残業代請求
変形労働時間制の会社で働くときに知っておきたいこと|残業の計算やトラブル事例など
2023.11.02
仕事の効率化が叫ばれている昨今でも、長時間労働が常態化している業界は多くあります。
そのような業界に勤める方の中には、次のような悩みを抱えている方もいるでしょう。
「月に60時間くらい残業をしているのだが、他の人はどうなんだろう」
「これだけの残業が続くのは、違法なのでは?」
そこで本記事では、
などを解説します。
結論からいうと、残業が月60時間は非常に多いといえます。
厚生労働省の調査によると、一般労働者の平均時間(所定外労働時間)は13.7時間となっています。
すなわち、月60時間残業している方は、一般の方の4倍以上も残業していることになります。
このことからも、月60時間という数字がいかに多いかが理解できるでしょう。
そして、月の残業が60時間という状況は過労死を引き起こすリスクが高くなります。
「過労死」とは、過度な長時間労働を強いられた結果、「脳疾患」「心不全」などによる突然死のことをいいます。
月60時間の残業は「過労死ライン」に近い状況になります。
「過労死ライン」とは、過労死や過労自殺のリスクが高まるとされる時間外労働の目安のことを指します。
具体的には、脳・心臓疾患を発症する1ヵ月前におおむね100時間の残業をした場合は、業務と発症との関連性が高いと評価できるとされています。
ただし、残業が月100時間未満でも継続的に長時間労働が続いている場合、具体的には発症前2ヵ月間から6ヵ月間にわたって、1ヵ月あたりおおむね80時間を超える時間外労働をした場合も同様です。
すなわち、恒常的に月60時間の残業をしていれば、一歩間違えば過労死ラインとなりかねない働き方であるといえます。
過労死ラインに近いとはいえ、残業が月60時間の場合、一定の条件を満たせば違法ではなくなります。
ご自身が勤める会社が、以下の条件を満たしているか確認しましょう。
まずは、36協定が締結されているか確認しましょう。
36協定とは、会社が従業員に時間外労働や休日労働をさせる際に必要な協定のことです。
労働基準法は大原則として、以下のとおり定めています。
以上の大原則があるにもかかわらず、労働者に「時間外労働」「休日労働」をさせる根拠となるのが、36協定ということになります。
ちなみに、36(サブロク)協定と呼ばれているのは労働基準法第36条に定められているからです(正式名称は「時間外労働・休日労働に関する協定」)。
さらに確認すべきことは、36協定の「特別条項」が締結されているかどうかです。
36協定には「一般条項」と「特別条項」があります。
「一般条項」が締結されているだけであれば、時間外労働の上限時間は原則として月45時間・年360時間です(労働基準表第36条第4項)。
会社が労働者に月60時間以上の残業をしてほしいのであれば、「特別条項」を付ける必要があります。
この「特別条項」が付いているかを確認しましょう。
例を挙げて、実際の残業代を計算してみましょう。
まずは、残業時間が月60時間までのケースです。
時給1,000円の場合、残業代は以下のとおりです。
種類 | 割増率 | 計算例(時給1,000円の場合) |
時間外労働 | 25%以上 | 1,250円以上 |
時間外労働+深夜労働 | 50%以上 | 1,500円以上 |
休日労働 | 35%以上 | 1,350円以上 |
休日労働+深夜労働 | 60%以上 | 1,600円以上 |
残業時間が月60時間を超えた場合は、時間外労働の割増率が25%から50%に上がります。
すなわち、上記の表の一番上の時間外労働の割増率が50%に、上から2つ目の割増率が75%となります(時間外労働50%+深夜労働25%)。
なお、割増率の変更は、2023年4月1日から中小企業を含む全ての企業に適用されています。
正社員だけでなく、有期雇用の方、派遣社員、パートタイマー、バイトなど、全ての労働者が適用対象となり、割増率を上げる必要があります。
つづいて、月60時間を超える残業が違法になるケースを解説します。
まずは、「特別条項付き」36協定を締結していないケースです。
もし、会社が労働者に対して60時間を超える(1ヵ月に45時間、1年に360時間を超える)残業をさせるのであれば、「特別条項」の付いた36協定を締結する必要があります。
特別条項を付けた36協定を締結していたとしても、会社が労働者に要請している働き方が以下のルールに違反していれば違法となります。
【特別条項を規定した際に必ず守らなければならない時間ルール】
残業月60時間を超える場合もそうですが、月45時間・年360時間を超える残業をする場合は、労働者の心身に大きな負担がかかるため、特別条項を付けた場合であっても一定の制限を設けているのです。
そのほか、守らなければならないルールが2つあります。
特別条項では、時間外労働の限度時間を超えて労働させるケースを、できる限り具体的に定める必要があります。
たとえば「繁忙期への対応」「想定しがたいトラブルへの対応」などです。
定めた理由に該当しないのに月60時間の残業を強いていれば、違法になる可能性が高いでしょう。
限度時間を超える時間外労働をさせる労働者について、健康および福祉を確保するための健康福祉確保措置を定める必要があります。
厚生労働省が推奨している措置は、以下のとおりです。
(1) 医師による⾯接指導
(2) 深夜業(22時〜5時)の回数制限
(3) 終業から始業までの休息時間の確保(勤務間インターバル)
(4) 代償休⽇・特別な休暇の付与
(5) 健康診断
(6) 連続休暇の取得
(7) 心とからだの相談窓⼝の設置
(8) 配置転換
(9) 産業医等による助言・指導や保健指導
引用元:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説|厚⽣労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
以上のような措置を定めていないのにもかかわらず、月60時間の残業を強いていれば、違法と判断される可能性が高いでしょう。
参考:働き方改革でサービス残業を解消!本当に意味のある対策とは|サービスオフィス.JP
これは当たり前の話なのですが、残業代が正しく払われていない場合も違法となります。
月60時間を超える残業をしている方は、2023年4月1日から割増率もアップしているので、弁護士に相談・依頼して残業代を請求してもらいましょう。
残業代には時効があり、2年もしくは3年で残業代が消滅するおそれがあるので、早めに相談することをおすすめします。
36協定を締結する際に特別条項を付けていない場合や、残業代が支払われていない場合、以下の4つの対処法を検討しましょう。
1つ目は、会社を退職する、転職を検討するという方法です。
36協定違反や残業代の未払いは違法なので、まずは会社に在籍したまま、ご自身でもしくは第三者機関などを通じて会社に是正を求める方法もありますが、非常にストレスのかかる活動となります。
もし会社に見切りをつけているのであれば、退職して新たな会社を探すのもひとつの手です。
労働者の方から「自己都合ではなく会社都合で退職できるのでしょうか?」との相談がありますが、以下の時間外労働をおこなっていた場合は会社都合で退職できます。
離職の直前 6 か月間のうちに 3 月連続して 45 時間、1 月で 100 時間又は 2~6 月平均で月 80 時間を超える時間外労働が行われたため、又は事業主が危険若しくは健康障害の生ずるおそれがある旨を行政機関から指摘されたにもかかわらず、事業所において当該危険若しくは健康障害を防止するために必要な措置を講じなかったため離職した者
引用元:特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準|厚生労働省
もし会社から届いた離職票に自己都合と書かれていて納得できない場合、ハローワークで異議申し立ての手続きができます。
必ずしも認められるわけではありませんが、上記のような労働実態のある方は異議申し立てをしてみましょう。
会社都合であれば、自己都合と比べて失業給付金をスムーズに受け取れて支給日数も長いため、過剰な労働時間が原因で退職を決意された方は会社都合での退職が実現できるように動いてみてください。
もし自己都合での離職票が届けば、「ベンナビ労働問題」で弁護士を探して、会社都合に変更できるケースか相談してみましょう。
2つ目は、労働基準監督署に通報するという方法です。
労働基準監督署は、会社が法令を遵守しているかをチェックする機関で全国に設置されています。
(監督機関に対する申告)
第百四条 事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。
引用元:労働基準法 | e-Gov法令検索
もし、36協定を締結していないにもかかわらず、会社が従業員に時間外労働・休日労働をさせた場合、会社には以下の罰則が科される可能性があります。
第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
引用元:労働基準法 | e-Gov法令検索
36協定違反や残業代の未払いを労働基準監督署に申告することで、労働基準監督署が会社に是正を指示してくれることが期待できます。
3つ目の方法は、労働局の総合労働相談コーナーに相談するという方法です。
労働局では職場でのトラブルの相談を受け付けており、全国都道府県に設置されています。
また、相談のほか、解決依頼も無料ですることが可能です。
36協定に違反して残業が強いられている状況であれば労働局が会社に是正を要請することが期待できますし、あっせんの手続きの中で残業代の請求も可能です。
しかし、会社には参加する義務が課せられていないため、労働局が会社を呼び出しても会社が手続きに参加しないことがあります。
ここが労働局による解決の限界といえるでしょう。
4つ目の方法は、弁護士に相談して解決を目指す方法です。
弁護士から通知が届けば、多くの会社は何らかの対応をしてくれるでしょう。
弁護士は労働者から労働実態を聞き取り、36協定に違反して残業が強いられている状況であれば会社に対してその是正を求め、さらに残業代が未払いであればその請求もしてくれます。
このように、弁護士に相談・依頼すれば、労働者の状況を一挙に解決できることが期待できます。
ベンナビ労働問題には、36協定違反や残業代の未払いトラブルを含め労働問題を得意とする弁護士が多数登録しています。
地域別や相談内容などを絞って簡単に検索できるので、ご自身に合った弁護士を探してみてください。
ここでは、よくある質問に対して回答します。
36協定は会社に備え付けられているため、基本的には職場で確認することができるはずです。
上司などに36協定の所在場所を聞いて確認してみましょう。
また、雇用条件通知書にも記載があるはずなので確認してみてください。
会社が上記の義務を果たさずに36協定を閲覧できない場合は、労働基準監督署に申告しましょう。
残業代を請求するためには、証拠がとても重要です。
一例として、以下のような証拠を用意しておきましょう。
裁判ではさまざまな証拠が総合考慮されて、残業していたかどうか、その時間はどれほどかが認定されます。
過去の裁判例では、労働者が入力していた出勤簿を基に裁判所が残業時間を認定したケースがあります(クロスゲート事件:東京地裁 R4.12.13)。
会社はその出勤簿には信用性がないと反論したものの、裁判所は信用できると判断し残業代約150万円を認めました。
このように、裁判所が労働者の作成した資料を基に労働時間を認定してくれる可能性があるので、さまざまな証拠を残すようにしましょう。
証拠がなくて残業代の請求が棄却されたケースも少なくないため、証拠の収集には注力してください。
長時間労働とうつ病との間の因果関係が認められれば、会社に損害賠償請求できる可能性があります。
これは、会社の安全配慮義務違反が認められるためです(民法第415条)。
損害賠償請求する際にも、長時間労働をしていたことが客観的にわかる証拠が大切です。
裁判官は、うつ病になるまでのあいだにどれくらいの残業をしていたのかに注視するので、長時間労働を強いられている方は、現在は心身の不調がなくとも、残業時間の証拠を確保しておくことをおすすめします。
何か精神疾患に陥ってしまった場合には、その証拠が大きな力を発揮する可能性があるからです。
月60時間を超える残業を強いられているのに36協定がきちんと締結されていない、残業代の未払いがある、長時間労働で心身に不調をきたしている、などでお困りの場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
ぜひ「ベンナビ労働問題」を活用して、ご自身の悩みや希望に合った弁護士とともに解決への一歩を踏み出しましょう。