不動産売買契約のキャンセルはできる?違約金の相場についても解説
不動産の売買契約を結ぼうと話を進めていたものの、高い買い物であることもあって途中でキャンセルしようと考えた方はおられるのではないでしょうか。
本記事では、不動産の売買契約をキャンセルする方法や違約金について、わかりやすく解説します。
不動産売買契約のキャンセルは可能!
契約のキャンセルは、法律的には「解除」という行為にあたりますが、契約の解除は、初めから契約をなかったことにする行為です。
そのため、タイミングによっては不動産を契約前の状態に戻す「原状回復義務」や「違約金」の支払い、「損害賠償」の対象となることがあるなど、トラブルに発展する可能性があるため、契約をキャンセルするタイミングには注意が必要です。
不動産売買契約のキャンセルをおこなう代表的なケース
不動産売買契約をキャンセルできる方法をご説明します。
手付を放棄して解除する場合
不動産の売買契約を締結する際、売買代金の支払いをおこなう前に、不動産の売買代金の5~10%程度の金額を、「手付金」として不動産会社に支払うことが一般的です。
手付金とは、その物件を購入する意思表示であり、支払ったお金は、違約手付等で没収されない限り、売買代金に充当されます。
手付け金には、以下の3種類があります。
手付金の種類 | |
違約手付け | 契約違反をした場合に没収される手付け金 |
解約手付け | 売買契約締結後、当事者が契約の履行に着手するまでの間に契約を解除する際に支払う手付け金 |
証約手付け | 売買契約の存在を証明するために支払う手付け金 |
手付け金の性質を契約書に詳しく記載する場合もありますが、一般に、不動産の売買契約の際に支払われる手付け金は解約手付けとされることが多いです。
買主が不動産の売買契約を手付解除する場合、すでに支払った手付金を放棄することで、売買契約を解除できます。
売主が売買契約を手付解除する場合は、手付金の倍額を買主に提供することが必要です(手付倍戻し)。
自分の支払った手付け金が上の3種類のどの手付金にあたるか、事前に売買契約書の条項をしっかり確認しましょう。
なお、売買契約書上、手付け金が上の3種類のどれにあたるのか明示されていない場合、特別な事情がない限り、基本的に解約手付けと扱われます。
相手が契約違反を起こした場合
売主・買主のどちらか一方に契約違反があった場合、売買契約を解除できます。
契約違反にはさまざまなケースが考えられますが、たとえば以下のようなケースが挙げられるでしょう。
- 売買契約を成立させたが、買主が代金を支払ってくれない
- 買主が売買代金を支払ったにもかかわらず、売主が物件を引き渡してくれない
- 売主が、買った不動産の所有権移転登記に協力してくれない
このように、相手方が契約に違反している状況があれば、契約を解除することができます。
なお、契約違反があった場合、直ちに解除できるわけではなく、相手方に契約上の債務を履行するよう請求してから「相当の期間」が経過しても、相手方がこの債務を履行しない場合、当該契約を解除できます。
住宅ローン特約が適用される場合
住宅ローン特約とは、ローンを組むことを前提として住宅を購入する契約をした場合に、審査の結果、住宅ローンを利用できなかった場合には、違約金の支払いや手付金の没収なく、契約を解除することができる特約のことです。
この特約を結んでおけば、売買契約が成立した後の住宅ローンの審査がとおらなかった場合でも、金銭的な負担なく、売買契約を解除できます。
ただし、不動産売買契約書にローン申請先の金融機関名が記載されていない場合には、ローン特約が適用されないというケースもあります。
そこで、住宅ローン特約の有無とその内容は、不動産会社に事前に確認しておきましょう。
消費者契約法に抵触した場合
不動産取引が消費者契約法に抵触する場合、つまり不動産会社が情報や交渉力で劣る消費者を騙したり、誤った情報や威迫行為を用いて不動産の売却や購入を促すなど、不当な勧誘を消費者が相手方の不動産会社から受けていた場合、この消費者は、売買契約を解除することができます。
具体的には、以下のようなケースが挙げられます。
- 「今後、値上がりするかもしれないから、買うなら今しかありませんよ。」などの不確実かつ断定的な情報で買主を心理的に急き立てて、不動産を購入させた
- 地盤沈下や土壌汚染など、不動産に重大な問題があるにもかかわらず、その事実を隠したり、事実と違う説明をおこなって不動産を購入させた
- 不動産業者が、その不動産の性質を誤って認識、把握していたことによって、消費者へ誤った情報を伝えてしまった場合
なお、消費者契約法は、消費者と事業者の間の取引では、情報量や知識、交渉力の格差が生じることを踏まえ、事業者に比べて不利な立場にある消費者を守るための法律です。
そのため、消費者契約法にもとづく解除は、当事者の一方が事業者でなければ適用できない点に注意が必要です。
契約が不適合である場合
契約不適合責任とは、購入した不動産に地盤沈下や土壌汚染などの構造的な欠陥がある場合や、契約した際に説明があった内容どおりの不動産を引き渡すことができない場合に、売主側が負うべき責任のことをいいます。
契約した内容を実現できないのであれば契約していなかったであろう買主を保護するため、契約不適合があった場合には、買主は契約を解除することができます。
なお、売主の過失なく契約不適合が生じた場合でも、売主は、この契約不適合責任を負うことになります。
双方の解除合意に基づいて契約を解約する場合
売買契約は、売主と買主の合意によって成立します。
そのため、当事者同士で解除の合意が成立したならば、契約を解除することは可能です。
なお、契約書に記載がない場合でも、売主・買主の双方が契約を解除することに合意しているならば、代金を支払う直前であっても、この契約を解除できます。
なお、違約金や損害賠償でのトラブルを回避するため、この契約の解除がお互いの合意のもとに成立した証拠として、当事者双方が署名押印した解約合意書を作成しておくとよいでしょう。
クーリング・オフで売買契約を解除する場合
クーリングオフとは、契約を締結してしまった場合でも、一定期間内であれば無条件で契約を解除できる、消費者の保護を目的とした制度です。
不動産取引でクーリングオフの要件を充たす場合、契約成立から8日間以内であれば、売主が買主である不動産業者に対し、売買契約の解除を申し出ることは可能ですが、不動産売買の契約をクーリングオフで解除するためには、「業者の事務所以外の場所で契約を締結した」という要件を満たす必要があります。
もっとも、不動産の契約を取り交わす際に、わざわざ不動産会社の事務所以外の場所で売買契約の説明を行うことはほとんどないため、クーリングオフ制度を利用して不動産の売買契約を解除することは殆どできないのが実情です。
なお、「事務所以外の場所」に該当するケースとしないケースは以下のような場合です。
【「事務所以外の場所」にあたるケース】
- 業者が一方的に自宅を訪問してきて、仕方なく契約してしまったような場合
- 電話勧誘を受けて、近くの喫茶店で契約を取り交わした
【「事務所以外の場所」にあたらないケース】
- 不動産会社が所有するモデルルームやモデルハウスで契約した場合
- 買主が自宅での契約をお願いしたようなケース
不動産売買契約をおこなう際の注意点
不動産の売買契約は、仕事で扱わない限り、人生でそう何度も体験するものではく、人生で一番高額な買い物になることがほとんどです。
勢いで不動産の売買契約を結んだ場合などは、考えを改めて、締結した売買契約をキャンセルしたいこともあるでしょう。
売買契約が成立する前であれば、いつでも契約手続をキャンセルできますし、売買契約が成立した後でも、売主側が認めてくれれば、契約を解除(合意解約)することが可能です。
しかし、契約成立後に解約する場合には、違約金が発生したり、損害賠償の対象となる可能性があります。
また、仮に契約成立前であっても、むやみに契約手続きをキャンセルするのは、やり方としてあまり望ましいものではありません。
不動産の売買契約を締結する前に、取引自体について熟考するのはもちろん、不動産業者とよく連絡を取り合うなどして信頼関係を築いておくと、契約が成立した後でも、場合によっては違約金を支払わずに売買契約の解除に応じてくれる可能性もあります。
契約に迷っている場合には、不動産業者にご自身の要望をしっかり伝えた上で、こまめに連絡を取り合って関係性を築いておくことがおすすめです。
契約キャンセルについては事前に売買契約書を確認する
不動産の売買契約をキャンセルできるか否かという点を判断するには、売買契約のキャンセルに関する条項が記載されているか否か、確認することが必要です。
契約時にはキャンセルするつもりはなくても、契約後にキャンセルする場合も有り得ますから、事前に、売買契約書のキャンセルの条項や違約金、損害賠償の条項を確認しておきましょう。
不動産売買契約をキャンセルすべきタイミングと違約金の目安
契約をキャンセルするタイミングによって、手付金の没収や違約金の支払いが変わってきます。
ここでは、不動産売買契約をキャンセルすべきタイミングと、違約金の目安について解説します。
契約の履行に着手する前の解除(手付解除)|手付金が没収される
不動産会社との契約が成立した後でも、契約の履行に着手する前であれば、買主は、預けてある手付金を放棄することで、契約を解除することができます。
不動産売買契約における手付金は、ほとんどの場合解約手付けの意味合いで利用されるため、契約成立後に手付解除する場合、手付金は没収されます。
契約の履行に着手した後の解除|大抵は違約金の支払いが必要
契約を締結して履行に着手した後で契約を解除する場合には、違約金を支払う必要があるでしょう。
違約金の相場は不動産会社により異なりますが、宅地建物取引業法では、売主が不動産会社である場合の損害賠償は、代金総額の20%を超えてはいけない旨が定められています(宅地建物取引業法第38条)。
そのため、違約金に関しても、おおむね10~20%程度で設定されている業者が多いでしょう。
違約金がいくらになるかは不動産業者により異なりますので、事前に違約金や損害賠償の規定を確認しておくとよいでしょう。
引渡し後の契約違反などによる解除|違約金の支払いや原状回復が必要
物件を引き渡してもらったあと、契約違反を犯してしまって売買契約を解除された場合、違反した当事者は、相手方に対する違約金の支払いが必要であることだけでなく、引き渡し済の物件を使用していた場合には物件の原状回復義務が、登記を変更している場合には所有権移転登記を修正する必要があります。
違約金については、本来請求されるべき金額よりも高額な金額を請求される可能性が考えられるため、不安であれば専門家である弁護士に相談してみることをおすすめします。
不動産売買契約のトラブルを弁護士に依頼すべき3つの理由
不動産売買契約に関するトラブルについて、弁護士に相談することをおすすめします。
ここでは、弁護士に依頼すべき理由を3つご紹介します。
法律の専門家に相談して自分の状況を把握できる
不動産に関する契約は複雑で、契約書を読んでも、正確に内容を把握することは難しいでしょう。
また、今キャンセルしたら違約金はいくらかかるのか、今後の手続きはどうやって進んでいくのかなど、現在の状況を把握できないこともあるでしょう。
しかし、弁護士であれば、契約の内容や手続きの進捗、取引内容などを正確に分析してもらうことができるため、現在の状況を正確に把握することができます。
契約キャンセルについて適切なアドバイスが期待できる
また、法律の専門家である弁護士であれば、今キャンセルしたら違約金はいくらかかるのか、手付解除期間はいつまでなのか、クーリングオフは使えるのかなど、さまざまな疑問に対して適切なアドバイスをしてもらうことができるでしょう。
法的手続きを代理で対応してもらえる
弁護士であれば、仮に違約金や損害賠償の金額などで揉めてしまった場合であっても、不動産会社との交渉や、裁判に関する手続きをすべて代行することができます。
裁判所の対応だけでなく、相手との交渉もすべて任せることができるので、精神的な負担も軽減されるでしょう。
まとめ|不動産売買契約のキャンセルでお困りでしたらご相談ください
不動産売買契約のキャンセルを検討している場合、まずは売買契約書を確認して、解除条項や違約金、損害賠償の条項がどのように記載されているか、確認してみてください。
また、不動産会社の強引な勧誘に断りきれず契約してしまったような場合、あきらかに不当な違約金を請求されている場合など、不合理だと感じることが起きた時には、早めに弁護士に相談することをおすすめします。