ハラスメント
パワハラの相談先と相談の流れを解説
2024.09.05
パワハラは社会問題化しており、今後パワハラに遭わないかと不安な方、被害に遭って苦しんでいる方は少なくありません。
パワハラによる被害を防いだり、パワハラを受けていたりする場合は、パワハラ防止法や対処法について知っておくことが必要です。
本記事では、パワハラ防止法の概要や同法によるパワハラの定義、パワハラを受けている場合の対処法について解説します。
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パワハラ防止法とは、パワハラの基準を定義し、企業にパワハラの防止に必要な雇用管理上の対応を義務付ける法律のことです。
正式名称は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(略称:労働施策総合推進法)といいます。
パワハラ防止法が成立した背景には、パワハラが社会問題化したことにあります。
パワハラの問題について世間の注目を集めた事例として、2015年に自殺した電通社員の事件が挙げられます。
高橋さんの自殺の原因としては、長時間残業のほかにも、上司による日常的なパワハラがあったといわれている。高橋さんはSNS上で、上司から「女子力がない」「髪がボサボサ、目が充血したまま出勤するな」などの言葉を浴びせられたと告白しており、さらに「休日返上で作った資料をボロくそに言われた もう体も心もズタズタだ」などと投稿している。
引用元:電通社内のパワハラ的企業体質:電通、長時間残業&パワハラ蔓延 | ビジネスジャーナル
事件当時、さまざまなメディアで、この悲惨なニュースが取り上げられたことを覚えている方も多いのではないでしょうか。
いろいろな統計に目を向けてみても、当時パワハラによる被害が増えていたことがわかります。
2017年4月に公表された「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」をみると、従業員の悩みや不満を相談する窓口に寄せられた社員の悩みや不満の相談内容として、パワーハラスメントが最も多く全体の32.4%に上っていました。
また、パワハラ防止法が成立する前年に公開された「平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によれば、全国の労働相談センターに寄せられた2018年分の相談件数のうち、職場におけるいじめ・嫌がらせに関する相談が8万2797件と過去最高でした。
2009年は同分類の相談が4万件弱だったので、10年で2倍以上に増えたことになります。
パワハラが原因となった痛ましい事件が起きたりパワハラに関する相談が増加したりなど、パワハラが社会問題化したことが背景となって、パワハラ防止法が成立したのです。
パワハラ防止法の大きな特色は、企業にパワハラ防止措置を義務づけていることです。
厚生労働省の指針では、会社に対して3つの措置を義務づけています。
以下、順に解説します。
パワハラ防止法では、パワハラに関する方針を明確にして従業員に周知・啓発する措置を、企業に義務づけています。
この点において、企業が取り組まなくてはならない主な対応内容は以下のとおりです。
以下、それぞれ具体的にどのような内容かみていきましょう。
パワハラ防止法では、企業に対して、パワハラを受けた方からの相談を受け付ける窓口の整備と、窓口運営用の研修・マニュアルの整備を義務付けています。
相談窓口は、社内に設置しても構いませんし、外部に委託しても構いません。
設置例は以下のとおりです。
相談窓口を設置したとしても社員がその存在を知らなければ無意味なので、会社は相談窓口の連絡先などを社員に周知しなければなりません。
社員の中には、パワハラを相談したら上司から報復を受けるのではないか、と不安な方もいるため、周知する際には「相談者のプライバシーが守られること」「相談したことで不利益を受けることはないこと」を明記する必要があります。
また面談のほか、電話やメールなど複数の方法で相談を受けられるよう体制を整えることが推奨されます。
パワハラを受けた方からの相談があった場合、事実関係を正確に把握して適切な対応をおこなえるよう窓口の担当者に対して研修をしたり、専用のマニュアルを作成したりすることが求められています。
相談窓口の体制が整ったら、窓口の詳細について従業員へ周知し利用を促します。
パワハラ防止法は、会社に対して、パワハラの相談を受けたら迅速かつ適切に対応することも義務づけています。
企業に求められる具体的な対応内容は以下のとおりです。
パワハラを受けた方からの相談があった場合、企業は相談者や加害者から事実関係の聞き取りをおこない事実関係を迅速に確認しなくてはなりません。
相談者と加害者の主張が食い違う場合には、目撃者などの第三者からも聞き取りをおこない、的確にパワハラの有無を認定します。
メールや録音などの証拠があれば、それらの確認も必要です。
なお、パワハラを受けた方の中には加害者からの報復を恐れている方もいるので、会社が加害者や第三者に事実確認をおこなう際は、あらかじめ相談者の了解を得る必要があります。
事実関係を調査した結果、パワハラがあったと判断した場合、会社は以下のような対応をとらなければなりません。
パワハラがあったと判断した場合、会社は加害者の処分を検討する必要があります。
必ず加害者に懲戒処分が出されるとは限りませんが、会社は、パワハラの内容、加害者の謝罪や反省の有無、常習性、被害の程度などの事情を考慮して処分を出すかどうかを判断しなければなりません。
パワハラが確認された場合、企業は再発防止策をとらなければなりません。
再発防止策の例は以下のとおりです。
パワハラ防止法が適用される「職場」や「労働者」の範囲は以下のとおりです。
職場とは「事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所」を指します。
オフィスのほか、出張先や社用車内なども、職場に含まれる範囲です。
なお職場でおこなわれた行為であれば、時間に関する制限はありません。
業務時間外におこなわれた行為であっても、パワハラ行為として処分の対象となります。
全ての労働者がパワハラ防止法の適用を受けます。
正社員に限らずパート・アルバイト、派遣社員、契約社員なども対象です。
派遣社員の場合、労働者と雇用契約を結ぶ派遣会社はもちろん、実際に労働者が働く派遣先もパワハラ防止法を遵守しなければなりません。
一方で、業務委託契約をおこなった個人事業主やインターンシップの学生、求職者などは対象外です。
パワハラ防止法には、経営者に対する罰金や営業停止といった企業に対する罰則は設けられていません。
しかし、違反が発覚した場合は厚生労働大臣による勧告を受ける可能性があります。
勧告後に適切な対応がおこなわれなければ、パワハラ防止法に違反した企業として企業名を公開されることもありえるのです。
その結果、世間から「あの会社は社内のパワハラに対し適切な対応がとれない」と認識されることになります。
こうした風評が、求人や取引先との関係に悪影響を及ぼすのは言うまでもありません。
また昨今では、不満を持つ従業員がSNSを使って自由に発信できる時代です。
ひとたび会社の不適切な対応が発信され、それが拡散されてしまうと会社の信用失墜につながる可能性もあります。
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パワハラ防止法ではパワハラの定義として、パワハラとみなされるための要件と、パワハラの類型ごとの具体例を示しています。
これらをチェックすることで、「この行為はパワハラでないか」を判断することが可能です。
以下、要件と具体例をひとつずつみていきましょう。
職場における行為がパワハラと判断されるためには、以下3つの要件が全て満たされる必要があります。
以下、各要件の概要についてみていきましょう。
上下関係をイメージすると分かりやすいでしょう。
被害者が行為者に対して、抵抗・拒絶できない関係を背景にしておこなわれる言動を指します。
したがって、上司から部下への言動だけではありません。
たとえば、ある業務について、部下の協力が得られないと遂行できないとしましょう。
このように部下が上司に対し優位な状況を背景とした言動も、パワハラの要件を満たすことになります。
業務において到底必要とは言えない言動や、本来の目的から大きく外れた言動を指します。
たとえば、遅刻した部下に対して上司が叱責するような行為は、業務上必要性のある行為なので通常はパワハラにはあたりません。
しかし叱責を超えて「お前はダメ人間だ」など人格を否定するような発言をすればパワハラとみなされる可能性があるのです。
どこまでを業務上の適正な範囲とみなすかに関しては、裁判などでもよく争われます。
企業は十分に気を付けなくてはなりません。
社員が能力を発揮するのに重大な悪影響が生じること、働くうえで看過できない程度の支障が生じるような言動を指します。
たとえば、その言動によって仕事に対するモチベーションが大きく低下したり、業務に集中できなくなったりする場合です。
パワハラ防止法および厚生労働省の指針では、パワハラの典型例として以下6つを挙げています。
身体的な攻撃とは、殴る、蹴る、突き飛ばす、物を投げるなどの暴行を指します。
精神的な攻撃とは、言動で精神的に追い詰めることを指します。
たとえば、人格を否定する暴言を浴びせる、ほかの従業員がみている前ではげしく罵倒する、長時間にわたって執拗に非難するなどです。
人間関係の切り離しとは、たとえば、別室に隔離する、集団で無視する、ほかの従業員にたいして接触や協力を禁止するなどの行為を指します。
過大な要求とは、たとえば、研修を受けて間もない新卒者に対して過大なノルマを課す、私的な雑用を強要する、終業直前にたくさん業務を押し付けるなどの行為を指します。
過小な要求とは、役職に不相応の簡単な業務をさせる、仕事をあたえず放置するなどの行為を指します。
個の侵害とは、簡単に言い換えるとプライバシーの侵害のことです。
たとえば、プライベート用のスマートフォンをのぞき見る、センシティブな個人情報を許可なくほかの従業員へばらす、家族や恋人のことをしつこく聞くなどです。
ここではパワハラの類型ごとの具体例と、それぞれ該当しない例をみていきます。
自分が受けた行為がパワハラとみなされるか否か、これらの例と照らし合わせることで確認できるでしょう。
具体例 | 該当しない例 | |
身体的な攻撃 | ●殴打、足蹴り ●相手に物を投げつける | 誤ってぶつかる |
精神的な攻撃 | ●人格を否定するような言動(相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む) ●業務の遂行に関して必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返す ●他の労働者の面前で大きな声で威圧的な叱責を繰り返す ●相手の能力を否定し、罵倒する内容のメールなどを相手を含む複数の労働者に送信 | ●遅刻など社会的ルールを欠いた言動がみられ、再三注意しても改善されない労働者に一定程度強く注意 ●企業の業務内容や性質に照らして、重大な問題行動を行った労働者に一定程度強く注意 |
人間関係の切り離し | ●自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり別室に隔離したり、自宅研修をさせたりする ●一人の労働者に同僚が集団で無視をし、職場で孤立させる | ●新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施 ●懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復職させるため、一時的に別室で必要な研修を受けさせる |
過大な要求 | ●長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる ●新卒採用者に対し、必要な教育をおこなわないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する ●労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる | ●労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる ●業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せる |
過少な要求 | ●管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務をおこなわせる ●気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない | 労働者の能力に応じて、一定程度、業務内容や業務量を軽減する |
個の侵害 | ●労働者を職場外でも継続的に監視、または私物の写真撮影をする ●労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずにほかの労働者に暴露する | ●労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等をヒアリングする ●労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得て、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促す |
ここからは、実際にあったパワハラの裁判例を3つ紹介します。
過小な要求、人間関係の切り離しといえる事例です。
高等学校が女性教諭に対して、授業・担任などの仕事を外し、職員室内での隔離、別の部屋への隔離、自宅研修の命令などをおこないました。
裁判所は学校法人に対して600万円の損害賠償を命じました。
精神的攻撃といえるケースです。
コンビニエンスストアにおいて、店長が従業員と激しい口論となり以下のような暴言を浴びせました。
裁判所は、これらの暴言で従業員に精神的苦痛を与えたとして、雇用元の会社に対して5万円の損害賠償を命じました。
人間関係の切り離し、精神的攻撃といえるケースです。
その会社では、本来は許されないはずの医療的な効能を含めたセールストークで高額商品を売りつけていました。
当該労働者は、このセールストークに疑問を感じ上司に質問をするなどしたところ、不平分子とみなされることになったのです。
上司は、当該労働者が挨拶しても返さない、新人を当該労働者に近づけないなど、当該労働者をのけ者にするようないじめをおこないました。
裁判所は、これが不法行為に当たると判断して、労働者に対し慰謝料の支払いを命じています。
パワハラに遭った場合、労働者はどうすればよいでしょうか。
以下、労働者がとれる対処法をみていきましょう。
ハラスメントと思われる行為をされた場合は、いつ・どこで・誰が・何を・何のためにしたのかを記録しましょう(5w1h)。
会社から事情を聞かれたときに、正確に答えることができるからです。
パワハラ発言を受けている場合は、メモだけでなく録音することもおすすめします。
パワハラを受けていることを上司に相談できない場合、社内の相談窓口や人事部などに相談しましょう。
前述したとおり、パワハラ防止法では企業にパワハラ専用の相談窓口設置を義務付けています。
相談窓口では労働者の不利益にならないよう、プライバシーの確保を配慮するよう求められているので安心です。
社内に相談窓口がない場合や、社内では解決できない場合は、外部の窓口に相談しましょう。
たとえば労働局などに設置された総合労働相談コーナーでは、パワハラなど労働問題に関して面談や電話・メールで相談を受け付けています。
最寄りの労働局は、厚生労働省のWebサイト(厚生労働省 | 都道府県労働局 所在地一覧)で確認ください。
労働局では、相談者が受けた行為に違法性があると認めた場合に、以下いずれかの方法で解決をはかることがあります。
一方で労働者がパワハラを受けた場合、会社に対し損害賠償請求をおこなうことが多いですが労働局は介入しません。
損害賠償請求までおこなう場合は、次項であげる方法を検討ください。
社内の相談窓口へ相談しても解決しない場合や、損害賠償請求をしたい場合は弁護士に相談することをおすすめします。
パワハラを受けている場合、自分で証拠を集めて会社と交渉したり、裁判を起こして損害賠償請求をしたりすることも可能です。
しかし、パワハラを受けて心身が疲弊している状態で、これらの対応をするのは困難でしょう。
専門的な知識や経験がなければ有効な証拠を集めたり、会社と交渉して有利な条件を引き出したりするのも簡単ではありません。
会社と交渉したり裁判に訴えたりするのは、精神的にも肉体的にも辛いものです。
弁護士に相談すれば、どのような証拠を集めればよいかや会社とどのように交渉すればよいか、有効なアドバイスが得られるでしょう。
また弁護士に依頼すれば、会社との交渉や裁判手続きなどを代行してもらうことも可能です。
専門知識や経験が豊富な弁護士が対応したほうが、交渉や裁判が有利に進められるのはいうまでもありません。
また弁護士に会社との交渉や裁判手続きを任せられるので、精神的・肉体的な負担も大幅に軽減されるでしょう。
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パワハラ防止法が成立したことで、パワハラの定義が明確化され企業に対しパワハラへの対応が義務付けられました。
パワハラに対して理解する必要性が増したため、パワハラ研修を実施する企業も増えています。参考:パワハラ研修 | 社員研修のリスキル
自分が受けた行為がパワハラ防止法の定義に該当するようであれば、企業が設置する社内の相談窓口に相談しましょう。
企業は相談内容にもとづき、加害者への注意・指導や配置転換などパワハラ被害を発生させないための対応をしてくれるはずです。
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参考:パワハラ被害にあったらどこに相談すべき?窓口への相談方法を解説|日本労働調査組合