残業代請求
変形労働時間制の会社で働くときに知っておきたいこと|残業の計算やトラブル事例など
2023.11.02
「私の会社は裁量労働制だけれど、長時間労働が続いている」
「裁量労働制で残業代が出ないけれど、そもそもこれって適法なの?」
裁量労働制とは本来、労働者のクリエイティブな能力を発揮するために自由な働き方を認める制度なのですが、長時間労働などに悩まされている方が多いのが実情です。
本記事では、
などを解説します。
裁量労働制とは、法律で定められた業務を遂行する労働者については、実際の労働時間数にかかわりなく協定で定める時間数労働したものと「みなす」制度のことを指します。
裁量労働制が導入されたきっかけは、一定の専門的・裁量的業務に従事する労働者が増加したことにあります。
とくに、クリエイティブな能力を発揮する労働者のいる職場で多く採用されています。
たとえば、みなし時間を7時間とした場合、実際には9時間働いたとしても、3時間働いたとしても、7時間働いたものとみなされます。
裁量労働制を導入するにあたっては、労使協定でみなし労働時間数を定めて労働基準監督署に届け出る必要があります。
裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。
労働基準法では、専門業務型裁量労働制の対象となる業務について以下のとおり定められています。
一 業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この条において「対象業務」という。)
引用元:労働基準法|e-Gov法令検索
具体的には、以下の19職種について専門業務型裁量労働制の導入が認められています。
以上の業務に加え、令和6年4月1日からM&A業務が追加される予定です。
過去には、上記の19種類の職種にあたるかどうかが争われた裁判例があります。
■ 裁判例1
広告代理店で起きた事件です。
会社は「新たなデザインの考案業務」にあたるとして専門業務型裁量労働制を適用できるため残業代は発生しないと主張したのですが、裁判所は労働者の自由度が低いなどを理由に専門業務型裁量労働制の適用を認めず、残業代約143万円の請求を認めました(インサイド・アウト事件:東京地裁 平成30年10月16日)。
■ 裁判例2
こちらは、プログラマーの事件です。
会社は「プログラミング業務には専門業務型裁量労働制を適用できるため残業代は発生しない」と主張したのですが、裁判所は、プログラミングは裁量性の高い業務ではないとの理由で専門業務型裁量労働制の適用を認めず、残業代約560万円の請求を認めました(エーディーディー事件:大阪高裁 平成24年7月27日)。
労働基準法では、企画業務型裁量労働制の対象となる業務について以下のとおり定められています。
一 事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であつて、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務
引用元:労働基準法|e-Gov法令検索
さらに、企画業務型裁量労働制を導入する条件として、上記業務に就く労働者が「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」である必要があります(労働基準法第38条の4第1項第2号)。
ある程度職務経験を有した労働者だけに認めることによって、企画業務型裁量労働制が悪用されることを防止しているのです。
裁量労働性は、時間に縛られない、細かい指示を受けないなどのメリットがあるものの、実際には以下のような問題点があるのです。
口コミとともに見ていきましょう。
今働いてる会社の怖い話
・裁量労働制
(みなし残業込で9.5時間分の給料)
・ボーナス無しの会社で、
毎日、出勤時間(10時)の1時間前から働いて、
夜の10時に帰ってる先輩が真横にいる会社
1時間前からって人は少ないけど、10時まで残ってる人は沢山いる。— MiNaTo/サメチャン🦈 (@motiduki_minato) August 28, 2023
以上のように、時間で縛られない働き方であるがゆえに長時間労働を引き起こしてしまうおそれがあります。
明日勤務校の父母懇談会。朝9時半教室集合。裁量労働制とはいえ土曜手当を出してほしいな。
— 中塚晴雄 (@can08230) June 16, 2023
裁量労働制では、たとえば、みなし時間を7時間とした場合、実際には9時間働いてとしても7時間働いたものとみなされるため、残業代が出ません。
一部の企業では、残業代の発生を抑えるために裁量労働制を採用しているので注意が必要です。
裁量労働制で上手に働くには自己管理能力が必要で、その点、時間労働制のほうが楽なところはすごくある。そこが辛かったことは一度研究者やめた要因のひとつ。
— Yo Fukushima (@yf042006) March 1, 2018
裁量労働時間制度は長時間労働を引き起こすおそれがあるので、労働者自身の自己管理能力が問われます。
ワークライフバランスを保ちたいのであれば、みなし時間内に効率的に仕事を終わらせるという能力が求められます。
某社は変動労働時間制であるフレックスタイム制から裁量労働制にある程度のクラスで移行するけど、フルフレックスやプロフェッショナル職という言葉で裁量労働制が適用されないクラスも混同して扱う手法でしたね
— _ (@apstndb) May 18, 2018
裁量労働制の仕組みを理解していない会社では、要件を満たしていないにもかかわらず、裁量労働制を採用しているところがあります。
裁量労働制を採用すれば残業代の発生を抑えることができる、との理由で採用しているケースがあるのです。
出社する時間が遅いと「他の人と比べて不公平、早く出社しろ」とか業務命令を出す役員のいる裁量労働制の会社が弊社です^^
— ソーイチ (@sou1ka) September 8, 2022
こちらも、裁量労働制の仕組みを理解していない会社です。
裁量労働制とは、労働者のクリエイティブな能力を発揮するため、出勤や退勤の時間を設けない働き方なのですが、それを理解していない経営者が労働者の自由を制限してくることがあります。
他方で、裁量労働制で働くメリットもあります。
裁量労働制って、好きなタイミングで中抜けできたり、半休するのに有給休暇から切り崩さなくて良かったり、1日8時間働く必要が無かったり、メリットも多いんだよなー。
フルフレックスだと、毎月稼働時間の下限を上回る必要があるので面倒…
— 13i (@brunhild) February 20, 2023
このポストをした方は、裁量労働性の本来の目的を享受できていることがうかがえます。
このように、時間に縛られずに、ご自身の体調やスケジュールに合わせて労働の密度を変え、クリエイティブな能力を発揮する、これが裁量労働制の大きな目的のひとつなのです。
裁量労働制単体は悪いことじゃないんだよな~~~
うちの会社、残業代制度ほぼ撤廃したらほんとにみんな早く帰るようになったんだよね その分手取りは減ってるからカスなんだけど、みんなプライベートは充実しているように見える 絶対定時に帰らなきゃいけないママさんもちゃんと昇進するし— 葉月 (@welcomeback__) February 27, 2018
裁量労働制を採用すると、何時間働いても所定の労働時間分働いたとみなされます。
たとえば、みなし時間を7時間とした場合、実際には3時間働いたとしても7時間働いたものとみなされるため、できるだけ早く効率的に仕事を終わらせようとするモチベーションが高まるのです。
その結果、早く仕事を終えてプライベートが充実するという結果につながります。
裁量労働制は労働者にとってメリットの多い制度なのですが、残念ながら悪用されているケースも少なくありません。
問題点を感じたときには、以下の機関に相談してみましょう。
裁量労働制のトラブルを含め、労働トラブル全般について相談できるのは弁護士です。
「ベンナビ労働問題」には、労働問題を得意とする弁護士が多数登録しているので、ご自身に合った弁護士を探してみてください。
労働基準監督署に申告するのも、ひとつの手段です。
裁量労働制の要件を満たしていないにもかかわらず採用している場合には労働基準法違反となり、労働基準監督署が会社に是正勧告などを出してくれることが期待できます。
労働基準監督署とは、会社が法令を遵守しているかをチェックする機関で、全国に設置されています。
会社に労働組合があれば、労働組合に相談することもおすすめです。
団体交渉を通じて、裁量労働制を適法に運用してくれるよう申し入れてくれるでしょう。
もし社内に労働組合がなくても、社外の労働組合(ユニオン)に相談することができます。
ここでは、裁量労働制とよく似た制度を3つ紹介します。
フレックスタイム制とは、始業・就業時刻を労働者の決定に委ねる制度です(労働基準法第32条の3)。
フレックスタイム制は裁量労働制とは異なり、みなし労働時間が適用されません。
すなわち、働いた分だけ給料を支払ってもらえます。
固定残業代制とは、労働者の給与にあらかじめ一定の割増賃金を含めておく制度のことです。
一定の割増賃金にはそれに相当する時間も定められているため、その時間を超えれば残業代を請求することができます。
残業代を請求できない裁量労働時間制とは異なる制度です。
高度プロフェッショナル制度とは、専門職の労働時間・休憩などの規定を適用除外にする制度です。
裁量労働時間制と目的や効果が共通しているところが多いものの、適用要件が異なるまったく別の制度です(労働基準法第41条の2)。
裁量労働制は、要件が非常に細かく定められており、適用に運用されているかどうかをご自身で判断することは難しいでしょう。
本記事内で紹介したネガティブな口コミにもあるとおり、長時間労働を強いられているなど疑問を感じる方は、弁護士に相談することをおすすめします。
ベンナビ労働問題では、裁量労働制をはじめ労働トラブルを得意とする弁護士を地域別などで簡単に検索できます。
ぜひベンナビ労働問題を活用して、トラブル解決に向けての一歩を踏み出しましょう。