労災は派遣社員でも申請可能!会社に断られた場合の対処法も紹介

労災は派遣社員でも申請可能!会社に断られた場合の対処法も紹介

勤務中にけがをしてしまったり、業務が原因で病気になったりしたために、労災申請をしたいけれど、

「派遣社員でも労災申請はできるのだろうか?」

「派遣先に断られたらどうすればいいのだろうか?」

などと不安に思う方もいるのではないでしょうか。

一般的に派遣社員は、正社員ほど会社から手厚い保障を受けられるわけではありませんが労災の申請はできます。その場合は、派遣先ではなく派遣会社に申請をして、手続を進めることになるでしょう。

この記事では、派遣社員が労災申請をする際に知っておきたい基本知識のほか、実際に手続きをする際の流れや書類の入手方法、万が一会社に申請を断られた場合の対処法について紹介します。

今すぐ無料相談電話相談OKの弁護士が見つかる!
ベンナビ労働問題で
労働問題に強い弁護士を探す
相談料無料※
労働問題に強い弁護士を探す
※一部の法律事務所に限り初回相談無料の場合があります

この記事を監修した弁護士
下地 謙史(日暮里中央法律会計事務所)
原 千広弁護士(日暮里中央法律会計事務所)
東京大学法科大学院修了。東京弁護士会所属。離婚・相続等の家族案件から労働・国際案件まで幅広く携わり、Yahoo!ニュース等の記事監修も手がける。
(※本コラムにおける、法理論に関する部分のみを監修)

労災は派遣社員でも請求できる

派遣社員でも労災申請はできます。労災保険は雇用元を通して加入するものです。派遣社員の場合、雇用元は派遣会社ですから、派遣会社を通じて労災保険に加入しており、申請も派遣会社を通じておこないます。

また、労災保険は原則として、従業員を雇用している場合に加入しなければなりません。そのため、派遣会社が加入していないために労災申請ができないということも通常ありません。

派遣社員が労災を申請する前に知っておきたい基本情報

労災を正しく申請し、適切に給付を受けるためにも、まずは労災や労災保険給付の種類など、基本的なことを知っておきましょう。

労災の種類

労災には「業務災害」と「通勤災害」の2種類があります。どちらに該当するのかによって、申請の際に提出する請求書の書式が異なるため、違いを知っておきましょう。

業務災害

労働者災害補償保険法第7条1項1号で定められているとおり、業務上の負傷や疾病、障害又は死亡について保険給付されるものです。

派遣社員の場合、派遣先での就労中におこなっていた業務によってけがをしてしまったり、病気になったりした場合に認定されます。具体例としては以下のようなことが挙げられるでしょう。

【業務災害の例】
・派遣先の指示によって、倉庫で作業中に物が落ちてきて打撲傷を負った
・派遣先が壊れたエアコンを修理せず、そのような環境で長時間労働を強いられた結果、熱中症になった

通勤災害

労働者災害補償保険法第7条1項3号に定められているとおり、通勤中の負傷や疾病、障害または死亡についての保険給付です。この場合の「通勤」とは、労働局によって以下のように定義されています。

1. 住居と就業の場所との間の往復
2. 就業の場所から他の就業の場所への移動
3. 住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動
引用元:東京労働局|通勤災害について

つまり、自宅と派遣先の往復、派遣先から他の就業の場所への移動のほか、仕事のために家族と別居を余儀なくされた場合、家族が住む家と自分の居住先の間を往復中に起こった災害については、労災が適用されます。通勤災害の例としては、以下のような場合が挙げられます。

【通勤災害の例】
・自宅から勤務先に出社している途中で、車にはねられてけがをした
・終業後に派遣先から、子どもを保育園へ迎えに行く途中、自転車に乗ったまま転び、けがをした

労災給付の8つの種類

労災認定によって給付される保険金には8つの種類があります。

1.療養(補償)等給付(療養の費用の支給)

けがや病気の治療などのためにかかった分を支払ってもらえます。診察代や薬代のほか、入院・手術費用などが該当します。

2.休業(補償)等給付

業務上のけがや疾病の療養のため、休業せざるを得ず、賃金の支払を受けられない場合に、休業4日目から給付されます。給付額は、1日あたりの平均賃金に相当する「給付基礎日額」の60%です。

3.傷病(補償)等年金

治療開始から1年6ヵ月を経過しても治らず、傷病等級表が定める各等級の身体障害が継続してみられる場合に支給されます。

また、等級表中の「給付の内容」にある「給付基礎日額」とは、事故発生前3ヶ月間の被災労働者の平均賃金(日額)です。

4.障害(補償)等給付

傷病の治療が完了したものの、身体に障害が残った場合に支給される保険です。障害(補償)等年金と障害(補償)一時金があり、どちらが支給されるか、また給付金額は障害等級表の定める等級によります。

5.遺族(補償)等給付

被災労働者が亡くなった場合に給付される保険金です。遺族(補償)等年金と遺族(補償)等一時金の2種類があります。遺族(補償)等年金には受給資格要件があり、これを満たす遺族に支給されます。

一方、遺族(補償)等年金の受給資格を満たす遺族がいない場合に、特定の範囲の遺族に支給されるのが遺族(補償)等一時金です。

6.葬祭料(葬祭給付)

被災労働者が亡くなった場合に支給されます。給付額は315,000円に給付基礎日額の30日分を加算した額です。

この額が給付基礎日額の60日分よりも少なければ、給付額は、給付基礎日額の60日分になります。

7.介護(補償)等給付

傷病(補償)等年金、または障害(補償)等年金を受給していて、介護が必要な状態にある方(障害等級・傷病等級第1級の方及び第2級の方の一部)で、現に介護を受けている方に支給されます。

さらに、病院などに入院しておらず、介護老人保健施設や障害者支援施設など被介護者向け施設に入所していないことも支給要件です。

8.そのほかの給付

傷病(補償)年金、障害(補償)給付、休業(補償)給付、遺族(補償)給付には、特別給付が加算されるケースもあります。

労災保険と健康保険の違い

労災保険と健康保険は以下のように異なります。

労災保険健康保険
給付の対象業務上の災害業務上の災害以外
自己負担なし原則3割

労災のときは健康保険を利用しないのがおすすめ

労災保険と健康保険は併用できません。支給される額は労災保険の方が大きいため、労災のときは健康保険を利用しない方がよいでしょう。もし、誤って健康保険を使ってしまった場合は、あとから労災保険に切り替えられますが、手続に少々手間がかかります。

また、労災保険を利用するつもりだったのに、申請が認められなかった場合は、健康保険への切替えも可能です。

労災申請を派遣社員がする場合の必要な手続と大まかな流れ

派遣社員が実際に労災を申請する場合はどのようにおこなえばよいのでしょうか。ここでは手続の流れについて紹介します。

1.派遣会社・派遣先への報告

まずは、災害に遭ったことを派遣会社に報告します。業務災害であれば、通常、派遣先が派遣会社に報告してくれますが、念のため自分で知らせておくのが無難です。

一方、通勤災害の場合は、自分で報告しなければ派遣会社も派遣先も知り得ません。派遣会社と派遣先の両方に自分で連絡するようにしましょう。

2.労災請求書を作成してもらう

労災請求書には事業主の証明欄があり、雇用主に記載してもらわねばなりません。派遣先に災害発生状況などの詳細を説明してもらったうえで、派遣会社が事業主の証明欄を記入することになるでしょう。

また、万が一、派遣会社や派遣先が証明を拒否して労災請求書を作成してくれなくても、事業主の証明なしで申請可能です。

3.必要な書類を指定の機関へ提出

派遣会社に労災請求書を作成してもらいます。請求書の書式は申請する給付の種類によって異なります。

また、療養(補償)給付については、受診した病院が労災指定病院だったかどうかで提出先が異なります。

給付の種類労災請求書の書式必要書類提出先
療養(補償)給付
(労災指定病院を受診)
様式第5号(業務災害)
様式第16号の3(通勤災害)
受診した医療機関
療養(補償)給付
(労災指定病院以外を受診)
様式第7号(業務災害)
様式第16号の5(通勤災害)
所轄の労働基準監督署
傷病(補償)年金様式第16号の2(傷病の状態等に関する届)
障害(補償)給付様式第10号(業務災害)
様式第16号の7(通勤災害)
休業(補償)給付様式第8号(業務災害)
様式第16号の6(通勤災害)
遺族(補償)給付(年金)様式第12号(業務災害)
様式第16号の8(通勤災害)
遺族(補償)給付(一時金)様式第15号(業務災害)
様式第16号の9(通勤災害)
葬祭料様式第16号(業務災害)
様式第16号の10(通勤災害)
介護(補償)給付様式第16号の2の2

所轄(事業場の所在地の管轄)の労働基準監督署は下記厚生労働省のホームページより調べられます。

また、労災指定病院以外で受診した場合は、医療機関の領収書も提出する必要があります。

参考:厚生労働省ホームページ|都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧

4.労災保険の認定

申請後は、労働基準監督署によって労働災害の調査がおこなわれます。調査の結果、給付要件を満たすと判断されれば、労災認定となり保険金等が支給されます。

労災申請をする際に必要になる書類の入手方法

労災請求書の書式は、下記厚生労働省のホームページよりダウンロードできます。また、労働基準監督署でもらうことも可能です。

参考:厚生労働省ホームページ|労災保険給付関係請求書等ダウンロード

今すぐ無料相談電話相談OKの弁護士が見つかる!
ベンナビ労働問題で
労働問題に強い弁護士を探す
相談料無料※
労働問題に強い弁護士を探す
※一部の法律事務所に限り初回相談無料の場合があります

派遣会社・派遣先に労災申請を断られたときの対処法

労災申請は、基本的に派遣会社が派遣先の報告を受けておこなわれるでしょう。しかし、派遣会社が申請手続を拒否するケースもあります。そのような場合の対処法を紹介します。

労働基準監督署へ相談

派遣会社に労災申請を拒否されたら、まずは労働基準監督署に相談するとよいでしょう。今後の対応について相談にのってもらえるほか、会社に協力してもらえない旨を説明すれば、柔軟に対応し、基本的に会社の証明がなくても受け付けてくれます。

相談料は無料なので、労災申請について不明点がある場合も相談してみるとよいでしょう。

労働問題が得意な弁護士に相談

会社の対応があまりにもずさんであったり、労働基準法や労働契約法違反に起因する災害であったりした場合は、弁護士に相談するのもよいでしょう。

法律に即したアドバイスがもらえるほか、会社の違法行為を追及し、損害賠償請求をおこなってもらえる可能性もあります。

労災申請をおこなう際に派遣会社の証明はなくてもよい

派遣社員の労災申請は、派遣会社がおこなうのが原則です。しかし、派遣会社が協力しない場合は、事業主からの証明を受けなくても申請できます。

派遣会社に断られたからと泣き寝入りせず、労働基準監督署か弁護士に相談して、しかるべき補償を受けましょう。

労災申請を派遣社員がする際によくある質問

労災申請をしたいけれど、まだ不安に思うことや心配なことがあって、申請に踏み切れないという方もいるかもしれません。そのような方のために、ここでは、派遣社員の労災申請に関するよくある質問についてお答えします。

労災申請をしてしまったら解雇される?

労災申請をしたからといって解雇されることは通常ありませんし、虚偽の申請でない限り、不当解雇に当たるでしょう。

また、雇用主である派遣会社は、業務上の傷病によって労働者が休業する場合、休業期間およびその後の30日間は、労働基準法第19条の定めによって解雇できません。たとえ身体の傷病で労働できない場合でも、すぐに解雇されてしまうことはありません。

ただし、傷病のために労働できない状態が3年以上続く場合は、打切補償(労働基準法81条)として平均賃金の1200日分が支払われ、解雇される可能性はあるでしょう。

労災の休業期間中に契約が満了になったらどうなる?

業務上の傷病によって休んでいる間に、有期雇用契約の満了日を迎えたとしても、引き続き労災保険の給付を受けられます(労働基準法83条1項)。

労災の補償は雇用契約に関係なく、医師が治療完了と判断するまで続きます。お金のことが心配だからと、無理して新しい仕事を探すなどせず、まずは治療に専念しま指定病院だったかどうかで提出先が異なります。。

派遣会社や派遣先に損害賠償請求はできる?

派遣先に安全配慮義務違反が認められるのであれば、派遣先と派遣会社の両方に損害賠償請求ができます。安全配慮義務とは、企業が労働者の健康や安全に配慮せねばならないという義務のことです。

企業は作業環境の安全や心身の健康を保てるよう、必要に応じて対策を講じなければなりません。配慮を怠ったといえる状況であれば、損害賠償請求の余地があるでしょう。

損害賠償請求をする際は、派遣会社や派遣先に安全配慮義務違反があったという事実や、それによって労働者が傷病を負ったことを具体的に立証しなければなりません。専門的な知識も必要になりますので、弁護士に相談する方がよいでしょう。

まとめ

勤務中の傷病などについては、派遣社員であっても労災申請ができます。原則として派遣会社に報告しておこなってもらいますが、断られてしまうケースもあるかもしれません。

しかし、そのような場合でも、労災申請をして支給を受けられます。労災請求書の事業主の証明は絶対に必要というわけではなく、労働基準監督署に相談すれば手続を進めてもらえるでしょう。

また、派遣先に安全配慮義務違反があるなら、損害賠償請求ができる可能性もありますので、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

今すぐ無料相談電話相談OKの弁護士が見つかる!
ベンナビ労働問題で
労働問題に強い弁護士を探す
相談料無料※
労働問題に強い弁護士を探す
※一部の法律事務所に限り初回相談無料の場合があります

この記事の調査・編集者
アシロ編集部
本記事は法律相談ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。※法律相談ナビに掲載される記事は、必ずしも弁護士が執筆したものではありません。本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
    弁護士の方はこちら