等への保育の依頼
ⅲ) 事業所の通勤困難な地への移転
ⅳ) 自己の意思に反しての住所または居所の移転を余儀なくされたこと
ⅴ) 鉄道、軌道、バスその他運輸機関の廃止または運行時間の変更等
ⅵ) 事業主の命による転勤または出向に伴う別居の回避
ⅶ) 配偶者の事業主の命による転勤若しくは出向または配偶者の再就職に伴う別居の回避- 企業整備による人員整理等で希望退職者の募集に応じて離職した方など
特定理由離職者の場合、必要な被保険者期間は「離職日以前の1年間に、被保険者期間が6ヶ月以上ある」ことが条件です。
会社都合による退職
退職や解雇など会社都合による退職は「特定受給資格者」となります。
パワハラやセクハラなどのハラスメント行為による退職でも、会社都合による退職にできる可能性があります。
特定受給資格者の場合は特定理由離職者と同じく「離職日以前の1年間に、被保険者期間が6ヶ月以上ある」ことが、失業保険を受給する条件です。
失業保険の受給期間
失業保険の受給期間は、退職理由・被保険者の期間・年齢によって異なるため、以下の表を参考にしてください。
退職理由 | 年齢 | 被保険者であった期間 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
1年未満 | 1年以上 5年未満 | 5年以上 10年未満 | 10年以上 20年未満 | 20年以上 | ||
自己都合 | 65歳未満 | - | 90日 | 120日 | 150日 | |
会社都合 | 30歳未満 | 90日 | 120日 | 180日 | - | |
30歳以上 35歳未満 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 | |
35歳以上 45歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 | |
45歳以上 60歳未満 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | |
60歳以上 65歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
自己都合による退職の場合、最短90日、最長で150日の給付期間となります。10年以上の被保険者期間がない場合は90日になるため、30代以下の方は90日となるケースがほとんどでしょう。
会社都合による退職は最短90日、最長で330日の給付期間となり、自己都合による退職よりも給付期間が長くなります。
また、45歳から60歳未満の方の保証が手厚い傾向があります。
失業保険の受給金額
失業保険の受給金額を計算するには、以下のステップでおこなうことがポイントです。
- 賃金日額を算出「離職日の直前6ヵ月に毎月支払われていた賃金(賞与は除く)÷180」
- 基本手当日額を算出「賃金日額×45~80%」
- 受給金額の計算「基本手当日額×給付日数」
基本手当日額を出すには「賃金日額」を計算する必要があり、以下の式で算出します。
「賃金日額=離職日の直前6ヵ月に毎月支払われていた賃金(賞与は除く)÷180」
基本手当日額は、賃金日額の45~80%で出すことが可能です。
「基本手当日額=賃金日額×45~80%」
45~80%は給付率であり、どの給付率が適用されるかは年齢や賃金日額で変わってきます。
失業保険の申請方法
失業保険の申請をするには、以下の書類を用意します。
- 雇用保険被保険者離職票(1、2)
- 個人番号確認書類
- 身元確認書類
- 写真
- 本人名義の預金通帳
雇用保険被保険者離職票は2種類ありどちらも必要です。
退職した会社に手続きをしてもらうため、退職が決まればすぐに発行を依頼しましょう。
必要書類の用意が済めば、ハローワークにて求職申込みをおこない、窓口にて書類を提出します。
失業保険を受給するまでの流れは以下を参考にしてください。
- 必要書類を準備する
- ハローワークで求職申込みをおこない必要書類を提出する
- ハローワークにて受給資格の決定をおこなう
- 7日間の待期期間後、雇用保険受給者初回説明会に参加
- 失業認定日にハローワークに出向く
- 失業認定後1週間以内に失業保険が振り込まれる
失業保険は失業認定日に「失業認定申告書」を提出し、失業の状態であることを認めてもらう必要があります。
銀行に振り込まれるタイミングは自治体や金融機関によって異なりますが、5営業日以内に振り込まれるケースがほとんどです。
失業保険と傷病手当金はどちらが得?
失業保険と雇用保険の傷病手当では、受給できる金額が変わりません。
では、健康保険の傷病手当金と比較した場合はどちらが得なのでしょうか。
ここでは、失業保険と健康保険の傷病手当金を比べた場合、どちらを受給したほうが得になるのか紹介していきます。
失業保険と傷病手当金は退職理由や年齢によって受け取る金額が異なるため、どちらが得とは断言できません。
本記事で紹介した計算式をもとに、以下の条件を当てはめてシミュレーションをおこないます。
- 退職時の年齢43歳
- 給与月額380,000円
- 協会けんぽに加入
- 被保険者期間8年
- 自己都合による退職
- 【失業保険の計算】
-
380,000×6÷180=12,670円(賃金日額)
12,670×0.5(給付率)=6,340
基本手当日額 6,340円 - 【傷病手当金の計算】
-
380,000÷30日×(2/3)=約8,440円
この条件で見ると、失業保険は1日6,340円、傷病手当金は8,440円支給されることになるため、傷病手当金のほうが得です。
また、給付日数については対象となる日数で異なるため、どちらが得とは判断できませんが最大日数は以下のとおりです。
- 失業保険の受給日数 90~270日(43歳の場合)
- 傷病手当金の受給日数 最大1年6ヶ月
どちらが得なのか気になる方は、ご自身の条件を当てはめてシミュレーションをしてみましょう。
傷病手当金から失業保険に切り替える方法
ケガや病気で働けなくなった場合、傷病手当金を受給してから退職する方も多いでしょう。
傷病手当金と失業保険は同時に受給できないため、失業保険を受給するなら切り替えが必要になります。
ここでは、傷病手当金から失業保険に切り替える方法や、失業保険の延長手続きをおこなう手順について解説します。
退職後29日以内に切り替える場合
退職後29日以内にケガや病気が改善した場合は、一般的な失業保険の申請方法とほぼ同じです。
必要な書類を準備し、ハローワークで手続きをおこない、7日間の待期期間後説明会へ参加します。
その後、自己都合による退職の場合は給付期間を経て、失業認定日にハローワークで失業認定を受けることで受給が始まります。
退職後30日以上経過して切り替える場合
退職後30日以上経過して失業保険に切り替えるには、失業保険の給付期間延長の手続きをおこなう必要があります。
手続きの流れは以下のとおりです。
- 失業保険の給付期間延長手続き
- 傷病証明書の取得
- 失業保険の手続きに必要な書類を用意する
- ハローワークで申請手続きをおこなう
- 待期期間(自己都合による退職の場合は+給付制限期間)
- 失業認定後、失業保険の支給開始
失業保険の給付期間を延長する方法は後ほど詳しく解説します。
担当医に作成してもらう必要があるため、早めに依頼しておきましょう。
失業保険の延長手続きをおこなう手順
働けない状態が30日以上続く場合は、失業保険の延長手続きをおこないます。
失業保険の延長手続きでは、以下の書類などが必要です。
- 受給期間延長申請書
- 離職票
- 雇用保険受給資格者証
- 医師の証明書
- 印鑑
受給期間延長申請書は、ハローワークの窓口、または郵送で受け取ることができます。
離職票は前述したとおり退職した会社から受け取り、雇用保険受給資格者証は雇用保険受給者初回説明会で配布されるケースが一般的です。
延長手続きは、本人がハローワークに行けない状態でも、代理人申請や郵送での申請が可能です。
ここでは、ハローワークの窓口で申請する方法と郵送で申請する方法を紹介します。
ハローワークの窓口で申請する方法
ハローワークの窓口で延長申請する手順は以下のとおりです。
- 受給期間延長申請書を受け取る
- 申請に必要な書類を用意する
- 必要書類をハローワークの窓口に提出して申請をする
委任状を用意することで代理人申請ができます。
郵送で申請手続きする方法
郵送で申請するには以下の手順でおこないます。
- 受給期間延長申請書を受け取る
- ハローワークの「雇用保険給付・教育訓練給付窓口」へ連絡し、事前に郵送することを伝えておく
- 必要書類を郵送で提出する
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手当を切り替える際の注意点
続いては、手当を切り替える際の注意点を紹介します。
手当を切り替える際は、以下2つのポイントに注意しておこないましょう。
なるべく早めに申請手続きをおこなう
手当を切り替える際は、なるべく早めに申請手続きをおこなうことがポイントです。
延長の申請は30日以上働けないことが条件であり、30日以上継続して働けなくなった日の翌日から申請ができます。
手続きは延長後の受給期間最終日までできますが、申請が遅れると所定給付日数分の手当をすべて受け取れない可能性があります。そのため、なるべく早めに手続きすることが大切です。
待期期間中はどちらの手当ももらえない
失業保険を受給するには7日間の待期期間がありますが、その間は失業保険も傷病手当金も受け取れません。
どちらの手当ももらえない期間があることを、あらかじめ理解しておきましょう。
また、待期期間中はアルバイトも認められていません。
アルバイトをしていた事実が発覚すると、失業保険を受け取れない恐れがあるので注意しましょう。
失業保険・傷病手当に関するよくある質問
最後に、失業保険・傷病手当に関するよくある質問をまとめました。
同じ疑問をお持ちの方は、解決するために参考にしてください。
うつ病で傷病手当をもらって退職した場合失業保険はもらえる?
失業保険を受給するには「今すぐ働ける状態である」ことが条件です。
そのため、うつ病で傷病手当をもらって退職した場合、うつ症状が改善し、働ける状態であれば申請ができます。
また、「特定受給資格者」や「特定理由離職者」と認められた場合は、2ヶ月(または3ヶ月)の給付制限期間を待たなくても受給されます。
傷病手当の受給中にアルバイトはしてもいい?
傷病手当は「ケガや病気で15日以上仕事に就けない」ことが条件で受給できる制度です。
そのため、受給中のアルバイトは認められません。
バレると不正受給となり、ペナルティが課せられるため注意しましょう。
失業保険や傷病手当はパートでももらえる?
雇用保険の失業保険や傷病手当は、パートやアルバイトの方でも、正社員と同じように受給できます。
しかし、受給するには雇用保険への加入など、受給条件を満たす必要があるので確認しましょう。
失業保険と傷病手当金の両方をもらいたいならハローワークで手続きが必要!
雇用保険の失業保険はハローワークに求職認定を受けることで受給できるのに対し、傷病手当は一定期間(15日以上)ケガや病気で仕事ができる状態ではない場合に受給できます。
どちらも雇用保険の制度になるため、ハローワークで手続きをおこないましょう。
また、雇用保険の傷病手当は「失業中」であることが受給の対象ですが、健康保険の傷病手当金は「在職中」であることが対象です。
手当をもらって退職する場合、健康保険の傷病手当金を受け取ったあとに失業保険に切り替えることはできるため、その際もハローワークで手続きが必要になります。
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