遺産分割調停の呼び出しは無視できる？欠席のリスクと対処法を解説

相続問題で揉めている相手から遺産分割調停を申し立てられると、初回期日は申立人と裁判所によって指定されてしまいます。

さらに、調停は平日の昼間におこなわれるので、どうしても都合があわないこともあるでしょう。

しかし、どのような理由でも遺産分割調停期日の呼び出しを無視すると、自身にとって不利益が生じるおそれがあります。

本記事では、なぜ調停期日は無視できないのか、無視した場合に発生するデメリットは何かを解説します。

調停を欠席する理由は人によってさまざまで、その理由によって対処方法も変わります。

• 相続自体に関わりたくない
• 自分の相続分には争いがない
• 裁判所に行くこと自体が困難
• 平日の昼間は常に仕事　など

本記事を読むことで遺産分割調停の呼び出しに対する対処法がわかり、不利益を避けることができます。

ぜひ参考にしてみてください。

この記事を監修した弁護士

葛城 繁弁護士（葛城法律事務所）

相続問題を中心に分野を問わず幅広い法律問題に対応。 『ご依頼者の利益が最大限になるためのサポート』となることを心掛け、的確なアドバイスを伝えられるよう客観的視点を忘れず、日々、業務と向き合っている。

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遺産分割調停とは裁判所による仲介のもとで遺産分割の話し合いを進める手続き

遺産分割調停とは、裁判所による仲介のもとで遺産分割の話し合いを進める手続きのことです。

家庭裁判所の裁判官1名が進行を取り仕切り、調停委員2名が中立な立場で相続人の主張を聞いて話し合いの仲裁をおこないます。

相続人は別々の部屋に待機し、一人ずつ調停委員の部屋に呼び出されて意見を伝えるため、お互いが顔を合わせることはありません。

ただし、調停はあくまで話し合いです。

詳しくは後述しますが、相続人同士の意見がまとまらなければ不成立となり、自動的に審判手続きに移行します。

【関連記事】遺産分割調停とは？家庭裁判所での手続きの流れと弁護士に依頼するメリット

遺産分割調停の呼び出しを無視して欠席するリスク

次に、遺産分割調停の呼び出しを無視して欠席するリスクを4つ解説します。

欠席して得することは基本的にないので、都合が合う限りは出席するようにしましょう。

1.調停委員の心証を悪くする

調停を無断で欠席すると、調停委員に悪い印象を与えるおそれがあります。

調停委員は、裁判所から選任を受け、調停で当事者同士の話し合いを仲介する役割を担います。

もちろん調停委員は中立の立場で両者を仲介しますが、感情をもった人間でもあります。

一度でも無断で欠席すれば、調停委員に不信感を与えてしまい、次回以降の話し合いに悪影響が生じる可能性があります。

2.遺産分割において自分の主張ができなくなる

遺産分割調停を欠席すると、自分の意見を主張する機会を失います。

「親の事業を大きくした」「親と同居して介護をしていた」などの言い分があっても、出廷しなければ主張することはできません。

反対に、出廷した相続人は調停委員に対して自分の主張をしっかり伝えることができます。

遺産分割調停が始まった以上、裁判外での主張は反映されません。

その結果、自分に不利な遺産分割になることもありえます。

自分の言い分があり調停を有利に進めたいと思うなら、調停に出廷して調停委員に伝える必要があります。

3.5万円以下の過料に処されるおそれがある

正当な理由なく遺産分割調停に出席しなかった場合は、5万円以下の過料に処されるおそれがあります。

とはいえ、仕事や体調不良など、欠席理由は幅広く認めてもらえるため、過料に処されることはほとんどありません。

しかし、法律で規定されている以上、制裁が実行される可能性もゼロではないので、念頭に置いておくべきでしょう。

4.相続税の申告期限までに遺産分割が終わらなくなる

遺産分割調停を欠席すると、相続税の申告期限までに遺産分割が終わらなくなるおそれがあります。

相続税の申告期限は、「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内」です。

遺産分割調停の時期にもよりますが、欠席して分割方法が決まらないまま時間が過ぎてしまうと、申告期限に間に合わない可能性が出てきます。

申告期限に遅れたときは、延滞税や無申告加算税を支払わなければなりません。

どうしても申告期限に間に合わない場合は、法定相続分どおりに分割した内容で申告し、あとで修正申告する方法もあります。

しかし、問題を後回しにしているだけなので、できるだけ遺産分割調停のなかで解決しておくことをおすすめします。

遺産分割調停の呼び出しを無視し続けると審判に移行する

遺産分割調停の呼び出しを無視し続けた場合は、調停が不成立となり、審判に移行します。

審判とは、裁判所が遺産分割の方法を決定する手続きのことです。

審判に移行すると、複数回の期日が開かれ、当事者がお互いの意見を主張し合います。

各期日には必ずしも出席する必要はありませんが、自分の言い分を聞いてもらえないまま、不利な審判が下されるおそれもあります。

主張したいことがある場合は、できる限り出席するようにしてください。

なお、審判に不服がある場合は、高等裁判所に対する「即時抗告」によって再審理を求めることができます。

【タイプ別】遺産分割調停に出席できない場合の対処法

遺産分割調停の呼び出しを無視すると、さまざまな不利益を被ることになります。

しかし、初回の期日は自分で決められないため、出席が難しいこともあるでしょう。

では、遺産分割調停を欠席しなければならない場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

調停に出廷しないといっても、その理由はさまざまです。

• 自分の相続人については争いがないので、行く意味がない
• 相続自体に関わりたくないので、自分の取り分がなくなっても構わない
• 自分の主張はあるが、平日の昼間に仕事を休んで出廷するのが困難
• 遠方で出廷負担が大きい

欠席理由によって、対処方法は異なるので詳しく見ていきましょう。

対処法は以下の5つです。

1.自分が相続する財産は争いなく決まっている｜答弁書に事情を記載して提出する

自分の取得する財産には争いがなく、ほかの相続人が自分の相続分以外の財産で争っている場合でも、遺産分割調停には呼び出されます。

そして、自分が相続人の一人になっている以上、無断で欠席するべきではありません。

どうしても欠席しなければならないのであれば、答弁書に事情を記載して提出し、担当の裁判所書記官に相談しましょう。

場合によっては、裁判所側の配慮で必要な期日のみの出廷としてもらえるかもしれません。

2.遺産分割に興味がなく相続争いに巻き込まれたくない｜相続放棄の申述をする

遺産分割に興味がなく、とにかく相続争いに巻き込まれたくない方は、相続放棄の申述をしておきましょう。

相続放棄が受理されれば、相続発生時に相続人ではなかったことになるため、遺産分割調停の当事者からも外れます。

ただし、相続放棄ができるのは自分が相続人になったことを知ってから3ヵ月以内です。

3ヵ月が過ぎてしまったけれど相続争いに巻き込まれたくない場合は、相続分の放棄や譲渡によって遺産分割調停の当事者から外れることができます。

相続分の放棄や譲渡をした場合には、あらかじめ答弁書にその旨を記入して裁判所に提出しておきましょう。

3.調停の初回期日にどうしても外せない用事がある｜進行に関する照会回答書に欠席の旨を書いて提出する

初回期日にどうしても外せない用事がある場合は、家庭裁判所から遺産分割調停申立書と一緒に送付されてくる「進行に関する照会回答書」に欠席の旨を書いて提出しましょう。

あわせて、裁判所にも初回期日への出席が難しい旨を連絡しておくと、心証が悪くなるリスクも防ぐことができます。

また、「進行に関する照会回答書」に次回期日の希望日も記載しておけば、考慮してもらえるかもしれません。

4.家庭裁判所に行くことが困難である｜電話会議システムの利用を裁判所に申請

調停が開かれる家庭裁判所が遠方で移動の負担が大きい、もしくは健康上の理由で裁判所に行くことが難しい場合は、電話会議システムの利用を裁判所に申請してください。

電話会議システムの利用が認められると、自宅の最寄りの家庭裁判所から電話で調停に参加できます。

ただし、必ずしも電話会議システムの利用が認められるわけではないので、あらかじめ担当書記官に事情を伝えたうえで、早めに申請しておくことが大切です。

5.平日の日中は仕事でいけない｜代理人の弁護士を選任

調停期日は常に平日の日中、裁判所が開廷している時間帯におこなわれます。

平日昼間に仕事があり、期日のたびに毎回休みを取ることが難しい場合は、代理人の弁護士を選任しましょう。

弁護士に遺産分割調停での代理人を依頼すれば、出廷できないときに代わりに出廷してもらうだけでなく、出廷できるときでも調停期日に同席してもらえます。

2022年に実施された遺産分割調停では、約8割の方が弁護士を代理人につけています。

【参考元】弁護士白書20231年版｜日本弁護士連合会

弁護士に依頼することで、調停委員に説得力のある主張ができるなどのメリットもあります。

出廷の可否に関わらず、一度検討してみるとよいでしょう。

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まとめ｜遺産分割調停の呼び出しを無断で無視するのはおすすめしない

遺産分割調停の呼び出し状を受け取ったら、無視するのはおすすめできません。

確かに、相続の話し合いで揉めているときに突然調停を申し立てられたら、驚き、気分を害することもあるでしょう。

しかし、当事者として呼び出された以上、欠席する前にすべきことがあります。

• 初回調停期日が差し支えるなら、答弁書を提出のうえ次回期日の候補日を伝えておく
• 遠方で出廷の負担が大きいなら、電話会議システムを申請してみる
• 相続の揉めごとに関わりたくないなら、相続放棄の申述や相続分の譲渡、放棄をする
• 平日の昼間に毎回時間が取れないなら弁護士に代理人を依頼する

以上のような対策をとっておけば、不利な状況に追い込まれることもありません。

遺産分割調停自体が不安ならば、呼び出し状を受けた時点で弁護士に依頼しましょう。

遺産分割問題が得意な弁護士であれば、依頼者の要望を実現させるために全力でサポートしてくれるはずです。

この記事の調査・編集者

アシロ編集部

本記事は法律相談ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。※法律相談ナビに掲載される記事は、必ずしも弁護士が執筆したものではありません。本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。