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贈与契約書のひな型と作成ポイント|生前贈与でトラブルを防ぐために
2023.07.14
自筆証書遺言は、手軽に安価で作成できるメリットがあります。その一方で、形式・内容の不備により無効となるケースが多いのが難点です。
自筆証書遺言を有効に作成するためには、形式・内容に関する注意事項を守り、適切な手順で作成する必要があります。自筆証書遺言の書き方について不安があれば、弁護士に相談してください。
本記事では自筆証書遺言の書き方について、注意点・形式および内容のポイント・記載例などを解説します。
自筆証書遺言とは、遺言者が全文・日付・氏名を自書して作成する遺言書です。他の方式による遺言書と比べて、手軽に作成できるメリットがあります。
遺言書は、民法所定の方式に従って作成しなければなりません。民法において認められている遺言書の方式は、主に以下の3つです。
遺言の種類 | 概要 |
自筆証書 | 遺言者が全文・日付・氏名を自書する方式です。 |
公正証書 | 公証役場の公証人が作成し、本人および証人2名も署名・押印をおこなう方式です。原本は公証役場で保管されます。 |
秘密証書 | 遺言書の証書を封印し、封書に本人・証人2名・公証人が署名・押印して作成する方式です。遺言書の内容を秘密にしておくことができますが、実務上はあまり用いられていません。 |
特別の作成方式が認められる例外的な場合でない限り、上記いずれかの方式によらず作成された遺言書は無効となります。
自筆証書遺言のメリットは、作成に煩雑な手続きが必要なく、手軽に作成できる点です。
公正証書遺言と秘密証書遺言は、いずれも公証人と証人2名の関与が必要となります。公証人に支払う手数料が発生するのも難点です。
これに対して自筆証書遺言は、作成方式についての注意は必要ですが、遺言者本人だけで作成できます。公証人手数料も必要ないので、作成の費用が安価に済む点もメリットの一つです。
このように、自筆証書遺言は手軽に作成できることから、遺言書を作成する際の有力な選択肢となっています。
自筆証書遺言の作成は、以下の手順でおこないます。
遺言書によって相続トラブルのリスクを抑えるため、全ての財産について相続方法(分け方)を指定することが望ましいです。
そのためには、まず自身の所有している財産を把握する必要があります。たとえば、以下のような財産をリストアップしましょう。
財産のリストアップが完了したら、具体的にそれらをどのように分けるかを決めましょう。
遺産の分け方を決める際には、以下のポイントに注してください。
兄弟姉妹以外の相続人には、相続できる遺産の最低保障額である「遺留分」が認められています(民法1042条1項)。遺留分を下回る遺産しか与えないと、相続人間で遺留分侵害を巡るトラブルになりかねません。
遺産の分け方を決める際には、各相続人に対して、遺留分以上の遺産が行き渡るようにすることが望ましいでしょう。
遺産をうまく活用してもらうためには、相続人のニーズを考慮することも重要です。
たとえば「なるべくたくさん現金・預貯金が欲しい」「不動産が欲しい」など、相続人ごとにニーズは異なります。遺言書を作成する際には、各相続人から意向をヒアリングして、それを遺産の分け方にある程度反映させるのがよいでしょう。
田舎の土地や老朽化した建物など、管理が難しい財産については、相続人の負担となる可能性があります。
このような財産は、生前の段階で処分してしまうことが望ましいです。もし処分が難しいのであれば、その財産を相続させる者には、通常より多めに遺産を与えるなどの配慮をおこなうべきでしょう。
遺言による贈与(遺贈)は放棄することが認められています(民法986条1項)。
遺贈が放棄されると、改めて遺産分割協議をおこなう必要が生じるため、遺言書の相続トラブルを予防する効果が半減してしまいます。そのため、できる限り遺贈が放棄されないように工夫することが大切です。
相続人のニーズを把握して遺産の分け方を決める、管理の難しい財産を相続させる者には恩恵を与えるなどの方法も、こうした工夫の一つといえるでしょう。
遺産の分け方以外にも、すでに紹介した以下のような事項について、定めの要否や内容を検討しましょう。
遺産の分け方などがおおむね固まったら、自筆証書遺言の案文を作成しましょう。
案文の段階では、WordなどのPCソフトを活用して作成するのが便利です。本記事の後半では、自筆証書遺言の案文ひな形や記載例を紹介するので、参考にしてください。
なお、遺言書の内容について法的な有効性や妥当性を検証するためには、弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。
遺言書の案文が固まったら、実際に自筆証書遺言を作成しましょう。
自筆証書遺言は、全文・日付・氏名を自書して作成しなければなりません(民法968条1項)。WordなどのPCソフトを利用しての作成は認められないのでご注意ください。
ただし、自筆証書遺言に添付する遺産目録(相続財産目録)については、例外的に自書が不要とされています(民法968条2項)。
特に遺産の数や種類が多い場合には、WordなどのPCソフトを利用して遺産目録を作成するのがよいでしょう。
なお、遺産目録を自書以外の方法で作成する場合は、遺産目録のすべてのページに署名・押印する必要があります。
自筆証書遺言には、本人による押印が必須とされています(民法968条1項)。押印のない自筆証書遺言は無効となるので注意が必要です。
また前述のとおり、遺産目録を自書以外の方法で作成した場合は、遺産目録のすべてのページへの押印を要します。
さらに、遺産目録を含む自筆証書遺言の内容について加除変更をおこなう場合、変更箇所の指示・変更した旨の付記・署名・押印が必要となる点にもご留意ください(民法968条3項)。
自筆証書遺言を作成する際には、自書・押印を含めて、形式面の不備に十分注意が必要です。自筆証書遺言の作成形式について、少しでも疑問がある場合は弁護士にご相談ください。
自筆証書遺言を作成する際に参考となる、遺言書案文のひな形と記載例を紹介します。
遺言書 ○○(以下「遺言者」という。)は、次のとおり遺言する。 第1条(△△の相続)→「△△」には財産の種類を記載(例:預貯金の相続) …… 第2条(□□の相続)→第1条と同様 …… …… 第○条(本遺言書に定めのない財産の相続) 遺言者の有する財産のうち、本遺言書に定めのないものは、すべて○○に相続させる。 以上 |
以下の遺産について、相続方法(分け方)を指定する際の記載例を紹介します。
遺言者は、現金500万円を、○○に相続させる。 |
遺言者は、遺言者が□□銀行××支店に有する口座に係る預貯金債権のうち、500万円分を○○に、その余を△△に相続させる。 |
遺言者は、遺言者が□□証券に有する口座に係る有価証券の一切を、○○に相続させる。 |
遺言者は、次の土地および建物のすべてを、○○に相続させる。 (1)土地 所在:○○ 地番:○○ 地目:○○ 地積:○○ (2)建物 所在:○○ 家屋番号:○○ 種類:○○ 構造:○○ 床面積:1階○○平方メートル 2階○○平方メートル |
遺産の相続方法(分け方)以外に遺言書に記載し得るものとして、以下の事項に関する記載例を紹介します。
遺言者は、本遺言に係る遺言執行者として、次の者を指定する。 [住所] 弁護士 ○○ |
<遺産全部の分割禁止> 遺言者は、遺産の全部につき、相続開始後3年間、遺産分割を禁止する。 |
<遺産の一部に限った分割禁止> 遺言者は、次に掲げる遺産につき、相続開始後3年間、遺産分割を禁止する。 (1)土地 所在:○○ 地番:○○ 地目:○○ 地積:○○ (2)建物 所在:○○ 家屋番号:○○ 種類:○○ 構造:○○ 床面積:1階○○平方メートル 2階○○平方メートル |
遺言者は、遺言者と△△の間に生まれた子である以下の者を認知する。 氏名:○○ 生年月日:○○ 本籍:○○ 住所:○○ 戸籍筆頭者:○○ |
遺言者は、△△の未成年後見人として、以下の者を指定する。 住所:○○ 氏名:○○ |
遺言者は、○○を相続から廃除する。その理由は以下のとおりである。 (理由) …… ※著しい非行の具体的な内容を記載する |
自筆証書遺言には、主に以下の事項を定めることができます。
各事項の記載例は後に解説しますが、まずはそれぞれの概要を確認しておきましょう。
遺言書のもっとも重要な目的は、遺産の相続方法(分け方)を指定することです(民法908条)。誰にどの遺産を相続させるのかを、明確な文言で記載しましょう。
なお、相続トラブルを可能な限り避ける観点からは、遺言書に記載されていない遺産の分け方についても明記しておくことが望ましいです。
遺言書では、遺言執行者を指定することもできます。遺言執行者とは、遺言内容を実現するための職務をおこなう者です。
就任した遺言執行者は、遺言執行に必要な一切の行為を単独ですることができます(民法1012条1項)。
通常であれば多くの手続きについて、相続人全員で対応しなければならないことに比べると、遺言執行者の指定は相続手続きを円滑化する観点から有益です。
なお、遺言執行者は1人ではなく複数人でもよく、その指定を第三者に委託することもできます(民法1006条1項)。
遺言書では、5年を超えない期間を定めて遺産分割を禁止することができます(民法908条)。
たとえば相続人間の関係性が非常に悪く、相続トラブルを緩和するための期間を空けたい場合などに、遺産分割の禁止が定められることがあります。
遺言書では、子の認知をおこなうこともできます(民法781条2項)。
婚姻外で生まれた子は、そのままでは父親との間に法律上の親子関係を有しません。父親が認知をする(または認知の訴えの判決が確定する)ことにより、初めて法律上の親子関係が発生します。
認知は生前におこなうのが一般的ですが、遺言による認知も認められています。遺言書の記載によって認知され、法律上の子となった者は、亡くなった被相続人(遺言者)の相続権を取得します。
未成年者に対して最後に親権をおこなう者は、遺言によって未成年後見人を指定することができます(民法839条1項)。
たとえば、離婚または死別によって子の単独親権者となった親が自筆証書遺言を作成する際には、未成年後見人の指定をおこなっておくのがよいでしょう。
被相続人に対する虐待・重大な侮辱その他の著しい非行があった推定相続人については、被相続人は廃除を家庭裁判所に請求できます(民法892条)。
家庭裁判所によって推定相続人の廃除の審判を受けた者は、遺留分を含めて一切の相続権を失います。
推定相続人の廃除は、遺言によっておこなうことも認められています(民法893条)。
遺言による廃除の場合も家庭裁判所への審判申立てが必要ですが、申立てをおこなうことができるのは遺言執行者のみです。
遺言書の中で、推定相続人の廃除の意思表示と合わせて、遺言執行者の指定もおこないましょう。
もし遺言執行者がいない場合は、利害関係人が家庭裁判所に対して、遺言執行者の選任を申し立てる必要があります(民法1010条)。
【参考】遺言執行者の選任|裁判所
遺言書には、法的拘束力を有する事項のほか、それ以外の「付言事項」を定めることもできます。
付言事項としては、残される相続人に対するメッセージなどを記載するのが一般的です。
たとえば、感謝の言葉や遺産の分け方に関する理由、相続人同士で争わないでほしい旨の希望などを記載する例が見られます。
自筆証書遺言を作成する際には、特に以下の3点に注意する必要があります。
自筆証書遺言は、遺言者以外のチェックが入らなくても作成できるため、形式・内容の不備による無効のリスクが高い傾向にあります。
特に形式については、民法で定められたルールを厳密に守る必要があります。十分な知識のない方が一人で自筆証書遺言を作成すると、遺言無効のリスクが高まることは避けられません。
また、遺言能力の欠如による無効リスクが高いことも、自筆証書遺言を作成する際の重要な注意点です。特に認知症が進行した本人に対して、周囲の家族が誘導する形で自筆証書遺言を作成した場合には、遺言無効が争われる可能性が高いと言えます。
自筆証書遺言を遺言者の自宅などで保管する場合、紛失や改ざんなどのリスクにも注意が必要です。遺言書を紛失すれば、相続に遺言者本人の意思が反映されません。また、遺言書が改ざんされれば、遺言の有効性などを巡って相続トラブルが発生する可能性が高くなります。
自筆証書遺言の紛失・改ざんを防ぐには、「自筆証書遺言書保管制度」の利用を検討してください。
遺言書は一般に相続トラブルの予防に役立ちますが、内容をきちんと検討しないと、かえって相続トラブルを誘発してしまうことがあります。
遺言書によって引き起こされることの多い相続トラブルの例としては、遺留分侵害や相続税の納税資金不足が挙げられます。
兄弟姉妹以外の相続人には、相続できる遺産の最低保証額である「遺留分」が認められています(民法1042条1項)。
遺言書によって偏った相続分を指定した結果、遺留分を下回る遺産しか取得できない相続人が生じた場合、遺留分侵害額請求による相続トラブルに発展する可能性があります(民法1046条1項)。
相続財産が一定額を超える場合には、相続によって取得した遺産につき相続税が発生します。
不動産などを相続させる相続人に対して、現預金や流動性の高い有価証券などを与えなかった場合、納税資金不足に陥る可能性があります。
この場合、不本意に不動産などの売却を強いられたり、納税資金を準備できず税務署から督促されたりするおそれがあります。
自筆証書遺言を作成する際には、専門家のチェックを受けなかった結果、上記のようなトラブルのリスクを含む遺言書が作成されてしまうことが多いです。相続トラブルのリスクを回避するため、自筆証書遺言を作成する際には、弁護士に相談することをおすすめします。
自筆証書遺言は、形式不備による無効や、紛失・改ざんなどのリスクがあるのが大きな難点です。
これらの難点を解消するためには、「自筆証書遺言書保管制度」を利用することをおすすめします。
【参考】自筆証書遺言書保管制度|法務省
「自筆証書遺言書保管制度」とは、法務局の遺言書保管所において、自筆証書遺言を預かってもらえる制度です。
自筆証書遺言書保管制度の利用は、以下のいずれかの地を管轄する法務局で申請できます(法務局における遺言書の保管等に関する法律4条3項)。
ただし、すでに自筆証書遺言が遺言書保管所に保管されている場合には、同じ遺言書保管所に申請しなければなりません。
申請を受けた遺言書保管官は、自筆証書遺言の形式面をチェックした上で、遺言書保管所にて自筆証書遺言を預かります。
遺言者が亡くなった後、相続人・受遺者・遺言執行者は、以下の方法によって遺言書の内容確認等をおこなうことができます。
自筆証書遺言書保管制度を利用することには、主に以下のメリットがあります。
自筆証書遺言の原本が遺言書保管所で保管されるため、紛失・改ざんなどの心配がなくなります。
遺言書保管官が形式面のチェックをおこなうため、形式不備による遺言無効を防げます。
遺言者が亡くなって相続が発生した際、申請時に指定した1名に対して、法務局から遺言書の存在を通知してもらうことができます。
そのため、遺言書の存在が知られずに遺産分割がおこなわれてしまう事態を防げます。
自筆証書遺言は、相続発生後に家庭裁判所の検認を要するのが原則です(民法1004条1項)。
しかし、遺言書保管所で保管されている自筆証書遺言については、家庭裁判所による検認が不要となります(法務局における遺言書の保管等に関する法律11条)。
自筆証書遺言書保管制度を利用する場合でも、法務局では、遺言書の内容まではチェックしてもらえません。内容面での有効性・妥当性を検証するためには、弁護士への相談をおすすめします。
また、遺言者本人が法務局へ足を運べない場合は、自筆証書遺言書保管制度を利用できません。
たとえば足が不自由である・病態が思わしくないなどの理由で、本人が法務局へ行けない場合には、公正証書遺言を作成するのがよいでしょう。
公正証書遺言の作成には、公証人と証人2名の関与が必要ですが、自宅まで出張してもらうことも可能です。
自筆証書遺言を作成する際には、弁護士に相談するのが安心です。
自筆証書遺言の難点は、内容・形式の不備による遺言無効や、遺留分侵害などに関するリスクが大きいことです。
法的な知識に乏しい状態で自筆証書遺言を作成すると、これらのトラブルが生じるリスクが高まってしまいます。
自筆証書遺言を作成して、相続トラブルを予防したいと考えている場合には、弁護士のアドバイスが役立ちます。
遺言者本人の意向を適切に反映しつつ、十分に相続トラブルを予防できる遺言書の作成をサポートしてもらえるでしょう。
自筆証書遺言による相続対策を検討している方は、弁護士に相談してください。