借地契約の基礎知識|借地権の種類と土地オーナーが知るべきトラブル回避策を解説
借地契約とは、借地権を設定する契約、即ち、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権を内容とする契約を指します。
1992年8月に施行された借地借家法(1992年7月以前は旧借地法)が借地契約に適用されますが、一般に借地契約は、半永久的に契約関係が続くことも多いため、様々な借地上のトラブルが起きているようです。
また、土地の賃貸借では借主側の立場が強いこともあって、例えば以下の状況に困っている土地オーナーも少なくないようです。
- 借主が地代を滞納し続けている
- 地代の値上げを拒否されている
- 借地契約の更新料の支払いを拒否された
- 借地の実際の用途が、契約上の目的と異なっている
このようなケースに対応するためには、借地契約の種類や対処法などを理解しておく必要があるでしょう。
ここでは、借地契約と賃貸借契約の違い、借地契約の種類、借地上のトラブルへの対処法をわかりやすく解説します。
借地契約と賃貸借契約の違い
借地契約とは、建物を所有することを目的とする地上権又は土地の賃借権を内容とする契約を指します。
民法と借地借家法は、一般法としての民法、特別法としての借地借家法の関係にありますが、借地契約には、特別法である借地借家法(旧借地法)が適用されます。
民法の賃貸借契約
一般法である民法の賃貸借契約では、土地や建物といった不動産だけでなく、自動車などの動産もその対象に含まれるので、その対象範囲は広いです。
例えば、駐車場利用をその目的とする土地賃貸借契約は、建物を所有する目的を有しないので、民法が適用される土地賃貸借契約の代表例として挙げられます。
なお、2017年に改正される前の民法では、賃貸借契約の契約期間は、最大で20年とされていましたが、2017年に改正された民法では、賃媒酌契約の契約期間は最大50年に変更されました。
- 契約期間:最大50年
- 契約方法:特に定めなし
- 契約更新:貸主・借主の合意により可能(期間満了前に更新する必要あり)
借地借家法の賃貸借契約
自宅や事務所などを建築する目的で土地を借りるときや、賃貸マンションなどを借りるときの賃貸借契約には、民法の特別法である借地借家法が適用されます。
また、土地を借りる場合の権利としては、土地賃借権と地上権の2種類が挙げられます。
- 土地賃借権:土地の賃借人が土地の賃料を支払って、その土地を使用する権利(工作物又は竹木の所有をする目的に限られない)
- 地上権:他人の土地上で、工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利(民法第二百六十五条)
賃借権は、契約に基づく権利のため、貸主の承諾がなければ第三者への譲渡や転貸を行えませんがが、地上権は物権なので、地上権の登記をした場合には、貸主の承諾を必要とせず、第三者への譲渡・転貸を行うことができます。借地権には、以下の種類があります。
それぞれの契約期間などを確認しておきましょう。
借地権には普通借地権と定期借地権の2種類がある
借地権には、普通借地権と定期借地権の2種類があり、1992年7月末までに成立した借地権には旧借地法、同年8月1日以降に成立した借地権には、同日に施行された借地借家法が適用されるので、どの法律が適用されるか、により契約更新などの扱いが変わります。
定期借地権は一般定期借地権や事業用定期借地権などに分類されるため、契約期間や契約更新の有無、契約方法などの違いをよく把握しておいてください。
普通借地権
1992年7月末までに成立した借地契約には旧借地法が適用されるため、契約を更新し続けることで半永久的に土地を借り受ける状態が続きます。
旧借地法では、借地権の存続期間が建造物の種類によって異なり、木造建物は20~30年、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の建物は30~60年を借地権の存続期間としていました。
しかし、1992年8月以降に成立した借地契約には、1992年8月1日に施行された借地借家法が適用されるため、借地権の存続期間は建物の種別にかかわらず、一律30年間とされます。
- 契約期間:30年
- 契約方法:特に定めなし
- 契約更新:あり
- 返還:特に定めなし
- 建物の構造:特に定めなし
借地権の契約期間30年は法定期間であるため、借地権を15年又は20年など30年より短期間とする特約は、借地借家法第9条により無効とされます。
また、1回目の契約更新後は借地権の存続期間を20年、2回目の更新以降より存続期間を10年としますが、正当事由がなければ、貸主が借地契約の更新を拒絶することはできません。
つまり、貸主側から借地契約を解約又は解除することは、原則としてできず、借地借家法では借主側の立場が強いことから、「土地を他人に貸すと返ってこない」という言い回しの理由になっています。
定期借地権
普通借地権では、貸主が借地契約を更新拒絶することはなかなか難しい一方で、定期借地権では、借地契約の存続期間が厳格に定められています。
定期借地権には以下の種類があり、基本的に契約更新の定めがなく、契約満了時は更地返還が原則です。
- 一般定期借地権
- 事業用定期借地権
- 建物譲渡特約付借地権
では、契約期間・契約方法などの違いをみていきましょう。
一般定期借地権
一般定期借地権では、借地契約を更新しないとする特約を締結できます(要書面。但し、貸主と借主の合意で期間を延長することはできます。)。
権利上、土地の利用目的に制限はなく、居住用・事業用のどちらでも一般定期借地権を利用できます。契約期間や契約方法は以下のとおりです。
一般定期借地権の契約期間満了後は貸主へ更地で返還されるので、貸主側にも、一般定期借地権の借地契約を締結することには十分なメリットがあるでしょう。
- 契約期間:50年以上
- 契約方法:特約を付する場合、書面で契約する必要がある(要書面)
- 契約更新:契約を更新しない特約を付すことができる(要書面)
- 特約:契約を更新しない、又は建物の買い取り請求をしないとの特約を設定可能(要書面)
- 返還:原則として更地で返還する。
一般定期借地権の場合、契約期間中に火災などが発生して建物が消失して再建築されたとしても、契約期間の延長はありません。
事業用定期借地権
事業用定期借地権は、以下のように契約期間が10年以上50年未満となっており、事業用として土地を使う場合にのみ設定できる権利です。
- 契約期間:10年以上50年未満(平成19年12月借地借家法改正前は10年以上20年以下)
- 契約方法:公正証書による契約が必要(公正証書のみ)
- 契約更新:なし
- 特約:契約を更新しない、または建物の買い取り請求をしないとの特約などを設定可能
- 返還:原則として更地で返還する。
契約期間は最長50年ですが、10年以上30年未満、30年以上50年未満の2種類があり、それぞれ特約に以下のような違いがあります。
- 10年以上30年未満:借地契約の更新や契約期間の延長、建物買い取り請求権を特約で定めることができない
- 30年以上50年未満:借地契約を更新しない、または建物買い取り請求しない旨の特約を設定可能
事業用定期借地権を設定して土地の賃貸借をおこなうときは、契約期間をよく検討しておく必要があるでしょう。
建物譲渡特約付借地権
建物譲渡特約付借地権で借地契約を締結する場合、契約期間などの要件は以下のとおりです。
- 契約期間:借地権の期間を30年以上とする。
- 契約方法:特に定めなし(書面での契約は原則不要)
- 契約更新:特に定めなし
- 特約:建物を相当の対価で譲渡する特約を設定可能
- 返還:建物を貸主に売却する。
建物譲渡特約を借地権に設定した場合、貸主は、借地契約の期間満了後に建物を買い取らなければなりません。
この特約を付した場合、貸主は、建物の解体費用も負担しなければならず、不要な建物が残ったときは過剰な負担となる可能性が高いでしょう。
土地の用途には制限がなく、居住用・事業用借地権のどちらでも建物譲渡特約付借地権を設定することは可能です。
借地契約で起きやすいトラブル
貸主が、自分の土地を貸し付けた場合、土地の借主とのトラブルに悩まされるケースが少なくありません。
まだトラブルが発生していない土地のオーナーでも、借地契約が満了した後で土地の借主が別の者になったり、借主の収入が減ったりすると地代の支払いが滞ったりする可能性があります。
借地契約で起きやすいトラブルの種類と原因について解説していきます。
地代の滞納
借地契約では地代滞納のトラブルが起きやすく、コロナ禍の前は毎期限までに地代を支払っていた借主でも、コロナ禍の後で土地上の建物の家賃収入が減ってしまったことで地代の支払を滞納するケースはあります。
地代の滞納は借地契約の解除事由となり、貸主が借主との借地契約を解除する場合も有り得ますが、借地法や借地借家法は借主の権利が強いので注意が必要です。
貸主側から契約解除する場合、契約を解除することの正当性が認められる必要があります。
裁判を提起した場合では、借地契約の解除は、「貸主と借主の信頼関係が損なわれたかどうか」が争点とされるため、やむを得ない事情による地代の滞納であれば、信頼関係に影響なしと判断される可能性はあります。
地代の滞納のみを信頼関係の破壊の理由として借地契約を解除して借主に立ち退きを要請すると、解除事由なしとされる場合も有るので、貸主は、十分に注意しなければなりません。
地代の値上げ
地代を値上げしたい場合、貸主は、まず借主と交渉して値上げの合意を取り付ける必要がありますが、地代の値上げを拒否されたときは、裁判手続を通じて解決する場合もあります(借地借家法第11条)。
借主は、根拠のない地代の値上げを拒否する可能性が高いので、以下の点が必要になるでしょう。
- 地代が近隣の相場よりも低い
- 借地契約を締結した時よりも借地の地価が上昇した
- 借地の地価上昇に伴い、固定資産税や都市計画税の負担が増えた
- その他の経済的な事情
裁判で解決する場合、地代の値上げに合理性があることを立証しなければなりません。
判決が出るまでに1年近くかかるケースもあるので、できれば借主と協議して地代の値上げを解決したほうがよいでしょう。
更新料の支払い拒否
借地契約の更新料には法的な根拠がなく、更新料を認める商慣習が有ると認めるには足りないとの最高裁判例も過去に出されたことから、借地契約書に更新料条項を明記していない場合、更新料の支払いを拒否されても請求できない可能性が高いでしょう。
更新料の支払い拒否は借地契約解除の理由にならず、立ち退き要請もできないので、契約書に必ず明記し、借主から更新料についての合意を得ておかなければなりません。
更新料は借地権価格の5~10%程度が相場になっていますが、地域的な慣習・慣行もあるので、不動産会社などに確認しておく必要もあります。
土地の用法違反
土地の用法違反は借地契約の解除理由になりますが、以下のように、土地の用法違反の内容次第では、借地契約の解除が認められないケースもあります。
【借地契約の解除が認められやすい用法違反】
居住用として貸した土地で飲食業などの事業店舗を経営している。
【借地契約の解除が認められにくい用法違反】
居住用として貸した土地に借主が居住用の自宅を建築し、自宅部屋の一部を使ってアクセサリー販売するなど、主たる目的が居住用自宅の所有にあり、アクセサリー販売といった事業目的は従たる目的に過ぎない等、利用実態が居住目的を逸脱していないケース。
用法違反があった場合、貸主は借主と交渉して契約内容とおりの利用方法に変更してもらうことが必要ですが、借主が土地の利用方法を契約締結時の当初の目的の状態に戻せない場合には、契約目的の変更に伴った地代の値上げを提案する等してもよいでしょう。
無断の転貸や借地権の譲渡
借地権が土地賃借権の場合には、借地権(土地賃借権)を第三者へ転貸又は譲渡するには、土地の貸主の承諾が必要です。
貸主に無断で、借地権(土地賃借権)の又貸し(第三者への転貸)や第三者へ借地権が売却されていたりしたときは、借地契約の解除理由になるでしょう。
ただし、借地権が地上権として登記されていた場合、借主は、借地権である地上権を第三者へ自由に転貸・譲渡でき、貸主の承諾を得る必要がありません。
貸主に無断で土地上の建物が売却されていた場合には、まずは、借地契約上の権利が地上権であるか土地賃借権であるか否か、契約内容をよく確認しましょう。
増改築禁止特約違反
増改築禁止の特約を設定している場合、貸主に無断で建物を増築・改築すると契約違反になります。
しかし、元の状態に戻すことは難しいケースが多いので、増改築を認める代わりに増改築に関する貸主としての承諾料を借主に請求するなど、何らかの形で和解したほうがよいでしょう。
なお、承諾料をいくらに設定するか、何をしたら増改築になるかといった問題も発生するので、交渉の際には専門家に関わってもらうことをおすすめします。
借地契約のトラブルを解消する方法
借地契約を含む不動産の賃貸借契約では、基本的に借主の立場が強いので、さまざまな法的トラブルを想定して契約書を作成しなければなりません。
具体的には以下の対処法があるので、対処法を学んで契約内容を万全にし、将来のトラブルを回避しましょう。
土地の賃貸借契約書に特約を設定する
借主が土地賃貸借契約書に定めた特約条項に違反した場合、貸主側からの契約解除が認められる可能性が高くなります。
土地の用法違反や家賃滞納への対策になるので、土地賃貸借契約書には、必要な特約を設定しておくとよいでしょう。
ただし、契約違反を知りつつ何も対応しなかったときは、暗黙の了解があったものとみなされる場合があるので注意が必要です。
自分で交渉するのが苦手な方は、弁護士への依頼も検討してください。
催告解除や無催告解除の手続きをおこなう
滞納された地代家賃の支払請求を「催告」といい、催告しても一定期間内に支払いがなかったときは、貸主が借地契約を解除できます。
この手続を催告による解除といい、この場合、催告した後一定期間が経過した後(だいたい1~2週間後)に解除することが多いです。
催告の方法に決まりはありませんが、口頭での催告は記録が残らないので、配達証明付内容証明郵便を使用した方がよいでしょう。
内容証明郵便は、文書の内容を記録として残したい場合に有用な郵便方法であり、いつ・どのような内容の文書を・誰から誰に送付されたのかということを、郵便局が証明してくれます。
そのため、借主は、配達証明付内容証明郵便で催告がされた場合には、催告が無かった等といったいい逃れをできなくなります。
また、地代の不払いがあったとき、催告をせずに借地契約を解除する無催告解除特約を定めておくことで、催告せずに借地契約を解除できることが可能となります。
ただし、裁判になった場合には、無催告解除の時点で貸主・借主の信頼関係が損なわれていたのか否か、という点が争点になるため、催告解除又は無催告解除を行うときは、事前に弁護士へ相談することをおすすめします。
不動産の明渡しを求める訴訟を起こす
不動産の明渡しを求める訴訟とは、滞納地代の支払いだけでなく、建物の撤去や不動産の明渡しも同時に求める訴訟手続です。
裁判では、この請求の当否を決めるため、証拠に基づき裁判官が審理判断するので、貸主側の主張を裏付ける賃貸借契約書や催告用の内容証明郵便など、必要書類をすべて裁判で提出できるよう、準備してください。
以上の手続の中で、貸主・借主の信頼関係が損なわれていたことを証明できれば、裁判所も契約解除は妥当であったと判断してくれるでしょう。
弁護士に契約書作成や裁判をサポートしてもらう
借地契約はその内容が重要になるため、借地契約の基本的内容や、特約を定めるときは弁護士にサポートしてもらいましょう。
契約内容の詳細を決めなかったときは、借主がトラブル発生時に「そんなことは契約書に書かれていない」等と主張して、借地トラブルを解決できない場合も有ります。
また、弁護士には訴訟の手続きも依頼できるので、仕事を休んで裁判所に出向いたり、自分で訴状を作成したりする手間が省けます。借地契約のトラブルを回避したいときは、契約書の作成段階から弁護士に関わってもらうとよいでしょう。
まとめ|借地契約のトラブル回避はまず弁護士に相談を
借地契約は長期間にわたるため、契約書を作成するときはトラブル発生を想定しておかなければなりません。
旧借地法や現在の借地借家法には詳細な規定が少なく、当事者間でルールを決めるケースは依然として多いので、「念には念を入れる」が、借地契約書を作成するときのポイントになるでしょう。
また、地代の滞納や更新料の支払い拒否など、お金に関するトラブルが話し合いで解決できないときは、催告や裁判、強制執行などを検討する必要もあります。いずれも専門知識を必要とするため、借地契約でトラブルが発生したときは、少しでも早く土地問題に詳しい弁護士へ相談しておきましょう。