残業代請求
変形労働時間制の会社で働くときに知っておきたいこと|残業の計算やトラブル事例など
2023.11.02
固定残業代制度が適用されている企業で働いている方は、制度の概要やポイントについて知りたい方もいるのではないでしょうか。
固定残業代は毎月の給与が安定するなどのメリットもあるぶん、給与が低く設定されていないかを見極めることも重要です。
そこで本記事では、固定残業代の概要やメリット、デメリットについて、また固定残業代の違法性や注意点などについて詳しく解説します。
固定残業代について詳しく知りたい、賃金が妥当かを判断したい方もぜひ参考にしてください。
固定残業代とは残業時間についての報酬をあらかじめ一定額として定め、その額を通常の給与に加えて支給する制度です。
固定残業代制自体は、最高裁判所の判決、または労働基準監督署の行政解釈でも認められています。
ただし、適用の方法によっては違法性を帯びることもあるため、固定残業代制の要件や計算方法について確認しておきましょう。
固定残業代制が有効となるための要件として、一般的なものとしては次の4つが挙げられます。
固定残業代制を採用するためには、労働者の合意が必要です。
具体的には労働契約書で個別に合意されていた場合や適切に周知された就業規則などで固定残業代が明示されていた場合に固定残業代制が有効になります。
固定残業代と通常の賃金は、明確に区別されている必要があります。
明確な区分がなければ、割増賃金が法的基準を満たしているのかを判定できません。
具体的には、固定残業代の金額が何時間分の時間外労働に対する対価であるかを明示し、給与明細で通常の賃金と固定残業代が別々に表示されている必要があります。
固定残業代の金額は、労働基準法に定められた割増賃金率に基づいて設定される必要があります。
固定残業代制は、労働基準法に基づく時間外労働の割増賃金を、一律の残業代で代替する仕組みです。
固定残業手当が具体的な計算に基づく割増賃金よりも少ない場合は、固定残業代が法律上適切な金額に設定されているとはいえません。
また、仮に固定残業代で想定している残業時間を超えて時間外労働をした場合には、差額が補填される必要があります。
固定残業代として設定されている金額は労働基準法に基づく時間外労働の割増賃金の算定金額よりも少なくないか、また、実際に固定残業代で想定されている時間数を超えて残業をした場合には、適切な金額の差額が支払われているかを確認しましょう。
労使協定(三六協定)により時間外労働のルールを定める場合、「1カ月当たり45時間」を時間外労働の上限とする必要があります(労働基準法第36条第4項)。
また、繁忙期などで臨時的に労働させる必要がある場合に限り、労働者に「月45時間・1年360時間」(限度時間)を超える時間外労働をさせることを認める特別条項を設けることもできますが(労働基準法第36条第5項)、特別条項を締結したとしても、1年の時間外労働の時間数は720時間以内、限度時間の超過が認められるのは年6回まで等といった制限があります。
そのため、月45時間を大幅に超える時間分の固定残業代が設定されていた場合、固定残業代が明示されていても無効になる可能性があります。
固定残業代(手当)の金額は、固定残業代で設定した時間数を考慮して算出される必要があります。
たとえば1日の所定労働時間が8時間、年間休日が125日、月給(基本給+一部の手当)が30万円のケースを考えてみましょう。
月平均所定労働時間は、(365−125)×8÷12=160時間となります。
時給は、300,000÷160=1,875円です。
固定残業時間を月20時間と設定した場合、固定残業代(手当)の金額は「1,875円×20時間×1.25(割増率)=46,875円」として求められます。
労働者から見た固定残業代のメリットは、次のとおりです。
固定残業代はあらかじめ定められた残業時間に基づいて計算されるため、実際に残業をしていなくても固定残業代が支給されます。
体調や家庭、会社の事情などで残業ができなかった月でも固定残業代が支払われるため、残業ができない期間も安定した給料を受け取れるでしょう。
月ごとの給料を一定にできます。
残業の有無による給料の増減が小さくなるため、月々の給料が安定するでしょう。
固定残業代が定められていない場合、繁忙期と閑散期の残業時間が大きく異なる職種では、月々の給料に差が開いてしまうこともあります。
固定残業代の場合は、たとえ残業がなかったとしても、労働者には一定の残業代が保証されています。
労働者から見た、固定残業代のデメリットは次の2つです。
固定残業代を導入している場合には、基本給が比較的低く設定されるケースがあります。
多くの企業が固定残業代制を導入している背景には、求人広告での待遇をよく見せたいという戦略が含まれていることもあるでしょう。
たとえば、「基本月給20万円」と広告するよりも「月給25万円(固定残業代5万円を含む)」と表記することで、求人者に対してより高い給与を提供しているような印象を与えられます。
しかし、固定残業代が加算された給与が一定水準レベルに保たれていても、実質的に基本給が低く設定されていると労働者の負担になる可能性があるでしょう。
求人広告の印象だけで仕事を選んでしまうと、実際の収入が思ったよりも低くなる可能性があります。
固定残業代制は、サービス残業が増えるリスクもあります。
固定残業代とは、あらかじめ定められた残業代が給与に含まれているものですが、まったく残業代が支払われない制度ではありません。
固定残業代として設定された残業時間を超過した場合は、追加で残業代が支払われます。
ただし、この点について会社や従業員が十分に理解していない場合は「固定残業代がすでに給与に含まれているから、それ以上の残業代はもらえない」と誤った解釈が広まりやすく、無報酬の残業が増えてしまうおそれがあります。
サービス残業は長時間労働の問題にもつながりやすいため、労働者の健康やワークライフバランスに悪影響を与えることがあるでしょう。
固定残業代制のトラブルを防ぐためのチェックポイントは、次の5つです。
労働契約書や就業規則に、固定残業代についての記載があるかを確認しましょう。
固定残業代の取り決めは、労働契約書や就業規則などの文書に明記してあることが重要です。
労働契約書などには、基本給と固定残業代が区別されて記載されていることが重要です。
基本給と固定残業代が混同されてしまうと、労働者の権利が侵害されるリスクが高まります。
そのため、契約書には給料の内訳が明確に記載されていることを確認しましょう。
基本給が最低賃金を下回っていないかを確認しましょう。
固定残業代を含めた給与体系の場合、基本給がいくらになっているかを把握しておくことも重要です。
基本給が最低賃金を下回る場合は法律違反となります。
固定残業代を差し引いた、基本給の金額と地域ごとの最低賃金を比較してみましょう。
月給が最低賃金を下回っていないかを確認するには、受け取っている賃金を最低賃金の表記基準になっている時給に換算して両者を比較する必要があります。
月給制の場合は「月給 ÷ 1ヵ月の平均所定労働時間 ≥ 最低賃金(時給)」で比較することが可能です。
月給を1ヵ月の平均所定労働時間で割って算出された時給金額が、最低賃金以上であるか確認しましょう。
固定残業代に割増賃金が反映されているかどうかの確認も必要です。
労働基準法には労働時間は1日8時間、週40時間までと定められているため(労働基準法第32条)、この上限を超えた場合、企業は割増賃金を支払う義務があります。
法律上問題のない金額の固定残業代が支払われているかについては、上述の「固定残業代(手当)の計算方法」に沿って算定し、確認してみましょう。
固定残業代を超える労働に対して、残業代が支払われる旨の記載があるかを確認しましょう。
固定残業代は、あくまでも一定の残業時間に対する事前の支払いです。
そのため、定められた残業時間を超えた労働に対しては別途残業代が発生します。
契約書などに「残業時間を越えた分は別途残業代が支払われる」旨が記載してあれば、就業後のトラブルも避けられるでしょう。
固定残業代制に関するトラブルが発生したときの相談先は、次のとおりです。
労働条件相談では、固定残業代制に関する一般的なアドバイスを受けられます。
労働時間の管理や割増賃金の問題、職場の安全性に関する相談など、労働条件や職場環境のトラブルについて相談可能です。
固定残業代制についても、法令や過去の事例をもとに的確なアドバイスを受けられるでしょう。
厚生労働省が支援をしているプロジェクトなので信頼性もあるうえに、無料で電話相談が可能です。
相談者は名前を明かさずに匿名で利用できるので、気軽に相談ができるでしょう。
平日は22時00分、土日祝日は21時00分まで相談できるので、労働基準監督署が閉まっている夜間の時間帯や休日でも電話相談が可能です。
【参考】労働条件相談「ほっとライン」(Working Hotline)|厚生労働省
労働基準監督署では、違法な固定残業代制について相談・申告ができます。
労働基準監督署は、企業が労働法を遵守しているかどうかを監視する公的機関です。
違法な労働状態、たとえば労働基準法や最低賃金法に違反していると判断された場合、該当する企業に対して改善勧告や立ち入り調査をおこないます。
固定残業代についての相談をすることで、違法性を帯びている状況かどうか、もしくは具体的な対策を教えてもらえるでしょう。
残業代の未払いや基本給が最低賃金を下回っているなどの法律違反が疑われる場合は、労働基準監督署への相談がおすすめです。
ベンナビ労働問題では、労働問題が得意な弁護士を探せます。
固定残業代制のトラブルは、労働基準法などの法令に関連しています。
そのため、問題を解決するためには、法律の専門家である弁護士への相談がおすすめです。
ベンナビ労働問題はサイト内で相談したい内容で絞り込むことで、それぞれの得意分野の弁護士を検索できます。
「残業代請求」「給与未払い」などの相談内容で検索することで、労働事件や固定残業代に精通した弁護士を探せるでしょう。
初回は無料相談できる弁護士も多数在籍しているので、固定残業代で悩む方は一度相談してみてはいかがでしょうか。
ここでは、固定残業代についてのよくある質問をまとめました。
固定残業代を40時間分に設定することは問題ありません。
労働基準法では1日8時間、週40時間が基本的な労働時間と定められております。
ただし、雇用者と労働者が36協定を結び、その内容を労働基準監督署に届出している場合、月に45時間まで、年に360時間までの時間外労働が認められます(労働基準法第36条第4項)。
また、繁忙期などで臨時的に労働させる必要がある場合に限り、労働者に「月45時間・1年360時間」(限度時間)を超える時間外労働をさせることを認める特別条項を設けることもできます(労働基準法第36条第5項)。
ただし、36協定で定められた時間を超えてしまうと、罰則対象となる可能性があるため注意が必要です。
定められた固定残業時間を消化する必要はありません。
固定残業代に関する制度は残業を強制するものではありません。
そのため、労働契約に記載された所定労働時間内で仕事が終わっても問題ないでしょう。
固定残業代制の目的には、労働者の働きやすさ、生産性の向上も含まれています。
もし、何かしらの理由で固定残業代分の労働時間を強制される状況がある場合は、制度の目的自体が破綻している可能性があるので注意しましょう。
固定残業代制は日本の労働環境において、一般的に採用されている制度のひとつです。
固定残業制自体は合法であり、多くの企業で導入されています。
労働者の生産性の向上、従業員間の不公平感を解消、安定した給料の受給などさまざまなメリットがあるでしょう。
しかし、労働時間や給与体系が不透明であると、トラブルの元になるケースも少なくありません。
そのため、制度の概要やポイントについて、十分に理解することが重要です。
労働問題を速やかに解決するためには、専門的なアドバイスが必要になります。
もし、固定残業代制に関する疑問や不安がある場合、あるいは何らかのトラブルに巻き込まれたと感じる場合は、速やかに相談機関や弁護士に相談しましょう。