- 不動産相続でよくあるトラブル事例9選
- 不動産相続のトラブル事例①|不動産の遺産分割方法で合意できない
- 不動産相続のトラブル事例②|特定の相続人が遺産を独占する
- 不動産相続のトラブル事例③|不動産の評価方法でもめる
- 不動産相続のトラブル事例④|相続税を支払えない
- 不動産相続のトラブル事例⑤|代償金を支払えない
- 不動産相続のトラブル事例⑥|名義変更をせずに放置している
- 不動産相続のトラブル事例⑦|空き家のまま放置している
- 不動産相続のトラブル事例⑧|家を追い出される
- 不動産相続のトラブル事例⑨|税金や維持費の負担でもめる
- 不動産相続のトラブルを回避する方法
- 不動産を相続する際の注意点
- 不動産相続でトラブルになったときの相談先
- 不動産相続のトラブルを弁護士に依頼するメリット
- 不動産相続のトラブルに関するよくある質問
- さいごに|不動産相続のトラブルは弁護士への依頼がおすすめ
遺産相続の際、不動産を相続することになったものの、なかなか遺産分割協議がまとまらずに困っている方もいるのではないでしょうか。
不動産の相続は、現金とは勝手が異なるためトラブルになるケースがあります。
そこで本記事では、不動産相続でよくあるトラブルの事例とその解決方法、トラブルを未然に回避する方法について解説します。
また、不動産相続のトラブルを弁護士に依頼するメリットについても紹介するので、不動産の相続で困っている方は、ぜひ参考にしてみてください。
不動産相続でよくあるトラブル事例9選
不動産相続では、次のようなトラブルが起こりやすいといわれています。
- 不動産の遺産分割方法で合意できない
- 特定の相続人が遺産を独占する
- 不動産の評価方法で揉める
- 相続税を支払えない
- 代償金を支払えない
- 名義変更せずに放置している
- 空き家のまま放置している
- 家を追い出される
- 税金や維持費の負担でもめる
ここでは、上記9つのトラブルについて事例を交えながら詳しく解説します。
不動産相続のトラブル事例①|不動産の遺産分割方法で合意できない
不動産の相続では、遺産分割の方法をめぐって相続人間で意見が合わずに、トラブルに発展するケースがみられます。
【事例】
- 被相続人:母
- 相続人:長男・次男・長女
- 遺産:自宅
母が亡くなり、長男・次男・長女が自宅を相続することになりました。
長男は「自宅をそのまま維持し、将来的に売却するべきだ」と主張しましたが、次男は「今すぐ売却して現金を分配すべきだ」と反論しました。
一方で、長女は「自宅を長男が相続し、私と次男には代償金を支払うべきだ」と提案しました。
相続人の意見がそれぞれ異なるため、具体的な分割方法について合意に至らず、遺産分割協議がまとまりませんでした。
4つの不動産分割方法(現物分割・代償分割・共有分割・換価分割)
一般的に、不動産相続における遺産分割には、以下の4つの方法があります。
- 現物分割
- 代償分割
- 換価分割
- 共有分割
現物分割は、不動産を現物のまま相続人に分配する方法です。
たとえば「不動産は長男、現金は次男」のように各相続人が財産を現物で分割します。
また、不動産を各相続分に応じて分筆する場合も、これにあたります。
代償分割は、不動産を相続人のひとりが取得し、ほかの相続人にその相当額の代償金を支払う方法です。
たとえば、相続人Aが1,000万円の価値がある不動産を相続する場合、相続人Bに対して500万円の代償金を支払います。
換価分割は、不動産を売却し現金化し、その売却代金を相続人で分割する方法です。
不動産が売却可能な場合、相続人全員が公平に分配を受けやすい方法です。
共有分割は、ひとつの不動産を複数の相続人で共有して相続する方法です。
たとえば、3人の兄弟でひとつの土地を共有名義にする場合、各相続人の持分は3分の1ずつとなります。
どの方法を採用するかは、相続人全員で協議して決めます。
また、どの分割方法が適切か判断が難しい場合には、専門家に相談することをおすすめします。
解決方法
不動産の分割方法で合意できない場合には、以下のふたつの解決方法があります。
- シミュレーションをおこなう
- 調停を申し立てる
シミュレーションをおこなう
シミュレーションを実施することで、現物分割・代償分割・換価分割・共有分割の各方法が相続人にどのような影響を与えるのか具体的に把握できます。
事前に金銭的な負担や将来的なリスクを評価することで、相続人同士の公平性を保ちながら、適切な遺産分割方法を検討するのに役立ちます。
これにより、相続人全員が納得できる分割案を導き出す可能性を高められるでしょう。
調停を申し立てる
話し合いで解決できなければ、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てます。
また、調停でも解決できなければ、裁判所が遺産の分割方法を決定します。
裁判所により、分割方法が決められた場合、裁判所による強制競売ではなく、市場価格による売却ができるよう、相続人間で協力して売却ができるようにしていくのが望ましいでしょう。
不動産相続のトラブル事例②|特定の相続人が遺産を独占する
遺産相続は家族や兄弟で分割して相続します。
その際に、特定の相続人が遺産を独占してしまうとトラブルに発展することがあります。
【事例】
- 被相続人:父
- 相続人:長男・次男・長女
- 遺産:自宅
父が亡くなり、子どもが自宅を相続することになりました。
同居していた長男は「父の介護を長年してきたのだから、自分が自宅を相続すべき」と主張しました。
一方で、次男と長女は「遺産は公平に分割すべき」と反論し、遺産分割協議が進まなくなりました。
また、長男は自宅に住み続け、遺産を独占する状態となりました。
解決方法
このような場合には、以下のふたつの解決方法があります。
- 相続人に理解を求める
- 調停を申し立てる
相続人に理解を求める
まずは、遺産を独占しようとしている相続人に対して理解を求めましょう。
現行の民法では法定相続分が規定されており、兄弟姉妹の相続分は平等に規定されています。
親の遺産に関しては子どもが平等に相続する権利があることを主張すれば、理解して納得してもらえる可能性があります。
調停を申し立てる
説得に応じてもらえない場合は、調停を申し立てましょう。
家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てると、調停委員を入れて話し合いができます。
もし、特定の相続人が無理な主張をしていても調停委員の調整が入るので、遺産分割問題を解決しやすくなるでしょう。
調停でも解決できない場合は「遺産分割審判」になり、裁判官が遺産分割を決定します。
裁判官が決定する場合は「法定相続分」で相続することになるため、兄弟姉妹が平等に遺産を相続できます。
【関連記事】遺産分割調停の流れは?申立て前後の流れや有利に進めるポイントを解説
不動産相続のトラブル事例③|不動産の評価方法でもめる
不動産の評価額は採用する評価方法によって、金額が変わってきます。
そのため、評価方法の選定が原因で、トラブルに発展する可能性があります。
特に相続人が複数おり、不動産を取得する相続人と代償金を受け取る相続人に分かれる場合、利益が相反しやすく、評価が難しくなる傾向にあります。
【事例】
- 被相続人:父
- 相続人:長男・次男
- 遺産:自宅
父が亡くなり、長男と次男が自宅を相続することになりました。
同居していた長男が自宅を相続し、次男に代償金を支払うことで遺産分割協議が進められることになりました。
しかし、長男は「路線価(5,000万円)を基準に代償金を計算すべきだ」と主張しました。
一方で、次男は「実勢価格(7,000万円)を基準にすべきだ」と反論しました。
評価方法の違いにより、代償金の金額が大きく異なるため、意見が対立する事態となりました。
相続した不動産の評価方法
相続した不動産の評価方法には、以下の4つの種類があります。
- 地価公示価格
- 実勢価格
- 路線価
- 固定資産税評価額
相続税の計算では主に、路線価が用いられます。
一方で、不動産を売却して代償金を支払う場合や分配方法を決める場合には、実勢価格が参考にされるのが、一般的です。
評価方法によってそれぞれの特徴が異なるため、状況に応じて適切な基準を選ぶことが求められます。
解決方法
不動産の評価方法でもめる場合には、以下の3つの解決方法が考えられます。
- 各相続人が主張する価格の平均値を取る
- 不動産鑑定士に依頼する
- 調停を申し立てる
各相続人が主張する価格の平均値を取る
相続人それぞれが主張する評価額の平均値を取る方法です。
この方法を採用すれば、双方の意見を一定程度取り入れることができるため、お互いが納得しやすく、不動産の評価額が決まりやすくなるでしょう。
不動産鑑定士に依頼する
話し合いだけでは解決が難しい場合、不動産鑑定士に不動産の評価額を算出してもらう方法があります。
不動産鑑定士は専門的な知識に基づいて適正価格を提示するため、第三者の評価を得ることで、相続人同士が納得しやすくなります。
ただし、依頼には数十万円以上の費用がかかるため、慎重に検討する必要があります。弁護士に依頼している場合、無料又は安価に実勢価格を取得するために、弁護士から複数社の不動産業者に査定書の提出をお願いすることが多いと思われます。
依頼している弁護士に相談してみてください。
費用を抑えたい場合は、お互いに妥協点を探ったほうがよいでしょう。
調停を申し立てる
自分たちだけで話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。
調停では、調停員が相続人間の意見を調整し、不動産の評価方法や遺産分割について話し合いがまとまるように促してくれます。
もし調停でも合意に至らない場合には、審判に移行し、裁判官が双方の主張を基に不動産の適正価格を算定しながら、公平な分割を判断することになるでしょう。
不動産相続のトラブル事例④|相続税を支払えない
不動産を相続したものの、相続税が支払えずトラブルになるケースがあります。
相続税は、不動産を含む財産の総額が基礎控除額を超えた場合に課され、相続発生から10ヵ月以内に現金一括で納付する必要があります。
手元に現金がないと納税資金が不足してしまいます。
相続税を支払えない場合、延滞税や無申告加算税が科せられるため、注意が必要です。
【事例】
- 被相続人:父
- 相続人:長男・次男
- 遺産:自宅(7,000万円相当)、土地(3,000万円相当)
父が亡くなり、長男と次男が遺産を半分ずつ相続することになりました。
しかし、父の遺産に現金はほとんどなく、遺産の大部分が不動産で占められていました。
相続税として合計約770万円程度が課せられることになりましたが、相続人にはその金額を支払えるだけの現金がありませんでした。
相続税の納付期限である10ヵ月後までに現金を用意できなかったため、それぞれに延滞税が発生し、さらに金銭的負担が増してしまいました。
解決方法
このような場合には、以下の解決方法が考えられます。
- 相続税を分割払いにする(延納)
- 相続した不動産で納める(物納)
- 相続財産を売却して支払う
相続税を分割払いにする(延納)
期限までの納付が困難な場合には、延納制度を利用して分割払いにすることができます。
この制度では、事前に申請をおこなって許可を受けることで、分割払いが認められることがあります。
ただし、延納期間中は利子税が発生するため、分割払いを利用する場合でも、できる限り早めに完済することが大切です。
相続した不動産で納める(物納)
現金がどうしても用意できず、分割払いでも難しい場合には、物納制度を利用して相続した不動産そのもので、相続税を納める方法があります。
ただし、この方法は国が提示する厳しい条件をその不動産が満たしている必要があります。
また、不動産は時価ではなく相続税評価額で評価されるため、実際の価値よりも低い金額で計算されます。
このため、物納に適した財産であるのかを慎重に判断し、検討する必要があるでしょう。
相続財産を売却して支払う
相続財産を売却して、その資金を相続税の支払いに充てる方法です。
この方法は、遺産分割協議によって相続人が取得する財産が確定している場合に限り、財産を現金化して納税に利用します。
物納のように厳しい条件は設けられていませんが、相続財産の売却には譲渡所得税や仲介手数料などの新たな費用が発生します。
注意しましょう。
不動産相続のトラブル事例⑤|代償金を支払えない
不動産を代償分割で相続した相続人が、ほかの相続人に代償金を支払えずトラブルになるケースがあります。
不動産は価値が高いことが多く、支払う代償金も高額になる傾向があります。
そのため、不動産を代償分割する際には、相続人に十分な資力があるのか確認することが大切です。
【事例】
- 被相続人:父
- 相続人:長男・次男
- 遺産:自宅(5,000万円相当)
父が亡くなり、自宅を長男と次男が相続することになりました。
遺産分割協議の結果、同居していた兄が自宅を相続し、次男には相続分である半分の2,500万円を代償金として支払うことで合意しました。
しかし、長男は代償金を一括で支払うための現金を用意できませんでした。
そこで、次男に分割払いを提案しましたが、次男はこれを拒否しました。
その結果、兄弟間の対立が激化し、遺産分割が進まなくなりました。
解決方法
このような場合には、以下のふたつの解決方法が考えられます。
- 現金の代わりにほかの資産で支払う
- 現物分割や換価分割に変更する
現金の代わりにほかの資産で支払う
手元に現金がない場合には、現金以外の資産で代償金を支払う方法が考えられます。
不動産や株式など、現金以外の相続財産があれば、それを代償金として提供しましょう。
ただし、現金以外の資産を利用する場合、資産の価値が明確に定まっていないと、その評価方法でもめる可能性があります。
そのため、相続人同士できちんと話し合い、納得のいくかたちで、進めることが大切です。
現物分割や換価分割に変更する
どうしても代償金が支払えない場合には、現物分割や換価分割を選択し、不動産を分けることを検討します。
不動産を残したい場合は、不動産を物理的に分ける現物分割を選択しましょう。
一方で、売却しても構わない場合には、換価分割を選択し、売却代金を相続人間で公平に分配する方法が有効です。
不動産相続のトラブル事例⑥|名義変更をせずに放置している
不動産を相続したにもかかわらず名義変更をおこなわずに放置したことで、トラブルが発生するケースがあります。
これは、不動産の所有権が明確にならないからです。
【事例】
- 被相続人:父
- 相続人:長男・次男
- 遺産:土地
父が亡くなり、長男と次男が土地を半分ずつ相続することになりました。
しかし、ふたりは相続登記の手続きをおこなわず、名義変更を放置していました。
その後、次男は自分の共有持分(50%)を第三者に売却しました。
その結果、長男は知らない間に第三者と土地を共有することになり、土地の権利や管理について新たなトラブルが発生することになりました。
長男は、自分に無断で第三者が共有者になったことに不満を抱き、次男と対立する事態となりました。
解決方法
このような場合には、以下の解決方法が考えられます。
すぐに名義変更の登記をおこなう
不動産を相続した場合、早めの手続きが大切です。
まずは、法務局やオンラインで登記事項証明書を取得し、不動産に関わる状況を把握しましょう。
そして、遺言書や遺産分割協議書などの必要書類を用意し、相続登記の申請をおこないます。
なお、2024年4月1日からは、相続登記が法律で義務化されました。
このため、相続が発生してから3年以内に手続きを完了させる必要があります。
この期限を過ぎると10万円以下の過料が科せられる可能性があるため、注意しましょう。
不動産相続のトラブル事例⑦|空き家のまま放置している
相続した不動産を空き家として放置すると、トラブルが発生するケースがあります。
家は誰も住まないと急速に老朽化が進むといわれており、管理を怠ることで、近隣住民や自治体から対応を求められ、トラブルに発展する可能性があります。
【事例】
- 被相続人:父
- 相続人:母・長男
- 遺産:自宅
父が亡くなり、自宅に同居していた母が自宅を相続しました。
しかし、長男は遠方に住んでおり、母も高齢者施設に入居することになったため、自宅は空き家となりました。
築年数の大きい建物は、数年の間に急速に老朽化し、屋根や外壁の損傷が進行しました。
その結果、近隣住民から苦情が寄せられ、自治体から所有者である母と長男に適切な対応を求めるよう通知が届きました。
修繕費を見積もると数百万円に上り、母と長男は費用負担を巡って金銭的なトラブルに発展しました。
解決方法
このような場合には、以下のふたつの解説方法が考えられます。
- 管理会社に管理を委託する
- 不動産を賃貸・売却する
管理会社に管理を委託する
相続した不動産を自分たちで管理できない場合には、管理会社への委託を検討しましょう。
管理会社に依頼することで、以下のようなサービスを受けることができます。
- 定期的な清掃や点検
- 建物や設備の修繕
- 害虫や害獣の駆除 など
これにより空き家のトラブルを未然に防げるでしょう。
なお、管理会社に委託するには費用が発生しますが、一般的には月額数千円から数万円程度が相場です。
委託することで、管理に関しての負担を大幅に軽減でき、あとから発生する修繕費や維持費の負担を抑えられるでしょう。
不動産を賃貸・売却する
相続した不動産を早めに賃貸に出したり、売却することも有効です。
売却を選択すれば、不動産を現金化してまとまった資金を得られるうえ、維持管理の負担から解放されます。
また、賃貸を選択すると、賃料収入として継続的な収益も得られるでしょう。
空き家を放置すると老朽化やトラブルの原因になるため、不動産を賃貸に出したり、売却したりすることで、資産として有効活用することができます。
不動産相続のトラブル事例⑧|家を追い出される
不動産を相続した際に、所有権を持った方と住んでいる方が異なってしまうケースです。
住んでいる方に不動産の所有権がない場合、家を追い出されるなどのトラブルに発生することがあります。
【事例】
- 被相続人:母
- 相続人:長男・長女
- 遺産:自宅
母の生前、自宅は母の名義であり、母と長女がふたりで住んでいました。
長男はすでに結婚して別の場所に住んでいましたが、母の死後に相続が発生し、長男と長女が自宅を法定相続分どおりに、半分ずつ相続することになりました。
長女は、母と住み続けていた自宅にそのまま住み続けることを希望しましたが、所有権の半分を持つ長男は「所有権が共有になっている以上、長女が独占的に住むのはおかしい」と主張し、トラブルに発展しました。
解決方法
このような場合には、以下のふたつの解決方法が考えられます。
- 居住権や借家権を主張する
- 調停を申し立てる
居住権や借家権を主張する
相続人の配偶者が相続人である場合、配偶者所有権が認められることがあります。
この権利により、ほかの相続人が自宅の所有権を相続したとしても、配偶者は引き続き自宅に住み続けることが可能です。
また、使用貸借契約に基づく権利を主張することも有効な方法です。
使用貸借契約とは、無償で物件の使用を許可する契約のことです。
特に、相続人が生前に被相続人と同居していた場合には、被相続人がその相続人を無償で住まわせることを承諾していたと解釈される場合が多く、使用貸借契約が成立していたとみなされる場合があります。
これらの権利を主張することで、引き続き自宅に住み続けることが可能になるでしょう。
調停を申し立てる
話し合いで解決できない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。
調停では、裁判所の調停員が相続人同士の間に入り、話し合いを通じて問題の解決を図る手続きです。
調停を申し立てることで、話し合いが円滑に進み、トラブルを解決できる可能性が高まります。
不動産相続のトラブル事例⑨|税金や維持費の負担でもめる
不動産を共有名義で相続した場合、その不動産にかかる税金や維持費の負担を巡ってトラブルになることがあります。
不動産は所有しているだけで、固定資産税や維持管理費が発生しますが、共有者間で負担割合が明確に決まっていないと、誰が支払うのかでもめるケースがあるのです。
【事例】
- 被相続人:母
- 相続人:長男・次男・長女
- 遺産:自宅
母が亡くなり、自宅を相続することになりました。
相続人である長男、次男、長女は、自宅を共有名義で相続し、処分せずにそのままにいました。
しばらくすると、固定資産税の納付書が共有代表者として登録された長女のもとに届きました。
長女はやむを得ず税金を納付しましたが「自分だけが負担することは不公平だ」と感じて、長男と次男に支払いを求めました。
これに対し、長男と次男が負担を拒否したため、トラブルが発生しました。
解決方法
このような場合では、以下のふたつの解決方法が考えられます。
- 求償権を行使する
- 遺産分割協議で事前に取り決める
求償権を行使する
求償権とは、他人の債務を立て替えた場合に、その立て替えた金額をほかの共有者に請求できる権利です。
たとえば、固定資産税や維持費などの費用を共有者のひとりが代わりに支払った場合、その金額をほかの共有者に対して、返還するよう求めることができます。
自分が支払った分の負担を求めたい場合は、求償権を行使しましょう。
遺産分割協議で事前に取り決める
不動産を共有名義で相続する場合、名義人全員で負担するのが一般的です。
そのため、遺産分割協議の際に、税金や維持費などの費用負担についても事前に取り決めておくことで、トラブルを未然に防げます。
不動産の分割方法を協議する段階で、固定資産税や維持管理費の支払い方法についても具体的に話し合いましょう。
そして、合意した内容を遺産分割協議書に明記しておきます。
不動産相続のトラブルを回避する方法
不動産相続におけるトラブルは、生前から対策しておくことで回避できます。
以下に、不動産相続のトラブルを最小限に抑えるための具体的な対策を紹介します。
遺言書を作成する
遺言書を作成することで、不動産相続のトラブルを防ぎやすくなります。
なぜなら、遺言書の内容が法定相続分よりも優先されるからです。
ただし、遺言書は法律で定められた形式で作成できていない場合、無効になる可能性があります。
自身で作成することが難しい場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
不要な不動産を整理する
誰も相続を希望しない不要な不動産は、生前に処分しておくのがおすすめです。
処分して現金化しておくことで、遺産分割が容易になるからです。
不動産の所有者が元気なうちに整理することで、不動産をめぐる一連のトラブルを未然に防ぐことができるでしょう。
相続税対策をおこなう
不動産を含む遺産総額が基礎控除額を超える場合、相続税が発生します。
そのため、事前に相続税を減らす対策をしておくことで、税負担によるトラブルを回避できるでしょう。
具体的な対策としては、生前贈与を検討することです。
生前贈与をおこなうと、その財産は相続財産に含まれなくなり、相続時の財産額を減らすことができます。
不動産を相続する際の注意点
不動産を相続する際には、以下のポイントに注意しましょう。
2024年4月1日より相続登記は義務化された
2024年4月1日より、相続登記が義務化されました。
このため、不動産を相続した際には、必ず相続登記をおこなわなければなりません。
相続登記の期限は、不動産の相続を知った日から3年以内です。
また、2024年4月1日以前に相続が発生していた場合については、相続登記が義務化された施行日を起算点として、そこから3年以内に手続きを完了される必要があります。
なお、期限内に正当な理由なく相続登記をおこなわなかった場合は、義務違反として10万円以下の過料が科せられることがあります。
期限を守り、適切に対応するようにしましょう。
相続放棄をしても保存義務は残る
相続放棄をした場合でも、不動産を占有している間は、次順位の相続人または相続財産清算人に引き渡されるまで、その不動産の保存義務を負います。
そのため、相続放棄をおこなったあともしばらくの間は、適切に不動産を維持管理する必要があります。
もし保存義務を怠った場合、損害賠償責任や行政処分の対象となる可能性があります。
注意しましょう。
不動産相続でトラブルになったときの相談先
不動産相続でトラブルが発生した場合、適切な専門家に相談することで問題を解決することができます。
代表的な相談先としては、以下の専門家が挙げられます。
- 弁護士
- 司法書士
- 税理士
弁護士は、法的なトラブルを解決することを専門としています。
相続人同士で遺産分割の話し合いがまとまらない場合や、家庭裁判所での調停や訴訟が必要な場合に、弁護士が代理人として対応してくれます。
司法書士は、不動産登記の専門家です。
不動産登記や関連書類の作成を通じて、手続きをスムーズに進めるためのサポートをおこないます。
司法書士に相談すると、トラブルが発生する前に適切な手続きを完了させられるため、不動産相続の問題を未然に防ぎます。
税理士は、税制に関する専門家であるため、相続税の計算や申告、不動産評価の適正化などをサポートします。
税務に関するトラブルがある際には、税理士に相談するとよいでしょう。
不動産相続のトラブルを弁護士に依頼するメリット
不動産相続でトラブルになった際には、弁護士に相談することがおすすめです。
なぜなら、そのほかの相談先と比べて依頼するメリットが大きいからです。
弁護士に依頼するメリットには、次のようなものがあります。
- ほかの相続人との交渉を全て任せられる
- 不動産の名義変更を依頼できる
- 不動産の価値を正確に算出してもらえる
それぞれのメリットについて、以下で詳しくみていきましょう。
ほかの相続人との交渉を全て任せられる
ほかの相続人との交渉を弁護士に任せれば、相続人同士ではなかなかまとまらない話し合いが解決しやすくなります。
相続人同士の話し合いは感情的になってしまって交渉事が上手くいかない場合があります。
弁護士が間に入ることで冷静な判断が可能になり、お互いの主張も通りやすくなるでしょう。
また、相続人の心理的な負担や労力が軽減します。
弁護士からの法的なアドバイスを交えながら具体的な話し合いができるため、トラブルも悪化しにくくなるでしょう。
不動産の名義変更を依頼できる
弁護士に依頼すれば、不動産の名義変更のような煩雑な手続きをスムーズにおこなえます。
不動産を相続した際には名義変更の手続きである相続登記が必要です。
また、相続登記の際には登記事項証明書、戸籍謄本、住民票、遺産分割協議書、印鑑証明書など、さまざまな書類を用意する必要があるため、慣れない手続きでもあります。
仕事や家事などで忙しくて登記手続きに時間がかけられない方でも、弁護士に依頼することでストレスなくおこなえるでしょう。
不動産の価値を正確に算出してもらえる
弁護士に依頼することで変動しやすい不動産の価値を正確に把握できます。
不動産の価値は景気や情勢によって変動するため、正確に把握することが難しいとされています。
また、不動産の価値の算出方法は専門的かつ複数なものです。
したがって、慣れていない方だと正確な不動産の価値を測ることがそもそも難しいでしょう。
弁護士であれば多くの知識や経験があるため、状況に応じた不動産の価値を算出できます。
不動産相続のトラブルに関するよくある質問
最後に不動産相続のトラブルに関するよくある質問とその回答について紹介します。
遺産相続でよくあるトラブルの例は?
遺産相続で発生しやすいトラブルの例には、次のようなものがあります。
- 特定の相続人が遺産を独占する
- 遺産分割の方法で意見が対立する
- 相続税の支払いが困難になる
- 代償金の準備ができない
- 税金や維持費の負担で争いが起きる
これらのトラブルを防ぐには、事前に遺言書を作成したり、相続税対策をおこなうことが大切です。
また、トラブルになったときには弁護士への相談も有効な手段となります。
土地相続で兄弟がもめるのはどのようなケースですか?
相続する土地がひとつしかない、又は主な遺産が土地だけであるために、公平に分割することが難しいケースです。
土地がひとつしかない場合、相続人全員が土地を公平に受け取ることが物理的に困難であるため、売却するか共有するかをめぐって意見が対立しやすくなります。
また、遺言書が残されていたとしても、遺留分が考慮されていないなど、相続の配分が偏った内容である場合、トラブルに発展する可能性が高くなるでしょう。
不動産だけを相続放棄することはできないのですか?
原則として、不動産だけを相続放棄することはできません。
なぜなら、相続放棄はプラスの財産もマイナスの財産も含めた全ての財産を相続する手続きだからです。
そのため、相続財産の中で不動産だけ手放したいと考えたとしても、不動産のみを放棄することは、制度上できない仕組みとなっています。
未登記不動産を相続したのですが、どうしたらよいですか?
未登記不動産を相続した場合、まずは相続登記をおこないます。
相続人全員の戸籍謄本や印鑑証明書などの必要書類を用意し、法務局で相続手続きを進めましょう。
この手続きを完了すると、不動産を適切に管理できるようになり、売却や融資などが可能になります。
なお、相続登記は自分でおこなうこともできますが、手続きにはある程度の知識と時間、手間がかかります。
難しい場合は、弁護士や司法書士に相談して手続きを代行してもらうほうがよいでしょう。
さいごに|不動産相続のトラブルは弁護士への依頼がおすすめ
不動産相続をする際には多くのトラブルが発生する可能性があります。
相続人同士の意見が対立してまとまらない場合は、法律のプロである弁護士に依頼して冷静に話し合いをすれば解決に向かうこともあるでしょう。
また、各ケースに応じた最適な解決策や税金対策のアドバイスなども交えながら話し合いができます。
不動産相続の手続きには多くの手間と時間がかかります。
仕事や家事で忙しくて相続手続きの時間がとれない方も、弁護士への依頼を検討しましょう。

