家賃滞納の場合は保証人への請求を|請求できる場合と注意点について解説
賃貸不動産の所有者の方で、家賃の滞納に悩まされている方もいるのではないでしょうか。
家賃の滞納には以下のデメリットがあります。
- 家賃収入が減少してしまう。
- 物件に関わる様々な支払いは続くため、費用が持ち出しとなる。
- 借主が住み続けているため、物件の価値が徐々に低下するが、家賃収入を得られない。
こうした滞納家賃を回収する手段の一つが保証人への請求です。
本記事では、保証人へ滞納家賃を請求できるのか否か、どのような方法で請求できるのか、という点をわかりやすく解説します。
不動産オーナーが保証人に家賃滞納を請求する際に知りたい基礎知識
家賃を支払うことは物件を賃借する賃借人の義務ですが、貸主は、賃借人が家賃を支払わない場合、保証人がいれば、保証人へその滞納家賃を支払うよう請求できます。
もっとも、滞納家賃を保証人に請求する場合、前もって知っておくべき知識があります。
ここでは、保証と連帯保証の違いなど、保証人への請求の際に知っておきたい基礎知識を解説します。
保証と連帯保証
保証人と連帯保証人は、「連帯」と付されている違いのように、各々が有する権利や義務の様々な点で違いが有ります。
以下でその違いを見ていきましょう。
【参考記事】保証人と連帯保証人は、どこが違うのですか?|法テラス
保証人とは
民法第446条1項には、保証人の責任が定められています。内容は以下のとおりです。
(保証人の責任等)
第四百四十六条 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。引用元:民法 | e-Gov法令検索
「主たる債務者」(賃借人)が「その債務を履行しないとき」(家賃を支払わないとき)、保証人は、借主が支払わない家賃等を支払う責任を負います。
押さえておきたいのは、保証人が負うのは、滞納家賃の元本を支払う義務だけではないことです。
民法第447条では、以下のように定められています。
保証債務の範囲)
第四百四十七条 保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
つまり、未払いの家賃から発生する利息や違約金(遅延損害金)、損害賠償も、保証人は支払う義務を負うのです。
次に、貸主は、主債務者である借主が家賃を支払わない場合、直ちに保証人に請求できるのでしょうか。
この場合、貸主は、直ちに保証人へ未払いの家賃を請求できるわけでは有りません。
保証人には、「催告の抗弁権」と「検索の抗弁権」が認められているため、貸主が保証人から直ちに家賃を支払ってもらうことはできません。
「催告の抗弁権」とは、保証人が、債権者(貸主)に対して、先に主債務者(借主)へ請求すべきと主張できる権利です(民法第452条)。
「検索の抗弁権」とは、簡単にいうと、主債務者(借主)には財産などの資力(支払能力)があるのだから、債権者(貸主)は、保証人へ請求せず、主債務者(借主)の財産へ強制執行などをおこなって債権を取り立てるべきだと主張する権利です(民法第453条)。
これらは、民法上認められている保証債務の補充性に基づく保証人の権利です。
これらの権利を有するのが保証人の大きな利点です。
連帯保証人とは
連帯保証人には、上記した「催告の抗弁権」や「検索の抗弁権」がありません(民法第454条)。
つまり、連帯保証人は、主債務者である借主より先に未払いの賃料を請求されてもその支払いを拒否できません。
また、主債務者である借主に財産などが有り、未払いの家賃を支払える能力がある場合でも、未払いの家賃を支払う義務を負います。
連帯保証人が拒否できないケース
連帯保証人に「催告の抗弁権」や「検索の抗弁権」が認められないことの具体的な例を見てみましょう。
例:B(賃借人)がA(不動産オーナー)に対し、支払日に家賃を支払わなかったため、AはC(連帯保証人)に対し、支払日の翌日に家賃を請求した。
Bには十分な財産があり、家賃を支払うことが十分可能であった。
このような場合でも、CさんはBの連帯保証人のため、先にBへ家賃を請求すべき、とする催告の抗弁権を行使できません。
また、AがBよりも先にCへ家賃を請求した場合でも、Cは、Bに財産があることを理由として家賃の支払いを拒否することはできません。
このように、連帯保証は、一般の保証に比べて、保証される側である主債務者に非常に有利な点が特徴です。
保証人へ請求する流れ
滞納家賃を保証人へ請求する場合、請求の流れは以下のとおりとなります。
保証人に請求できるもの
貸主は、保証人に対し、賃料以外に以下の費目を請求できます。
- 利息(契約書での合意がない場合には年3%)
- 損害賠償
- 違約金
損害賠償の例として、貸主が、借主が家賃を支払わないことを理由に賃貸借契約を解除した場合、解除日以降に借主がこの建物を占有することは、法的根拠を喪失した不法な占有となるため、貸主には、賃料相当額の損害が発生するものとされます。
保証人への請求フロー
ここからは保証人へ請求する具体的な流れを解説します。
賃借人への請求と催告
保証人に対して請求する場合には、事前に、主債務者である借主へ未払いの家賃の支払いを求めて催告することが必要です。
連帯保証人に対する請求の場合には、貸主は、連帯保証人に対し、支払期日を過ぎればいつでも家賃を請求できます。
保証人との協議
保証人からの任意での支払いを受けられるよう、貸主は、保証人に対して、電話・文書やメールなどを利用して支払いを求めましょう。
訴訟等
保証人等が任意の支払いに応じない場合、強制手段としての訴訟を介して未払い家賃を請求することになります。
訴訟は本人が提起することも出来ます。もっとも、訴訟が最善の選択肢ではない場合も有りますので、まずは護士へ事前相談をすることをおすすめします。
保証人へ請求する場合の注意点
ここからは保証人へ請求する場合の注意点を解説します。
契約更新している場合
賃貸借契約は、一般に期限が定められているので、貸主は借主と契約更新手続を行うことで、同賃貸借契約は継続されます。
しかし保証人が保証人の欄に署名しているのが、更新前の最初の契約だけであった場合どうなるのでしょうか。
この点については、更新後の契約から発生した賃料についても原則として保証の対象となる旨が判例で示されています。(最高裁平成9年11月13日)
ただし、あくまで「原則として対象になる」立場のため、契約更新後の賃料が保証債務の対象外となる可能性もあります。
たとえば、保証契約をする際に、契約の更新は予定されていなかった場合には、更新後の賃料は保証の対象外とされる可能性があります。
契約を更新していた場合には、保証人に請求できる状況なのか注意をする必要があります。
5年以上経過している場合
賃料債権は、賃貸人が支払期日を知っている場合、支払期日から5年間が経過したときに消滅時効が完成します(民法第166条第1項第1号)。
保
証の対象となる賃料債権が消滅時効の完成・援用により消滅した場合、貸主は、保証人が消滅時効を援用した場合、賃料を請求できません。
そのため、長期間の家賃滞納が起きている場合、消滅時効の完成前であるか否か、気を付けましょう。
保証人が死亡している場合
賃貸借契約は、継続的な契約なので長期間の契約になりやすく、契約の期間中に保証人が死亡する場合も有ります。
保証人が死亡した後で、相続人が保証人の相続財産を相続した場合、貸主は、保証人の地位を相続した相続人に対し、賃料の支払いを請求できる場合もあります。
しかし、相続人が相続放棄をした場合や限定承認をした場合には、被相続人の保証人の地位が相続対象から外れるので、相続人は保証債務を相続しません。
この場合、貸主は、相続人に対し、未払いの家賃を請求できなくなります。
保証人が死亡した場合には、貸主は、保証人の相続人が誰で相続がどのように実施されたのか、という点を注意する必要があります。
まとめ|保証人への請求に困った場合は弁護士へ相談を
保証人に対する法的請求は、連帯保証又は通常の保証のいずれによるかで大きく異なりますし、契約時の経緯や消滅時効など注意すべき点も多いです。
このような専門的知識を必要とする交渉や対策は、弁護士へ依頼することで、交渉や対策を検討する手間、交渉手続などを担当する必要がなくなります。
保証人への家賃等を請求するとき、未払いの家賃対策でお悩みの方は、まずは弁護士へ相談してみましょう。