生前贈与を受けていても相続放棄は可能!注意すべき2つのリスクも解説

生前贈与を受けていても相続放棄は可能!注意すべき2つのリスクも解説

親の相続を開始してはじめて借金が判明した場合、生前に財産を贈与されていても、相続放棄はできるのでしょうか?

親の財産を一度受け取ったなら、借金の返済義務も引き継がなければならないと思うかもしれません。

しかし、結論からいうと生前贈与を受けていても、相続放棄は可能です。

ただし、被相続人の債権者に生前贈与の取り消しを請求されたり、相続放棄しても生前贈与に対して相続税が課税されたりする可能性があります。

この記事では、生前贈与後の相続放棄に際し、注意すべき点について解説します。

また、相続人の負担が少なくなる相続方法についても触れますので、参考にしてみてください。

相続トラブルについて弁護士に相談する

電話相談可・初回面談無料・完全成功報酬
の事務所も多数掲載!

北海道・東北北海道青森岩手宮城秋田山形福島
関東東京神奈川埼玉千葉茨城群馬栃木
北陸・甲信越山梨新潟長野富山石川福井
東海愛知岐阜静岡三重
関西大阪兵庫京都滋賀奈良和歌山
中国・四国鳥取島根岡山広島山口徳島香川愛媛高知
九州・沖縄福岡佐賀長崎熊本大分宮崎鹿児島沖縄

この記事を監修した弁護士
社内弁護士アイコン
当社在籍弁護士(株式会社アシロ)
この記事は、株式会社アシロの「法律相談ナビ編集部」が執筆、社内弁護士が監修しました。

生前贈与を受けても相続放棄をすることは可能

生前贈与を受けたあとに相続が発生しても、相続放棄することは可能です。

相続放棄ができなくなるのは、すでに相続財産を処分した場合や、期限内に相続放棄の申述を提出しなかった場合です(民法第915条、921条)。

しかし、生前贈与を受けたことは、いずれの要件にも関係がありません。

そのため、生前贈与を受け、たとえ贈与財産を既に処分していたとしても、相続放棄は問題なくできます。

【用語解説:生前贈与とは】
生前贈与とは、被相続人が存命のうちに財産を無償で譲ることです。生前贈与は、贈与をする贈与者と、贈与を受ける受贈者の合意によって成立します。
対象は推定相続人だけに限られません。そのため、第三者に対して贈与されることもあります。

【用語解説:相続放棄とは】
相続放棄とは、被相続人の財産や負債を相続しない旨を家庭裁判所に申述することにより、はじめから相続人でなかったものとみなされる制度です。

財産の一部を処分してしまった場合は、単純承認をしたとみなされるため、相続放棄はできません。

また相続放棄は、自分が相続人になったことを知ったときから原則3ヵ月以内に家庭裁判所に対して申し立てる必要があります。

生前贈与後の相続放棄は債権者によって否定される可能性がある

先述したように、すでに生前贈与を受けていても、相続放棄は可能です。

しかし、生前贈与によって被相続人の財産を譲り受けておきながら、相続放棄によって被相続人の債務の引き受けを免れる場合、被相続人の債権者からみると不公平に感じることもあるでしょう。

特に、生前贈与の時点で、被相続人がすでに債務超過の状況にあることを知りながら、相続人生前贈与を受けた可能性がある場合はなおさらです。

このように、被相続人の債権者にとって不公平な生前贈与がおこなわれた場合、債権者は生前贈与の取り消しを求めることができます。

これを「詐害行為取消権」(民法第424条第1項)といいます。

たとえば、被相続人である父親に借金があり、債権者が被相続人の唯一の財産である不動産に強制執行を予定していた場合について検討してみましょう。

父親が不動産を守るため、推定相続人である息子に対して不動産を生前贈与し、名義変更をしてしまった場合、債権者にとっては差し押さえるべき財産がなくなってしまいます。

相続によって息子が父親の債務を引き継いでしまえば、債権者は息子に対して返済を請求できるでしょう。

しかし、息子が借金を受け継がずに相続放棄をおこなった場合、被相続人の不動産から債権回収しようとした債権者が、不当に害されます。

債権者が生前贈与を受けた息子に対して詐害行為取消訴訟を提起し勝訴すれば、生前贈与は否定され、息子は不動産を返さなければなりません。

このような場合、生前贈与を取り消された相続人は不動産を手放すことにはなりますが、相続放棄をしているため、債務の返済を免れます。

生前贈与後の相続放棄で相続税がかかるケース

生前贈与後の相続放棄で注意すべきは、相続税です。

相続放棄をして相続財産を引き継いでいないのだから、相続税は発生しないと思うかもしれません。

しかし、相続放棄をした場合でも、生前贈与を受けた財産に対して税金がかかる可能性があります。

また、相続税に関しては2023年に税制改正がおこなわれるため、改正点についても注意が必要です。

生前贈与が相続開始から3年以内におこなわれた場合

相続開始前の一定期間内におこなわれた生前贈与は、相続の前清算とみなされて課税対象となる可能性があります。

被相続人の死亡前に相続人に対してなされた生前贈与は、死亡時からさかのぼって3年分の贈与につき、相続税の課税対象となります。

裏を返せば、相続開始前3年より前に生前贈与された場合は、相続税の対象とはなりません。

この制度を利用して、贈与税の基礎控除額110万円の枠内で、相続開始3年前までに贈与が完成するよう毎年コツコツと贈与を続けることを、暦年贈与といいます。

暦年贈与は、相続税対策として用いられる方法のひとつです。

【事例】

父が息子3人に対して毎年110万円ずつ、合計330万円を毎年贈与を続け、死亡したケース

1人につき年間110万円以下の贈与であれば、贈与税の課税対象外。

父が死亡したときからさかのぼって3年間になされた生前贈与の合計990万円は、相続の前清算とみなされる。

長男、次男が父の財産4,000万円を相続し、三男が相続放棄した場合、

(相続財産4,000万円)+(相続開始前3年間の生前贈与額990万円)=4,990万円

法定相続人が息子3人である場合、相続税の基礎控除額の4,800万円を超えるため、相続税の課税対象となります。

ただし、相続税法の改正により、この生前贈与加算が現在の3年から7年に延長されることが決まっています。

2023年の税制改正によって生前贈与加算が死亡3年前から7年に延長

2023年の税制改正によって、生前贈与加算の期間が3年から7年に延長されることが決定しました。

これまでは3年より前に生前贈与された財産は、相続時には相続財産として加算されず、相続税の対象外とされていました。

しかし、相続税の対象となる生前贈与期間が延長されたため、今回の改正は実質的に相続税の増税となります。

これまでは、年間110万円までなら贈与税は非課税となり、かつ相続開始より3年以上前の贈与は相続時に生前贈与として相続財産に加算されていませんでした。

そのため、毎年110万円ずつ、死亡時3年前までを目安に生前贈与していく「暦年贈与」が、相続税および贈与税対策法として活用されてきました。

しかし、この3年間が、今後は7年に延長されます。

つまり、年間110万円までの贈与なら贈与税は非課税であるのは変わりませんが、相続開始からさかのぼって7年以内にされた贈与は相続財産とみなされ、相続税の課税対象となるということです。

改正税法は2024年1月1日以降、贈与によって取得した財産に係る相続税に対して適用されます。

ただし、以下のように一定の経過措置が設けられています。

相続が発生した時期生前贈与加算の対象
2026年12月まで現行法どおり3年分が加算
2027年1月から同年12月まで最長4年分が加算
2028年1月から同年12月まで最長5年分が加算
2029年1月から同年12月まで最長6年分が加算
2030年1月から同年12月まで最長7年分が加算
2031年1月以降7年間が生前贈与加算対象

このように、今後は7年間の生前贈与額の合計が相続税の基礎控除額を超える場合、たとえ相続放棄をしたとしても、相続税の支払い義務が発生します。

相続時精算課税制度を利用した場合

生前贈与後の相続放棄で課税される可能性があるのは、暦年贈与だけではありません。

「相続時精算課税制度」を利用して生前贈与をした場合には、相続放棄をしても相続税が課税される可能性があります。

相続時精算課税制度を利用することで、合計2,500万円までの生前贈与について贈与税が非課税となり、相続発生後に相続税によって精算されます。

これは、1年間にある程度まとまった金額を贈与したい場合に有効な方法でしょう。

注意すべきなのは、相続時精算課税制度は贈与税対策にはなりますが、相続税対策にはならないということです。

そのため、他の相続人が受け取った遺産と、自分が相続時精算課税制度を利用して受けた生前贈与額の合計が相続税の基礎控除額を超える場合、自分は相続放棄をしていたとしても、相続税負担義務が発生してしまいます。

2023年の税制改正によって相続時精算課税制度も年間110万円まで非課税に

この「相続時精算課税制度」も、2023年の税制改正の対象となりました。ただし、こちらは実質減税です。

改正前は、相続時精算加算制度を利用して生前贈与を受けた場合、暦年贈与の年間110万円控除は適用できませんでした。

しかし、今回の改正により年間110万円までの贈与であれば、相続時精算課税制度を選択しても贈与税も相続税も課税されなくなります。

たとえば、相続開始前に500万円、1,000万円、1,000万円と3年間に分けて相続時精算課税制度を利用して生前贈与をした場合について考えてみましょう。

今までは相続時精算加算制度を利用すると、年間110万円の控除を受けられないため、500万円、1,000万円、1,000万円の全額に対して贈与税が発生し、それを相続時に清算しなければなりませんでした。

今回の改正により、年間110万円の控除を受けられるようになりました。

つまり、年間110万円を控除した390万円、890万円、890万円について贈与税が発生し、それを相続時に清算することになります。

ただし、適用時期は2024年1月1日以降の贈与からとなっています。

相続人の負担を減らして財産を承継するには

以上のように、生前贈与を受けた後相続放棄をした場合でも、相続税が課税される可能性があります。

また、生前贈与は債権者によって取り消されてしまう可能性もあります。

被相続人に債務がある場合、相続人が負担なく相続するためには、以下の方法があります。

  • 限定承認をおこなう
  • 生前に債務整理をおこなう

限定承認とは、全ての資産を相続し、相続財産の範囲内で債務を負担する方法です。

この方法であれば、債務を清算したあとに相続財産が残れば、相続人同士で分配できます。

ただし、限定承認は相続人全員で申し立てをしなければなりません。

また、生前に被相続人自身が債務整理をおこなうことも有効です。

相続人に債務を引き継がないためには、生前に借金問題を解決しておくべきでしょう。

まとめ

生前贈与を受けていても、相続放棄によって債務の承継を避けることは可能です。

ただし、債権者によって生前贈与の取り消しを請求されたり、相続放棄をしていても相続税が課税されたりする可能性があるため、注意が必要です。

相続財産に債務が含まれる場合、財産を相続しつつ債務を引き継がないためには、生前贈与のほかにも限定承認や生前の債務整理などの方法があります。

専門家である弁護士に相談し、ご自身のケースに合った方法を選びましょう。

相続トラブルについて弁護士に相談する

電話相談可・初回面談無料・完全成功報酬
の事務所も多数掲載!

北海道・東北北海道青森岩手宮城秋田山形福島
関東東京神奈川埼玉千葉茨城群馬栃木
北陸・甲信越山梨新潟長野富山石川福井
東海愛知岐阜静岡三重
関西大阪兵庫京都滋賀奈良和歌山
中国・四国鳥取島根岡山広島山口徳島香川愛媛高知
九州・沖縄福岡佐賀長崎熊本大分宮崎鹿児島沖縄

この記事の調査・編集者
アシロ編集部
本記事は法律相談ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。※法律相談ナビに掲載される記事は、必ずしも弁護士が執筆したものではありません。本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
    弁護士の方はこちら