相続手続き
兄弟のみの相続はどうやってする?手続き方法や相続分を解説
2023.07.24
相続時の節税対策としてよく使われるのが、生前贈与です。
生前贈与は個人でも手続きすることができますが、法律や税金の知識がないまま進めてしまうと、かえって損をしてしまったり、思わぬトラブルを起こしてしまったりする場合があります。
そこで、この記事では生前贈与のやり方や注意点、そして弁護士に依頼したほうがよい理由をわかりやすく解説します。
生前贈与は、ただ財産を贈与すればよいのではなく、きちんと手順を踏んで手続きする必要があります。
以下の流れに沿って、それぞれ詳しく解説していきます。
【生前贈与の流れ】
まずはご自身の財産の状況を整理し、誰に・何を贈与したいのかを明確にしましょう。
贈与する目的や財産の価値によって、活用すべき非課税制度や贈与を進める手順が異なります。
そのため、まずは状況や目的を整理することから始めるのが重要といえるでしょう。
生前贈与には、暦年贈与を用いたものと、相続時精算課税制度を利用したものの大きく2種類あります。
それぞれの特徴やメリットを正しく理解し、どちらで生前贈与をすべきかどうか決めましょう。
毎年1月1日から12月31日までの贈与が110万円以下だった場合、贈与税がかかりません。
この仕組みを活かし、非課税の枠に収めながら贈与する方法を暦年贈与と呼びます。
暦年贈与では現金だけでなく、土地や建物といった不動産も利用可能です。
ただし、実際には不動産のように価値の算出が難しく、非課税の枠に抑えて贈与することが難しい財産にはあまり使われておりません。
以前は相続開始から3年前の贈与については、贈与した財産は贈与額ではなく相続財産として計上されていました。
ただし、令和5年の税制改正により、相続財産として加算される時期が3年前から7年前までと延長されることになりました。
贈与としてカウントされる条件が厳しくなった代わりに、伸びた分の4年間で譲り受けた財産については100万円を上限に相続財産に加算されないようになります。
いずれにせよ、少額の贈与を長期間にわたって贈与するのに適した方法といえるでしょう。
相続時精算課税制度とは、2,500万円を上限に贈与税が非課税になる制度のことで、枠の範囲内であれば何度でも贈与ができます。
ただし、その間に贈与された分は相続税に加算されるため、まったく払わなくてよいという制度ではありません。
一方で、相続税のほうが非課税となる額が大きいため、結果として節税につながりやすいという特徴があります。
また、暦年贈与は非課税の枠が小さいため、不動産など価値が大きくなりがちな財産の贈与には不向きです。
その点相続時精算課税制度を利用すれば、贈与時に高額な税金を一括で払う必要がないため、こういった財産の贈与や活用として利用するのに適しています。
令和5年の税制改正により、相続時精算課税制度を利用した贈与のうち、年間110万円までは相続財産に加算されないこととなりました。
そのため、これまで以上にまとまった財産を贈与しやすくなりました。
一度相続時精算課税制度を用いて贈与すると、暦年贈与を選択することはできなくなります。
そのため、渡したい財産やその額に応じて、適切な方法を選ぶことが重要です。
生前贈与では、贈与者(渡す側)と受贈者(受け取る側)が互いに合意している必要があります。
注意すべきは、合意があったとしても受贈者が管理できる状況でないと贈与とは認められない点です。
たとえば、贈与したお金を贈与者が管理している口座に振り込んだ場合、受贈者が自由に使える状況ではないと税務署が判断すると、贈与が認められないこともあります。
これは、お金が移動しただけで実質的な所有者が代わっていないと思われるためです。
そこで、互いの合意をとる方法として有効なのが、贈与契約書を作成することです。
贈与契約書については次の見出しで詳しく解説します。
贈与契約書とは、受贈者と贈与者が合意した内容を書面で残したものです。
これにより、贈与による受け渡しがあったことを税務署に証明しやすいかったり、きちんと記録に遺すことで言い争いや撤回のトラブルを防ぐことができるようになったりするなどのメリットがあります。
具体的な作成方法は、次のとおりです。
金銭を贈与する場合は、金銭贈与契約書を作成します。
なお、金銭贈与契約書を作成する際に重要なポイントは、以下のとおりです。
【作成のポイント】
株式を贈与する場合の株式贈与契約書には、次の事項がわかるよう作成しましょう。
【作成のポイント】
不動産を贈与する場合の不動産贈与契約書を作成する場合は、以下のポイントに沿って作成しましょう。
【作成のポイント】
とくに注意すべきは、建物の所在の記載方法です。
契約書に住所やその不動産の情報を記入する場合は、謄本に記載されている正確な地番で記載することが望ましいとされています。
地番とは法務局に登録されているその建物の所在のことで、一般的に使われる住居表示とは異なる場合があります。
公に登録されている地番で記載したほうが、より正確な契約書として認められやすいでしょう。
また、200円の収入印紙が必要なことも覚えておきましょう。
ここまできたら、ようやく贈与をおこないます。贈与する方法は、以下のとおりです。
現金は手渡しするよりも、銀行口座への振込が望ましいでしょう。
これは紛失のトラブルを防ぎやすいだけでなく、授受の記録が残るため税務署から指摘があった場合に、お金の流れを証明しやすいというメリットがあるためです。
株式を贈与する場合、上場しているか否かによって贈与する方法が異なります。
上場している株式を贈与する場合は、贈与者が受贈者の取引口座に移管する必要があります。
そのため、受贈者が株式を受け取れる口座をもっていない場合は、事前に開設してもらいましょう。
非上場の株式の場合は、株式を発行している会社に問い合わせ株式名簿を書き換えてもらう必要があります。
そのため、贈与者と受贈者だけでは手続きが完了しないということを覚えておきましょう。
不動産を贈与する場合は、法務局に所有者の変更を届けなくてはなりません。
所有権の移転登記といって、ご自身で手続きすることも可能ですが、難しいと感じる場合は司法書士に依頼するのがおすすめです。
司法書士に依頼する場合、書類によっては取得した日付が重要なポイントになるため、必要な書類は司法書士の案内に従ってから用意することをおすすめします。
一般的に必要とされている書類は以下のとおりです。
【所有権の移転登記に必要な書類】
贈与にかかる費用は、おおむね以下のとおりです。
贈与するのが現金の場合、かかる費用は振込手数料くらいです。
高くても800円程度で、同じ銀行間での送金なら200円程度で済む場合もあります。
上場している株式を贈与する場合は、移管手数料が1万円前後かかります。
費用は証券会社によってまちまちなので、とりあえず相続するだけでよいという場合は、移管手数料の安さで金融機関を選ぶのもよいでしょう。
不動産を取得した際にかかる費用は、以下のとおりです。
仮に司法書士に登記を依頼した場合は、おおむね5万~10万円の報酬が発生します。
また、登録免許税とは法務局に名義変更を登録する際にかかる税金のことで、不動産の評価額が高いほど高額になります。
不動産取得税といって不動産を取得した際に発生する税金もあり、おおむね4%程度と考えておきましょう。
このように、不動産の場合は支払う費用や税金が数多くあるため、生前贈与を受ける際にはこれらも考慮して計画を立てる必要があります。
とくに暦年贈与の場合、110万円以内に収まらないと節税にならないと考えている方が多いかもしれませんが、実際にはそのようなことはありません。
贈与した分だけ相続する財産が減るので、結果として相続税の節約にもなるといえるでしょう。
ここでは、具体的な金額を交えながら解説します。
年間の贈与額 | ①贈与税額 | ②相続税節税額 | 節税効果②−① |
110万円 | 0円 | 22万円 | 22万円 |
200万円 | 9万円 | 40万円 | 31万円 |
500万円 | 48.5万円 | 100万円 | 51.5万円 |
510万円 | 50万円 | 102万円 | 52万円 |
600万円 | 68万円 | 120万円 | 52万円 |
800万円 | 117万円 | 160万円 | 43万円 |
1,000万円 | 177万円 | 200万円 | 23万円 |
たとえば、贈与する金額が200万円だとすると、贈与税が非課税になるのは110万円までなので、90万円が課税対象です。
この場合、90万円に対して10%の税金がかかるので、贈与税の額は9万円となります。
一方で、相続する財産が200万円減るため、相続税は200万円×20%で40万円削減できたことになります。
つまり、かかった贈与税と削減できた相続税を合算すると合計で31万円節税可能です。
今回の例だと、贈与金が510万円の場合にもっとも節税効果があることがわかりました。
このように、たとえ110万円の枠を超えたとしても、トータルで見ると税金を安く抑えられる場合があります。
資産の状況から、いくら贈与するのが最もお得なのかを見極めるとよいでしょう。
受贈者数 | 税率 | 控除額 | 贈与税額 |
1人(1,000万円) | 30% | 90万円 | 177万円 |
2人(500万円×2) | 15% | 10万円 | 97万円 |
5人(200万円×5) | 10% | – | 45万円 |
また、多くの人に贈与することで贈与税の削減ができます。
上のグラフは1,000万円を1・2・5人に贈与した場合の贈与税を表したものです。なお、今回は親から成人した子どもへ相続する場合の税率を用いて計算しています。
たとえば1,000万円を一人に贈与する場合、贈与税の税率は30%で控除額は90万円となります。
この情報から贈与税額を計算すると、
(1,000-110万円)×30%-90万円=177万円
となります。
受贈者を増やすと一人あたりの贈与額が減るため、控除額は小さくなるものの税率が下がり、結果として支払う贈与税は少なくなっていきます。
このように、受贈者を増やすことで税率を下げ、贈与税の削減を図ることも可能です。
生前贈与する際にはいくつか注意点があります。
具体的な注意点をそれぞれみていきましょう。
そもそも遺産として遺せる財産が少ない場合、節税という面で見ると生前贈与は意味がないといえるでしょう。
相続税には基礎控除というものがあります。
具体的には、以下のような式で基礎控除が決定します。
3000万円+600万円×法定相続人の人数
たとえば、法定相続人が三人いた場合、基礎控除額は4,800万円です。
つまり、相続する財産の総額が4,800万円以内であれば、そもそも相続税を支払う義務はありません。
生きているうちに財産を渡したいという強い希望があれば別ですが、大抵の場合は生前贈与をしなくても税金を払わずに済むケースが多いでしょう。
暦年贈与で年間110万円ずつ贈与しても、課税の対象となってしまう場合があるので注意してください。
たとえば、1,000万円を10年間で100万円ずつ贈与した場合、本来1,000万円の贈与をただ分割しただけだと税務署が判断した場合は、1,000万円に対して贈与税が課税されます。
このように、連続した贈与をひとつの贈与としてみなすことを連年贈与といいます。
このようにならないためにも、毎年贈与契約を交わしたり、受け取りする時期を毎年ずらしたりするなど、それぞれの贈与に関連性がみられないよう工夫して贈与する必要があることを覚えておきましょう。
このように、生前贈与は法律上のルールや税金面など、幅広い知識が求められます。
そのため、ご自身で手続きするのではなく、専門家である弁護士に相談するのがおすすめです。
生前贈与は書面に残しておこなう必要はありませんが、後々トラブルが発生した場合を考えると、きちんと贈与契約書を交わしておくのがおすすめです。
弁護士に依頼すれば、契約書に必要な要件や書類の準備などさまざまな業務を依頼できます。
また、契約書の内容の確実性・信頼性も上がるため、サポートを受けながら生前贈与を進めていくのがよいでしょう。
生前贈与はいつ・誰に・何を贈与したかが非常に重要で、それによって節税効果やトータルで得られる利益も変わってきます。
単独でおこなった結果、誰かに財産配分が寄ってしまい、相続時に遺留分の請求といったトラブルに発展してしまう可能性も大いにあり得ます。
実は相続分野に精通している弁護士のなかには、税理士業務を得意としている方も多くいます。
こういった弁護士に依頼することで、今後争いにならないような適切な贈与の提案を受けられるでしょう。
不動産の登記は司法書士にしかできません。
また、税務署に提出する書類の作成代行は税理士だけができる独占業務です。
このように、特定の専門家にしかできない業務があります。
弁護士の場合は、依頼人に代わって交渉できるのが強みです。
また、依頼内容によっては提携している司法書士や税理士を紹介してもらえる場合もあるので、生前贈与に関するあらゆる相談にのってほしいなら弁護士を利用するとよいでしょう。
弁護士に生前贈与の依頼をした場合の費用の目安は、おおむね以下のとおりです。
相談料 | 30分あたり5,000円~ |
着手金 | 経済的利益の2~8%プラスα |
報酬金 | 経済的利益の4~16%プラスα |
実費 | 状況に応じて(弁護士の移動費や書類取得費用など) |
経済的利益とは、その問題解決にあたり得られる利益の額を指します。
たとえば生前贈与によって得られた利益が300万円だった場合、それに対して所定の割合をかけて着手金・報酬金が発生します。
生前贈与はただ財産を渡すだけだと思って手続きすると、思いがけず損をしてしまったり、トラブルに発展してしまったりするケースがあります。
そうならないためにも、きちんと弁護士に依頼してより確実に贈与できるようにすることが重要といえます。
弁護士に相談するのはやや敷居が高いようにも感じますが、初回の相談料を無料としている法律事務所も多くあるため、気軽に相談しやすくなっています。
家族同士で争わずに済むためにも、まずは相談から始めてみましょう。