遺留分の計算を具体例を用いて分かりやすく解説!侵害判明後の対応も紹介

遺留分の計算を具体例を用いて分かりやすく解説!侵害判明後の対応も紹介

遺言や生前贈与によって不公平な相続が起こったことを知り「自分は遺留分すらもらっていないのでは?」と不安に思い、計算方法を知りたい方もいらっしゃるでしょう。

遺留分は、遺留分の基礎となる財産×遺留分の割合で計算します。

そのためには、基礎となる財産を正しく算出し、遺留分の割合を理解しなければなりません。

自分のケースではいくらくらいになるのかを確認し、遺留分に満たない場合は速やかに遺留分侵害額請求をおこないましょう。

本記事では、遺留分の計算手順を解説する他、遺留分侵害額請求の手順についても紹介します。

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この記事を監修した弁護士
大隅 愛友
大隅 愛友弁護士(弁護士法人ベストロイヤーズ法律事務所)
遺産分割/不動産の相続/遺留分請求/遺産の使い込みトラブル/遺言書の作成など相続トラブルはご相談ください!経験・実績豊富な弁護士が納得いく解決を目指します。

遺留分の計算方法

まずは、遺留分として自分がもらえる金額の計算方法からご紹介します。

遺留分の計算は次の手順でおこないます。

  1. 遺留分を算定するための財産の価額を算出する
  2. ①で求めた金額に遺留分割合を掛けて、総体的遺留分を計算する
  3. 総体的遺留分に法定相続割合を掛けて、個別的遺留分を求める

「遺留分を算定するための財産の価額」を求める

「遺留分を算定するための財産の価額」とは、被相続人の遺産の合計価額を指します。

相続開始時に被相続人の手元に残っていた財産だけでなく、生前贈与分も加算し、さらに負債分を差し引いて算出します。

【計算式】
「遺留分を算定するための財産の価額」=「被相続人が相続開始時に有していた財産の価額」+「被相続人が贈与した財産の価額」-「債務」

計算式中のそれぞれの値についても知っておきましょう。

1.被相続人(亡くなった人)が相続開始時に有していた財産の価額を求める

「被相続人が相続開始時に有していた財産の価額」とは、被相続人が亡くなったときに所持していた財産の総額です。

預貯金や不動産、株式、現金、自動車など各財産の評価額を確認のうえ、合計します。

評価額の算出方法は財産の種類によって異なります。

預貯金のうち、残高であれば、通帳や残高証明書を参照するだけと容易に確認できるでしょう。

亡くなる直前に多額の引出しがあるような場合には、被相続人のために用いられた金額や贈与された金額以外は債権として遺留分の計算に含めることができる可能性があります。

一方、遺産に預金以外の財産が含まれる場合は評価が難しいといえます。

特に不動産の価額の評価方法は複数あるため、相続人同士で争いが起こる可能性が高いです。

遺産に不動産が含まれるなら、弁護士に相談するのが賢明でしょう。

また、他の相続人が相続発生後に勝手に処分した財産があれば、その分も忘れずに加算します。

2.生前贈与の価格をプラスする

以下に挙げるような生前贈与は遺留分の対象となります。

第三者に対する生前贈与と相続人に対する生前贈与は対象とできる期間が異なりますので注意が必要です。

【第三者に対する贈与】

  • 相続開始前1年間の贈与(民法第1044条1項前段)
  • 1年以上前であっても、被相続人と贈与を受けた相続人の両方が、その贈与によって遺留分権利者に損害を与えると知りながらおこなった場合の贈与(民法第1044条1項後段)

【相続人に対する贈与】

  • 相続開始前の10年間に婚姻、養子縁組、生計の資本のいずれかとして受けた贈与(民法第1044条3項)

【不相当な対価でなされた有償行為】

  • 不相当な対価をもってした有償行為であり、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えると知りながらおこなった負担付贈与とみなされるもの(民法第1045条2項)

引用元:民法 | e-Gov法令検索

「被相続人が相続開始時に有していた財産の価額」には、これらの贈与額も含まれます。

3.負債を引く

被相続人が負債を残していた場合は、その全額を全体から差し引きます。

総体的遺留分を計算する

「総体的遺留分」とは、全遺産のうち遺留分として認められる金額のことです。

その値は次の計算式で算出します。

【計算式】
総体的遺留分=「遺留分を算定するための財産の価額」×「遺留分の割合」

なお、遺留分の割合については、この章の最後に表でまとめているのでご参照ください。

個別的遺留分を求める

最後に「個別的遺留分」を計算します。

個別的遺留分とは各相続人が遺留分として取得できる金額のことです。

総体的遺留分にそれぞれの法定相続割合を掛ければ算出できます。

【計算式】
個別的遺留分=「遺留分の対象金額(総体的遺留分)」×「各遺留分権利者の法定相続割合」

遺留分権利者と相続する財産に占める遺留分の割合

相続する財産に占める各人の遺留分の割合をまとめると、以下の表のとおりです。

相続人のパターン遺留分割合法定相続割合相続する財産に占める遺留分の割合
配偶者のみ1/211/2(=1/2×1)
子1人のみ1/211/2(=1/2×1)
子2人※11/21/21/4ずつ(=1/2×1/2)
配偶者と子1人1/2配偶者:1/2
子:1/2
配偶者:1/4(=1/2×1/2)
子:1/4(=1/2×1/2)
配偶と子2人※11/2配偶者:1/2
子:1/4
配偶者:1/4(=1/2×1/2)
子① :1/8(=1/2×1/4)
子② :1/8(=1/2×1/4)
配偶者と親※21/2配偶者:2/3
親:1/3
配偶者:1/3(=1/2×2/3)
親:1/6(=1/2×1/3)
直系尊属(被相続人の親や祖父母)のみ1/311/3
兄弟姉妹のみ0遺留分はなし
配偶者と兄弟姉妹配偶者:1/2
兄弟姉妹:0
配偶者:1配偶者:1/2
兄弟姉妹:なし

※1 子の分は、配偶者取得分を控除した残りの2分の1を子の数で等分する。
※2 被相続人の両親とも存在しているときは、さらに等分し、父親12分の1、母親12分の1になる

遺留分の額を知りたい方は、下記記事も参考にしてみてください。

【参考記事】遺留分の計算方法|割合がすぐわかるシミュレーション付き|ベンナビ相続

ただし、あくまで目安ですので、正確な金額を知りたい方は弁護士に相談することをおすすめします。

遺留分の計算を具体的な例を用いて紹介

もう少し理解を深めるために、具体的な事例で考えてみましょう。

例1.配偶者と子供3人で相続するときの各相続人の遺留分

  • 被相続人の遺産:6,000万円
  • 相続人:配偶者と子3人

ただし遺言によって6,000万円を全て愛人に贈与してしまったとします。

この場合、遺留分の割合は2分の1なので、総体的遺留分は6,000万円×1/2=3,000万円となります。

法定相続割合は次のとおりです。

  • 配偶者:1/2
  • 子1人あたり:1/6

よってそれぞれの遺留分は以下のようになります。

  • 配偶者の個別的遺留分:3,000万円×1/2=1,500万円
  • 子1人あたりの個別的遺留分:3,000万円×1/6=500万円

例2.相続人のうち一人だけ生前に贈与されていたときの各相続人の遺留分

  • 被相続人の遺産:1,000万円(負債なし)
  • 相続人:配偶者と子2人

ただし、生前に子の1人に3,000万円の贈与があったとします。

この場合、最初に「遺留分を算定するための財産の価額」を求めましょう。

遺産1,000万円に生前贈与分の3,000万円を加えた4,000万円が、その値になります。

遺留分の割合は2分の1なので、総体的遺留分は4,000万円×2分の1で2,000万円と計算できます。

さらに、それぞれの法定相続割合は以下のとおりです。

  • 配偶者:1/2
  • 子1人あたり:1/4

従って、個別的遺留分は次のとおりとなります。

  • 配偶者の個別的遺留分:2,000万円×1/2=1,000万円
  • 子1人あたりの個別的遺留分:2,000万円×1/4=500万円

例3.複数の相続人の内一人だけ生前に贈与されていなかったときの各相続人の遺留分

  • 被相続人の遺産:2,000万円
  • 相続人:子5人(うち1人は被相続人の前妻の子)

ただし、前妻の子以外の4人には1,000万円ずつ生前贈与があったとします。

この場合、遺産2,000万円、生前贈与は1,000万円×4人分=4,000万円なので、「遺留分を算定するための財産の価額」は6,000万円です。

また、相続人は子であり、子の遺留分割合は2分の1です。

総体的遺留分は6,000万円×2分の1=3,000万円となります。

さらに法定相続割合は、それぞれ5分の1ずつです。

よって子一人あたりの個別的遺留分は、3,000万円×1/5=600万円となります。

生前贈与を受けられなかった前妻の子は600万円を遺留分として請求できます。

遺留分が侵害されているときに行使できる遺留分侵害額請求権について

遺留分が侵害されている、すなわち遺留分に相当するだけの遺産を受け取っていない場合、遺留分侵害額請求権」を行使して、支払いを求められます。

ここでは遺留分侵害額請求権について詳しく解説します。

遺留分侵害額請求権とは

遺言による遺贈や生前贈与があり、遺留分よりも少ない金額しか受け取れなかった場合、遺産を独占している特定の相続人に対して、遺留分に満たない分の支払いを求められます。

遺留分に不足する分の金額を遺留分侵害額といい、この支払いを求める権利を遺留分侵害額請求権といいます。

請求できる期間

遺留分侵害額請求権には消滅時効と除斥期間があり、請求可能な期間は限られます。

消滅時効は、相続の開始と遺贈や生前贈与があったことを知ってから1年です。

一方、除斥期間は10年で、相続開始から10年が経過すれば遺留分侵害額請求権は消滅します。

遺言による遺贈や生前贈与によって相続に大きな偏りが生じていることを知ったときは、速やかに対処した方がよいでしょう。

遺留分侵害額請求権を行使するさいにおすすめの手段

遺留分侵害額を請求する手段としては、内容証明郵便を利用するのがおすすめです。

「遺留分侵害額請求権の行使」とは、つまり「遺留分に満たない分の支払いを相手に求める」ことです。

相手にその旨が伝われば、どのような手段でもよく、口頭で請求してもかまいません。

しかし、口頭で伝えると形として残らないため、後になって、言った・言わないなどとトラブルになる可能性があります。

無用なトラブルを避けるためにも、文書で請求するのが望ましいでしょう。

郵便やメールでもかまいませんが、内容証明郵便の利用がおすすめです。

内容証明郵便とは、郵便局が「いつ、誰が、誰あてに、どのような内容の郵便を送ったか」を証明してくれるサービスです。

万が一トラブルとなり、裁判所を利用する事態になった場合には、有用な証拠としても使えます。

さらに配達証明を付加しておくと安心です。

相手が受け取った証拠となり、後で「受け取っていない」などという言い訳ができなくなります。

内容証明郵便の利用には独特のルールがあります。

下記の郵便局ホームページを確認しながら利用しましょう。

【参考】内容証明 | 日本郵便株式会社

遺留分侵害額請求権を行使した後の流れ

遺留分侵害額を請求したからといって、相手がすんなり支払いに応じるケースはまれです。

多くの場合、相手と交渉をおこなうことになるでしょう。

当事者同士の話し合いで解決しなければ、裁判所の手続きを利用します。

以下で遺留分侵害額請求後の流れについて詳しく解説します。

1.相手と協議をおこなう

まずは当事者同士で話し合いましょう。

協議の手段は問いませんが、トラブルになった場合に備えておくことが大切です。

郵便やメールなど、やり取りが残る形で協議するのが望ましいでしょう。

顔を合わせたり電話したりして協議をおこなうなら、会話を録音しておくと安心です。

また、相手方がすんなりと支払いに応じるとは限りません。

相手が生前贈与を認めなかったり、遺留分について正しく理解していなかったりして交渉が難航することもあるでしょう。

そのような場合は、速やかに弁護士に相談してください。

弁護士が法律的な観点から説明すれば、相手が納得するケースもありますし、第三者が間に入り冷静に話し合えば、解決する可能性も高まります。

2.協議で解決できなければ遺留分侵害額請求調停を申し立てる

当事者同士の協議による解決が困難であれば、家庭裁判所に遺留分侵害額請求調停を申し立てます。

調停とは、調停委員と呼ばれる専門家に間に入ってもらい、当事者同士でもう一度話し合いをする手続きです。

調停委員は中立・公平の立場で、法律的な観点から解決策を示してくれます。

調停委員を介すことで、当事者が冷静に解決へ向けて努力でき、調停が成立するケースも多くあるでしょう。

調停の申し立ては、申立書に戸籍謄本などを添付しておこないます。

申し立て方法は裁判所のホームページに記載されていますので確認しながら準備しましょう。

【参考】遺留分侵害額の請求調停 – 裁判所

3.調停が不成立であれば訴訟を提起する

調停が不成立となれば、地方裁判所へ訴訟を提起します。

訴訟手続きでは、当事者が証拠を用いながら主張をおこない、最終的に裁判所が遺留分侵害額請求を認めるかどうかの判断を下します。

訴訟提起は自分でもおこなえますが、弁護士に依頼する方がよいでしょう。

訴訟手続きは調停に比べて作成、提出すべき書類が多く、裁判所特有のルールに従う必要もあり、不慣れな方には難しく負担となるためです。

さらに自分に有利な判決を得るためには、証拠を用いながら論理的に法律に即した主張をおこなう必要があります。

これは専門知識や経験がなければ、かなり難しいでしょう。

法律知識を備え、解決実績の豊富な弁護士に依頼するのが賢明です。

なお、調停手続きを経ずに訴訟提起することは原則としてできません。

相続問題は家族や親族間での問題であり、できるだけ話し合いで解決するのが望ましいと考えられているためです。

まずは調停を申し立てるようにしましょう。

まとめ|遺留分について悩みがあるなら弁護士にご相談を

相続問題は家族や親族など近しい間柄で起こるものです。

自分の相続分は遺留分に満たないのではないか、と不安に思っても、今後の付き合いなどを考えてなかなか言い出せないこともあるでしょう。

しかし、遺留分とは法律上保証されている最低限の相続分であり、遺留分権利者であれば当然受け取るべきものです。

諦めて、泣き寝入りする必要はありません。

遺留分について悩みがあるなら、ぜひ弁護士にご相談ください。

弁護士に任せれば、親族同士でのトラブルを最小限に抑えられます。

遺留分について相手が何か言ってきても、「全部弁護士に任せている」と返しておけば済むはずです。

余計な争いを避けながら、遺留分をしっかり取得できるでしょう。

初回無料で法律相談をおこなっている事務所もありますので、遺留分について悩んでいるなら、早めに利用することをおすすめします。

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この記事の調査・編集者
アシロ編集部
本記事は法律相談ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。※法律相談ナビに掲載される記事は、必ずしも弁護士が執筆したものではありません。本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
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