成年後見
成年後見を弁護士に依頼するメリット|費用の目安や基本的な流れも解説
2023.06.30
親が認知症になったため、成年後見制度の利用を考え、弁護士への相談を検討している方も多いのではないでしょうか。
成年後見人制度の利用にあたり、弁護士に依頼するのがよいかどうか知りたい方も少なくありません。
特に資力にあまり余裕はない方であれば、できるだけ費用は安く抑えたいと考えるのは当然です。
ただし、弁護士への成年後見人の依頼に関しては注意点も多くあります。
成年後見人については親族間でトラブルになる可能性もあるため、早い段階で弁護士に相談するのがおすすめです。
本記事では、成年後見人の基本理解、成年後見人を弁護士に依頼するメリット・デメリット、成年後見人に弁護士を選ぶべきケース、成年後見人を任せる弁護士を選ぶ際のポイント、成年後見人の候補者となる弁護士を探すための方法、成年後見人に弁護士を選任する方法、成年後見人と弁護士についてよくある質問について解説します。
成年後見人にはどのような権限があり、どのような職務をおこなうのでしょうか。
以下、成年後見人の基本的な役割についてみていきましょう。
成年後見人には幅広い法律行為の権限が付与され、さまざまな代理権を有します。
成年後見人のおもな役割として、以下2つが挙げられます。
財産管理とは、成年被後見人本人の財産状況を詳細に分析して財産計画を立て、財産が適切に運用されるようにすることです。
具体的には、本人の預金残高や保険契約などを確認して年金や保険金などの収益を確保し、必要な支出をおこなって、それらを記録して管理します。
身上監護には、本人の生活や健康の維持、療養などに関わる役割があります。
身上監護人は、本人の意思や利益を尊重しながら必要な支援を提供します。
身上監護人の仕事には、具体的に以下のようなものがあります。
成年後見人は、成年被後見人の心身の健康や生活の質に配慮しながら、生活上の必要な支援や財産の適切な管理をおこなわなければなりません。
さらに、成年後見人は本人の意思や利益を尊重し、本人に代わって法律行為をおこなったり、本人の代理人として契約や訴訟などに関与したりすることができます。
このように、成年後見人は成年被後見人の権利や利益を守るために多くの義務を負っているのです。
(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)
第八百五十八条 成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
また、善管注意義務もあり、これは成年被後見人の財産管理業務を任された者が、自分の能力や社会的地位に応じて必要な注意を払うべき義務のことです。
この義務を怠り、被後見人やその財産に不利益をもたらした場合は、損害賠償責任を問われる可能性があります。
後見人は、常に善管注意義務を遵守することが求められます。
(受任者の注意義務)
第六百四十四条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。(委任及び親権の規定の準用)
第八百六十九条 第六百四十四条及び第八百三十条の規定は、後見について準用する。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
成年後見人になるには、特別な資格は必要ありませんが、一定の条件を満たす必要があります。
成年後見人になれない方は、以下のとおりです。
成年後見人を弁護士に依頼することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。
以下、メリットについて詳しくみていきましょう。
成年後見人制度とは、判断能力が低下した人の生活や財産を守るために、家庭裁判所が適切な人物を選んで後見人として任命する制度です。
成年後見人制度を利用するためには、家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てる必要があります。
この申し立てには、申立書や申立事情説明書などの書類が必要です。
また、後見人になった場合には、賃貸契約や医療契約などの手続きや、家庭裁判所への報告などの義務が発生します。
これらの手続きは複雑で時間がかかるため、弁護士に依頼するのがおすすめです。
弁護士に依頼すれば、申し立てから事務手続きまで全て代行してもらえます。
これによって、親族の負担を大きく減らすことができるでしょう。
被後見人の財産管理は、親族間のトラブルの原因になることがあります。
親族が成年後見人になると、利害関係や感情が入り込む可能性が高くなるでしょう。
そのため、弁護士などの第三者が成年後見人になることが望ましいです。
弁護士は、専門的な知識と経験をもち、公正かつ中立的な立場で被後見人の利益を守ってくれます。
判断力が低下すると、法的な問題に巻き込まれたり、不利な契約を結んでしまったりするリスクが高まります。
このような状況では、成年後見人が契約の無効化や解除などの権利を行使して、被後見人の利益を守る必要があるでしょう。
弁護士が成年後見人になると、被後見人が法的な問題に直面しても、権利を適切に行使してくれます。
その結果、被後見人の財産や契約関係を保護できたり、有利な契約を結べたりします。
親族が遠方に住んでいると、被後見人の日常生活や健康状態に目が届きにくくなります。
そこで、被後見人の住む地域の弁護士を成年後見人として選択するのがおすすめです。
弁護士は専門的な知識と経験をもっており、被後見人の近くにいれば本人の意思やニーズに沿ったサポートを提供してくれるでしょう。
成年後見人として弁護士が選任された場合、被後見人の死亡に伴う遺産相続の手続きに関する相談・依頼もおこなうことができます。
弁護士は被後見人の財産状況や遺族関係を把握しているため、相続人や遺留分の確定などの相談に応じやすく、依頼を受けた場合も迅速に対応できるでしょう。
弁護士は遺産相続に関する専門知識や経験も豊富なので、適切なアドバイスや代理業務が可能です。
成年後見人を弁護士に依頼すると、どのようなデメリットがあるのでしょうか?
以下、デメリットについて詳しくみていきましょう。
成年後見人は、必ずしも弁護士である必要はありません。
しかし、弁護士でない場合でも、基本的には成年後見人へ支払いをする必要があります。
報酬の金額は、家庭裁判所が後見人の能力や経験、被後見人の状況や財産の規模などを考慮して決められます。
報酬は、被後見人の財産から支払われることが一般的です。
財産金額 | 報酬(月額) |
---|---|
1,000万円以下 | 2万円 |
1,000万円〜5,000万円以下 | 3万円〜4万円 |
5,000万円以上 | 5万円〜6万円 |
成年後見人は、被後見人の財産に対して管理権をもっていますが、それは同時に不正行為の可能性も意味します。
実際、過去には成年後見人である弁護士が、被後見人の財産を不正に取得したという悲しい事例がありました。
成年後見人になるべき人物は、ケースバイケースで決める必要があります。
成年後見人は、判断能力が低下した人の財産管理や生活支援をおこなう重要な役割を担います。
そのため、成年後見人になる人は本人の意思や利益を尊重し、本人とのコミュニケーションを密に取ることができる人物であることも重要です。
成年後見人に弁護士を選ぶべきケースとして、以下のような場合が挙げられます。
親族間の関係が悪化している場合や、すでに相続について話し合っている場合などは、弁護士に依頼することが望ましいでしょう。
もし親族のひとりが成年後見人になった場合、被後見人(被相続人)の財産を不正に使われるおそれがあります。
さらに、他の相続人から不信感を持たれてしまい、遺産分割の交渉がより困難になる可能性もあるでしょう。
中立的な立場の弁護士を成年後見人にすることで、このような危険やトラブルを回避できます。
財産管理に関する手続きは、財産の金額や種類によって非常に複雑になることがあります。
たとえば、高額な財産を所有している場合や、土地・建物・株式などのさまざまな資産を所有している場合は、専門的な知識や経験が必要になるでしょう。
そのような場合は、弁護士に相談するのが賢明です。
弁護士は、財産管理の手続きをスムーズに進めるために、必要な書類の作成や提出、関係機関との交渉などを代行してくれます。
また、病気や高齢で医療機関や介護施設との連絡が多くなる場合も、弁護士に依頼するのがおすすめです。
弁護士は、医療や介護に関する契約や権利を確保するために、適切なアドバイスやサポートを提供してくれます。
これにより、親族の精神的・経済的な負担を軽減することができるでしょう。
遠方に住んでいる親族が成年後見人になると、被後見人の生活や財産の管理に関わることが多くなります。
しかし、距離や時間の制約があると、適切なサポートを提供することが困難になる場合もあるでしょう。
そこで、被後見人の近隣にある法律事務所の弁護士に成年後見人を依頼する方法があります。
この方法であれば、親族は成年後見人である弁護士と連携しながら被後見人の状況を把握し、必要に応じて介入することができるでしょう。
同時に、被後見人も専門的な知識と経験をもつ弁護士から適切なサポートを受けることができます。
成年後見人としての能力はもちろん重要ですが、それだけでは不十分です。
成年後見人と被後見人の間には信頼関係が必要になります。
弁護士が成年後見人になる場合、法律的な知識や経験を活かして被後見人の利益を守ることができますが、同時に被後見人の意思や感情を尊重することも大切です。
制度の目的は、被後見人の自立を支援することです。
そのためには、弁護士と被後見人の相性がよいことが望ましいでしょう。
相性が悪いと、弁護士の提案に反発したり、協力的でなかったりする可能性があります。
その結果、制度の効果が低下したり、成年後見契約が解除されたりするリスクが高まります。
成年後見人を任せる弁護士を選ぶ際のポイントとして、以下の点が挙げられます。
成年後見人の依頼は、電話から始めることが多くあります。
電話では弁護士か事務員が対応しますが、音声だけの場合は声だけで判断するので、相手の態度がよくわかるでしょう。
また、面談時には弁護士の服装も見ておきましょう。
弁護士もサービス業なので、依頼人に対する最低限の礼節があるかどうかも考慮することが大切です。
さらに、依頼人の話を遮らず、最後まで真剣に聞いてくれる弁護士は信頼できるといえます。
成年後見人は敏感な問題であり、家族もやむを得ず選択する場合が多いので、要望をきちんと聞いてくれる弁護士が理想的です。
成年後見人は、本人の意思を尊重しながら、生活や財産の管理をサポートします。
初めての方は、「本当に必要なのか?」「弁護士に頼んでも大丈夫なのか?」という不安を感じることが多いでしょう。
残念ながら、一部の弁護士は、「どうするんですか?決めてくださいよ」などのように、無理やりに進めようとしたり、高圧的な態度をとったりすることがあります。
このような弁護士とは、信頼関係を築くことはもちろん、大切なご家族の身上監護や財産管理を任せることは難しいでしょう。
ですから、成年後見制度を利用する場合は、親身に相談に乗ってくれる弁護士を選ぶことが重要です。
成年後見人の依頼費用については、弁護士によって対応が異なります。
なかには、費用の説明をせずに契約を迫る弁護士もいますが、このような弁護士は信用できません。
費用の説明がないと、後見終了後に高額請求される可能性があります。
信頼できる弁護士は、費用の内訳や計算方法を明確に示してくれます。
成年後見人の依頼は長期的な関係になることが多いので、費用面で不安を抱えないように相談前に必ず確認しましょう。
成年後見人は、どのように探せばよいのでしょうか。
以下、候補者となる弁護士の探し方についてみていきましょう。
知人からの紹介で依頼する弁護士は、初対面でも安心感が持てるという利点があります。
知人との関係にもよりますが、緊張せずに相談できるでしょう。
一方で、紹介された弁護士とご自身の相性が合わなかった場合は、変更するのが難しいという欠点もあります。
インターネットで弁護士を検索することで、自分の希望する条件に合った弁護士を空いた時間などに手軽に探せます。
しかし、インターネット上の情報が正確かどうか判断するのが難しい場合があります。
ただ、ご自身と相性のよい弁護士を見つけるためには、インターネット検索は最も手軽で効果的な方法だといえるでしょう。
ポータルサイトなどで、無料相談先を探す方法もあります。
依頼者と弁護士とのコミュニケーションは、メールや電話だけでなく、対面でおこなうことが必要な場合もあります。
たとえば、訴訟を起こすときは、法律事務所に足を運ぶ回数が多くなるかもしれません。
そのため、弁護士事務所の立地条件も重要な選択基準のひとつです。
成年後見人の候補者となる弁護士を探す際は、「ベンナビ相続」がおすすめです。
ベンナビ相続では、相続や成年後見制度の問題に対応できる弁護士を見つけることができます。
また、プロフィールや実績、料金などを比較して、あなたのニーズに合った弁護士を選べます。
多くの弁護士は無料相談もおこなっています。
認知症などで判断能力が低下した方のための成年後見制度について詳しく説明し、最適な解決策を提案してくれるでしょう。
紹介制度を利用することで、弁護士との関係に問題が生じたときに、直接本人に伝える必要がなく、紹介元である弁護士会に連絡すれば対応してもらえます。
これは、弁護士に対して不満や不信感を感じている場合や、直接言いにくい場合でも、安心して相談できる環境を提供してくれるということです。
ただ、紹介制度を利用するには通常、弁護士会や地方自治体の窓口に出向く必要があります。
窓口での対応時間は限られていますし、仕事や家庭の都合で出向くことが難しい場合もあるでしょう。
成年後見人の依頼を弁護士にする場合、まずは信頼できる弁護士を見つけなければなりません。
弁護士と相談して、後見開始の審判の申立書を作成していきます。
成年後見人に弁護士を選任する方法として、以下2つが挙げられます。
家族の生活や財産など大切なことを依頼するわけですから、信頼関係が築ける弁護士に依頼したいものです。
以前に別の用件でお世話になった弁護士がいれば、その方に相談してみるとよいでしょう。
心当たりがない場合は、成年後見制度に詳しい法律事務所や、地元の弁護士会が運営する法律相談センターなどに問い合わせてみるのがおすすめです。
相談の過程で丁寧に説明してくれたり、親切に対応してくれたりと、信頼できる弁護士を見つけるチャンスがあります。
成年後見人になるには、家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てる必要があります。
このとき、弁護士を成年後見人の候補者として指名することができます。
ただし、最終的には家庭裁判所が成年後見人を決定するので、候補者として指名された弁護士が必ずしも成年後見人になるとは限りません。
成年後見人と弁護士については、事前に把握しておいたほうがよい項目がいくつかあります。
こちらでは、成年後見人と弁護士に関してよくある以下の質問について解説します。
成年後見などの申し立てについて弁護士や司法書士に相談する費用は、法律事務所によって異なります。
中には無料相談をしているところや、初回相談料が安いところもあるでしょう。
なお、申し立てを依頼する場合は、数万円から数十万円程度の費用がかかります。
成年後見等の申立費用は、申立人が支払わなければなりません。
被後見人となるべき者に多額の財産がある場合や親族間で意見の対立がある場合、賃貸不動産を複数所有していて財産管理が難しい場合などは、家庭裁判所は家族に後見を任せないことが一般的です。
また、親族が財産を横領する可能性も考慮する必要があります。
しかし、親族も成年後見人に選ばれているため一概にはいえません。
親族 | 7,560件 |
---|---|
親族以外 | 32,004件 うち弁護士:8,682件 司法書士:11,764件 社会福祉士:5,849件 市民後見人:271件 |
合計 | 39,564件 |
【参考元】成年後見関係事件の概況|裁判所
また、親族は被後見人の信頼を得ており、本人の性格や希望に沿った判断ができると考えられます。
親族が成年後見人になると、報酬が発生しないため、被後見人の財産を守ることができるでしょう。
ただし、後見人が「報酬付与の申し立て」をおこなえば、報酬を受け取ることができます。
市民後見人とは、市町村が実施する養成研修を受講し、成年後見に関する一定の知識や態度を身につけた方の中から家庭裁判所によって成年後見人などに任命された人物です。
市民後見人は、親族や知人などの関係者がいない場合や、本人の意思を尊重した後見等事務をおこなうことが困難な場合に、本人の生活環境や希望に応じて適切な支援を提供できます。
親族後見人や専門職後見人との違いは、以下のとおりです。
成年後見人を弁護士に依頼せずに放置してしまうと、親族間でトラブルになったり、複雑な手続きが進められない可能性があります。
一方で成年後見人を弁護士に依頼することで、トラブルを防いで全ての手続きを一任できます。
成年後見人は、限られた時間で選任しなければなりません。
しかし、これらの手続きを全てご自身でおこなうのは難しいでしょう。
成年後見人についてスムーズに決定するためにも、早い段階で弁護士に相談するのがおすすめです。
費用はかかりますが、成年後見人選任までの全ての手続きを一任できるため、ご自身の負担を軽減できるうえに、信頼できる成年後見人を選任することができます。
成年後見制度を利用する際は、なるべく早く専門家である弁護士に相談するのがおすすめです。