借地代の増額請求の方法と注意点|弁護士に依頼する場合の費用相場とメリット

借地代の増額請求の方法と注意点|弁護士に依頼する場合の費用相場とメリット

固定資産税が上がってしまい、貸している土地の借地代を増額したいと考えている方も多いのではないでしょうか。

借地借家法第3条では、借地権の存続期間は30年と定められており、30年より短い契約期間を定めた場合には無効となるため、借地契約は30年以上の長期間の契約となっています。

また借地借家法制定(1992年)以前の旧借地法でも、堅固な建物の場合の借地権は最低30年、木造建物の場合には最低20年と定められていました。

かなり昔に借地代を決めたまま変更していないケースでは、現在の基準で考えると、相当低いままの状態で放置されているケースも少なくありません。

いきなり借地代を増額するといっても納得してくれない借主がほとんどですし、そもそも相場の金額すらわからないことも多いでしょう。

本記事では、借地代の増額請求をするためのポイントや、計算方法、交渉に応じてくれない場合の対処方法について解説していきます。

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当社在籍弁護士(株式会社アシロ)
この記事は、株式会社アシロの「法律相談ナビ編集部」が執筆、社内弁護士が監修しました。

借地代の増額請求をできる場合とは

借地代はどんな場合でも増額できるわけではありません。

まずは、増額請求できるケースを確認してみましょう。

相場よりも安いというだけでは増額請求はできない

借地代が相場よりも安い場合や、長い間借地代の変更をしていなかったという理由だけでは、増額の請求は認められません。

借地代は、当事者同士で自由に決めることができるので、今の借地代についても当事者が合意のうえで決定しているはずです。

そのため、後になって借地代が相場より低いという理由だけで増額の請求をしても、簡単には認めてもらえません。

借地代の増額請求が認められる要件とは

借地代の増額請求の要件は、借地借家法で定められています。

第11条 地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課(※1)の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動(※2)により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

参照:借地借家法|e-Gov法令検索

※1   固定資産税・都市計画税など

※2  物価指数の上昇なども含む

固定資産税の増額や時価の変動などにより、借地代がほかの土地よりも不相当であると認められれば、増額請求は認められることになります。

借地代を増額しない特約があればできない

借地借家法第11条では、一定期間借地代の増額をしないという特約を認めており、この特約を結んだ場合、その期間内に地価の上昇や固定資産税等の増額があり、借地代が相場よりもあきらかに安いような状況になったとしても、増額請求をすることはできません。

ただし、以下に挙げる条件にあてはまれば、一定期間増額しない特約があったとしても、合意自体が無効であったとして、借地代の増額請求をできる可能性があります。

  • 「合意をした時には誰も予想できなかったような経済変動により、借地代があきらかに不公平であると認められる場合」

合意が無効であるかは法律的な判断が必要になるため、迷ったら弁護士に相談してみることをおすすめします。

自動改定特約があれば、適当な額であれば増額可能

自動改定特約とは、固定資産税の増額や、その他の経済事情が変動したことで、周囲と比べてあきらかに借地代が低すぎるような状況が生じた場合には、借地代の増額を請求できるという特約です。

契約自由の原則から、当事者同士の合意のもとでこの特約を結んだのであれば、増額する金額が合理的な範囲内であれば、増額請求が認められることになります。

そのため、たとえ自動改定特約があったとしても、借主が著しく不利になるような増額請求は認められません。

増額請求する借地代の計算方法

増額請求を成功させるためには、適切な根拠をもとに、正確に借地代を計算する必要があります。

ここでは、借地代の計算方法について解説していきます。

計算方法は4種類

借地代の計算方法は、全部で4種類あります。

  1. 差額分配法
  2. 利回り法
  3. スライド法
  4. 賃貸事例比較法

それぞれわかりやすく解説していきます。

差額分配法

差額配分法とは、「契約当時の借地代」と「現時点での適正な借地代」の差額にもとに計算する方法です。

【計算式】

  • 契約当時の借地代+(適正な借地代-契約当時の借地代)×差額の配分率

「適正な借地代-契約当時の借地代」が、差額分配法における「差額」にあたる部分です。

「差額の配分率」は、以下の要素を考慮して決定します。

  • 契約期間はあとどれくらい残っているか
  • 契約してから現在までの経緯(固定資産税の増額、経済事情の変化など)
  • 貸主、借主の近隣地域の発展に対する貢献度 など

なお、配分率の相場は、1/2〜1/3程度です。

利回り法

利回り法とは、契約当時に想定していた利回りをもとに、現在の土地価格を基礎として借地代を算出する方法です。

【計算式】

  • 基礎価格(※1) ×継続賃料利回り(※2) + 必要経費

※1 基礎価格とは、土地の評価額のことを指します。借地権が設定されている土地の価格である「底地価格」を用いて計算されることが多いです。

  • 底地価格=更地価格-路線価で定められた借地権割合

※2    継続賃料利回りとは、契約当時に想定していた利回りのことを指します。

  • 継続賃料利回り(※3)=(契約当時の借地代 - 必要経費) / 契約当時の土地の評価額

スライド法

スライド法とは、物価や地価、経済事情などの変動に合わせて借地代を調整する計算方法のことです。

【計算式】

  • (契約当時の借地代-契約当時設定した必要経費)×変動率+現在の必要経費

賃貸事例比較法

賃貸事例比較法とは、近隣物件や周辺地域で設定されている借地代と対象となる土地の借地代を比較することで、相当な借地代を算出する方法です。

比較する事例の数に決まりはありませんが、借地代の平均が算出できる程度には比較する必要があります。

また、現在設定されている借地代を比較対象とする必要があるため、比較に用いる事例は、現在継続中の借地契約である必要があります。

また、契約内容やその土地の特殊な事情などにより、単純に借地代を比較するには適していない事例もあることに、注意が必要です。

個々の事情に応じた計算方法を採用する

4つの計算方法のどの方法で計算するかは、個々の事情に応じて、貸主と借主で話し合って決めることになります。

どれか1つの方法を選択してもいいですし、複数の方法を組み合わせて、お互いが納得できる金額を決めても問題ありません。

ここで、「賃貸事例比較法」を使って、具体的な借地代を計算してみましょう。

【事例】

  • 借地代を計算したい土地:150平方メートル
  • 近隣物件の借地代
  1. 50平方メートル:70万円(年間)
  2. 80平方メートル:120万円(年間)
  3. 100平方メートル:130万円(年間)

【計算方法】

それぞれの1平方メートルあたりの金額は以下のようになります。

  1. 1万4,000円
  2. 1万5,000円
  3. 1万3,000円

つまり、①〜③の平均額は、1平方メートルあたり14,000円になります。

今回、計算したい土地は150平方メートルなので、「14,000円×150平方メートル=210万円(年間)」と計算できます。

借地代の増額請求をする手順

ここからは、借地代の増額請求をする場合の、具体的な手順を確認していきましょう。

まずは当事者同士で交渉をする

借地代の増額を請求するためには、まず当事者同士で話し合いをしてみるところからはじめましょう。

こちらが、増額の理由を丁寧に説明すれば、借主も事情をわかってくれ、増額に応じてくれる可能性があります。

交渉の際には、現在の借地代があきらかに低いことがわかる資料をもって交渉するのがおすすめです。

資料は不動産鑑定士などの専門家が作成する鑑定書などを出すと、説得しやすくなるでしょう。

増額交渉の際には、「来月からいきなり値上げします」と一方的に告げるのではなく、借主と相談して、増額日を少し遅れさせるようにすると、借主も交渉に応じてくれやすくなるでしょう。

なお、契約した際に、「一定期間地代を増額しない」旨の特約を交わしていると、その期間内は増額の請求をすることができないので、注意してください。

話がまとまらなければ調停手続き

当事者同士で話し合いがまとまらない場合、裁判所に間に立ってもらい、増額請求が妥当かどうかを話し合う調停をおこないます。

調停では、裁判官1名と、不動産鑑定士や弁護士などの専門知識を有する民事調停委員2名以上が、双方の言い分を聞ききながら、当事者が合意できるように話を進めてくれます。

調停は裁判ではないので、増額が相当かどうか、具体的な金額がいくらなのか、といった判断をする訳ではありません。ただ、調停でもまとまらず裁判までいってしまうと、時間も手間もかかってしまうため、調停のなかで調停委員が提案した金額を基準にして、交渉がまとまることも多いです。

調停が不成立となれば訴訟手続き

調停でも話し合いがまとまらない場合には、裁判所に具体的な決定をしてもらう、訴訟を起こすことになります。

契約書や不動産の鑑定評価書などの証拠資料や、お互いの言い分をもとに、増額請求が妥当かどうか、妥当だとして借地代はいくら増額すべきなのかを、裁判所が客観的に判断します。

場合によっては、裁判所が独自に不動産の鑑定をおこなうこともあります。

第1審判決に納得がいかない場合には、控訴をして争いを続けることもできますが、貸主と借主の関係は今後も続くことを考えると、できれば第1審判決で出た金額を基準にして、交渉をまとめることをおすすめします。

借地代の増額請求を成功させるためのポイント

調停や裁判まで話がこじれてしまうと、多大な労力と時間がかかってしまいます。

そのため、できれば交渉の段階で、借主に増額を了承してもらうことが望ましいでしょう。

ここでは、借地代の増額請求を成功させるためのポイントを解説します。

増額の根拠を丁寧に説明する

借主の立場になって考えると、いきなり「来月から値上げします」とだけ言われても、納得できない方が多いと思います。

法律上値上げが認められていること、増額請求の要件は満たしていること、近隣物件と比べてもあきらかに借地代が低いことを、証拠資料を見せながら懇切丁寧に説明すれば、借主も事情をわかってくれ交渉がうまくいく可能性が高まります。

なお、証拠資料を借主に見せる際には、地価や近隣物件の借地代の平均などについて、具体的な数字が記載されている資料を提示するようにしてください。

増額は段階的におこなう

最終的に増額したい金額を一気に請求するのではなく、段階的に増額していくことをおすすめします。

借主の立場になって考えてみると、いきなりの大幅な値上げは精神的に受け入れ難いことが多く、翌月から突然増額すると、支払いそのものが難しいことも多いでしょう。

仮に、強引に増額交渉をまとめたとしても、結果的に支払ってもらえなかったら、貸主としては支払ってもらえる金額が減ってしまうため、増額するメリットがありません。

借主に考える時間や、支払い額を確保してもらうためにも、増額の交渉は段階的におこなうことをおすすめします。

必要であれば法的措置を講じる旨を通知

貸主の増額請求に法的な根拠があり、借主の主張があきらかに不当なケースなどでは、「借地代の増額に応じないのであれば、法的な手続きをとります」という旨の通知書を送るのも有効です。

裁判になると負けてしまうから、交渉の段階で話をまとめようと考えるかもしれませんし、「法的な手続き」という言葉が怖くなってしまい、早めに交渉をまとめようとしてくる人もいるでしょう。

増額の請求にしっかりとした根拠があるのであれば、法的措置を講じる旨を通知するのは、非常に有効な手段になります。

なお、もし裁判になった際に証拠として使えるよう、通知は内容証明郵便で送っておくと良いでしょう。

借地代の増額請求を弁護士に依頼するメリット

借地代の計算方法がよくわからない場合や、交渉に自信がない方は、弁護士に対応を依頼することをおすすめします。

弁護士に借地代の増額請求を依頼する大きなメリットは、以下の2つです。

借地人とのやり取りを任せられるので精神的負担が減る

増額請求をすることが心苦しい方や、借主が強気に出てくる方なので、自分で交渉するのは自身がない方は、弁護士に依頼すれば借主との交渉を全て任せることができます。

直接交渉しなくて済むので、精神的な負担も大きく減るでしょう。

また、借地代の計算なども任せることができるため、適切な価格で増額の請求をすることが可能です。

迅速かつスムーズに交渉をまとめるためには、法律と交渉のプロフェッショナルである弁護士に任せるのが最適です。

調停や訴訟などの裁判所手続きも任せられる

もし交渉で話がまとまらない場合には、調停や訴訟も視野に入れて交渉をしていく必要があります。

交渉で下手なことをしてしまうと、裁判で不利になってしまう可能性もあるため、できれば交渉の段階から弁護士に対応してもらうのがいいでしょう。

弁護士であれば、たとえ裁判になったとしても、こちらが優位に交渉を進めるための証拠を事前に集めておくことも可能です。

借地代の増額請求を弁護士に依頼する場合の費用相場

最後に、弁護士に依頼する場合の、費用相場をご紹介します。

なお、弁護士費用は各事務所で自由に決めることができますが、参考までに、ここでは、かつて弁護士会で定められていた弁護士費用に関する規定をもとにご紹介いたします。

(※実際の弁護士費用は、依頼する前に弁護士に確認し、納得した上で依頼をしましょう。)

参照:(旧)日本弁護士連合会弁護士報酬基準

法律相談料5,500円〜 / 30分   ※無料のところもあり
着手金希望する増額分の7年分の額を経済的利益とし、その2%〜8%程度

※経済的利益の額により、以下のように報酬割合が設定されています。

・300 万円以下の場合:8%

・300 万円を超え3000 万円以下の場合:5%+9 万円

・3000 万円を超え3 億円以下の場合:3%+69 万円

・3億円を超える場合:2%+369 万円

※着手金の最低額は10 万円

※調停や訴訟に移行する場合には、着手金の2 分の1を追加着手金とする

報酬金実際に取り決められた増額分の7年分の額を経済的利益とし、その4%〜16%程度

※経済的利益の額により、以下のように割合が設定されています。

・300 万円以下の場合:16%

・300 万円を超え3000 万円以下の場合:10%+18万円

・3000 万円を超え3 億円以下の場合: 6%+138 万円
・3億円を超える場合:4%+738 万円

日当1万円〜5万円程度
実費郵便切手代、収入印紙代、交通費  など

【具体例】

月額3万円分の増額を弁護士に依頼し、2万円の増額で交渉が成立した場合。

着手金

月額3万円×12か月×7年=252万円(経済的利益)

252万円×8%=20万1600円(税抜)

報酬金

2万円×12か月×7年=168万円(経済的利益)
168万円×16パーセント=26万8800円(税抜)

まとめ|借地人が増額請求に応じない場合は弁護士へ相談

借地人が増額請求に応じてくれない場合、調停や訴訟まで視野に入れて交渉をおこなっていく必要があります。

また、借地代の計算方法はおもに4種類ありますが、具体的にどの方法で算出するべきかは、それぞれの具体的状況に応じて異なります。

そのため、適正な借地代を計算するためには、法律に関する知識と、近隣物件などの入念な調査が必要になるでしょう。

交渉を確実に成功させるためには、早い段階から弁護士に相談することが重要です。

調停や裁判まで視野に入れ、できれば交渉段階で借主の合意を得るためには、専門家である弁護士に対応を依頼することをおすすめします。

この記事の調査・編集者
アシロ編集部
本記事は法律相談ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。※法律相談ナビに掲載される記事は、必ずしも弁護士が執筆したものではありません。本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
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