家賃滞納の時効は何年?時効を中断させる対応策やNG行為を解説

家賃滞納の時効は何年?時効を中断させる対応策やNG行為を解説
目次
  1. 滞納家賃の消滅時効が完成して、滞納家賃が消滅する場合
    1. 家賃を滞納してから5年以上経過した
    2. 消滅時効が完成する5年間、家賃が一切支払われていない
    3. 貸主が滞納する借主に対して訴訟や督促など裁判上の手続きを取っていない
    4. 滞納借主が、消滅時効の完成を理由として消滅時効を援用した
  2. 滞納家賃の消滅時効を更新(中断)させるための様々な対応策
    1. 家賃を支払わない理由を確認するための様々な連絡
    2. 家賃を滞納する借主・連帯保証人に、家賃の支払い等を求める内容証明郵便を送付
    3. 家賃未払いを理由とする賃貸借契約の解除を理由に、建物からの立ち退きを要求
    4. 民事訴訟を提起して家賃の回収と建物退去を実現する
  3. 家賃の滞納を解決するための裁判手続について
    1. 書類審査のみで行う支払督促
    2. 60万円以下の金銭の支払を求める少額訴訟
    3. 通常訴訟
  4. 家賃滞納を解決するために行ってはならないNGな行為
    1. 早朝や深夜等の不適切な時間帯内での過度な電話連絡、過度な訪問
    2. 玄関ポストや通路等での家賃を督促する張り紙の掲示など
    3. 滞納借主と連帯保証人以外の第三者(同居人等)に対する家賃の督促
    4. 滞納借主が居住する部屋への無断での入室、私物撤去、鍵交換など
  5. 家賃を滞納する者への対応に困っている場合には迷わず弁護士に相談

不動産オーナー様の中には、家賃を滞納する借主への対応にお困りの方や、時効によって賃料債権(家賃)が消滅し、滞納家賃が支払われなくなることに不安を感じている方もいるでしょう。

滞納家賃には時効があり、長期間放置すると請求できなくなる場合も有り得ます。

そうならないよう、滞納家賃の時効の完成に関する知識を身につけ、家賃を滞納する賃借人に対し、適切な対応を取る方法を学んでいただきたいと思います。

この記事では、時効が完成する条件や、時効を更新(中断)、完成猶予する方法、家賃の滞納を解決するための法的手続、督促時のNG行為などを詳しく解説します。

この記事を監修した弁護士
玉真聡志
玉真 聡志弁護士(たま法律事務所)
中央大学大学院法務研究科卒業。埼玉県内の法律事務所に入所後、千葉県内の法律事務所へ移籍。たま法律事務所を平成30年9月に松戸駅近くで開所。迅速・丁寧・的確な対応をモットーにしている。

滞納家賃の消滅時効が完成して、滞納家賃が消滅する場合

消滅時効とは、債権者が債務者に対して請求等を行わずに一定期間が経過した場合、消滅時効を援用することにより、債権が消滅する制度をいいます。

しかし、消滅時効には、以下4つの完成条件があります。すべての条件を満たさない限り、消滅時効は完成せず、結果として、家賃を回収することができます。

不動産オーナー様は、滞納家賃の消滅時効が完成しないよう、以下の点を理解しておきましょう。

家賃を滞納してから5年以上経過した

家賃のような賃貸借契約上の債権には消滅時効が成立します。

消滅時効が完成する期間は、債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間、または債権者が権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間と定められています。

家賃は賃貸借契約の内容なので、貸主は、借主に家賃(賃料債権)を請求できることを認識しているとみなされます。また、家賃は、一般的に、毎月支払うことと定められています。

この場合、毎月の家賃の消滅時効の起算日は、各月の家賃支払日の翌日となります。

そのため、家賃の消滅時効が完成する期間は、毎月の家賃の支払日の翌日から5年間となり、各月の家賃の消滅時効の開始日と完成日は、それぞれ異なることとなります。

そのため、5年分の家賃滞納があったとしても、最初の滞納家賃が発生してから5年が経過したときに、滞納している家賃の全額が消滅するわけではありません。

古い時期の滞納家賃から順に消滅時効が完成します。貸主は、家賃の支払日の翌日から5年を経過していない滞納家賃については、借主に請求して支払ってもらうことが可能です。

※令和2年4月1日施行の改正後民法の場合。改正前民法では原則として10年(商人が業として貸していた場合は5年)

消滅時効が完成する5年間、家賃が一切支払われていない

滞納家賃の消滅時効が完成するには、消滅時効が完成するまで、家賃が一切貸主へ支払われていないことも条件になります。

家賃を滞納している期間の途中、家賃滞納中の借主が1円でも家賃を支払った場合、この借主は、支払いが遅れている家賃があることを認め、滞納家賃を支払う意思があることを表明したものとみなされます。これを債務の承認と言います。

家賃を滞納している借主が滞納家賃を支払うことで、それまでに発生した滞納家賃の消滅時効は更新(中断)されます。

つまり、その時点で、それまでに発生した滞納家賃の消滅時効の進行がリセットされ、ゼロからカウントし直されます。

貸主が滞納する借主に対して訴訟や督促など裁判上の手続きを取っていない

貸主側から家賃を滞納する借主へ裁判上の請求を行うことで、消滅時効の完成猶予及び更新(中断)を行うことができます。

一方で、貸主が、家賃を滞納する借主に対し、滞納家賃を口頭で請求したり、請求書や催告書などを送付したりしただけでは、消滅時効はその完成が猶予されるだけとなります。

この場合、滞納家賃の消滅時効の完成を確実に更新(中断)させるには、訴訟や調停、支払督促などの裁判上の手続を取り、確定判決などを得ることが必要となります。

消滅時効を更新(中断)させるための裁判上の手続などについては、後で詳しく解説します。

滞納借主が、消滅時効の完成を理由として消滅時効を援用した

最後の条件となるのが、借主(滞納者)が、貸主に対し、滞納家賃に対する消滅時効の援用を主張することです。これを消滅時効の援用と言います。

つまり、家賃の滞納から5年が経つと、自動的に消滅時効が完成して滞納家賃が消滅するわけではありません。

家賃を滞納している借主が、貸主に対し、滞納家賃に対する消滅時効を援用する意思表示を行って初めて、滞納家賃が消滅します。

つまり、上の3つの条件を満たした後で、借主が消滅時効を援用することで、滞納家賃は消滅します。

滞納家賃の消滅時効を更新(中断)させるための様々な対応策

次に、滞納家賃の時効の進行を中断(更新)させて、消滅時効を完成させないために、滞納者に対して取るべき措置をご紹介します。

貸主は、5年が経過する前に適切な対応を取り、消滅時効が完成しないようにしましょう。滞納家賃の取り立てがされていなかったとする記録を残さないことが重要です。

家賃を支払わない理由を確認するための様々な連絡

滞納があった際、まずは借主に早めに電話連絡を入れ、滞納の理由を確認しましょう。

滞納の理由としては、

  • 支払いを忘れていた
  • 入院・旅行等で長期不在にしている
  • 収入が減ってしまい払えない
  • ほかの事にお金を使いたいので今は支払いたくない

などが挙げられます。

まずは、家賃を滞納する理由と支払意思を確認して、その後の対応を検討しましょう。

電話しても連絡がつかない場合、繰り返し電話したり、書面を送ったり直接訪問したりすることもあるでしょう。

繰り返し連絡を試みても解決できない場合には、次のステップに進みましょう。

家賃を滞納する借主・連帯保証人に、家賃の支払い等を求める内容証明郵便を送付

電話や書面、直接訪問で支払いを求めても相手方が応じない場合、滞納者と連帯保証人の双方に、家賃の支払請求と家賃が支払われない場合に賃貸借契約を解除することが記載された書面を内容証明郵便(配達証明付き)で郵送しましょう。

内容証明郵便とは、いつ、誰が、どこに誰に対して、どのような内容の文書を送ったか、という事を公に証明できる郵便方法です。

内容証明郵便を郵送することで、請求した事実の証拠を保存できるので、裁判を提起するときにも役立ちます。配達証明付きの内容証明とすることで、この書面を相手が受け取ったことも証明できます。

また、内容証明郵便による催告は、消滅時効の完成を延長できる方法として有効です。

民法150条では、債権者(貸主)が債務者(借主)に支払いを請求する催告をすることで、その時から6カ月経過するまでは時効は完成しないと定められています。

家賃未払いを理由とする賃貸借契約の解除を理由に、建物からの立ち退きを要求

催告書に記した期日を過ぎても家賃の支払いがなされないまま場合には、賃貸借契約の解除を理由に立ち退きを要求しましょう。

賃貸借契約書には、「賃料の支払いを1カ月分でも怠った場合、何らの催告もなく直ちに契約を解除することができる」といった条項が記載されている場合もあると思います。

もっとも、賃貸借契約のような継続的契約の場合、契約を解除するには当事者間の信頼関係が破綻していること、具体的には、家賃滞納による信頼関係の破綻を理由とする契約解除をするには、おおむね3カ月程度の家賃滞納の事実は必要と思われます。

また、建物の明渡しを求めるには、任意での明渡し又は裁判手続による明渡しの2つの方法があります。

滞納者との話し合いで任意で建物を明け渡してもらえるなら、裁判などを行う必要がありませんが、場合によっては引越し代や引っ越し先の家賃1、2ヵ月分など、一定額の金員を要求されることもあります。

民事訴訟を提起して家賃の回収と建物退去を実現する

任意での明渡し請求でも問題が解決しない場合、裁判手続に頼りましょう。

滞納者に支払能力がない場合や、支払意思がない場合、最終手段となるのが強制退去を求める建物等不動産の明渡訴訟手続です。

不動産の明渡訴訟では、強制退去だけでなく滞納している家賃の請求も可能です。

明渡請求訴訟を提起する場合に必要な書類は以下のものが挙げられます。

  • 賃貸借契約書
  • 不動産登記簿謄本(登記事項証明書)
  • 家賃支払いの催告、賃貸借契約の解除を通知する連絡書面(内容証明郵便)
  • 上記の内容証明郵便の配達証明書
  • 固定資産税評価証明書
  • 裁判所に予納する郵便切手
  • 訴額に応じた収入印紙(裁判の手数料)

なお、明渡訴訟を提起してから訴訟の期日が開かれるには、たいてい1カ月以上後になります。

さらに、期日の初回で判決が出ることはほぼなく、期日を数回重ねるため、少なくとも判決が出るまでに半年程度はかかります。

明渡しの判決が確定したら、滞納者に退去するよう求めることができます。

借主が一向に退去しない場合、貸主は、借主の立ち退きを内容とする強制執行手続を取り、借主を強制的に退去させることができます。

家賃の滞納を解決するための裁判手続について

家賃を滞納する借主に対し、建物の退去までは望まないものの、滞納する家賃だけ回収したい場合もあるでしょう。

滞納家賃を回収するため、貸主が滞納者に簡易的に行える法的手続を紹介します。

早期解決を見込める手段のご紹介ですが、相手方に争われた場合、通常の訴訟手続を取ることとなりますので、その点ご承知おきください。

書類審査のみで行う支払督促

1つ目の方法は、最も簡易な方法である支払督促です。

支払督促とは、申立人が裁判所に対し、家賃等を滞納する者に対し、家賃等の支払を求める支払督促申立書を提出し、裁判所書記官がこの申立書を審査して請求に理由が有ると判断した場合、支払督促を発付して相手方に送達する制度です。

支払督促には督促異議申立書が同封されており、滞納者が督促異議申立てを行った場合には、通常の訴訟に移行します。

支払督促に対し、2週間以内に滞納者から裁判所へ督促異議申立てがなかった場合には、申立人が裁判所へ仮執行宣言を申し立てることで、仮執行宣言付支払督促が発付されます。

仮執行宣言付支払督促は、裁判所が、金銭等の支払を請求できる権利を証明し、その権利を強制的に実現しても良いことを許可した文書であり、債務名義の1つなので、差押えなどの強制執行を行えます。

60万円以下の金銭の支払を求める少額訴訟

2つ目の方法は、少額訴訟の手続きです。

少額訴訟は、60万円以下の金銭の支払いを求める場合に限り利用できる、簡易裁判所での訴訟手続です。

審理は原則として1回で終了し、直ちに判決が出るため、迅速な解決が可能です。

少額訴訟でも、通常訴訟で勝訴した場合と同様に判決を取得でき、強制執行を行えます。

ただし、少額訴訟を提起された滞納者が異議を出した場合や、裁判所側で少額訴訟がなじまないと判断した場合等には、後に述べる通常訴訟に移行します。

通常訴訟

3つ目の方法は、通常の民事訴訟です。

家賃の回収のみを目的とするなら、上記の支払督促や少額訴訟の方が早期解決を見込めて裁判費用も抑えられますが、建物の明け渡しを求める場合には通常訴訟を行うことが必要です。

例えば訴訟に滞納者が全く出廷しない場合、裁判を起こした原告である貸主の言い分が全て認められたこととされるので、解決方法としては強力な手段です。

また、訴訟上で和解が成立する場合も有ります。訴訟上の和解が成立した場合、確定判決と同一の効力を持つ和解調書が作成されますので、和解調書をもとに滞納者の財産へ差押えを行うことも可能です。

家賃滞納を解決するために行ってはならないNGな行為

滞納家賃を貸主が請求するのは権利行使の一つですが、どのような手段を用いてでも回収してよいということではありません。

権利を侵害された権利者が、法的手続きによらず実力行使で権利を実現することを自力救済と呼び、法律上、認められません(自力救済禁止)。

具体的には、以下のような行為は避けてください。

早朝や深夜等の不適切な時間帯内での過度な電話連絡、過度な訪問

1つ目は、早朝や深夜等に頻繁に電話をかけたり、訪問して支払いを求めたりすることです。

家賃の支払いを求める場合、早朝や深夜の時間帯に直接訪問したり、電話をかけたりして督促することは問題視されます。このような行為を行うことで、迷惑行為として慰謝料を請求されるおそれがあります。

玄関ポストや通路等での家賃を督促する張り紙の掲示など

2つ目は玄関のドアやポストに督促の張り紙をする行為です。他人に家賃を滞納している事実を周知することになり、プライバシーの侵害や名誉毀損とみなされる可能性があります。

滞納家賃の支払を書面で求める場合は、督促文書を封筒に入れて郵便受けに投函するなど、他人に見られないよう配慮する必要があります。

滞納借主と連帯保証人以外の第三者(同居人等)に対する家賃の督促

3つ目は、連帯保証人以外の第三者への督促行為です。滞納されている家賃を請求できる相手は、原則として、入居者の内でも契約者のみ、後は家賃の連帯保証人のみです。

それ以外の第三者には滞納家賃を支払う義務はないので、支払を求めることができません。入居者の家族や親族等の同居人でも、賃貸借契約の連帯保証人でないならば、家賃の支払義務を負担しません。

この場合にこれらの者へ執拗に家賃を請求することは、法的責任を問われる可能性が有ります。

滞納借主が居住する部屋への無断での入室、私物撤去、鍵交換など

4つ目は、無断で入居者の部屋へ入室する行為や、滞納借主の私物撤去、勝手に鍵を交換する等の行為です。

賃貸借契約が継続している間は、入居者が部屋の専有権を有していますので、貸主が合鍵を持っていても、入居者に無断で入室すれば、住居侵入罪に問われるおそれがあります。

また、無断入室や無断での鍵交換、入居者の私物撤去は、自力救済行為とみなされます。この場合には、慰謝料を請求されたり、場合によっては住居侵入罪、窃盗罪等の犯罪行為を問われたりすることもありますので、決して行わないでください。

家賃を滞納する者への対応に困っている場合には迷わず弁護士に相談

滞納家賃には消滅時効がありますが、法律上の対処方法を理解して適切に権利行使することで、滞納家賃の消滅時効を更新(中断)することができます。

そして、対応が遅れるほど損失が膨らむ場合もありますので、法的手続を進める際にはスピーディーな対応が必要ですが、迅速な解決を急ぐあまり、自力救済行為を行うことのないよう、注意が必要です。

滞納家賃の回収や建物明渡しの裁判手続に慣れている弁護士へ早めに相談することで、今後の見通しを立てられるでしょう。

滞納家賃にお困りの不動産オーナー様は、弁護士に一度相談してみることをおすすめします。

この記事の調査・編集者
アシロ編集部
本記事は法律相談ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。※法律相談ナビに掲載される記事は、必ずしも弁護士が執筆したものではありません。本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
弁護士の方はこちら