遺産分割で預貯金はどうやって扱う?預貯金を相続するさいの流れと注意点

遺産分割で預貯金はどうやって扱う?預貯金を相続するさいの流れと注意点

相続が発生し遺産分割協議を始めたものの、被相続人の預貯金の遺産分割方法について疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

  • 「預貯金はどのように分割すべき?」
  • 「立て替えた葬儀費用分だけでも先に引き出してもいい?」

被相続人の預貯金は、以前は「可分債権」として遺産分割協議を経なくても、相続人であれば法定相続分に相当する金額を各々引き出せましたが、現在は遺産分割協議後でなければ引き出せません。

しかし、被相続人の葬儀や法要のために必要な費用を用意するために早く引き出したいときのために、預貯金の仮払い制度というものがあります。

本記事では、遺産分割における預貯金の扱いの他、遺産分割前に預貯金を引き出す方法、預貯金の相続手続き方法などについて解説します。

これから遺産分割をおこなうという方は、ぜひ参考になさってください。

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この記事を監修した弁護士
葛城 繁弁護士(葛城法律事務所)
相続問題を中心に分野を問わず幅広い法律問題に対応。 『ご依頼者の利益が最大限になるためのサポート』となることを心掛け、的確なアドバイスを伝えられるよう客観的視点を忘れず、日々、業務と向き合っている。

預貯金は遺産分割の対象外?対象外になる可分債権とは

預貯金は他の遺産と同様、遺産分割協議のうえで相続すべき財産です。

以前は遺産分割の対象外となる「可分債権」とされ、法定相続分に相当する金額を各相続人が各々受け取れました。

しかし、現在では遺産分割の対象となる財産として扱われ、遺産分割協議を経なければ受け取れません。

ここでは、遺産分割の対象とならない「可分債権」の概要や、遺産分割における預貯金の扱いについて解説します。

遺産分割の対象外になる可分債権とは?

「可分債権」とは文字どおり分割可能な債権のことです。

遺産分割協議を経なくても、各相続人が法定相続分ずつ取得できます。

可分債権の具体例としては以下のようなものが挙げられます。

  • 売掛債権
  • 他者への債権
  • 損害賠償金

可分債権の扱い方の例も挙げておきましょう。

たとえば、自営業者である被相続人が売掛債権を1,000万円残して亡くなったとします。

相続人は配偶者と、2人の子です。

各相続人は1,000万円の売掛債権について、法定相続分ずつ取得できるので、取得金額は次のとおりとなります。

  • 配偶者:1,000万円×1/2=500万円
  • 子:1,000万円×1/2×1/2=250万円ずつ

配偶者は500万円、子はそれぞれ250万円ずつ、売掛先に対して個別に請求することができるのです。

預貯金は遺産分割の対象になる

以前は預貯金も可分債権として扱われていました。

しかし、平成28年に最高裁判所が預貯金を遺産分割の対象とする判決を下したことから、現在では遺産分割の対象となる財産とされています。

【参考】平成27年(許)第11号 遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件|平成28年12月19日 大法廷決定

これは預貯金を可分債権とすると、遺産分割が不公平となるケースもあったためです。

たとえば生前贈与などの特別受益を受けた相続人がいる場合、預貯金を可分債権としてしまうと、ただでさえ不公平な相続にさらなる偏りが生じます。

相続人の一人が不動産を現物で相続した一方、他の相続人が何も相続しなかったなどのケースでも同様です。

このように遺産分割における公平性を実現するために、預貯金は遺産分割の対象とされるようになったのです。

遺産分割前に預貯金を引き出す方法

「葬儀代や法要にかかった費用の立て替え分を早く返してほしい」「これまで被相続人名義の口座に保管されている預貯金で生活してきたため、引き出せなくなり困っている」など、早急に払い戻してほしい事情がある場合には、仮払い制度を利用すれば、遺産分割協議前でも預貯金を引き出せます。

預貯金の仮払い制度について詳しく知っておきましょう。

預貯金の仮払い制度

2019元年7月1日より施行された改正相続法により、一定以下の金額であれば、相続人は被相続人の預貯金口座から現金を引き出せるようになりました。

通常、被相続人が亡くなった旨を金融機関へ届け出ると、被相続人名義の口座は凍結されます。

そして遺産分割協議後に相続手続きをしなければ、口座に残された現金を引き出せません。

しかし仮払い制度を利用すれば、一定の範囲の金額なら、遺産分割協議前でも各相続人が現金を払い戻してもらえます。

この制度の利用には以下の二つの方法があります。

  • 金融機関で直接払い戻しを求める方法
  • 家庭裁判所の審判を得る方法

ただし、家庭裁判所の審判を得る方法が取れるのは、家庭裁判所で遺産分割調停や審判手続き中である場合に限られます。

また、どちらの方法で払い戻しを受けるとしても、多少の時間は要しますので注意しましょう。

【参考】遺産分割前の相続預金の払戻し制度のご案内チラシ|一般社団法人全国銀行協会

払い戻しの上限となる金額

払い戻しの上限金額は、選択する方法に応じて異なります。

家庭裁判所の審判を得る場合

家庭裁判所の審判による場合は、家庭裁判所が認めた金額であれば払い戻してもらえます。

具体的な金額は個々のケースに応じて異なります。

家庭裁判所が、仮払いが必要な事情を考慮し、かつ、他の相続人の利益を害さない範囲も加味したうえで金額を決定するでしょう。

金融機関で直接払い戻しを求める場合

金融機関の場合、払い戻してもらえる金額の上限は、相続人の法定相続分に応じて異なります。

払い戻しの上限となる金額は下記の計算式で算出します。

払い戻しの上限金額=相続開始時の預貯金額×請求者の法定相続分×1/3

なお、金融機関1行あたりの払い戻し上限金額は150万円です。

上記の計算式で算出した金額が150万円以上となっても、150万円までしか払い戻しはできません。

仮払い制度の申請に必要な書類

申請に必要な書類も、選択する方法に応じて異なります。

家庭裁判所の審判を得た場合

家庭裁判所の審判を得て申請する際は、以下の書類の提出が必要です。

  • 審判書謄本
  • 請求者の印鑑証明書

審判書謄本は、家庭裁判所で交付申請をして発行してもらいます。

交付申請書式は下記のページからダウンロード可能です。

【参考】家事事件の各種書類交付申請等 | 裁判所

金融機関で直接払い戻しを求める場合

金融機関に直接払い戻しを申請する場合は、下記の書類が必要です。

  • 被相続人の出生から死亡に至るまでの全ての戸籍謄本類
  • 相続人全員分の戸籍謄本
  • 請求者の印鑑証明書

ただし、金融機関によっては必要な書類が異なることもあります。

事前に確認のうえ手続きを進める方がよいでしょう。

相続が始まってから各相続人に預貯金が振り込まれるまでの流れ

相続発生から、被相続人名義の預貯金口座の残高が遺産として分割されるまでにはどのような手続きを踏めばよいのでしょうか。

相続開始から、預貯金口座の遺産を各相続人が受け取るまでの流れを紹介します。

1.金融機関へ名義人が死亡したことを伝える

被相続人が亡くなったら、まずは金融機関へその旨を届け出ましょう。

届け出の方法は、直接店頭に赴いてもかまいませんが、電話でも受け付けてもらえます。

同時に相続手続きをするのに必要な書類についての案内も受けるはずです。

店頭であれば、必要書類を記載した資料を渡して説明してもらえますが、電話の場合は口頭で説明されるので、メモの準備をしておきましょう。

2.相続人全員で遺産分割協議をおこなう

預貯金口座の相続手続きをする際には、遺言書がない限り、遺産分割協議書の提示を求められます。

遺産分割協議を経て、遺産分割協議書を作成しなくてはなりません。

遺産分割協議は、必ず相続人全員でおこないます。

一人でも欠けた状態で協議をしてしまうと、決まった分割内容が後で無効になる可能性があるためです。

しかし、遺産分割協議は必ずしも全員が一堂に会しておこなう必要はありません。

遠方に住んでいたり、病気などで移動が難しかったりして全員が集まれないなら、電話やメールで全員の合意を取り付けてもかまいません。

また、相続人同士の仲が悪かったり、問題が起こったりして話がまとまらないなら、早めに弁護士に相談する方がよいでしょう。

専門家が間に入れば、問題が大きくならず、早期に合意に至る可能性が高まります。

【関連記事】相続問題は弁護士に電話相談できる?無料相談できる弁護士の探し方や注意点を解説

3.金融機関に提出する必要書類を集める

遺産の分割内容が定まったら、金融機関に提出するよういわれた書類を準備して手続きを進めましょう。

必要な書類は、遺言書や遺産分割協議書の有無に応じて異なります。

それぞれの場合に必要となる主な書類は以下で紹介するとおりです。

ただし、金融機関によって異なることもありますので、必ず該当の金融機関に確認するようにしましょう。

遺言書があった場合

遺言書があった場合は、以下の書類を準備しましょう。

  • 遺言書
  • 遺言の検認調書または検認済調書(公正証書遺言の場合は不要)
  • 被相続人が死亡した旨を確認できる戸籍謄本、または除籍謄本
  • 遺言執行者、または該当口座を相続する方の印鑑証明書
  • (裁判所に遺言執行者として選任された場合)遺言執行者の選任審判謄本

遺言書はなかったが、遺産分割協議書があった場合

遺言書が残されておらず、遺産分割協議によって遺産の分割方法を決定した場合は、主に次の書類が必要です。

  • 遺産分割協議書
  • 被相続人の出生から死亡に至るまでの戸籍謄本類
  • 相続人全員分の戸籍謄本
  • 相続人全員分の印鑑証明書

遺言書も遺産分割協議書もなかった場合

遺言書がなく、法定相続分どおりに遺産を分割したために遺産分割協議書もない場合は、以下の書類を準備します。

  • 各金融機関所定の書式
  • 被相続人の出生から死亡に至るまでの戸籍謄本類
  • 相続人全員分の戸籍謄本
  • 相続人全員分の印鑑証明書

ただし、各金融機関所定の書式には相続人全員の署名・捺印が必要となるでしょう。

また、遺言書がなく、遺産分割協議をおこなったものの、協議がまとまらず家庭裁判所で解決したために遺産分割協議書もない場合は、以下の書類が必要です。

  • 家庭裁判所の調停調書謄本または審判書謄本
  • (審判事件となり、審判書に確定の旨の記載がない場合)審判確定証明書
  • 預金を相続する方の印鑑証明書

遺産分割で預貯金を相続するときに注意すべきこと

預貯金の相続手続きを進める際には注意点もあります。

困った事態に陥ったり、トラブルが起こったりするのを避けるためにも、ぜひ知っておきましょう。

凍結される前に預貯金を引き出さない

被相続人の死亡を届け出る前に預貯金を引き出してはいけません。

被相続人の遺産を勝手に使ったり、処分したりすれば「単純承認」をしたとみなされてしまうためです。

相続の方法には以下の三つの方法があり、単純承認とはこのうちの一つの方法です。

  • 単純承認:プラスもマイナスも含めた全ての遺産を相続する方法
  • 限定承認:プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を清算する方法。プラスが超過すれば、その分は相続できる。
  • 相続放棄:プラスもマイナスも含めた全ての遺産の相続を放棄する方法。

単純承認をしたとみなされれば、他の相続方法を選択できません。

相続放棄や限定承認をすべき状況であっても、選択できず後から困る可能性もあります。

被相続人が亡くなったら、まずは必ず金融機関にその旨の届け出をおこない、口座が凍結する前に引き出さないように気を付けましょう。

相続人同士の話し合いを文書化して保管する

遺産分割協議で決まった内容は、遺産分割協議書に記載して残しておきましょう。

これだけでも十分相続人同士のトラブルを防止するのに役立ちますが、可能であれば、さらに話し合いの内容もメモをして文書にしておくことをおすすめします。

誰がどのような理由を主張して、その遺産を相続することになったのかなど、話合いの要点を文書で残しておけば、万が一相続に関するトラブルが起こった際の証拠になります。

文書の作成が大変であれば、話し合いを録音して保管しておくのも効果的です。

相続手続きは早めにおこなう

預貯金の相続手続きに期限はありませんが、可能な限り早めにおこなうのが望ましいところです。

特に相続税の納付が必要なケースでは、速やかに手続きすることをおすすめします。

というのも、相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内におこなわなくてはならないからです。

相続税の納付までに金融機関での相続手続きが間に合わなければ、十分なお金が手元にないために大変な思いをすることもあるでしょう。

また、高齢であったり病気を患っていたりする相続人がいる場合も注意が必要です。

万が一、相続手続きが完了していない中、他の相続人も亡くなってしまえば、その相続人の相続分についてさらなる相続手続きが生じます。

非常に複雑で手間のかかる事態になりかねないでしょう。

預貯金の相続手続きには期限がないといえども、できるだけ早期におこなうべきです。

まとめ

今回は遺産分割における預貯金の考え方や、相続手続きの流れや手続き方法についてご紹介しました。

預貯金は遺産分割の対象となる財産であり、相続人が勝手に引き出せるものではありません。

遺言書があるなら遺言書の内容どおりに、遺言書がないなら遺産分割協議を経てその分割方法を相続人全員で決定したうえで、相続手続きをおこなうものです。

思わぬトラブルを引き起こさないためにも、必ず流れに準じて相続手続きを進めましょう。

また、遺産分割や相続について不明点があったり、問題が起こったりしたら、相続問題に精通しているお近くの弁護士に早めに相談することをおすすめします。

早めに弁護士に依頼すれば、問題が大きくならずに早期解決できる可能性も高まります。

初回無料で相談に応じてくれる事務所もありますので、気軽に利用してみるとよいでしょう。

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この記事の調査・編集者
アシロ編集部
本記事は法律相談ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。※法律相談ナビに掲載される記事は、必ずしも弁護士が執筆したものではありません。本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。
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