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贈与契約書のひな型と作成ポイント|生前贈与でトラブルを防ぐために
2023.07.14
被相続人が亡くなったときは、相続放棄の手続き等をとらない限り、金銭や不動産などを相続することになります 。
相続すべき財産の範囲がわからなければ、相続手続きをどこまでしたらよいのか、そもそも相続放棄をすべきかの判断が難しくなります。
そのために欠かせない手続きのひとつが、相続財産調査です。
相続財産調査とは、借金やローンを含め故人の財産を調べ、それらを適正に評価・査定する手続きを指します。
この相続財産調査が不十分だと、借金などを相続してしまうリスクがあるので注意が必要です。
マイナスの財産がプラスの財産を上回る場合は、相続権の一切を放棄する「相続放棄」をおこなうのが一般的です。
ただし、相続放棄は、法定相続人が相続の開始を知ってから3ヵ月以内にしなければならないとして、期限が定められています(民法第915条第1項)。
そのため、早急に相続財産調査をおこない、財産を確定させる必要があります。
そこで、本記事では、
について詳しく解説します。
相続財産は、大きく「プラスの財産」と「マイナスの財産」に分けられます。
相続財産調査では、これらの有無を調べて、適切に評価する必要があります。
まずは、それぞれの代表的な財産について確認しておきましょう。
主なプラスの財産には、以下のようなものが挙げられます。
主なマイナスの財産は、以下のとおりです。
相続財産の大まかな調査手順は、以下のとおりです。
相続財産調査では、まず被相続人がどのような財産を持っている可能性があるかを把握します。
そして、その手がかりをもとに、実際に財産の有無を調査し、そのうえで相続財産の評価額を算定します。
最後に、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も全てまとめた「財産目録」を作成することで、相続財産調査は完了となります。
相続財産調査では、まず被相続人が所有・保有している可能性がある財産を把握することから始めます。
相続財産のリストアップをすることで、実際に相続財産を調査する作業を迅速におこなえますし、相続財産の調べ忘れを防げる可能性が高まります。
ここでは、相続財産をリストアップするための方法について確認しましょう。
はじめに、被相続人の預金通帳を精査するのがおすすめです。
預金通帳にはさまざまなお金のやり取りが記載されており、固定資産税の引き落としによる不動産の有無、配当金による有価証券の有無、借金やローンの返済による債務の有無などを確認できます。
また、預金通帳から家賃収入や事業収入などの存在がわかる場合もあります。
被相続人が受け取っている郵便物を調べることも大切です。
たとえば、銀行や証券会社、保険会社などから書類が届いている場合、これらの会社と何かしらの契約をしている可能性が高いと考えられます。
また、株主総会の通知書や支払いの督促状などが届いている可能性もあり、これらの郵便物から被相続人の財産を確認できることが多いです。
遺品整理とは、故人の持ち物を整理し、部屋をきれいにする作業のことを指します。
遺品整理をすることで、預金通帳や株券、保険証券などを見つけられる可能性があります。
また、遺言書、身分証明書、印鑑、年金手帳、健康保険証などの重要なものを探すことも可能です。
なお、必要なものを誤って捨てないように注意してください。
また、相続財産を処分してしまうと、みなし承認といって、相続放棄ができなくなることがあります(民法第921条第1号)ので注意が必要です。
故人の携帯電話やスマートフォン、パソコン、タブレット端末なども確認しましょう。
通話履歴や受信メールなどから、被相続人が利用しているサービスなどを特定できる場合があります。
また、ブックマークや閲覧履歴を確認することで、利用しているネットバンキングやネット証券などを見つけられる可能性があります。
被相続人の相続財産をリストアップできたら、実際に相続財産の有無を調査し、それぞれの財産の評価額を算定します。
ここでは、各相続財産の調査方法と評価額の算定方法について解説します。
通常、預金通帳には銀行名が記載されているため、それを確認すれば調査先を把握できます。
しかし、中には合併前の古い通帳が見つかることもあるため、その場合は現在の銀行名を調べてから調査をおこなうようにしましょう。
預金残高は、金融機関が発行する残高証明書で確認できます。
残高証明書とは、金融機関が特定の日付における口座残高を証明してくれる書類のことです。
通常、取引店や近くの店舗の窓口に行き、残高証明書の発行を依頼することで受け取れます。
その際、被相続人の戸籍謄本や来店者の印鑑証明書などが必要になるので忘れずに持参しましょう。
【参考記事】
不動産の有無は、被相続人宅に固定資産税納税通知書や登記識別情報通知書(登記済権利証)があるかで確認できるでしょう。
もしこれらの通知書が見当たらない場合は、行政機関に「名寄帳」の発行を依頼しましょう。
名寄帳には、市区町村は限られますが、所有者ごとの不動産状況がまとめられているため、被相続人の不動産を一覧で確認することができます。
不動産の評価方法は、土地と家屋で異なります。土地(自用地)の場合は、路線価方式か、倍率方式のどちらかを用いて決めます。
一方、家屋の場合は、固定資産税評価額を用いて評価額を算定します。
算定に必要な路線価は国税庁の「路線価図」で確認でき、固定資産税評価額は不動産のある自治体に「固定資産税評価証明書」を請求すれば確認できます。
なお、これらは相続税の申告の際の計算方法であり、相続不動産を売却する場合に売却可能な金額とは異なります。
株式や社債などの有価証券の有無は、預金通帳の取引履歴や証券会社からの郵送物などで確認できるでしょう。
また、証券口座の有無がわからない場合は、証券保管振替機構に対して「登録済加入者情報の開示請求手続」をおこなうという方法もあります。
この開示請求手続をおこなうことで、被相続人の証券口座の開設先を知ることができます。
有価証券の評価方法は、上場株式と非上場株式で異なります。
上場株式の場合は、まず株式の保有状況などを確認するために証券会社に対して「取引残高報告書」の発行を依頼します。
それから以下のような方法で、評価額を決定します。
なお、非上場株式の評価方法は複雑ですので、できる限り専門家に相談することをおすすめします。
上場株式は、その株式が上場されている金融商品取引所が公表する課税時期(相続または遺贈の場合は被相続人の死亡の日、贈与の場合は贈与により財産を取得した日)の最終価格によって評価します。
ただし、課税時期の最終価格が、次の3つの価額のうち最も低い価額を超える場合は、その最も低い価額により評価します。
イ 課税時期の属する月の毎日の最終価格の月平均額
ロ 課税時期の属する月の前月の毎日の最終価格の月平均額
ハ 課税時期の属する月の前々月の毎日の最終価格の月平均額
引用元:No.4632 上場株式の評価|国税庁
遺産相続が発生した際は、マイナスの財産の調査も必須です。
預金通帳の引き落とし、住宅ローンの契約書、貸金業者からの督促状、消費者金融のキャッシュカード、連帯保証に関する契約書などを調べるようにしましょう。
また、借金や住宅ローンなどの状況が把握できない場合は、CICやJICCといった信用情報機関に対して被相続人の信用情報の開示を求めることもひとつの方法です。
信用情報開示申込書や本人確認書類、法定相続情報一覧図の写しなどを提出することで開示を受けられます。
詳しい手順は、それぞれのWebサイトを確認してください。
【参考記事】
全国銀行個人信用情報センター | 一般社団法人 全国銀行協会
相続財産調査を円滑に進めるために、あらかじめ以下の書類・資料を用意しておくとよいでしょう。
【相続財産調査に必要な主な書類と取得方法】
必要書類 | 取得方法 |
被相続人の戸籍謄本・除籍謄本 (出生から死亡に至るまでの全て) | 被相続人の本籍地のある自治体に請求して取得する ※本籍地をさかのぼりながら全ての戸籍を取得する |
相続人本人の戸籍謄本 | 自分の本籍地のある自治体に請求して取得する |
相続人本人の印鑑証明書 (3ヵ月以内に発行されたもの) | 自分の住んでいる自治体に請求して取得する |
顔写真つきの本人確認書類 | 手元にある運転免許証やマイナンバーカードなど |
なお、戸籍謄本が多い場合は、管轄の法務局で法定相続情報一覧図の写しを取得しておくと便利です。
法定相続情報一覧図とは、法務局の登記官によって証明された「被相続人の相続関係をまとめた書類」のことです。
この写しが1枚あれば被相続人の相続関係を証明できます。
必要書類を用意し、管轄の登記所に申請して、取得しておきましょう。
【参考記事】
相続財産の調査・評価が終わったら、それらを全てまとめた「財産目録(遺産目録)」を作成しましょう。
財産目録は、主に遺産分割協議や相続税申告などをおこなう際に必要になります。
財産目録の書式は自由ですが、裁判所のWebサイトにある「遺産目録のひな型」を使うと便利です。また、以下のポイントを意識しながら作りましょう。
【財産目録を作成するときのポイント】
相続財産調査は弁護士、司法書士、行政書士、税理士などに依頼できます。
しかし、それぞれ対応できる業務範囲が以下のように異なるため、希望や悩みに合う専門家に相談・依頼することが重要です。
【相続における専門家ごとの業務範囲の違い】
弁護士 | 司法書士 | 行政書士 | 税理士 | |
相続人調査 | ○ | ○ | ○ | ○ |
相続財産調査 | ○ | ○ | ○ | ○ |
遺言書の検認 | ○ | △ | × | × |
相続放棄の申述 | ○ | △ | × | × |
遺産分割協議書の作成 | ○ | △ | △ | △ |
遺産分割協議などの代理 | ○ | × | × | × |
相続税の申告手続 | △ | × | × | ○ |
不動産の名義変更 | ○ | ○ | × | × |
金融機関の名義変更 | ○ | ○ | ○ | ○ |
ここでは、相続財産調査を専門家に相談したらいいかについて確認しましょう。
相続人同士が疎遠・不仲で遺産分割協議が難航しそうな場合は、相続問題が得意な弁護士に相談・依頼するのがおすすめです。
弁護士は幅広い業務に対応でき、相続に関する相談から遺産分割協議書の作成までほぼ全てを一任できます。
また、弁護士であれば弁護士会照会を利用できるため、迅速に相続財産調査をおこなえる可能性があります。
相続財産に土地や建物といった不動産が含まれる場合は、司法書士に相談・依頼するのがおすすめです。
司法書士は登記の専門家であり、不動産の相続登記を任せることができます。
また、不動産の登記業務に付随して、相続人調査や遺産分割協議書の作成などもおこなえます。
なお、相続人同士のトラブルには対応できないので注意しましょう。
相続人同士で争いがない場合には、行政書士に相談・依頼しましょう。
行政書士は書類作成の専門家であり、遺産分割協議書の作成などを依頼できます。
また、預金口座、有価証券、自動車などの名義変更も行政書士に依頼することも可能です。
ただし、代理人として法律トラブルを仲介したり、登記手続をしたりすることはできません。
準確定申告や相続税申告などに関する悩みや疑問は、税理士に相談・依頼するのがおすすめです。
また、税理士であれば、節税対策に関するアドバイスをもらえる可能性もあります。
ただし、税理士が対応できるのは、各種申告手続きに関するものに限られます。
遺産分割協議や各種名義変更などの依頼はできないため注意しましょう。
相続財産調査を弁護士、司法書士、行政書士、税理士など、どの専門家に依頼するかで依頼費用は変わります。
それぞれの専門家に依頼した場合の費用相場は以下のとおりです。
なお、それぞれの事務所によって料金体系や実際に必要になる費用は異なるため、必ず正式な依頼をする前に依頼費用の詳細について確認しておきましょう。
【専門家ごとの相続財産調査の依頼費用の目安】
専門家 | 依頼費用の目安 |
弁護士 | 10万~30万円程度 |
司法書士 | 10万~30万円程度 |
行政書士 | 3万~20万円程度 |
税理士 | 遺産総額の約0.5〜1.0% |
相続財産調査は自力でおこなうこともできますし、専門家に依頼することもできます。
ここでは、相続財産調査を自分でおこなう場合と、専門家に依頼する場合のメリットとデメリットをそれぞれ確認しましょう。
相続財産調査を自分でやるメリットとデメリットは、以下のとおりです。
相続財産調査を自分でやるメリットは、費用を抑えられる点です。
専門家に依頼すると数万~30万円ほどの費用がかかりますが、自分でやれば各種書類の発行手数料、郵送でやり取りする場合は郵便切手代、電車代・バス代といった交通費などで済ませられます。
また、自分のペースで相続財産調査を進めることができるでしょう。
相続財産調査を自分でおこなうデメリットは、時間と手間がかかる点です。
相続財産の手がかりを探し、実際に行政機関、金融機関(銀行・証券会社など)、信用情報機関、法務局などへ請求する手続などを、全て自分でおこなう必要があります。
特に財産の種類が多い場合は、負担が大きくなってしまうでしょう。
相続財産調査を専門家に依頼するメリットとデメリットは、以下のとおりです。
相続財産調査を専門家に依頼するメリットは、手間がかからない点です。
また、正確に相続財産の内容を把握できることも挙げられます。
特に弁護士に依頼すれば、相続財産調査に限らず、相続に関する手続きをほぼ全て任せられます。
相続人同士でトラブルが発生した場合も、代理人として対処してもらえるため安心できるでしょう。
相続財産調査を専門家に依頼するデメリットは、費用がかかる点です。
安い場合でも数万円、依頼先や依頼内容によっては30万円ほどの費用が発生します。
また、専門家を探す手間がかかったり、相性が悪かった場合はストレスがかかったりするおそれがあります。
その結果、満足のいかない結果になる可能性もあるでしょう。
ここでは、相続財産調査に関するよくある質問に回答します。
被相続人本人であれば、財産調査をおこなえます。
しかし、相続人による財産調査は、原則として被相続人の死後でなければおこなえません。
例外的に、本人から委任状を受け取っていたり、成年後見人に選任されたりしている場合は、被相続人の財産を把握することができるでしょう。
なお、被相続人が「財産について話し合いたくない」という場合は、遺言書を作成してもらうこともひとつの方法です。
一般の方が、相続財産を一括で調べる方法はありません。
預金通帳や契約書などをもとに、地道に調べていく必要があります。
しかし、弁護士は、「弁護士会照会」を利用でき、金融機関に対する全店照会などをおこなえる可能性があります。
ただし、あらゆる金融機関を調べられるわけではなく、あくまで特定の金融機関を調査対象として選ぶことになります。
相続財産が複雑で把握しきれない場合などは、相続問題が得意な弁護士に相談することをおすすめします。
相続財産調査は、法定相続人であれば誰でもできます。
法定相続人とは、民法で定められた被相続人の遺産を相続する権利を有する人のことを指します。
法定相続人には配偶者のほか、優先順位に応じて子ども、直系尊属、兄弟姉妹がなれます。
法定相続人であれば誰でもおこなえるため、長男だけ、配偶者だけという縛りはありません。
相続財産調査の実施期間は、「どのような財産があるか」「財産を特定できているかどうか」などで変わります。
たとえば、相続財産調査を専門家に依頼した場合、何も問題がなければ1~2ヵ月ほどで完了します。
しかし、財産の手がかりが何もないような場合は、数ヵ月程度かかることもあるようです。
また、戸籍の調査だけでも2ヵ月ほどかかるケースもあります。
相続放棄の期限は「相続の開始を知ってから3ヵ月以内」となっているため、できる限り早く相続財産調査を始めるようにしましょう。
相続財産調査は、必要な書類が多いだけでなく、正確に財産を把握し、評価額を算定する必要があるため、時間と手間がかかります。
そのうえ、相続財産調査が不十分で、仮にマイナスの財産を相続してしまった場合は、大きな不利益を被ることになります。
正確に相続財産調査をおこないたいなら、弁護士などの専門家に相談・依頼するのがおすすめです。
特に、相続問題が得意な弁護士に相談したいなら「ベンナビ相続」を利用することをおすすめします。