遺産分割に時効は存在する?相続に関連する時効や遺産分割協議のやり直しを解説

遺産分割に時効は存在する?相続に関連する時効や遺産分割協議のやり直しを解説

親族が亡くなり、相続人で遺産分割をおこなわなくてはならないことはわかっているものの、面倒で長らく放置しているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

あまりに長く放っておいてしまうと、以下のように心配になる方もいるでしょう。

  • 「遺産分割に時効はあるのだろうか?」
  • 「このまま放っておいたらさすがにマズイのでは?」

しかし、遺産分割自体には時効はありません。いつおこなってもかまわないのです。

とはいっても、あまりに長い時間、放っておくのはおすすめできません。

いくつかの相続手続きには時効があり、知らない間に時効が成立してしまえば損をするかもしれないからです。

本記事では、遺産分割を放置するリスクの他、遺産相続手続きに関する時効の他、遺産分割のやり直しについても解説します。

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この記事を監修した弁護士
葛城 繁弁護士(葛城法律事務所)
相続問題を中心に分野を問わず幅広い法律問題に対応。 『ご依頼者の利益が最大限になるためのサポート』となることを心掛け、的確なアドバイスを伝えられるよう客観的視点を忘れず、日々、業務と向き合っている。

遺産分割自体に時効はない

遺産分割に時効はありません。

そのため、被相続人の死後何年経過してからでも遺産分割協議はおこなえますし、家庭裁判所への遺産分割調停申し立ても受け付けてもらえます。

いつ分割しようと問題ないのです。

しかし、いつまでも放置していると別のリスクが発生するため、早めにおこなうのが賢明です。

遺産分割を放置し続けることの3つリスク

遺産分割自体には時効がなく、いつでも分割することは可能です。

しかし、遺産分割を放置していると別のリスクが発生してしまいます。

下記で遺産分割を放置したさいに起こる、3つのリスクについて解説します。

1.遺産の相続が一切できない

遺産分割に時効がないからといって放置したままにしていると、いつまで経っても相続人は遺産を相続できません。

どんな財産を相続するにも、必ず相続人全員での遺産分割協議を経たうえで分割しなければならないからです。

特に被相続人と家計を同じくしていた相続人がいれば、困ることもあるでしょう。

遺産分割が完了するまで、被相続人の遺産は使えないため、生活に支障が出る可能性が高いからです。

遺産分割に時効はないとはいえ、あまり長く放っておくのも相続人にとってデメリットとなります。

2.数次相続になり手続きが煩雑に

特に相続人の中に高齢の方がいらっしゃる場合、遺産分割をしないままでいるうちに亡くなってしまうかもしれません。

その場合、さらに相続が発生する「数次相続」が起こる可能性があります。

先に発生した相続の遺産分割をおこなったうえで、次の相続の遺産分割をおこなわなくてはならず、非常に複雑な手続きになるでしょう。

相続人だけでおこなえたはずの遺産分割が煩雑化し、専門家に依頼せざるをえなくなるケースもあります。

余計な費用がかかってしまい、損をすることもあるでしょう。

下記記事で数次相続について詳しく解説しているので、興味がある方はぜひご覧ください

【関連記事】【事例有】数次相続とは相続開始後に相続人が死亡し次の相続が始まる事

3.遺産分割以外の時効が成立してしまう

相続手続きの中には時効のあるものもあります。

遺産分割をしなければ進められない手続きもあり、知らない間に時効が成立して大きな損をする可能性もあります。

遺産分割自体に時効がなくても、早めに遺産分割を進めるのが賢明といえるでしょう。

遺産相続手続きに関する5つの時効

遺産相続において時効のある手続きには、以下の5つが挙げられます。

思わぬデメリットを被らないためにも、どのような手続きに時効があるか知っておきましょう。

1.相続放棄の手続きの時効

相続放棄をするには、相続開始を知ったときから3か月以内に家庭裁判所へ申述の申し立てをおこなわなければなりません。

相続放棄とは、プラスもマイナスも含めたあらゆる遺産の相続を放棄することをいいます。

特に被相続人が多額の負債を残して亡くなったケースや、他の相続人と一切関わりたくない場合に有効な手続きといえるでしょう。

しかし、3か月以内に相続放棄の申述を申し立てなければ、自動的に「単純承認」という相続方法を選択したとみなされます。

マイナス分を含む全ての遺産を相続することになり、多額の負債を抱える可能性もあるのです。

そのような事態を避けるためにも、相続開始後はできるだけ速やかに相続に関する手続きを開始すべきです。

2.遺留分侵害額請求権の時効

遺留分が侵害されていて、侵害額を請求したい場合にも1年という時効があります。

遺留分侵害額請求権とは、遺言による遺贈や生前贈与によって不公平な遺産分割がおこなわれ、遺留分に相当する金額すら受け取っていない場合、侵害額の支払いを請求できる権利です。

この遺留分侵害額請求権は、被相続人が亡くなったこと、さらに遺贈や生前贈与があったことを知ってから1年以内に行使しなければなりません。

「請求権の行使」というと難しく聞こえますが、遺産を多く受け取った相続人に対して遺留分相当額を支払うよう求めるだけです。

口頭で請求してもかまいませんが、後で争いにならないよう、証拠が残る配達証明付き内容証明郵便を利用するのが望ましいでしょう。

3.相続回復請求権の時効

相続人でない人が相続人のふりをして遺産を取得したために、自分の相続権が侵害されている場合、相続回復請求権を行使して、その人が取得した遺産を取り返すことができます。

この相続回復請求権にも時効があり、相続権の侵害がおこっていることを知ってから5年、知らなかった場合は20年です。(民法884条)

4.被相続人の債務の時効

債務の消滅時効は、債権者が権利を行使できることを知ってから5年です。

つまり、被相続人が長期にわたって借金を支払っていなかったり、債務を相続した相続人が債務を支払えなかったりして、その支払い期日から5年が経過すれば、時効によって債務は消滅します。

ただし、5年が経過すれば自動的に債務が消滅するわけではありません。

債権者に対して消滅時効を援用する旨を通知する必要があります。

通知方法に決まりはありませんが、時効の援用をしたという証拠を残すためにも、配達証明付き内容証明郵便の利用をおすすめします。

5.共同相続人による遺産の取得の時効

分割すべき遺産であるにもかかわらず、特定の相続人が占有している場合、その占有が20年以上にわたるのであれば取得時効が成立し分割対象とはならない可能性があります。

取得時効については、民法第162条1項で次のように定められています。

第百六十二条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。

引用元:民法|e-Gov 法令検索

ここでいう「所有の意思」とは、それが「自分のものだと確信する」ということです。

その遺産が当然自分のものであり、分割すべき遺産であるとは思いもよらないと考えている状態を指します。

取得時効を主張できる例としては、親が祖父母の残した家に20年以上住み続けているケースなどが挙げられます。

この家は祖父母の遺産であり、本来ならば遺産分割の対象です。

しかし、親が亡くなれば、その事実を知らない子どもは当然相続します。

親の兄弟から、家は祖父母の遺産であり分割することを主張されても、取得時効が成立しているため、子どもは応じなくてよいのです。

この例のように、取得時効は数次相続が起こった際に援用できる可能性のあるものです。

一般的な相続では、「所有の意思」が認められないため発生しえません。

相続登記には時効はない|ただし2024年4月1日から3年以内の義務化に

2022年現在では、不動産を相続した場合の相続登記に時効はありません。

しかし、時効がないとはいえ、相続登記はできるだけ早めにおこなった方がよいでしょう。

いつまでも登記せずに放置していると、次の相続が発生して遺産分割が複雑になったり、認知症となる相続人が現れて相続手続きが難しくなったりするなど、より大変な事態になる可能性が高いからです。

なお、2024年4月1日以降は不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記をしなければならなくなるので注意しましょう。

>相続登記を自分でおこなう方法について詳しく知る

遺産分割のやり直しに時効はある?やり直しをする際の注意点

遺産分割は基本的に一度で完了すべきものです。

しかし、必要があり、一定の条件を満たしているならやり直してもかまいません。

どのような場合に遺産分割をやり直せるのか、やり直す場合の注意点についても解説します。

遺産分割のやり直しは一定の条件を満たせば可能

遺産分割は次のようなケースでやり直すことができます。

遺産分割後に新たな財産が見つかる

遺産分割協議を経て遺産分割をした後に新たな財産が見つかった場合は、必ず遺産分割をおこないます。

しかし、初めからやり直す必要はなく、新たに見つかった分についてのみ協議、分割すれば問題ありません。

相続人全員が合意している

相続人全員が遺産分割協議のやり直しに合意すれば、もう一度遺産分割をおこなえます。

ただし、合意は全員分必要で、一人でも反対していればできません。

また、遺産分割協議をやり直すなら、必ず遺産分割協議書も作り直します。

さらに、以前作成した遺産分割協議書の破棄も忘れずにおこなうことも大切です。

誤った内容で相続手続きを進めてしまえば、さらなるトラブルが起こる可能性があるためです。

遺産分割協議が無効であった

遺産分割協議が無効となる場合もやり直さなくてはなりません。

遺産分割協議は次のようなケースで無効となります。

  • 後になって新たな相続人の存在が発覚するなど、遺産分割協議に参加していない相続人がいた
  • 相続人ではない人が遺産分割協議に参加していた
  • 相続人の中に認知症で判断能力のない人がいた
  • 相続人の中に未成年がいるにもかかわらず、法定代理人を立てていなかった

相続人の誰かが遺産分割協議を取り消しにした

次のような場合は遺産分割協議を取り消し、協議のやり直しを求められます。

  • 詐欺があった
  • 脅迫があった
  • 大きな誤解をしていた

もし相続人の中にやり直しに反対する人がいて対応してもらえない場合は、遺産分割協議無効確認請求事件として訴訟を申し立てることになります。

遺産分割をやり直すときの注意点

遺産分割をやり直す際は、以下の点に注意しましょう。

第三者の権利を侵害することはできない

遺産分割をやり直すことになっても、相続人以外の第三者の権利を侵害することはできません。

たとえば、先に作成した遺産分割協議書をもって、すでに不動産を売却してしまっていた場合、売却先から該当不動産を取り戻すことはできません。

遺産分割をやり直すといっても、全てを無効にして初めからやり直せるわけではないので注意しましょう。

不動産取得税、登録免許税が発生してしまう

遺産に不動産が含まれる場合は、遺産分割のやり直しによって不動産取得税や登録免許税がかかる可能性があります。

所有者が変更となれば、贈与または売買とみなされるため、不動産取得税がかかります。

また、相続登記のやり直しによって、登録免許税がもう一度かかります。

遺産分割をやり直せば税負担が倍増しかねないため、どうしてもやり直したい場合は、あらかじめ税理士に税額を確認のうえおこなう方がよいでしょう。

二重に課税される

遺産分割のやり直しによって、当初とは別の人が遺産を相続すれば、贈与や売買とみなされるため、二重に課税される可能性があります。

その結果、相続税とは別に贈与税や所得税が発生し、本来支払う必要のなかった税金まで支払う必要が生じるのです。

まとめ

遺産分割自体に時効はありません。

だからといっていつまでもおこなわなければ、知らない間に他の相続手続きの時効が成立してしまい、思わぬ損害を被る可能性もあるため、できるだけ早めに進めるのが賢明です。

時効のある手続きにはどのようなものもあるかを知り、計画的に遺産分割をおこないましょう。

わからないことがあったり、相続人同士での話し合いがまとまらなかったりして、遺産分割をなかなか進められないなら、早めに弁護士に依頼することをおすすめします。

弁護士の協力によって、すぐに解決する問題もあるはずです。

遺産相続で思わぬ損をしないためにも、遺産分割をはじめとした相続手続きは早めに着手しましょう。

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この記事の調査・編集者
アシロ編集部
本記事は法律相談ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。※法律相談ナビに掲載される記事は、必ずしも弁護士が執筆したものではありません。本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
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