損害賠償範囲の拡大に注意!民法改正による瑕疵担保責任と契約不適合責任の違いを解説

損害賠償範囲の拡大に注意!民法改正による瑕疵担保責任と契約不適合責任の違いを解説

土地・建物を売却する場合、売主は買主に対して一定の責任を負います。

不動産売買で問題となりやすいものとして瑕疵担保責任が挙げられますが、2020年4月の改正後民法の施行により、瑕疵担保責任は、契約不適合責任へその名称が変更されました。

単なる名称変更だけでなく、買主が売主に請求できる権利や損害賠償の範囲が拡大されたので、売主側として、法改正の内容をよく理解しておくことが必要です。

  • そもそも、改正前民法の「瑕疵」とは何か?
  • 契約不適合責任で売主が負う責任とは何か?
  • 買主はどのような権利を主張できる?
  • 不動産売買の契約不適合のトラブルをどうやって回避するか?

契約不適合責任は、買主を保護する内容なので、契約目的に適しない物件(契約不適合物件)を売却した場合、買主から損害賠償請求される可能性が高くなります。

ここでは、瑕疵担保責任と契約不適合責任の違い、不動産売買でのトラブル回避策などをわかりやすく解説します。

この記事を監修した弁護士
玉真聡志
玉真 聡志弁護士(たま法律事務所)
中央大学大学院法務研究科卒業。埼玉県内の法律事務所に入所後、千葉県内の法律事務所へ移籍。たま法律事務所を平成30年9月に松戸駅近くで開所。迅速・丁寧・的確な対応をモットーにしている。

瑕疵担保責任と契約不適合責任の違い

瑕疵とは、目的物の「傷・欠陥」を指します。

不動産の売却では、売主は、買主に対し、不動産に発生した「瑕疵」による責任を負います。

例えば、土地の場合、地盤が軟弱で建物建築に適しない宅地や土壌汚染により利用できない土地、建物であれば雨漏りやシロアリ被害などで内部が腐食・朽廃等している建物などが、「瑕疵」の例として挙げられます。

2020年3月末までの改正前民法では、上記の法的責任は、瑕疵担保責任とされていましたが、2020年4月に施行された改正後の民法により、瑕疵担保責任は契約不適合責任に改称され、法的責任の範囲なども変更されました。

改正前民法と改正後民法の違いは以下のとおりです。

不動産売却の予定のある方は、要点をしっかり把握しておきましょう。

瑕疵担保責任|2020年3月末まで

2020年3月末までの改正前民法では、瑕疵担保責任とされ、不動産売却の場合、売主は売買契約成立時の隠れた瑕疵について責任を負うこととされていました。

隠れた瑕疵とは、売主が十分な注意を払っても発見できなかった目的物の欠陥を指し、売主が売買契約成立時に認識できなかった土壌汚染や建物の雨漏り・腐食などが隠れた瑕疵に該当します。

また、売主は、買主に対し、瑕疵担保責任に基づき、信頼利益(買主が契約が有効であると信じて捻出した実費相当額)の範囲で損害賠償を負うこととされていました。

一方、買主側には、瑕疵担保適任では損害賠償請求権や契約解除権しか認められていませんでしたが、契約不適合責任に変わったことで、買主の売主に求められる権利が拡大されました。

契約不適合責任|2020年4月以降

2020年4月の施行された改正後民法では、契約不適合責任の場合、契約成立時に限定されず、目的物件を引き渡すまでに発生した契約不適合の事実も、契約不適合責任に基づく請求の対象となりました(例えば、目的物が引渡し前に滅失した場合の追完請求など)。

損害賠償の範囲も、信頼利益から履行利益(契約目的に合致した物の売買が行われていたら買主が得られたであろう利益)に拡大されました。

瑕疵担保責任の例では、以下の例が挙げられます。

シロアリ被害による建物内部の毀損の瑕疵を認識できずに売買契約が成立した場合、そのシロアリ駆除が完了するまで買主が別の賃貸アパートを借りたとしても、アパート家賃相当額は、買主の売主に対する損害賠償の対象になりません。

一方、契約不適合責任は、履行利益を損害賠償の対象とします。そこで、シロアリ被害による建物内部の毀損がなければ、買主はアパートを借りる必要がなかったので、シロアリ駆除が完成するまでに買主が借りたアパートの家賃相当額は、契約不適合責任に基づく損害賠償の対象になる可能性が有ります。

このように、改正後の民法は、買主保護の側面がより強くなったといえます。

契約不適合責任で買主が主張できる権利

契約不適合責任には、改正前民法から引き継がれたものに加えて、代金減額請求権や追完請求権が新たに追加されました。

以下の内容を見て、不動産売却のときには、買主側の権利をよく理解しておきましょう。

損害賠償請求権

売却物件が契約に不適合であったことによって買主に損害が発生した場合、買主は、損害賠償請求権を行使できます。

追完請求権

不動産売買における追完請求権とは、目的物に不完全な箇所があって補修を必要とする場合の補修請求や、目的物の数量に不足がある場合にその不足部分の引き渡しなどを請求できる権利です。

対象物件に契約不適合があった場合、買主は、追完請求として以下の内容を求めることができます。

  • 目的物の修補請求権
  • 不足する数量等の引き渡し請求権
  • 代替物の引き渡し請求権

たとえば、目的物件の雨漏りが契約不適合に該当するとき、売主は、買主から雨漏りを生じさせないよう屋根の補修を請求される可能性があります。

また、契約で定められた設備に不具合があったり、実際には設置されていなかったりすると、売主は、買主から修理または代替物を請求されるケースもあるでしょう。

ただし、目的物件の補修・不足などの原因が買主側にある場合、売主は、追完請求に応じる必要はありません。

代金減額請求権

代金減額請求権とは、買主が購入した物に数量不足等があり、その不足等の追完請求を売主に主張しても応じなかった場合、買主が、売主に対して代金の減額を請求できる権利です。

買主が代金減額請求する場合、まず一定期間を定めて追完請求をおこなって、この期間内に売主が応じなかったとき代金減額請求権を行使できます(例外として、追完不可能、売主の追完拒絶、期間内に追完を要した場合などは、期間の定めなく減額請求可)。

ただし、追完請求権と同じく、買主側に数量不足等の原因がある場合、売主は、買主の代金減額請求に応じる必要はありません。

契約の解除

不動産の買主には契約解除権も認められおり、売主が一定期間内に追完請求に応じなかったときは、買主側から契約解除できます。

ただし、契約不適合の内容が軽微な場合には、契約解除が認められないケースもあります。

軽微かどうかの判断は過去の判例を参考にすることもあります。分からないときには弁護士へ相談してみましょう。

物件が契約不適合だったときの権利行使期限

不動産の売買で契約不適合があった場合、買主が権利行使できる期限は以下のように定められています。

契約不適合責任による権利行使期間は「除斥期間」で定められています。同じく権利を消滅させる「消滅時効」との違いをよく理解しておきましょう。

種類や品質が不適合だった場合

物件の種類や品質に契約不適合があった場合、買主は、その不適合を知ったときから1年以内に売主へ通知しなければ損害賠償請求や契約解除できません。

改正前民法の瑕疵担保責任では、「瑕疵」を知ってから1年以内に「契約解除または損害賠償請求」を行うことが必要でした。

しかし、契約不適合責任の場合は、物の種類または品質に関して契約不適合となる具体的な事実を知ってから1年以内に、売主へ「通知」することで足りるとされています。

「通知」以後、買主は、売主に対する権利行使の時期を自由に選択できます。

権利や数量が不適合だった場合

物件の権利や数量に契約不適合がある場合、買主の権利行使には期限制限がありません。

物件の権利や数量の契約不適合は一義的に明らかなので、買主から売主に対し、損害賠償請求又は追完請求をすることの期限制限が廃止されました。

商法上の権利行使期間

商法が適用される商人同士の売買、例えば事業者同士の売買では、物件引き渡しのあとに契約不適合を発見した場合、売主へ速やかに通知しなければ契約不適合責任を問うことができません。

また、すぐにはわからない契約不適合がある場合、引き渡しから6ヵ月以内に物件の種類または品質に関する契約不適合を発見し、速やかに通知しなければ売主の責任追及はできないこととされています。

なお、数量の契約不適合はすぐにわかるため、検査のタイミングで通知しなかったときは売主の契約不適合責任を問うことができません。

物件の売主は何を注意するべきか?

契約不適合責任によって買主の権利が拡大されたため、改正前民法の考え方では損害賠償請求のリスクが高くなります。

しかし、以下のように対応しておけばリスク回避できるので、不動産売却を予定している方はぜひ参考にしてください。

物件状況等報告書を交付する

売却する不動産が中古物件であれば、物件状況等報告書を作成して買主へ交付するとよいと思われます。

物件状況等報告書の様式は不動産会社により各々異なりますが、基本的な項目は共通しています。

以下の項目の状況報告を通じて、土地・建物の状況を詳しく伝えることができます。

  • 建物の雨漏りやシロアリ被害、アスベスト使用の有無など
  • 浴室乾燥機などの設備の状況
  • 給水・排水管の不具合や修理状況など
  • 修繕工事やリフォームの施工会社
  • 土地の土壌汚染や隣地との境界状況など

物件状況等報告書の作成は売主の義務ではありませんが、買主に交付すると、買主も物件状況報告書に書かれた内容を前提として売買契約を締結します。

そのため、買主から、後に契約不適合責任を追及される可能性が低くなるといえるでしょう。

また、物件状況報告書に売主・買主の双方で署名・捺印しておくことで、あとで「知らなかった」「聞いていない」といわれるリスクを回避できるでしょう。

瑕疵担保保険へ加入する

既存住宅売買瑕疵保険に加入していれば、中古物件を引き渡すときに契約不適合が見つかった場合、以下の費用を保険会社が負担します。

  • 物件の契約不適合の有無に関する調査費用
  • 物件に発生した契約不適合である事実の補修費用
  • 補修のために買主が一時転居することになったときの転居費用や家賃

なお、既存住宅売買瑕疵保険に加入するのは検査機関又は宅建業者ですが、原則として、売主が保険加入を依頼して保険加入費用を負担し、検査機関へ検査を依頼します。

検査の結果、保証可能な物件だったときには検査機関が既存住宅売買瑕疵保険へ加入し、物件の契約不適合が発生した場合、その補修費用等を保証します。

既存住宅売買瑕疵保険の対象は、建物の構造耐力上の主要部分、雨水侵入を防ぐ部分ですが、保険会社によっては電気設備や給水・排水設備も対象として保証していることがあります。

保障期間は保険会社によってまちまちですが、1~2年になっているケースが多いでしょう。

ホームインスペクションをおこなう

建物の状況調査をインスペクションといい、専門家が以下のような項目を点検してくれます。

  • 構造耐力上主要な部分となる小屋組、柱、梁、土台や床など
  • 雨水の影響を受けやすい屋根や外壁、給水・排水管など

インスペクションの費用は調査実施者によってまちまちです。

インスペクションの作業は3時間程度で調査を終え、その後に調査報告書を1~2週間かけて作成するケースが多いようです。

インスペクションにより契約不適合の事実がないことを証明できれば、買主は安心して購入できるため、売買がスムーズに進みやすくなります。

売却価格を高めに設定することもできるかもしれません。

インスペクションの概要は国土交通省の公表資料にも掲載されているので、以下のリンクも参考にしてください。

参考:建物状況調査に関する公表資料(国土交通省)

売買契約書を弁護士にチェックしてもらう

不動産売買では、想定していなかった契約不適合責任を追及されるケースは少なくありません。

そこで、不動産売買契約書を弁護士にチェックしてもらうとよいでしょう。

契約不適合責任は任意規定であり、契約書上では、追完請求の期間など自由に設定できます。

以下の項目チェックを弁護士に依頼しておくことで、トラブル発生の可能性は低下させることもできます。

  • 買主が権利行使できる期間を定めているか
  • 売主側が追完方法を指定できるようになっているか
  • 代金減額請求に応じた場合、買主が損害賠償請求や解除できないことを定めるかどうか

不動産売買のトラブルは損害賠償の金額も大きくなるので、専門家を交えた契約書作成が重要になります。

契約不適合責任の免責

民法では、契約不適合責任を免除する特約を定めることも可能です。

契約不適合責任の免責は売主・買主によって異なるので、以下を参考にしてください。

売主側の契約不適合責任の免責

売主側の主体によっては、適用される法律が以下のように異なります。

  • 個人:民法のみ
  • 宅建業者:宅建業法
  • その他の法人:消費者契約法(対個人取引)

売主が個人の場合は、民法に従って任意で特約を設定できるため、売主の契約不適合責任を免責する特約を設けることも可能です。

宅建業者が個人買主に売却するときは宅建業法が適用されるので、宅建業者は、不動産物件を売却してから2年間は、個人買主に対する契約不適合責任を負うこととなります。

その他の法人が個人買主に物件を売却するとき、消費者契約法により、原則として、物件の引渡し直後から契約不適合責任を免責するとの特約を定めることはできません。

一般的には、物件の引渡しから1年経過後より契約不適合責任を免責する旨の特約が定められることが多いようです。

買主側の契約不適合責任の免責

買主側には、契約不適合責任の免責特約を定めるメリットがありません。

契約不適合責任の免責は、売主側のメリットの方が大きいでしょう。

ただし、売主側の免責条項を設けたり、免責の対象を拡大したりすると、買主のメリットが減る結果、売却価格が下がることも考えられます。

売主側は、契約不適合責任の免責特約を定める場合には、売価と免責のバランスを考えることが必要です。

この記事の調査・編集者
アシロ編集部
本記事は法律相談ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。※法律相談ナビに掲載される記事は、必ずしも弁護士が執筆したものではありません。本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
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