遺留分
孫に遺留分はある?認められるケースと遺留分侵害額請求の手順をわかりやすく解説
2024.08.09
遺言によって特定の相続人に遺産をできるだけ多く残したい場合、ほかの相続人から遺留分の請求をされてしまう可能性があります。
そのため、相続の際に遺言どおりの遺産分割を実現するには、被相続人の生前に遺留分の放棄をしてもらわなければなりません。
しかし、遺留分の放棄には家庭裁判所への申し立てのうえで、許可を得る必要があるため、手続き方法やどうしたら認められるかを抑えておく必要があります。
本記事では、生前に遺留分放棄をしてもらいたい方に向けて、遺留分放棄の方法や認められるケース、メリットを解説します。
遺留分の放棄は、被相続人の生前におこなうことが可能です。
ただし、被相続人の生前に遺留分を放棄するには、家庭裁判所に申し立てたうえで許可を得る必要があります。
仮に、「自分は遺留分を放棄する」といった念書を作成していたとしても、念書だけでは法的な効力を持たない点に注意が必要です。
生前に遺留分放棄を放棄してもらうことで、遺言に基づいた遺産分割ができ、被相続人の意向に沿った相続ができます。
遺留分は被相続人の遺言によっても奪えない権利であるため、遺留分を主張されてしまうと、遺言があってもそのとおりの相続ができなくなるでしょう。
生前にあらかじめ遺留分放棄の申し立てをしておいてもらえば、相続発生後の遺留分の請求を避けられるため、特定の相続人に遺言どおり財産を引き継ぐことができます。
遺留分放棄とよく似た制度に、「相続放棄(民法第915条)」があります。
相続放棄も遺留分放棄と同じく、相続財産を引き継ぐ権利を失うものですが、以下の点で違いがあります。
項目 | 遺留分放棄 | 相続放棄 |
裁判所への申し立ての時期 | 被相続人の生前 | 被相続人の死後 |
相続人の地位 | 失わない | 失う |
相続財産 | 遺留分のみ放棄 | 放棄 |
相続債務 | 負担する | 放棄 |
代襲相続 | 遺留分を除いた相続権を引き継ぐ | 発生しない |
他の相続人の取得分 | 遺留分は変わらない | 法定相続分が増える |
家庭裁判所の判断 | 慎重におこなわれる | 基本的に受理される |
最も重要な違いは、放棄することで相続人の地位を失うかどうかでしょう。
相続放棄では、相続人の地位を失い、始めから相続人でなかったとみなされます。
そのため、借金などの相続債務も放棄できます。
また、相続人が死亡していた場合にその子どもが代わりに相続する「代襲相続」も認められません。
一方遺留分放棄では、遺留分を放棄しても相続人の地位は失われないため、相続債務の負担義務は免れません。
その他の相続人にとっても、遺留分の放棄では特に影響を受けない一方で、相続放棄では法定相続分が増加するという違いがあります。
また、相続放棄も遺留分放棄も家庭裁判所に申し立てをおこないますが、遺留分の権利を失いながら相続権は残る遺留分放棄は厳格に判断されます。
しかし相続放棄では、明らかに却下すべきケース以外の申請は基本的に受理され、入念な審理はおこなわれません。
家庭裁判所は、以下の3つの基準によって遺留分放棄を許可すべきかを判断します。
それぞれの基準について、詳しく解説します。
遺留分放棄の申し立てで家庭裁判所が最も重視するのは、本人の自由意思によるものかどうかです。
遺留分放棄は、申立人より被相続人や他の相続人が得る利益が大きく、申し立てを強要されることがあるからです。
遺留分を放棄する合理的な理由があれば、申立人が自分の意思で申し立てたことが推認されます。
申立人が遺留分放棄に対して十分な代償を得ている場合、遺留分放棄は認められやすくなります。
代償がないと、相続権を放棄したにも関わらず相続債務だけを負担することになりかねません。
申立人に十分な代償が支払われたうえで遺留分放棄がなされていると、遺留分放棄に合理的な理由があると考えられます。
放棄をする理由についても、家庭裁判所から合理性や必要性の説明が求められます。
以下のような事情があると、合理的であると認められます。
合理的かつ必要性があると認めてもらうためには、裁判所への伝え方が重要です。
裁判所に納得してもらえるような説明を心がけ、不安に感じるのであれば弁護士など専門家の力を借りましょう。
遺留分放棄は、遺留分をもつ推定相続人が申立人となり、相続開始前に家庭裁判所に申し立てなければなりません。
提出後は家庭裁判所の審問を受け、申し立てが自由意思によっておこなわれたかどうかを判断されます。
家庭裁判所に提出する書類は、以下のとおりです。
申立書を提出する際は、収入印紙800円分を同時に提出しなければなりません。
また、裁判所からの連絡用に郵便切手をあらかじめ同封する必要があります。
郵便切手の額面や組み合わせは各地の家庭裁判所により異なります。
申し立て予定の家庭裁判所に確認しましょう。
申立書は、一式郵送または持ち込みで、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。
提出後、家庭裁判所の担当書記官より、不明な部分の説明や追加の書類提出を求められることもあります。
裁判所の指示に応じるようにしましょう。
申し立て後、書類審査に通ると、裁判官との面談日(審問)が指定された通知が届きます。
申立人となる遺留分権利者は、指定された日に裁判所に出頭し、そこで裁判官から申し立ての理由や事情などの確認を受けます。
審判の結果は、後日家庭裁判所から書面で通知されます。
遺留分放棄の却下に不満がある場合は、2週間以内に即時抗告することもできます。
生前の遺留分放棄では、被相続人は遺留分放棄の効果を相続に反映するように遺書を遺さなければいけません。
また、遺留分を放棄する相続人は放棄によって不利益な立場に追い込まれないよう、注意しなければならないことがあります。
ここでは、被相続人と遺留分を放棄する人それぞれの注意点について解説します。
遺留分放棄を生前にしてもらっていても、希望の相続配分を遺言で遺していなければ意味がありません。
遺言書を遺していなければ、遺産を法定相続割合または任意の割合のどちらで分けるか、遺産分割協議で相続人同士が話し合って決めることになり、被相続人の意思の反映ができないからです。
たとえば、一人の相続人に事業を承継させるためにある相続人に遺留分放棄の申し立てをしてもらったとしても、遺言書を作成せず生前贈与もしていなければ、遺産分割協議ののち、財産は法定相続分を基準に分けられるのが通常です。
その際、遺留分放棄を申し立てた相続人は相続権まで失ったわけではないため、遺産分割協議に参加し、相続分を主張することもできます。
生前に特定の相続人に遺留分を放棄させた後には、遺言書で希望の相続方法を指定しておきましょう。
遺留分を放棄しても相続権は残るため、借金などの相続債務の負担義務は失いません。
相続放棄と違い、遺留分放棄は相続人としての地位を失うわけではないため、相続分割合によって債務を相続する義務が発生するからです。
遺留分の放棄は、債務の負担義務は失わず遺留分を請求する権利だけを放棄する法律行為なので、申立人はそのこともよく理解したうえで手続きをおこなわなければなりません。
なお、遺留分放棄手続きに対する理解がないまま、被相続人に言われたとおりに放棄を申し立てても、合理的な理由がなければ家庭裁判所の許可は下りません。
遺留分放棄の決定は簡単には覆せません。
遺留分放棄の許可は家庭裁判所の審議のうえで決定されているので、撤回するには再度家庭裁判所に申し立て、取り消しの許可を得なければならないからです。
そのうえ取り消しは、相続開始後はよほどのことがない限り認められません。
例外として、以下のように事情が変わったときには、取り消しが認められる可能性があります。
このように遺留分放棄をした理由に根本的な事情変更があった場合であれば、取り消しに合理性があるとして認められる可能性もあります(家事事件手続法第78条1項)。
相続が開始したあとに、遺留分放棄を裁判所に申し立てる手続きはありません。
被相続人の死後は、遺留分の放棄が被相続人によって強要されることは考えにくいからです。
遺留分を請求するかどうかは、遺留分を請求できる権利をもつ人によって自由に判断されます。
「遺留分を請求しない」と遺留分権利者が決めたのであれば、遺留分を侵害していた人との間で合意書面を作成しておくと安心です。
任意で遺留分を放棄してもらうためには、対象となる相続人とよく話し合い、相当の対価を払うなどして納得してもらうようにしましょう。
また遺留分の請求には、相続開始と遺留分を侵害されていることを知ってから1年、または相続が開始してから10年の時効があります。
放棄の合意を得られなくても時効が完成すれば、遺留分を請求する権利は失われるのです。
遺留分の放棄とは、被相続人の生前に、遺留分権利者が家庭裁判所に申し立てて許可を受ける方法です。
遺留分を放棄してもらえば、相続開始後にトラブルに発展することなく、被相続人の希望どおりの相続ができます。
その際には忘れず遺言書を準備し、遺留分放棄後の相続財産の分配を指定しておきましょう。
ただし遺留分は一定範囲の相続人に保障された最低限の相続分であるため、その相続人の自由意思によって放棄するかどうかが決まります。
強制的に遺留分をはく奪することは、特別な事情がない限り認められません。
遺留分の放棄は、被相続人にとっては希望どおりに財産を分けられるメリットがありますが、放棄する相続人にはデメリットの多い制度です。
任意で遺留分放棄をしてもらいたいのであれば、それに見合うだけの代償を支払うなどして、十分な話し合いをおこないましょう。