売掛金とは何か?現金取引と掛取引の違いや仕訳のポイントを紹介
売掛金を回収できるかどうかは、企業のキャッシュフローを円滑に回すうえで重要な事柄です。
しかし、売掛金の回収は常に予定どおりに進むわけではなく、場合によっては支払いの遅れや回収不能のリスクを背負うこともあります。
本記事では、売掛金の概要や実務で売掛金を管理・回収するときのポイントなどについて解説します。
企業で財務に携わっている方は、ぜひ参考にしてください。
売掛金とは?営業上の得意先から後日受け取るお金のこと
売掛金とは、商品やサービスを提供した後、その対価として後日得意先から受け取る予定のお金のことです。
この取引は信用を前提としておこなわれ、買い手は支払条件に基づいて後日支払いをします。
たとえば、月末締めの翌月末払いであった場合は、3月31日に締めた1ヵ月分の金額を4月30日に支払います。
売掛で取引した場合、先方の受け取りが遅れると資金繰りに問題が起きる可能性があります。
場合によっては健全な財務状態を維持できなくなるため、得意先の信用調査や支払条件の設定などを入念におこなう必要があるでしょう。
これにより、リスクを最小限に抑えられます。
会計上、売掛金は「資産の部」の「流動資産」に分類されます。
実務においては、売上の発生時ではなく、取引先に商品などが引き渡された時点で売掛金の仕訳をおこなう点を理解しておきましょう。
売掛金の理解に役立つ「現金取引」と「掛取引」の違い
ここでは、売掛金の理解に役立つ「現金取引」と「掛取引」の違いについて解説します。
1.現金取引|商品などを販売したときにお金を受け取る
現金取引は、商品やサービスを提供する際に、その対価として現金を受け取る取引形態です。
この方法では、売買が成立した瞬間に決済が完了するため、売り手はすぐにお金を受領できます。
お金の流動性を重要視する中小企業やスタートアップにとって、メリットのある取引形態でしょう。
売り手は買い手から直接現金を受け取るため、支払いの遅延や不履行のリスクも回避できます。
また、会計上の処理が比較的簡単で、売掛金の管理や債権回収の必要もありません。
しかし、現金取引だけをおこなうと、市場競争力が低下する可能性もあります。
多くの企業は、できる限り現金を手元に残しておきたいと考えています。
現金を手元に残しておくためには、掛取引の方が都合がいいのです。
そのため、現金取引のみの対応だと、掛取引をおこなっている競合他社と比べて不利になるかもしれません。
また、取引の金額が大きい場合は、顧客が一括で現金支払いをすることが難しい場合もあるでしょう。
このように、掛取引に対応できないとビジネスチャンスを失いかねません。
2.掛取引|商品などを販売して、後日、お金を受け取る
掛取引は、商品やサービスを提供し、後日になってから対価を受け取る取引形態です。
掛取引のメリットは、顧客の支払いの柔軟性が高まる点です。
支払いを先送りできるため、顧客の資金繰りは安定するでしょう。
資金繰りに余裕が生まれるため、高額な製品やサービスの購入にあたってのリスクを抑えられます。
しかし、掛取引には自社にとってはリスクをともなう取引形態です。
支払いの遅延や不履行がおこなわれたら、現金を回収できなくなる恐れがあります。
その場合、金額によっては経営状態が危うくなってしまうかもしれません。
そのため、掛取引をおこなう際は、入念に信用情報を調べる必要があります。
適切な措置を講じることで、企業は財務リスクを最小限に抑えつつ、掛取引によってビジネスチャンスを増やしていけるでしょう。
掛取引は、企業と顧客双方にとってメリットが大きい取引形態ですが、取引の際には慎重な判断が求められます。
売掛金に関する仕訳処理の具体例|4パターン
ここでは、売掛金に関する仕訳処理の具体例を4つ紹介していきます。
1.取引先に商品を売り、代金は後払いにした
取引先に商品を売り、代金は後払いにした場合(売掛)の仕訳処理方法は、下記のとおりです。
※掛取引で30万円の商品を販売した場合
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
売掛金 | 300,000円 | 売上 | 300,000円 |
2.取引先から後払いの商品代金が振り込まれた
取引先から後払いの商品代金が振り込まれた場合の仕訳処理方法は、下記のとおりです。
※銀行振り込み、小切手、手形の3パターンで30万円が振り込まれた場合
銀行振り込みの場合 | |||
---|---|---|---|
借方 | 貸方 | ||
普通預金 | 299,500円 | 売掛金 | 300,000円 |
支払手数料 | 500円 |
小切手の場合 | |||
---|---|---|---|
借方 | 貸方 | ||
現金 | 300,000円 | 売上 | 300,000円 |
手形の場合 | |||
---|---|---|---|
借方 | 貸方 | ||
受取手形 | 300,000円 | 売上 | 300,000円 |
3.取引先が倒産して売掛金を回収できなくなった
取引先が倒産して売掛金を回収できなくなった場合の仕訳処理方法は、下記のとおりです。
※掛取引で30万円の商品を販売しており、回収できなかった場合
貸倒引当金を設定していた場合 | |||
---|---|---|---|
借方 | 貸方 | ||
貸倒引当金 | 300,000円 | 売掛金 | 300,000円 |
貸倒引当金を設定していない場合 | |||
---|---|---|---|
借方 | 貸方 | ||
貸倒損失 | 300,000円 | 売掛金 | 300,000円 |
4.ファクタリング契約をおこない売掛金を譲渡した
ファクタリング契約をおこない、売掛金を譲渡した場合の仕訳処理方法は、下記のとおりです。
※掛取引で30万円の商品を販売しており、即日入金のファクタリングサービスを利用する場合
売掛金発生時 | |||
---|---|---|---|
借方 | 貸方 | ||
売掛金 | 300,000円 | 売上 | 300,000円 |
契約・入金時 | |||
---|---|---|---|
借方 | 貸方 | ||
普通預金 | 270,000円 | 売掛金 | 300,000円 |
売上債権売却損 | 30,000円 |
即日入金の場合は、契約時と入金時を一つの仕訳でまとめて記載可能です。
実務で売掛金を管理・回収するときの4つのポイント
ここでは、実務で売掛金を管理・回収するときのポイントを4つ解説します。
1.売掛金を管理するために売掛金元帳を作成する
実務で売掛金を管理する際には、売掛金元帳を作成しましょう。
売掛金元帳とは、企業が提供した商品やサービスに対して顧客から支払われるお金を管理する帳簿です。
売掛金元帳には、売掛金の残高や取引の日付、支払期日などが顧客別にまとめられています。
売掛金元帳を適切に管理することで、顧客からの支払い状況を間違いなく把握できます。
仮に取引先から支払いの遅れがあったとしても、即座にその状況に気付き、適切な対応を取れるようになるでしょう。
適切な売掛金元帳の管理は、財務の健全性を維持するうえで重要な取り組みです。
管理するためのフローをあらかじめ明確にしておきましょう。
2.売掛金の回転率や回転期間などを把握しておく
実務で売掛金を管理する際には、売掛金の回転率(売上債権回転率)や回転期間などを把握しておいてください。
売上債権回転率は、売上高に対する売上債権の割合を表す指標です。
この比率を通じて、売上債権の回収効率がどれほどなのかを把握できます。
回転率が高い場合は、売上債権の回収期間が短いことになります。
逆に低い場合は、売上は記録されているものの、その代金の回収が遅れている状態となっていることがわかるでしょう。
売上債権回転率は、下記の計算式によって算出できます。
- 売上高÷売上債権=売上債権回転率
この指標を定期的にチェックしておけば、売掛金の状況がわかり、必要に応じて回収に向けた施策を打つ取り組みができるようになります。
たとえば、売掛金の回転率が低下している場合は、支払条件の見直しや催促の強化、取引条件の再交渉などの検討が必要となるでしょう。
これにより、企業は財務リスクを低減し、経営状態を安定させられます。
3.取引先に対する与信管理をしっかりとおこなう
実務で売掛金を管理する際には、取引先に対する与信管理をしっかりとおこないましょう。
与信管理することで、売掛金を回収できないリスクを最小限に抑え、財務の安定性を保てます。
与信管理とは、企業が取引先に対する信用のレベルを明確にし、必要に応じて掛取引をする金額を変動させることです。
顧客との掛取引をスタートする際には、まず新規顧客の信用調査や掛取引額の設定などをおこないます。
信用調査によって高い信用があれば、その顧客との掛取引は高い金額を設定してもよいでしょう。
もし信用が少なければ、低い金額に設定しておくべきです。
あるいは、掛取引そのものが大きなリスクとなるかもしれません。
与信管理では、顧客の財務状況や過去の取引履歴、市場での評判など、顧客の信用力を評価します。
もし自社での調査が難しければ、帝国データバンクなど外部の企業情報データベースを参考にするとよいでしょう。
外部サービスは有料ですが、正しい信用情報が得られます。
売掛金を回収できず大きな損失となってしまうよりは、料金を支払ってでも安心が担保されるほうが望ましいでしょう。
また掛取引をする際には、既存顧客に対しても、定期的な信用評価をおこなうことをおすすめします。
市場環境の変化や顧客の財務状況の変動によって、顧客の信用力は時間とともに変わります。
定期的に顧客の信用状況を調査し、必要に応じて信用限度を調整する取り組みが重要です。
4.売掛金の支払い遅れが生じたら法的手続きを検討する
顧客からの売掛金の支払いが遅れた場合、あるいは支払われる様子がない場合には、法的手続きをとることも検討しましょう。
支払いの遅延は企業の財務状況に大きな影響を及ぼし、長期的には経営にも悪影響を与える可能性があるため、しかるべき対応が必要です。
支払いの遅延が起きたら、まずは直接交渉してみるなど、平和的にアプローチするとよいでしょう。
交渉を繰り返しても解決に至らない場合、法的手続きの検討が必要です。
具体的な法的手続きとしては、裁判所を通じた財産の仮差し押さえや訴訟手続き、強制執行が挙げられます。
訴訟をおこなう場合は、まず裁判所に申し立てをします。
しかし、訴訟は時間とコストがかかるだけでなく、企業の評判にも影響を与える恐れがあります。
そのため、訴訟に踏み切るかどうかは慎重に検討することをおすすめします。
もし法的手続きに移る際には、弁護士とよく相談したうえで進めましょう。
売掛金を決済日より前に現金化する3つの方法
ここでは、売掛金を決済日より前に現金化する方法を3つ紹介します。
1.ファクタリング
ファクタリングは、企業が売掛金をファクタリングサービス業者に売却し、サービス料を引いた額を前払いで受け取れるサービスです。
ファクタリングを活用すれば、企業は売掛金の支払期日前に現金を回収できます。
資金繰りを改善したい場合に向いているサービスといえるでしょう。
ファクタリングでは、基本的に自社の経営状況は審査の対象とはなりません。
主な審査対象は、売掛債権の内容と取引先の信用力であるため、自社の経営状況が悪い場合でも安心して利用できる点が強みです。
ファクタリングサービスのなかには、オンラインでサービスを提供しているものもあります。
オンラインでは、審査から入金までがスピーディーに進むため、早めに現金を手にできるでしょう。
審査から入金までのサイクルが短い点もあり、活用すれば計画的に資金を運用できます。
2.売掛債権担保融資
売掛債権担保融資は、企業が持つ売掛金を担保として金融機関から融資を受ける方法です。
売掛債権担保融資を活用すれば、売掛金の回収を待たずにお金を手に入れられます。
ファクタリングとは異なり、売掛債権担保融資は売掛債権を担保とした融資制度です。
そのため、ファクタリングに比べて審査は厳しい点が特徴として挙げられます。
そのため、資金調達にかかる時間も長くなりがちです。
売掛債権担保融資では、企業は売掛債権を金融機関に担保として提供します。
金融機関は、対象となる売掛債権の価値を評価し、保証割合と保証限度額に基づいて融資を実行します。
上場企業の売掛金は評価額の90%、といったように、担保には掛け目が設定されている点も押さえておいてください。
契約時は、基本的に債権譲渡登記をおこないます。
もし企業の融資返済が滞った場合は、債権譲渡担保から融資を回収する流れです。
売掛債権担保融資は、売掛金の回収に自信がある場合に用いられる手法です。
活用を検討する際は、自社の財務状況を慎重に評価しましょう。
3.売掛債権の証券化
売掛債権の証券化は、企業が保有する売掛金を一つにまとめ、その金額をもとに証券を発行し、投資家から資金を調達する方法です。
売掛債権を証券化すれば、売掛金の回収を待たずに多くの現金を得られます。
大量の売掛金を持っており、大規模な資金調達をおこないたい場合に向いているでしょう。
売掛債権の証券化は、企業が売掛金を特別目的会社(SPV)に販売することで実行されます。
SPVは売掛債権を担保として証券を発行し、投資家から資金を集めます。
資金繰りが大幅に改善される売掛債権の証券化ですが、完了までは1ヵ月から半年以上の時間を要します。
また、手続きが煩雑、経費が多くかかるなどのデメリットもあるため、中小企業や零細企業がおこなうのは難しい方法かもしれません。
売掛金に関するよくある質問
ここでは、売掛金に関するよくある質問に回答していきます。
Q.売掛金と売上債権の違いは何か?
売掛金と売上債権は、混同されがちな項目ですが、実際には異なる概念です。
売掛金は、企業が商品やサービスを販売した際に、顧客から将来的に代金を受け取れる権利を指しています。
財務諸表では短期資産の一部として記載され、企業が短期間での現金化を見込んでいる資産です。
売上債権は、売掛金を含むより広い概念を指しています。
売上債権には、売掛金のほかにも、顧客からの前払い金や手形など、さまざまな形態の債権が含まれます。
つまり、売上債権は企業が顧客に対して持つお金に対する権利を包括する言葉です。
それぞれの違いを理解しておけば、適切に会計業務を進められるようになるでしょう。
Q.売掛金の時効はいつ成立するのか?
売掛金では、時効が成立します。
民法では、一般的な債権の時効期間は原則5年と定められています。
2020年以前は、医師の診療報酬や弁護士の報酬など、特定の種類の債権については、5年よりも短い時効期間が設定されていました。
しかし、2020年の法改正によって、全ての債権の時効期間が原則5年(ケースによっては最長10年)に変更されています。
時効期間が満了すると、債権者は債権を法的に強制的に回収する権利を失います。
ただし、民事訴訟を起こす、支払いを督促するなどの措置をとれば、時効が中断される点を押さえておきましょう。
売掛金を有する場合は時効期間に注意し、時効が成立する前に適切な措置を講じることが重要です。
さいごに|売掛金について困り事があれば専門家に相談しよう!
売掛金の管理は、企業の財務を健全に保つうえで欠かせない取り組みです。
売掛取引をおこなっている場合に、もし顧客が支払いを遅延したり支払いをしなかったりする場合には、自社の財政に大きな影響を及ぼす恐れがあります。
もし売掛金について困りごとがあれば、専門家に相談するとよいでしょう。
専門家に相談すれば、さまざまなアドバイスを提供してくれるだけでなく、実務におけるサポートもおこなってくれます。
仕訳については税理士、債権回収は弁護士に相談することをおすすめします。
お金に関わるトラブルは早めに解決し、健全な経営を進めていきましょう。