遺留分が侵害されている場合、通常は遺留分侵害額請求を通じて解決を図ります。
しかし、遺留分侵害額請求の手続きは、遺産分割の手続きとは異なり、協議・調停・審判という流れにはならない点が特徴です。
本記事では、遺留分侵害額請求における手続きの流れや、調停・訴訟のポイントについて解説します。
実際に遺留分について問題がある方は、ぜひ役立ててください。
遺産の遺留分について、相続人同士での話し合いがうまくいかず、悩んでいませんか。
結論からいうと、遺留分侵害額請求で話し合いがうまくいかない場合は、審判ではなく調停での話し合いが必要になります。
調停は自身でおこなうことも可能ですが、自分の主張を法的観点から説明する必要があるため、まずは弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に相談することで、以下のようなメリットを得ることができます。
- 相手の請求している遺留分請求額が適切か確認してもらえる
- 調停での注意点や法的観点からのアドバイスをもらえる
- 弁護士に依頼すべきか判断できる
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遺留分侵害額請求とは
「遺留分侵害額請求」とは、相続で受け取るべき遺留分に満たない場合に、遺産を多く相続した相続人に対して不足分の支払いを求める請求方法です。
基本的には、令和元年7月1日以降に発生した相続に適用されます。
また、それ以前に発生した相続については、遺留分が侵害された場合に相続財産の現物返還を求める「遺留分減殺請求」が適用されます。
遺留分「侵害額請求」と遺留分「減殺請求」は、似て非なるものです。
どちらの請求方法も、遺留分が侵害された場合に不足分を補うための制度ですが、不足分の清算方法に大きな違いがあります。
遺留分侵害額請求に審判はない|具体的な手続きの流れ
遺留分侵害額請求は、協議・調停・訴訟という流れで手続きが進行します。
そのため、特徴として審判がおこなわれない点があげられます。
手続きの主な流れは、以下のとおりです。
- 相手方に内容証明郵便を送付する
- 相手方と話し合う
- 調停を申し立てる
- 訴訟を提起する
- 遺留分侵害額を精算する
まずは相手方に内容証明郵便を送付して、遺留分侵害額請求をおこなう旨を示します。
そして相手方と話し合いをおこないます。
話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所に調停の申立てをおこないます。
調停は、裁判官と調停委員が仲介することで、当事者同士の話し合いでまとまらなかった問題を解決する手続きです。
それでも合意にいたらなかった場合には、訴訟の提起に移ります。
そして、和解や判決によって遺留分侵害額が精算されます。
このように遺留分侵害額請求では、遺産分割のように、自動的に審判に移行して結論が示されることはありません。
請求調停が決裂した場合は、改めて訴訟を提起して争うことになります。
遺留分侵害額請求を調停でおこなうメリット
遺留分侵害額請求は、相手方と話し合うことで解決できます。しかし、調停で話し合うことには、いくつかのメリットがあります。
ここでは、主なメリットを3つ紹介します。
1.第三者を介することで冷静に話し合える
当事者同士の話し合いでは、どうしても感情的になって冷静に話し合えないことがあるでしょう。
調停により第三者を介することで、当事者同士が順番に意思表示をして話し合いを進められます。
また、調停委員が間に入ることにより、当事者の主張ではなく第三者の立場から話を聞いて判断するため、冷静に交渉を進められる点もメリットです。
2.解決策などを提示してもらえる
調停委員は、双方の話し合いを感情的にならず冷静に聞いてくれます。
その際、調停委員のなかには妥当な解決策を提示してくれます。
冷静な第三者がいることで、お互いが納得できる条件で合意できる可能性が高まります。
3.自分で申立てをおこなえる
調停の申立ては、ほかの手続きで求められる難しい知識などは必要ありません。
そのため、ひな形などが用意されていれば、自分で申立てをおこなえます。
ただし、事案が複雑な案件では早い時期に書類を揃えて提出する必要があります。
専門的な知識やノウハウを持つ弁護士に依頼したほうが心強いでしょう。
また時効との関係で、適切な権利を行使するためには、弁護士へ依頼されたほうが安心でしょう。
遺留分侵害額請求における調停の申立て
家庭裁判所への調停の申立てについて見ていきましょう。
まずは、遺留分侵害額請求の権利者が申立人となります。
そして、相手方の住所地または当事者間で同意した地を管轄する家庭裁判所に申立てをおこないます。
このとき、遺留分侵害額請求権をいつ・どのように行使していくかを明らかにします。
申立書が家庭裁判所に到達したら、家庭裁判所によって調停の日程が設定されます。
調停の当日は、裁判官一人と調停委員二人が間に入っておこなわれます。
しかし、対立が激化するなどで同席が難しい場合には、事前の申し出により同席を回避することも可能です。
調停では申立人と相手方が交互に調停室に入って、お互いの主張を述べます。
このときの主張は、合理的におこなうことが大切です。
また、専門的な知識が必要となるため、事前に弁護士に相談しておくのもよいでしょう。
話し合いが合意に至れば調停は終了し、合意できない場合には訴訟の提起へと移ります。
請求調停を申し立てる方法
遺留分侵害額の請求調停をおこなうときには、遺留分侵害額請求権者が申立人になり、遺留分を侵害しているほうを相手方として進めていきます。
申立ては、相手方の住所地、またはお互いが同意した地を管轄する家庭裁判所に対しておこないます。
申立書の用紙は各裁判所に備えられているほか、裁判所のサイトから様式をダウンロードすることも可能です。
「申立ての趣旨」や「申立ての理由」などの項目を埋め、管轄の裁判所に提出して申立をおこないます。
請求調停にかかる費用
請求調停をおこなうためには収入印紙が1,200円分必要です。
この収入印紙を申立書の所定の位置に貼り付けて支払います。
また、調停をおこなう際には、裁判所から関係者に連絡をするときに使用する郵便切手(予納郵券)についても申立ての書類に同封します。
予納郵券の金額は管轄の家庭裁判所によって異なるため、提出の前に必要となる金額を確認しておきましょう。
請求調停に必要な書類
請求調停の申立てに必要な書類は、申立書と相手方の人数分の写し、そして必要となる情報が記載された添付書類です。
添付書類の内容は、以下のとおりです。
- 被相続人の出生時から死亡時までの、全ての戸籍・除籍・改製原戸籍謄本・
- 相続人全員の現在戸籍の謄本
- 被相続人の子どもや代襲者のうち、既に死亡している方がいるときは、その方の出生時から死亡時までの全ての戸籍・除籍・改正原戸籍謄本
- 遺言書が存在するときは、遺言書の写し、または遺言書検認調書の謄本の写し
- 遺産の内容がわかる証明書
- 被相続人の父母が相続人に含まれていて、その一方がすでに死亡している場合は、死亡の記載がされている戸籍
同じ書類が一通あれば足ります。
また、内容に応じ追加の書類が必要となるケースがあります。
「申立ての趣旨」を記載するときのポイント
調停の申立てをおこなう際には、「申立ての趣旨」に、相手方に何を求めるかについての結論を記します。
遺留分侵害額請求では、侵害された額について、具体的な金額を記載して請求するのが原則です。
しかし実際のところは、調停の申立てをおこなう段階で具体的な金額の計算ができないケースがあります。
また、調停の場でその金額について話し合われる場合もあります。
そこで「申立ての趣旨」を記載する段階では、「遺留分侵害額に相当する金銭を申立人に支払うことを、相手方に対して求める」といった内容を記載しておけば問題ありません。
「申立ての理由」を記載するときのポイント
「申立ての理由」では、調停の申立てをおこなった経緯や、遺留分が侵害されている状況の説明などを記載します。
具体的に記載しておくべき主な項目は、以下のとおりです。
- 被相続人の氏名及び死亡日時
- 被相続人と、申立人やほかの相続人・相手方との関係
- 遺言書がある場合は、作成された時期及び内容
- 相続財産および、遺留分侵害に該当する贈与や遺贈の詳細(日付や相手方なども含む)
- 遺留分侵害額請求をこれまでにおこなっている場合、請求の内容や、解決されず調停に至った経緯
また「申立ての理由」は、調停の当日に口頭でおこなうことも可能です。
しかし、裁判官や調停委員に事前に内容を把握しておいてもらうためにも、事前に要点をまとめて記載し、提出しておくことをおすすめします。
遺留分侵害額請求における訴訟の提起
遺留分侵害額請求の調停が不成立になると、家庭裁判所からその旨の通知が届きます。
この通知を受けた日から2週間以内に遺留分侵害額請求訴訟を提起すれば、調停を申し立てるときに納めた収入印紙1,200円分を、訴訟提起に必要な収入印紙の金額から差し引いてもらえます。
ただし、2週間以内に訴訟提起をしなければならないわけではありません。
また、訴訟については家庭裁判所ではなく、地方裁判所または簡易裁判所(訴状の請求額が140万円を超える場合は地方裁判所のみ)が管轄になります。
そのため、訴訟の提起は改めておこなわなければなりません。
なお、訴訟を提起するためには、家庭裁判所で調停不成立証明申請書の交付申請・取得が必要です。
そして申請書が揃ったら、裁判所に訴状を提出して提起します。
訴状が受理されると、被告に対して裁判所より呼出状と書類のコピーが送付されます。
被告は、認否および反論を記した答弁書を第一回の期日までに提出しましょう。
裁判は、原告と被告が書面によって認否と反論を繰り返しながら進行しますが、裁判官が仲裁して和解に向けた話し合いの場が設けられることがほとんどです。
和解がまとまれば調停調書が作成されます。
一方で、まとまらなかった場合には判決が下されて訴訟が終了します。
遺留分の問題は弁護士に相談するのがおすすめ
遺留分侵害額請求の調停は、その気になれば自身でもおこなえます。
しかし、調停委員に対して、合理的な説明をしなければならないなど、専門知識や経験がないと不利になる可能性があります。
遺留分侵害額請求をおこなうためには1年間という消滅時効もあり、自身でおこなう際には大きな障壁となります。
そのため、相続問題に注力する弁護士に相談をしたほうが無難でしょう。
弁護士に相談をすると、手続きを迅速におこなってくれるほか、遺留分についても合理的に計算をしてくれます。
また、相手との交渉や調停などを一任できるため、安心できる点もメリットのひとつです。
遺留分が侵害されている場合や、遺留分に大切な財産が含まれている場合には、弁護士に相談をしてみましょう。
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まとめ
遺留分が侵害されているにもかかわらず、当事者同士の話し合いがまとまらない場合には、調停で解決を目指します。
ここで解決できないときには、遺産分割では審判に移りますが、遺留分侵害額請求の場合には、訴訟を起こす必要があります。
調停になった場合、自身でおこなうことも可能ですが、専門的知識がない場合は話し合いで不利になる可能性があります。
そのため、話し合いを有利に進めるためには専門知識を持ち、相手との交渉なども代わりにおこなってくれる弁護士に相談することがおすすめです。
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