【2020年4月施行民法改正版】不動産投資における「瑕疵担保責任」とは?|不動産オーナーが知るべきトラブル回避のための法律知識

【2020年4月施行民法改正版】不動産投資における「瑕疵担保責任」とは?|不動産オーナーが知るべきトラブル回避のための法律知識

2020年4月に改正民法が施行され、不動産を含む売買契約における規定が変更されました。

不動産オーナー様の中には「以前の瑕疵担保責任がどう変わったのかよくわからない」「民法改正によって、どう対応を変更すべきかわからない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで本記事では、民法改正による瑕疵担保責任の変更点を、買手・売手の両方の目線から解説します。

また、トラブルを未然に防ぐための予防策についてもご紹介します。

不動産事業のリスク対策にお役立てください。

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当社在籍弁護士(株式会社アシロ)
この記事は、株式会社アシロの「法律相談ナビ編集部」が執筆、社内弁護士が監修しました。

2020年4月より瑕疵担保責任は契約不適合責任に

2022年4月の民法改正によって、これまでの瑕疵担保責任は契約不適合責任という名称に変更されました。

これにより、2020年3月までに締結された契約については瑕疵担保責任が適用され、4月以降に締結された契約については契約不適合責任が適用される状況になっています。

改正前の瑕疵担保責任は、売主が事前に把握していなかった不具合(隠れた瑕疵)が契約後に発覚した場合に、その責任は売主が負うというものでした。

それに対し、契約不適合責任は瑕疵が隠れているかは問題ではなく、契約内容に合っていなければ責任が発生するというものです。

また、責任を負う期間の捉え方や損害賠償の請求範囲、買主が請求できる請求内容なども変更になっていますので、変更箇所を一つずつ詳しく紹介していきます。

瑕疵担保責任(契約不適合責任)の責任期間

買主が権利を行使できる期間にも変更がありますので詳しく見ていきましょう。

  買主が事実を知ってから、権利を行使できる期間

旧法(瑕疵担保責任)新法(契約不適合責任)
1年以内に行使が必要1年以内に通知が必要

まず、旧法では1年以内に権利を行使しなければいけなかったのに対し、新法では1年以内に不具合を通知すればよいとされています。

ただし、売主に悪意・重大な過失が認められる場合には1年を過ぎても権利は失われません。

時効までの期間

買主が権利を行使できなくなる時効までの期間も変更になっています。

旧法(瑕疵担保責任)新法(契約不適合責任)
引き渡しから10年引き渡しから10年

買主が事実を知ってから5年

引き渡しから10年経って発見された不具合については、売主が責任を追及されることはないという点は旧法と変わりません。

また、新法では不具合を知ってから5年経つと権利が消滅するとされています。

つまり、買主は不具合を知ってから1年以内に通知し、5年以内に権利を行使すればよいことになります。

免責特約を設ける場合

不動産売買契約においては、瑕疵担保責任や契約不適合責任について免責特約を設ける場合もあるでしょう。

免責特約は売主・買主双方の合意があれば有効になりますが、免責特約の締結およびその内容にはいくつか条件があります。

  • 売主が宅地建物取引業者(不動産会社)ではないこと
  • 売主の知らなかった欠陥であること
  • 売主が故意に損害を発生していないこと
  • 売主が宅建業者で買手が個人である場合には、宅建業法によって売却後2年までは免責とすることができない

また、新築住宅の基本構造部分については、瑕疵担保責任(契約不適合責任)の期間は引き渡しから10年以上と定められている点にも注意が必要です。

2020年4月民法改正における瑕疵担保責任(契約不適合責任)の主な変更点

ここからは、2020年4月の民法改正による瑕疵担保責任(契約不適合責任)の変更内容について、一つずつ詳しく見ていきましょう。

民法改正により買主保護の観点が強化

そもそも民法は、不動産を含む売買契約において契約後のトラブルから買主を守るための取り決めといえます。

今回の民法改正でも、買主保護の観点がより強くなりました。

そのため、今回の改正は特に売主側に注意が必要な内容といえるでしょう。

責任の範囲が契約締結時から引き渡しまでに延長

旧法における瑕疵は、基本的に契約締結時までに生じていた不具合が対象と考えられていましたが、新法では引き渡された目的物が契約の内容に適合しているかが問われます。

つまり、契約締結から引き渡しまでに生じた不具合については、旧法では売主には責任がありませんでしたが、新法では売主の責任となります。

損害範囲が「信頼利益」に「履行利益」も追加に

今回の改正により、損害賠償請求ができる範囲も変更になりました。

旧法の瑕疵担保責任による損害賠償請求では、信頼利益の範囲内でしか請求できないとされていましたが、改正により、契約不適合責任は債務不履行責任と位置付けられることになったため、信頼利益に加えて履行利益の範囲の損害も請求できるようになりました。

信頼利益とは、契約の成立を信じたことにより買主が受けた損害をいいます。

例えば引き渡し後に設備の故障が発覚した場合、設備が故障していたために発生した費用は信頼利益にあたります。

一方の履行利益とは、契約内容が履行されていた場合に買手が得られる利益をいいます。

設備故障の例でいえば、本来であれば自宅で快適に過ごせたはずが損なわれたという心理的な損害も請求範囲に含まれることになります。

対抗措置として「履行の追完請求」と「代金減額請求」が加わる

旧法では、瑕疵を発見した際に買主が講じることのできる対抗措置は契約解除と損害賠償の二つでした。

新法ではこれらに加えて「履行の追完請求」と「代金減額請求」も可能になりました。

契約解除や損害賠償の請求をするには心理的なハードルが高く、対抗措置に踏み切れなかったケースでも対抗措置を講じやすくなったといえます。

ただし、買主は、はじめから代金減額請求を選択することはできず、原則として、まずは履行の追完を請求する必要があります。

追完請求とは、契約の内容に適合した状態で引き渡してもらえるように売主に補修等を請求することです。

買主が売主に対し、相当の期間を定めて履行の追完の催告をしたにもかかわらず、その期間内に履行の追完がないときは、不具合の程度に応じて代金の減額を請求できるとされています。

前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
引用元:e-Gov|民法第五百六十三条1

特定住宅瑕疵担保責任が発生するケースの注意点

民法改正とは別に、住宅の瑕疵担保責任について定めた法律として、「住宅の品質確保の推進等に関する法律(品確法)」があります。

この法律の適用対象となる場合には以下の点もおさえておくことが必要です。

新築住宅の基本構造部分に10年間の瑕疵担保責任の義務に

同法では、新築住宅の請負契約や売買契約における瑕疵担保責任について特別の定めが設けられています。

  • 構造耐力上主要な部分
  • 雨水の浸入を防止する部分

については10年の瑕疵担保責任を負うというものです。

この適用対象になるのは新築住宅を供給する事業者であり、新築の住宅のみを対象としている点にも注意が必要です。

売主の資金力により「供託」または「保険」が義務に

仮に新築住宅を提供した事業者が倒産するようなことがあれば、この責任を果たすことができなくなってしまいます。

こうした事態に備えて、同法の適用対象となる事業者には確実に瑕疵担保責任を履行できるよう資金確保措置(供託または保険)が義務付けられています。

具体的には以下の2通りの方法があり、事業者が選択することができます。

また事業者には住宅の建築・販売の際に説明等が義務付けられていますので、買主はどちらの制度に加入しているかを把握することが可能です。

供託

供託の場合は、法律で定められた保証金をあらかじめ供託所に預けます。

供託金の金額は過去10年間に供給した新築住宅の戸数に応じて算出されます。

1棟あたり最低で2,000万円の供託金が必要になります。

保険

保険の場合は、事業者が国土交通省の指定する保険法人との間で保険契約を締結します。

提供した住宅に瑕疵が判明し補修等をおこなった場合には保険金が支払われます。

また、事業者が補修等をおこなえない場合は、買主は保険法人に対して補修等にかかる費用を直接請求することができます。

瑕疵担保責任(契約不適合責任)に関する損害への売主側の防御策

瑕疵担保責任(契約不適合責任)は売主が負うことになりますので、売主側は瑕疵トラブルを防ぐための対策が求められます。

ここで売主が未然に講じることができる予防策を紹介していきましょう。

念入りに住宅診断を実施する

瑕疵担保責任(契約不適合責任)を防ぐためには、隠れた瑕疵(不適合要因)を事前に発見することが重要です。

そこで有効なのが、取引前に念入りに住宅診断(ホームインスペクション)を実施することです。

住宅診断を依頼すると、専門の診断士が第三者の視点で中古住宅の基礎や外壁などの劣化状況や改修すべき箇所とその時期、不具合事象の有無などを調査してもらえます。

瑕疵がないかを把握でき、確認証明書ももらえますので、契約時の伝達漏れを防ぐことにもつながります。

住宅診断を実施すれば、買主に物件の健全性をアピールできますし、引き渡し後に不具合が発生する可能性は大幅に低減できるでしょう。

物件状況確認書を念入りに作成する

新法の契約不適合責任は「契約内容に適合しているか」が判断のポイントになりますので、契約に付随する物件状況確認書や付帯設備表にこと細かに記載することが求められます。

物件・設備の状態を隅々まで確認し、一才隠しごとをしない姿勢が重要です。

例えば、サッシや窓、ふすまなどのガタつきがあった際、売主は普段の慣れもあり、「故障不具合:無し」と記載したとしても、買主から見れば、不具合と捉えられても不思議はありません。

売主自身が一つひとつ作動しながらチェックしていくようにしましょう。

瑕疵の定義と保証内容を理解した上で瑕疵保険に加入する

いざという時に備えて、瑕疵保険に加入しておくのもひとつの手です。

個人間売買用の保険サービスも用意されています。

瑕疵保険に加入しておけば、不具合が見つかった時に売主に対して支払う修繕費用などを保証してもらうことができ、売却による利益を守ることにもつながります。

保証対象は、構造耐力上主要な部分や雨水の浸入を防止する部分となっているのが一般的で、保険金の支払い限度額は1,000万円程度に設定されています。

保険に加入する際は、事前に保証内容をしっかりと確認しておきましょう。

契約不適合責任の免責に関する特約を契約に盛り込む

民法で定められた契約不適合責任に関する規定は、契約時に免責の特約を盛り込むことで契約不適合責任を排除することも可能です。

これは、契約自由の原則が尊重され、契約で別段の定めがなされた場合には、契約の内容を優先させることになっているためです。

そこで中古物件の売買において、多くの売主は契約不適合責任の免責特約を設定しています。

住宅は築年数が古いほど、経年劣化による欠陥が生じる可能性は高くなるものであり、買主側にも中古リスクの許容を求めるものといえます。

多く見られる契約不適合責任の免責特約の内容としては、

  • 通知期間を3ヵ月〜1年程度に設定する
  • 設備については免責とする
  • 保証の範囲を補修の請求のみとする

などがあげられます。

ただし、上述のように契約不適合責任の排除が認められないケースもありますので、特約を設ける際には注意が必要です。

免責特約を設定することでトラブルを招くことがないように、具体的な事案にあわせて弁護士に特約の内容を相談しておくと安心です。

瑕疵担保責任(契約不適合責任)の対応にお困りの方は弁護士に相談を

瑕疵担保責任(契約不適合責任)は不動産オーナー様にとって、避けてはとおれないリスクであり、民法改正によってさらに高度なリスクマネジメントが求められるようになったといえます。

契約不適合責任については、当事者間のリスク分散をどのようにおこなうかといった専門的な知見が必要になります。

どのようにリスクヘッジをおこなうべきかお困りの場合は、法律の専門家である弁護士に相談するのが得策です。

安心して事業をおこなうためのパートナーとして、弁護士の力を借りましょう。

この記事の調査・編集者
アシロ編集部
本記事は法律相談ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。※法律相談ナビに掲載される記事は、必ずしも弁護士が執筆したものではありません。本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
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