不動産の時効取得|条件や注意点、争いが起きやすい場面を解説

不動産の時効取得|条件や注意点、争いが起きやすい場面を解説

不動産などについて、本来は権利がないとしても、一定期間占有を継続した場合には権利を時効取得できる可能性があります。

時効取得の要件を満たした場合、占有者は所有権などを取得できます。

時効取得のルールは民法で定められていますが、要件などが錯綜しており非常に複雑です。

もし不動産などの時効取得に関してトラブルが発生し、解決を目指したい場合には、弁護士へのご相談をおすすめいたします。

今回は権利の時効取得について、満たすべき要件や注意点などをまとめました。ぜひご参考にしてください。

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この記事を監修した弁護士
阿部 由羅
阿部 由羅弁護士(ゆら総合法律事務所)
ゆら総合法律事務所の代表弁護士。不動産・金融・中小企業向けをはじめとした契約法務を得意としている。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。

時効取得により所有権を獲得するために必要な条件

民法では、権利を一定期間継続的に行使した者は、その権利を取得できる「取得時効」という制度を定めています。

取得時効が完成した場合、占有者は時効の起算日に遡って、当該権利を原始取得します(民法144条)。

取得時効の完成によって権利を取得することが「時効取得」です。

時効取得できる権利の代表例が、不動産などの物についての所有権です(民法162条)。

まずは時効取得によって所有権を得るための要件を、民法の規定に沿って確認しておきましょう。

第百六十二条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。

2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

引用元:民法 | e-Gov法令検索

1.所有の意思をもって占有を開始したこと(自主占有)

物の所有権を時効取得するためには、所有の意思を持って占有を開始したことが必要です。

これを「自主占有」といいます。

反対に、所有の意思を持たずに開始された物の占有を「他主占有」といいます。

物の占有が自主占有か他主占有かは、占有者の内心の意思によってではなく、以下の事情により外形的・客観的に定められるべきとするのが判例の立場です(最高裁昭和58年3月24日判決)。

  1. 占有取得の原因である権原                                                                                                      賃貸借や使用貸借など、性質上所有の意思のないものとされる権原(他主占有権原)に基づき占有を取得した場合、所有の意思が否定されます。
  2. 占有に関する事情                                                                                                                       外形的・客観的に見て、他人の所有権を排斥して占有する意思を有しなかったと解される事情(他主占有事情)がある場合には、所有の意思が否定されます。                                                      真の所有者であれば通常取らない態度を示した事情や、所有者であれば当然とるべき行動に出なかった事情などが、他主占有事情に当たります(賃料を支払う、固定資産税を支払わないなど)。

他人のものだと分かっていても所有の意思を主張することは可能

占有者が他人の物であることを認識していたとしても、その事実は「所有の意思」の有無の判断に影響を与えません。

自分の物でなくても、「自分の物にするつもりで」占有を続けることはあり得ますし、取得時効の制度はそのような占有も保護することを目的としているからです。

したがって、占有者が他人の物であることを知っていた場合でも、その物について所有の意思を主張することはできます。

2.平穏かつ公然に占有を開始したこと

物の所有権を時効取得するためには、その物を平穏かつ公然に占有し始めたことが必要です。

「平穏」とは、占有の取得または保持に関して、暴行脅迫などの暴力的な手段を用いていないことを意味します。

平穏の反対語は「強暴」です。

「公然」とは、真の権利者に対して、占有の事実を隠匿していないことを意味します。

公然の反対語は「隠秘」です。

3.一定期間占有を継続したこと

物の所有権を時効取得できるのは、一定期間占有が継続した場合です。

必要な占有期間は、占有開始当時における占有者の認識によって異なります。

善意無過失の場合は10年、悪意または有過失の場合は20年

占有者が占有開始時に「善意無過失」であった場合、時効取得に必要な期間は「10年間」です。

これに対して、占有者が占有開始時に「悪意」または「善意有過失」であった場合、時効取得に必要な期間は「20年間」です。

「善意」とは、他人の物である(自分の物ではない)ことについて知らなかったことを意味します。

反対に、他人の物であると知っていた場合には「悪意」となります。

「無過失」とは、他人の物であると知らなかったことについて、注意義務違反が認められないことを意味します。

反対に、他人の物であると知らなかったことについて、注意義務違反がある場合は「有過失」です。

過失の有無については、占有取得時の事情を総合的に考慮して判断されます。

たとえば、以下のような事情がある場合には、占有者の過失が認められる可能性が高いでしょう。

農地の場合は有過失となる|20年の経過が必要

時効取得しようとしているのが農地の場合、占有者が「善意無過失」のことはあり得ず、少なくとも過失があるものと解されます。

農地の所有権を取得する際には、農業委員会の許可が必要です(農地法3条1項)。

農地所有権の取得について農業委員会の許可を得ようとすれば、農地が法律上自分の物ではなく、他人の物であることはわかります。

農地が他人の物であることを知らなかった場合、少なくとも農地法上の手続きを怠った過失があるため、善意無過失に当たらないのです。

したがって、占有者が悪意または善意有過失である以上、農地の時効取得のためには20年以上の占有継続が必要です。

占有開始後、占有者が変わった場合の取扱い

時効取得が問題となる占有開始後、物の占有者が変わった場合、占有を取得した者は以下のいずれかを選択できます(民法187条1項)。

  1. 自分自身の占有だけを主張する
  2. 前占有者と自分自身の占有を併せて主張する

第百八十七条 占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。

2 前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。

引用元:民法 | e-Gov法令検索

たとえば所有者ではないAが不動産Xを5年間占有した後、BがAから不動産Xの引渡しを受け、さらに5年間占有したとします。

この場合、Bだけの占有期間は5年間ですが、AとBを併せた占有期間は10年間です。

よって、BはAとBの占有を併せて主張することで、10年の時効取得を主張できる可能性があります。

ただし、前占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継することに注意が必要です(民法187条2項)。

占有の「瑕疵」とは、具体的には以下の事柄を意味します。

たとえば上記の例で、Aが占有開始時に悪意であった場合には、Bが10年の時効取得を主張することはできません。

BがAの占有を併せて主張することに伴い、「悪意」という占有の瑕疵を承継するため、時効取得には20年の占有期間が必要だからです。

実際に自分で証明しなければいけない要件は?

元々の所有者が時効取得の成否を争ってきた場合、最終的には訴訟で決着をつけることになります。

訴訟では本来、時効取得を主張する占有者の側が、すべての要件を立証しなければならないのが原則です。

しかし時効取得については、民法によって一部の要件の立証責任が転換されているため、占有者は以下の要件のみを立証すれば足ります。

占有開始時に無過失であったこと(10年の時効取得を主張する場合のみ)

民法上、以下の時効取得の要件については、特に占有者が立証しなくても推定されます(民法186条1項)。

時効取得を否定する側がこれらの要件を争う場合、反対の事実を立証しなければなりません。

第百八十六条 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。

引用元:民法 | e-Gov法令検索

これに対して、占有開始時に無過失であったことについては、上記の各要件とは違って推定されません。

よって、占有者が10年の時効取得を主張する場合には、占有開始時に無過失であったことを立証する必要があります。

前後の両時点における占有

占有者が2つの時点における占有を立証すれば、両時点の間は占有が継続したものと推定されます(民法186条2項)。

時効取得を否定する側が占有継続を争う場合、占有が途絶した事実を立証しなければなりません。

第百八十六条 2 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。

引用元:民法 | e-Gov法令検索

したがって、時効取得を主張する側としては、時効期間の始期と終期の両時点における占有を立証すれば足ります。

たとえば、2002年4月1日から2022年4月1日までの20年間占有による時効取得を主張する場合、2002年4月1日と2022年4月1日における占有を立証すればOKです。

所有権以外の権利に関する時効取得の可否

民法上、所有権以外の財産権についても、時効取得できる旨が定められています(民法163条)。

ただし、実際には「財産権」であっても、時効取得の対象にならない権利があることに注意が必要です。

時効取得できる権利

所有権以外に、時効取得の対象となる権利は以下のとおりです。

所有権と同じく物権である権利や、物権並みの保護が与えられている賃借権などが、時効取得の対象となっています。

時効取得できない権利

これに対して、以下の権利は時効取得できません。

時効取得に関して知っておくべき注意点

時効取得の要件および効果に関して、当事者の方が知っておくべき注意点をいくつか解説します。

不法占拠者でも時効取得できるのか?

不法占拠者であったとしても、物の所有権を時効取得できる可能性があります。

不法占拠者とはいえ、占有という事実状態が長期間継続した場合には、時効取得による保護を与えるべきと考えられているからです。

ただし、時効取得には前述の要件をすべて満たす必要がある点は、不法占拠者についても同様です。

たとえば暴行・脅迫を用いて占有を取得した場合や、賃貸借契約の終了後も不法に占有を継続している場合などには、要件を満たさないため時効取得は成立しません。

別荘を所有している場合、第三者の不法占拠に要注意

別荘を所有している方の中には、長い間別荘を訪れていないという方がいらっしゃるかもしれません。

また、別荘に滞在しても短期間で、年間を通しての管理状況についてはあまり把握していないという例も多く見られます。

このような方は、別荘を第三者に不法占拠され、最終的に時効取得されてしまうリスクに注意が必要です。

定期的に別荘の管理状況等をチェックし、不法占拠がおこなわれていないかどうかを確認することをおすすめいたします。

相続した不動産も時効取得できるのか?

亡くなった被相続人が占有していた不動産については、相続人が時効取得を主張できる場合があります。

相続人が時効取得を主張する場合、売買などによって占有を承継した場合と同様に、以下のいずれかを選択して主張できるとするのが判例の立場です(最高裁昭和37年5月18日判決)。

  1. 相続人の占有だけを主張する
  2. 被相続人と相続人の占有を併せて主張する

被相続人と相続人の占有を併せて主張する場合には、被相続人の占有の瑕疵も承継します(民法187条2項)。

なお、被相続人の占有に所有の意思がない場合(他主占有)、相続人が時効取得を主張するには、相続人自身の占有および所有の意思を主張するほかありません。

相続人の所有の意思が認められるのは、「新たな権原」によって自主占有を開始した場合に限られます(民法185条)。

相続が「新たな権原」と認められるためには、新たに相続財産を事実上支配することにより占有を開始したことが必要です(最高裁昭和46年11月30日判決)。

相手方が登記を備えていたらどうなる?

不動産の時効取得の成否を争う相手方が、当該不動産の所有権登記を備えているケースも想定されます。

この場合、争う相手方や投機を備えたタイミングによって、以下のとおり取扱いが異なります。

  1. 相手方が前所有者の場合前                                                                                                       所有者が所有権登記を備えていても、時効取得の要件を満たせば、占有者が所有権を時効取得できます(大審院大正7年3月2日判決)。
  2. 相手方が前所有者からの転得者の場合                                                                                                   (a)時効取得前に転得者が所有権登記を備えた場合転得者が所有権登記を備えていても、時効取得の要件を満たせば、占有者が所有権を時効取得できます(最高裁昭和41年11月22日判決)。                                         (b)時効取得後に転得者が所有権登記を備えた場合占有者は転得者に対して、時効取得を主張できません(大審院大正14年7月8日判決)。

時効取得が成立すると抵当権は消滅する

抵当権の対象となっている不動産について時効取得が成立した場合、抵当権は消滅します(民法397条)。

時効取得に関して争いが起きやすい場面

特に以下のいずれかに該当する場合には、時効取得に関するトラブルが多数発生しています。

心当たりがある場合には、速やかに弁護士へご相談のうえで、時効取得の問題が生じていないかをご確認ください。

相続した不動産を長年放置していた

相続した不動産の活用方法が見つからず、長い間放置してしまうケースはよくあります。

この場合、相続不動産の不法占有などによって、時効取得の問題が生じることがあるので要注意です。

建物の増改築部分が境界線を超えた

隣家の建物が増改築によって土地境界線を超えるケースも、近隣トラブルの事案でよく見られます。

境界線の越境を黙認していると、越境部分の土地を隣人に時効取得されてしまう可能性があるので注意しましょう。

土地購入の際に所有者を明確に確認していなかった

土地を買ったつもりが、実は無権利者からの購入であったことが判明するケースも考えられます。

この場合、購入者は最後の手段として、土地の時効取得を主張せざるを得なくなることがあります。

特に親族間や友人間で土地を売買する際には、近しい間柄だからと油断せずに、売主の所有権をきちんと確認しましょう。

最後に|時効取得の問題は弁護士に相談すべき

時効取得が問題になる事案では、前所有者や転得者との間で、高額な財産を巡る激しい争いが予想されます。

時効取得に関して、不測の損害を被らないようにするためには、弁護士へのご相談が安心です。

取得時効の要件や実際の状況を踏まえたうえで、有利にトラブルを解決するためのサポートを受けられます。

不動産などの時効取得に関するトラブルに巻き込まれてしまったら、お早めに弁護士までご相談ください。

この記事の調査・編集者
みーさん
2017年にライターとしてアシロに入社し、主に交通事故とIT分野の執筆に携わる。2019年によりIT媒体の専任ディレクターになり、コンテンツの執筆・管理などを行っている。