家賃滞納の防止策|保証会社を利用するメリットと滞納家賃の回収方法を解説

家賃滞納の防止策|保証会社を利用するメリットと滞納家賃の回収方法を解説

家賃収入は大家さんの生命線になるため、確実に回収できなければ銀行融資の返済や修繕積立金の準備、火災保険料などの支払いに狂いが生じてしまいます。

しかし、一度滞納が発生すると雪だるま式になりやすいので、以下のような悩みを抱えている大家さんも多いのではないでしょうか。

  • 長期滞納の家賃を何とか払ってもらいたい
  • 泣き寝入りだけはしたくない
  • 入居者ともめずに家賃を回収したい
  • 効果的な回収方法がわからない
  • 滞納リスクの回避策をすぐにでも考えておきたい

家賃滞納は保証会社を利用すれば回避できるので、今後の滞納リスクに備えたい方は早めに検討してみましょう。

ただし、すでに発生している滞納分は債権回収の手法を用いることになるため、弁護士に依頼しなければならないケースもあります。

特に長期化した家賃滞納は解決が難しいので、弁護士の協力が欠かせないでしょう。

ここでは、家賃保証会社を利用するメリットや、滞納家賃の回収方法をわかりやすく解説しています。

この記事を監修した弁護士
鵜飼 大(ウカイ&パートナーズ法律事務所)
鵜飼 大弁護士(ウカイ&パートナーズ法律事務所)
ウカイ&パートナーズ法律事務所は、相続問題に注力しており、会計士や税理士と連携したサポートを行っています。お気軽にご相談ください。
(※本コラムにおける、法理論に関する部分のみを監修)

家賃保証会社とは?

家賃保証会社とは、賃貸物件のオーナーに対して家賃の支払いを保証してくれる会社です。

かつては親を連帯保証人にするケースが一般的でしたが、収入要件を満たしていないなど、連帯保証人になれる人が減少したため、賃貸経営には家賃保証会社が必要となりました。

家賃保証会社を利用すると、家賃滞納が発生しても融資の返済プランや修繕積立金の準備に影響しないため、安定的な賃貸経営を継続したい人は検討してみるべきでしょう。

なお、家賃保証会社による家賃の支払いを弁済といい、以下の2種類の形態があります。

家賃保証会社の弁済方法は2種類

家賃保証会社には以下の2種類があり、それぞれ特徴が異なっています。

  • 立替払い型
  • 代位弁済型

具体的な仕組みは以下のようになっているので、賃貸している戸数などを基準に決めるとよいでしょう。

立替払い型

立替払い型とは、家賃の集金をすべて保証会社に任せる仕組みです。収納代行型とも呼ばれており、入居者は家賃保証会社に家賃を支払うため、大家さんは家賃保証会社から家賃を受け取ることになります。

家賃滞納があっても保証会社から期日どおりに家賃が支払われるので、銀行融資の返済プランなどに狂いが生じません。

また、家賃保証会社が家賃の支払いを管理しているので、滞納が発生したあとはすぐに支払い督促がおこなわれます。

立替払い型の家賃管理会社を利用すると家賃管理の負担が軽くなるため、賃貸アパートやマンションを複数所有しており、賃貸している戸数が多い大家さんに向いているでしょう。

ただし、誤った支払い督促が発生しないよう、契約解除や家賃変更があったときは、速やかに家賃保証会社へ連絡しなければならない点は気をつけてください。

代位弁済型

代位弁済型の家賃保証会社の場合、滞納家賃の保証のみ対応しています。

家賃は大家さんまたは管理会社に支払われるので、滞納があったときに家賃保証会社へ連絡して家賃を保証してもらいます。

連絡がなければ動いてくれないため、家賃の支払い状況は自分で管理しなければなりません。

また、代位弁済には法定代位と任意代位の2種類があり、法定代位は家賃保証会社に求償権が発生するため、滞納家賃を肩代わりしたときは入居者に家賃の支払いを請求できます。

任意代理の場合は求償権が自動的に発生しないので、大家さんの承諾を得なければなりません。

賃貸している戸数が少なく、滞納状況がすぐにわかる場合や、自分で家賃管理したい大家さんは代位弁済型の家賃保証会社を選択してもよいでしょう。

家賃保証会社を利用するメリット・デメリット

家賃保証会社には以下のメリット・デメリットがあります。

家賃管理の事務負担が軽くなり、滞納リスクの備えにもなりますが、家賃回収をすべて保証会社に任せるため、風評被害が発生する可能性も想定しておかなければなりません。

メリット

家賃保証会社を利用すると以下のメリットがあります。

  • 滞納リスクを回避できる
  • 家賃管理の手間が省ける
  • 入居者を審査してくれる
  • 入居者を広範囲に募集できる
  • 家賃滞納以外の保証も受けられる

賃貸経営は定期的に修繕費や大規模修繕費が発生し、固定資産税や火災保険などの支払いもあるため、滞納リスクの回避は大きなメリットになります。

家賃の支払いタイミングも入居者ごとに異なるケースが多いので、保証会社に家賃管理を任せると事務負担も軽くなるでしょう。

また、家賃保証会社が入居者の審査をおこなうため、入居者と連絡が取れなかったときの安否確認や滞納が長期化したときの訴訟費用、物件の明渡し費用なども保証してくれます。

家賃保証会社を利用すると連帯保証人が不要になるため、入居者の募集範囲も拡大できるでしょう。

デメリット

家賃保証会社には以下のデメリットもあるので、経営状態は必ずチェックしてください。

  • 倒産リスクがある
  • 取り立て方によっては風評被害を受ける可能性がある
  • 契約内容に縛られてしまう

財務体力が弱い保証会社の場合、滞納が増加すると家賃保証ができなくなり、倒産する恐れがあります。

非上場会社は決算情報が非公開になっているので、家賃保証会社を選ぶときは上場会社を選んだほうが無難かもしれません。

また、取り立てが厳しい保証会社を利用すると、部屋の鍵を取り換えて入居者を追い出し、本来の家賃以上の金額を請求するケースもあります。

厳しすぎる取り立ては風評被害になる可能性があり、入居者募集に悪影響をおよぼす可能性があるので注意しなければなりません。

家賃保証会社が代位弁済型の場合、家賃滞納に入居者から預かった敷金を充てると、契約違反によって保証契約が打ち切られるケースもあります。

「一時的な家賃滞納だから少しだけ待ってあげる」など、柔軟な対応はできなくなるでしょう。

保証会社以外に滞納家賃を回収する6つの方法

家賃保証会社を利用していないときは、以下の方法で滞納家賃を回収してください。

なお、すでに家賃保証会社を利用している場合、長期滞納になったときの訴訟費用を保証してくれるケースもありますが、裁判の手続きは自分で進めなくてはなりません。

滞納を続けている入居者がいるときは、弁護士にも相談しておいたほうがよいでしょう。

借主と交渉する

家賃滞納が発生したときは、まず借主と交渉して滞納分を督促してください。

ただし、あとで「言った・言わない」の水掛け論にならないよう、督促状で請求する必要があります。

また、督促が遅くなると次の家賃も滞納になる可能性が高いので、できるだけ早いタイミングで対応しなければなりません。

督促状には以下の内容を記載して、滞納家賃を請求した事実を明らかにしておきましょう。

  • 督促日
  • 請求額
  • 支払方法
  • 支払期限
  • 期限内に支払わなかったときは法的手段をとること

支払期限は請求日から概ね1週間~10日程度にしてください。家賃の直接手渡しは領収書作成の手間がかかるので、支払方法は銀行振込だけに限定しておくとよいでしょう。期限内に支払いがなかったときは、損害遅延金が発生することも記載してください。

連帯保証人に支払いを請求する

借主に滞納家賃を督促するときは、連帯保証人にも督促状を送付してください。

借主と同等の責任が課せられていることを督促状に明記しておけば、連帯保証人も支払いは断れないでしょう。

借主も連帯保証人との関係悪化は避けたいはずですから、今後は滞納しなくなる可能性もあります。

内容証明郵便で退去要請を通知する

督促状を送っても滞納家賃の支払いがないときは、内容証明郵便で退去要請を通知してください。

内容証明郵便に法的な拘束力はありませんが、書面の内容を郵便局が証明してくれるため、「請求などされていない」といった言い逃れを回避できます。

ただし、借主がすぐに従わない可能性も考えられるので、ある程度のプレッシャーを与えなければなりません。

文面の作成を弁護士に依頼して、弁護士名で送付すると支払確率が高くなるでしょう。

支払督促

支払督促とは、簡易裁判所を通じて家賃の支払いを督促してもらう制度です。

裁判所名で支払命令が送付されるので、借主にとっては大きなプレッシャーになるでしょう。

ただし、借主を退去させる効力はなく、異議申し立てがあったときは通常訴訟で解決しなければなりません。

通常訴訟は相手方の住所地の裁判所で争うため、所有物件が離れた場所にあると負担になる可能性があります。

なお、相手が支払命令を無視すると強制執行に移行できるので、家賃の踏み倒しを決め込んでいるような借主がいるときは、ひとまず支払督促を申し立てておくとよいでしょう。

少額訴訟

滞納家賃が60万円以下であれば、1回の裁判で終了する少額訴訟も提起できます。

少額訴訟は貸主側の住所地の裁判所で審理されるため、遠方の裁判所に出向く必要はありません。

ただし、支払督促と同じく滞納家賃の請求のみ可能となっており、借主を退去させる効力はないので注意してください。

また、異議申し立てがあったときは通常訴訟に移行できますが、請求額が少額であれば裁判費用が見合わないケースもあります。

少額訴訟を提起するときは、効果的な手段になるかどうか弁護士にも相談しておきましょう。

立ち退き訴訟

立ち退き訴訟を提起すると、家賃の支払いとともに建物の明渡しも請求できます。以下の事実を証拠によって立証できるときは、立ち退き訴訟を検討してみましょう。

  • 賃貸借契約を締結し、契約に基づいて借主に建物を引き渡したこと
  • 借主が家賃を滞納したこと
  • 家賃滞納を理由に賃貸借契約を解除したこと

家賃滞納の期間は3ヵ月が目安となり、契約解除の立証には賃貸借契約書や督促に使った内容証明郵便などが必要です。

相手が裁判に欠席したときはほぼ勝訴確定となりますが、出席した場合は裁判官から和解を提案されるケースもあります。

もし相手が和解内容に従わなかったときは、そのまま強制執行に移行できます。

強制執行

裁判所に強制執行を申し立てると、相手の財産を差し押さえることができます。

強制執行は裁判所の執行官が取り仕切りますが、家財道具の撤去・搬出は専門業者がおこない、最後に鍵を交換して完了となります。

強制執行では裁判所費用と業者へ支払う費用が発生し、どちらも貸主の負担になりますが、家財道具が売却されたときは売却代金が執行費用に充てられます。

また、強制執行の費用は借主にも請求できますが、支払ってもらえる可能性は低いでしょう。

大家さんがしてはいけない滞納家賃の督促方法

家賃収入は大家さんの生命線ともいえるため、滞納分はすぐにでも回収したいところですが、以下のような督促は違法行為や契約違反になる可能性が高いので注意してください。

  • ドアやポストに督促の張り紙をする
  • 同じ日に訪問や電話で何度も家賃を督促する
  • 借主の勤め先や学校に督促の連絡をする
  • 早朝や深夜の督促
  • 連帯保証人以外の人に家賃を請求する
  • 無断入室や家財道具などの撤去
  • 勝手にカギを交換する
  • 保証会社を介さずに家賃を回収する
  • 年率14.6%を超える損害遅延金を請求する

家賃保証会社を利用している場合、自分で回収すると契約違反になってしまい、保証契約を解除される可能性があります。

また、損害遅延金は国税通則法に従った延滞料率が上限とされており、14.6%を超えると無効になってしまいます。

契約書で年率を定めていない場合は民法上の年率3%になるため、損害遅延金の扱いにも十分注意してください。

大家さんが知っておくべき2020年4月の民法改正

大家さんは家賃の滞納リスクと無関係ではいられないため、入居時には連帯保証人を準備してもらう、または家賃保証会社を利用するケースが一般的です。

ただし、2020年4月1日以降の民法改正により、賃貸借契約書に極度額を記載していなかった場合、連帯保証人は支払義務を負わなくてもよいことになっています。

連帯保証人の設定だけでは家賃の滞納リスクを回避できないので、契約内容に問題があるときは早めに見直しする必要があります。

滞納家賃の消滅時効

滞納家賃の消滅時効については、民法166条によって下記のように規定されています。

一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
引用:e-Gov法令検索

従って、滞納家賃がある場合、5年経過することで消滅時効が完成します。

消滅時効は内容証明郵便の送付や支払督促によって中断できますが、時効完成までのスケジュール管理も延長されてしまいます。

消滅時効の管理は精神的なストレスになるため、滞納が長期化したときは弁護士に対応を依頼したほうがよいでしょう。

まとめ|滞納家賃の回収に困ったときは弁護士に相談を

家賃の支払いは口座振替などにするケースが一般的ですが、入居者の収入が下がると残高を確保できないため、コロナ禍のようなリスクには対応できないケースがあります。

確実に家賃を回収したいときは、家賃保証会社の利用が得策になるでしょう。

ただし、家賃保証会社にも倒産リスクがあるため、家賃回収が100%保証されるわけではありません。

また、訴訟や強制執行のサポートもないので、自分で対応しなくてはならない部分もあるでしょう。家賃滞納の問題で困ったときは、できるだけ早めに弁護士へ相談してください。

この記事の調査・編集者
アシロ編集部
本記事は法律相談ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。※法律相談ナビに掲載される記事は、必ずしも弁護士が執筆したものではありません。本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
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