【借地権問題】相続・更新・売買の主なトラブルのパターンについて解説
不動産に関するお悩みの中でも、理解が難しいのが借地権問題ではないでしょうか。
現在でも、旧借地権と新借地借家法が混在しており借地権をめぐるトラブルはとても複雑な状況にあります。
本記事では、新旧の借地法の違いや、借地権の種類、借地権の相続・更新・売買に関連するトラブルの事例について詳しく解説しています。
この記事を読んでいただければ、借地権つきの不動産を所有することのメリットとデメリットを理解できます。
これから借地権つきの不動産の購入や相続を控えている方、現在進行形で借地権をめぐるトラブルに巻き込まれている方はぜひ、参考にしてください。
借地権の種類と定義
借地権とは、他人の土地を借りて使用する権利のことです。
たとえば、土地を所有していない企業や個人が土地を借りて、その土地に建物を建てる際に利用されます。
借地権には2種類あり、「普通借地権」と「定期借地権」に分かれます。
普通借地権と定期借地権の大きな違いは、前者が契約を更新し続けることで永久的に利用し続けられる権利に対し、後者は契約段階で決まった年数が経過した際には土地を地主に返還する点にあります。
借地権は第三者の土地を一定の条件の上で使用する権利
借地権は第三者の土地を使用する権利です。
土地を使用する際には、一定の条件が定められています。
借地権で定められる主な条件には以下のようなものがあります。
- 契約期間
- 借地料
- 使用制限
- 建物の建設・改築
- 契約の更新
- 契約の解除
これ以外にも、特約として特別な条件を設定する契約書もあります。
契約の際には、条件の一つひとつを丁寧に確認しましょう。
契約更新ができる普通借地権
普通借地権は、使用できる期間が決まっている定期借地権とは違い、契約を更新することで使用を継続できる権利です。
借主が契約更新を求めた場合、地主に正当な理由がない限り、契約が更新されます。
普通借地権の存続期間は、当事者間で特約がない場合は存続期間は30年、当事者間で30年以上の存続期間を定めた場合には、その期間とされています(借地借家法第3条)。
また、30年より短い期間の定めは無効になるとされています。(借地借家法第9条)
(借地権の存続期間)
第三条 借地権の存続期間は、三十年とする。ただし、契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間とする。
(強行規定)
第九条 この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは、無効とする。
e-Gov|借地借家法
また、借地借家法第7条により、普通借地権の存続期間が満了する前に建物がなくなった場合でも、借地権者が残りの期間を超えて建物を再建築することができ、地主が承諾した場合、再建築の日または承諾の日から20年間借地権が続くことが、借地借家法第7条で定められています。
(建物の再築による借地権の期間の延長)
第七条 借地権の存続期間が満了する前に建物の滅失(借地権者又は転借地権者による取壊しを含む。以下同じ。)があった場合において、借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を築造したときは、その建物を築造するにつき借地権設定者の承諾がある場合に限り、借地権は、承諾があった日又は建物が築造された日のいずれか早い日から二十年間存続する。ただし、残存期間がこれより長いとき、又は当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間による。e-Gov|借地借家法
契約期間に定めがある定期借地権
定期借地権は、当事者の同意があれば使用を継続できる普通借地権とは異なり、定められた契約期間の経過または一定の事由により土地を使用できる期間が終了する借地権です。
契約が終了した時点で現存する建物の買取を地主に求めることはできません。
契約が終了すると、借主は建物を取り壊して土地を返還する必要があります。
また、借主が地主に対して立退料を要求することはできません。
これにより、普通借地権に比べて地主の権利が強くなります。
定期借地権には、
- 一般定期借地権(借地借家法第22条)
- 事業用定期借地権(借地借家法第23条)
- 建物譲渡特約付借地権(借地借家法第24条)
の3種類があります。
平成4年8月施行「新借地借家法」と旧借地権の関係
「新借地借家法」は平成4年8月に施行された、比較的新しい法律です。
旧法と区別するために「新借地借家法」と呼ばれています。
法律改正前の旧法借地権では「一度貸した土地は帰ってこない」とまでいわれるくらい、借主の権利が守られていました。
旧借地権では、更新料の支払いや借地権の売買規定に関する記載の曖昧さがトラブル多発の原因となりました。
この結果、土地を貸す人が減ってしまい有効活用できていない土地が増えてしまったのです。
新借地借家法は、地主と借主の権利と義務のバランスを取り、土地の貸し借りをしやすくすることで、土地を有効活用することを目的として改正されました。
しかし、この法改正以前に契約された物件については、旧借地法が引き続き適用されています。
現在もなお、地主と借地人の両者にとって多くの問題が存在しています。
不動産オーナーが借地権を保有する主なメリット
不動産オーナーが借地権を保有する主なメリットは、土地所有物件と比べて不動産の購入費用を低く抑えられることと、土地に対する固定資産税や都市計画税がかからないという2点があります。
土地所有権物件より購入金額を低く抑えられる
借地権つきのマンションやアパートは、土地の購入代金を支払わないで済むので土地所有権物件より購入金額を低く抑えられるのが大きなメリットです。
必要な頭金やローンも建物の取得費用分のみなので、自己資金が少ない企業や個人でも、不動産を取得しやすくなります。
また、取得した借地権は建物が不要になった場合や土地の評価額が値上がりし借地権の価値が高まったときに売却することもできます。
借地権を売却した利益を新たな資金として、新しい不動産を購入する資金に充てることもできます。
土地に対する固定資産税・都市計画税がかからない
借地権を利用した場合、原則として土地に対する固定資産税や都市計画税の支払い義務は地主があるため借主は固定資産税や都市計画税を支払う必要はありません。
また、購入時の不動産取得税もかからないため、駅前など評価額が高い土地も利用しやすくなるのも大きなメリットです。
ただし、借地契約によっては税金の負担を借地人に転嫁することを含むこともあるため、契約時点での確認が重要になります。
不動産オーナーが借地権を保有する主なデメリット
不動産所有の初期費用を抑えられるというメリットがある一方で、住宅ローンの融資が受けにくくなることや月々の地代の支払いが発生するため、借地権つきの不動産はランニングコストがかかるというデメリットも存在します。
借地権を保有するにはメリットだけでなく、デメリットについてもしっかりと理解しておきましょう。
住宅ローン融資が受けにくくなる
借地権つきの不動産は、原則として土地に抵当権を設定できません。
そのため、土地所有物件に比べて担保の価値が低くなります。
また、借主の地代の滞納や重大な契約違反があった場合、地主から契約解除されて建物の抵当権も行使できなくなる恐れがあります。
こういった事情から、借地権付きの不動産は、通常のローンよりも審査が厳しくなる傾向にあります。
借地権つきの不動産物件をローンで購入する場合は、金融機関の選定や資金計画が重要になるでしょう。
月々の地代の支払いが発生する
借地権つきの不動産物件には地代が発生するため、月々のランニングコストは土地所有権物件よりも高くります。
さらに、更新時に更新料の支払いが必要になることも想定されます。
初期費用を抑えられても、長期的視点ではトータルコストが高くなるケースがあります。
借地権つきの不動産の所有を検討する際には、運用期間全体のシミュレーション必要が必要です。
また、周辺環境の変化による地価の上昇を理由に、将来的に地主から地代の値上げ交渉をされる可能性があることも覚えておきましょう。
不動産オーナーの借地権の相続に関する主なトラブル
亡くなった被相続人が所有していたマンションや戸建てなどが借地上に建っている場合、借地権の相続が発生します。
借地権の相続については、相続人と地主の契約のため、解釈をめぐって地主とのトラブルが発生する場合があります。
また、他の相続人との相続をめぐり意見が対立することもあります。
借地権の相続をめぐるトラブルは、長期化しやすいため弁護士に相談しながら慎重に対応することをおすすめします。
ここでは、不動産オーナーの借地権の相続に関する主なトラブルのパターンや、各トラブルへの対処法について解説します。
名義変更料の請求に関するトラブル
故人から借地権を相続した場合、借地権の名義変更が必要になります。
この際に、地主から「そちらの都合での名義変更のため、名義変更費用を負担してほしい」と費用負担を迫られる場合があります。
法的には相続人に名義変更費用の支払い義務がないため、支払いを拒否することもできます。
ただし、今後も土地の使用を望む場合は、支払いを拒否して地主との関係を悪化させるよりも、トラブル回避の観点から名義変更の費用を負担して穏便に解決することが望ましいケースもあります。
地主からの借地の返却に関するトラブル
トラブルの中でもよくあるのが、地主からの借地の返却を求められるケースです。
借地権は相続の対象になるため、当人が死亡したからといって契約が解消されるわけではありません。
相続による借地権の承継に地主の承諾は不要なので、立ち退きに応じる必要ありません。
しかし、地主からの立ち退き要求が激しく、心身の危険を感じるようであれば、迷わず警察や弁護士に相談しましょう。
相続人同士の共有名義での相続に関するトラブル
相続人が複数いる場合、相続開始時に建物は相続人で共有となりますが、借地権は準共有という扱いになります。
このため、各相続人が借地権により土地を分割して使用することはできません。
また、地代の支払い義務も金銭債権でありながら不可分債務となります。
借地権の相続は複雑なため、相続人が複数いる場合は、遺産分割協議を早急に進めて相続人を特定するのをおすすめします。
トラブルの事例としては、相続人の1人が他の相続人の承諾を得ずに建物に居住した場合、他の相続人から明け渡し請求を受け、建物の占有で利益を受けたとして、不当利得返還請求を受けた例があります。
借地権のある不動産の相続予定がある場合には、生前に相続人たちと相談のうえ、遺言書を残しておくと相続人同士のトラブル回避に役立ちます。
相続人が死亡による権利関係に関するトラブル
借地権を持った被相続人が亡くなった場合、その被相続人が持っていた借地権も通常どおり、一般的な遺産と同じように相続の対象となります。
借地権を引き継いだ相続人が死亡し、さら借地契約の期間が残りわずかな場合、土地の明け渡しに伴う建物の撤去費用に関するトラブルが発生する場合があります。
トラブルを解決するためには、適切な相続手続きや相続人同士での調整が重要です。
当事者同士で解決が困難な際には、第三者である弁護士に介入してもらい解決を目指しましょう。
相続財産の借地権への高額な相続税に関するトラブル
借地契約を結び建物を建てた後に、周辺環境が変わり土地の評価額が大幅に値上がりすることもあります。
周辺で土地開発事業がおこなわれたために、評価額が上がった結果、相続時に高額な相続税を支払わなければなくなるケースがあります。
相続税の分割納付制度を利用し、確実に返済できる見込みがあれば、金融機関からお金を借りて支払うこともあります。
しかし、相続税があまりに高額になった場合は「相続放棄」も検討しなければならないこともあります。
相続放棄は、自己のために相続が開始することを知ったときから3ケ月以内に決断する必要があり、プラスの財産も相続できなくなります。
相続財産の借地権に課税される高額な相続税の支払いが困難と思われる場合には、早急に弁護士や税理士に相談しましょう。
不動産オーナーの借地権の更新に関する主なトラブル
普通借地権の場合、双方が合意した場合に契約を更新することもできます。
しかし、実際には、借地権の更新をめぐるトラブルも起きています。
継続で土地の使用を希望した際に、更新時に契約書に記載のない更新料を請求され、契約期間が切れた土地の返却について地主とトラブルになるケースもあります。
さらに、現行では旧法借地権と新法借地権が混在しているため、更新時に新法借地権に沿った内容への契約変更をめぐるトラブルも多数報告されています。
契約書に記載のない更新料に関するトラブル
借地権において、更新料の支払いについて法的な義務は存在しません。
しかしながら、土地賃貸借契約書に更新料の支払いに関する条項が明示的に記載されている場合や、お互いに更新料の支払いに関する合意がある場合、または過去に更新料を支払った実績がある場合は、更新料の不払いによって借地契約が解除される可能性があります。
つまり、更新料の支払いが必要である場合は、契約書を確認し、条項に従って適時支払いをおこなうことが重要です。
ただし、更新料の算出根拠が不明な場合や相場よりも高い更新料を請求された場合には、不動産問題に詳しい弁護士に相談しましょう。
借地契約は長期間にわたるため、更新の際に次の更新時の更新料について取り決めを交わしておくことも必要です。
どちらか一方にとって、不利な内容の契約にならないために、弁護士に依頼して契約書を作成しておくとよいでしょう。
地主から契約期間が切れた借地の返却に関するトラブル
借地契約が満了または解除され契約期間が切れた際には、借地を地主へ返還しなければいけません。
その際には、借地に建てた建物を取り壊して、更地の状態に戻して返還するのが原則です。
解体費用も借主が全額負担するのが原則となっていて、資金を用意する必要があります。
建物を解体するための、手配や解体作業には時間がかかることもあります。
契約期間内に建物の解体が終わらないことで、賃料を請求され事業に損害を与えたとして損害賠償を求められるというトラブルに発展することがあります。
契約期間が切れる前に計画的に建物の解体の準備を整えおくことが重要です。
旧法借地権から新法借地権に関するトラブル
旧借地方では、借主に有利な条件が多数ありました。
新法借地法では貸主と借主のバランスをとるためにさまざまな変更があります。
旧借地法が適用される借地権の場合、更新したとしても現行の借地借家法が適用されることはなく、旧借地法が適用されます。
たとえば、第2回目の契約更新だとしても、更新後の存続期間は、現行の借地借家法上の10年ではなく、旧借地法の20年となります。
新法借地権の内容で契約をする場合には、当事者間で借地契約を合意解除し、改めて、現行の借地借家法が適用される借地契約を締結します。
しかし、約内容で更新したい借主と新法借地権で契約を結びなおしたい貸主の間の意見の不一致から契約をめぐり争っている事例もあります。
不動産オーナーの借地権の売買に関する主なトラブル
借地権つきの建物は、住む必要がなくなり、相続の必要がない場合は、借地権つきの建物として売却できます。
また、地主は借地権が設定されている底地を第三者に売却することもあります。
借地権や借地権が設定されている底地の売買にまつわるトラブルは次のとおりです。
第三者への譲渡の承諾に関するトラブル
借地権者が借地権を他者に譲渡する場合、地主に事前に承諾を得なければなりません。
その場合、建替と同様に譲渡承諾料を請求されます。
しかし、譲渡承諾料が高額である場合や、とくに理由がないにも関わらず承諾を得られない場合があります。
その場合、現在の借主と地主の間でトラブルが生じるケースがあります。
地主の承諾を得るためには話し合いで解決をするのが理想ですが、不条理な理由で譲渡の承諾を得られない場合には裁判所に許可を求めることができます。
これは借地借家法第19条で規定されており、地主の不利益にならない場合に限り、裁判所が地主の代わりに譲渡許可を出します。
法的な手続きが必要になるので、第三者への譲渡の承諾に関するトラブルが起こった際には、弁護士に相談しましょう。
建物への抵当権設定の承諾に関するトラブル
借地権は建物に付随する権利ということになっているため、建物に抵当権をつけると借地権にも抵当権をつけたことになります。
建物に抵当権をつける場合には、借地権に影響はありますが、地主の承諾は不要です。
しかし、ごくまれに「地主の承諾がなければ、建物に抵当権をつけてはならない」という特約のある借地契約書があります。
これも一種の借地の条件ですから、特約は有効です。
地主に無断で建物に抵当権を設定すると、契約違反にあたり、トラブルにつながる場合があります。
建物への抵当権を設定する場合には、借地契約書の抵当権に関する項目を確認しましょう。
地主による底地の第三者への売却に関するトラブル
「底地」は、借地権が設定されている土地のことを指し、「貸地」とも呼ばれます。
地主は底地を第三者に売却することができます。
この場合、借地契約の当事者が新地主と借地人になりますが、新しい地主と借主の間にトラブルが生じることがあります。
たとえば、新しい地主が借地権の更新や売買について前の地主と異なる条件を提示する場合、借主はその条件に同意する必要があります。
また、新しい地主が借地権の解除を申し出ることもあります。
双方の意見が対立し、着地点が見えない場合には不動産専門の弁護士に相談をおすすめします。
借地権の相続・更新・売買のトラブルは専門の弁護士へ相談を
今回は、不動産オーナーが借地権を持つ場合に発生する相続、更新、売買に関するトラブルについて詳しく紹介してきました。
新法借地権では、建物の種類の区別なく当初の契約期間は契約の定めがない場合には30年、最初の更新では20年以上となっています。
借地権は途中で売却もできますが、基本的には長期にわたる契約のため、さまざまなメリットもデメリットの両方を理解したうえでの契約をおすすめしています。
借地権においては、その使用や相続、更新や売買に関するトラブルが予見されるため、不動産問題に詳しい弁護士のもとで契約を結ぶのがよいでしょう。
また、現在進行形で借地権に関するトラブルにお困りの場合は、まずはお近くの弁護士に相談ください。