子どもや家族などになるべく多くの遺産を残すため、節税対策として生前贈与などを考えている方は多いのではないでしょうか。
ただし、生前贈与の方法として現金を手渡しすることを考えている方は注意が必要です。
現金手渡しによる生前贈与では銀行振込とは違って記録が残らないため節税できると思う方もいるかもしれませんが、税務署にバレる可能性があるほか、バレた際に重いペナルティが発生するおそれがあります。
本記事では、生前贈与を現金手渡しでおこなう際の注意点や税金の計算方法、節税につながる方法などを紹介します。
本記事を参考にして、少しでも多くの財産を残せるように検討してみてください。
結論からいうと、税務署から指摘を受ける可能性があるため、現金手渡しによる生前贈与はおすすめできません。
生前贈与を正しくおこなうためにも、一度弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談・依頼することで、以下のようなメリットを得ることができます。
- 生前贈与の正しい方法がわかる
- 相続問題全般に関する相談ができる
- 非課税枠や特例などを活用した節税方法を提案してもらえる
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生前贈与は現金手渡しでも法的には問題ない
生前贈与は当事者同士の合意によって成立するものであり、双方が合意しているのであれば現金手渡しでおこなっても法的には問題ありません。
また、生前贈与する際は契約書を作成するのが一般的ですが、当事者同士が合意すれば口頭だけで済ませることも可能です。
ただし、現金手渡しで生前贈与をおこなうと「現金手渡しで生前贈与をおこなう場合のポイント」で後述するペナルティの対象となることもあります。
現金手渡しで生前贈与をおこなう際の注意点
基本的に、現金手渡しによる生前贈与はおすすめしません。
現金手渡しでおこなう場合、以下のようなリスクがあります。
現金手渡しでも税務調査によってバレる可能性が高い
まず1つ目は、税務署の税務調査によってバレる可能性が高いということです。
「現金手渡しで生前贈与すればお金が移動した形跡が残らずに税務署にバレない」と考える方もいるかもしれませんが、それは大きな勘違いです。
なぜなら、税務署の職員は調査権限を持っており、断片的に見つかった事実を総合的につなぎ合わせることで生前贈与として判断されてしまう可能性が高いからです。
たとえば、生前贈与を現金手渡しでおこなう際のパターンとして「贈与する側が自分の口座からお金を下ろして直接手渡しをしたのち、贈与された側が自分の口座に入金する」というような流れが考えられます。
この場合、銀行口座には入出金の記録がそれぞれ残り、税務署による詳細な調査がおこなわれます。
その結果、現金手渡しによる生前贈与が税務署にバレることになるため、おすすめできません。
バレたら追徴課税+贈与税が発生する可能性がある
2つ目は、もし税務調査によって隠していた生前贈与がバレた場合、追徴課税が発生して大きな金銭的負担を強いられるということです。
なお、贈与税を抑える方法として「暦年贈与」というものもあります。
暦年贈与とは「贈与税の基礎控除額である年間110万円以下の範囲で贈与する」という方法ですが、現金手渡しをした場合は暦年贈与と認められないおそれがあります。
たとえば「最終的に合計1,000万円を贈与するつもりで100万円ずつ毎年贈与することをあらかじめ決めていた」というような場合には定期贈与とみなされてしまいます。
定期贈与の場合、たとえ年間の贈与額が110万円以下であったとしても贈与税が発生するため注意が必要です。
暦年贈与であることを認めてもらうためにも、銀行振込などの記録が残る形で贈与をおこなうのがよいでしょう。
現金手渡しで生前贈与した場合の贈与税の計算方法
ここでは、生前贈与した場合の贈与税についてケースごとに解説します。
贈与額が年間110万円以下の場合
贈与税には「110万円」という基礎控除枠が設けられています。
したがって、贈与額が年間110万円以下であれば贈与税はかかりません。
贈与額が年間110万円を超える場合
贈与額が年間110万円を超える場合は贈与税が発生します。
贈与税の税率は「一般税率」と「特例税率」の2種類あり、それぞれ以下のようなケースで適用されます。
- 一般税率:兄弟姉妹間・夫婦間・父母から未成年の子どもに贈与された場合の税率
- 特例税率:父母や祖父母から18歳以上の子どもに贈与された場合の税率
※贈与を受けた年の1月1日時点で子どもが18歳以上の場合に適用
それぞれの税率は以下のとおりです。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | ‐ |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | ‐ |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
以下ではケースごとの計算方法を解説します。
生前贈与で現金300万円が贈与された場合
生前贈与で現金300万円が贈与された場合、贈与税の計算方法は以下のとおりです。
- 一般税率の場合:(300万円-110万円)×10%=19万円
- 特例税率の場合:(300万円-110万円)×10%=19万円
※基礎控除(110万円)を適用
生前贈与で現金500万円が贈与された場合
生前贈与で現金500万円が贈与された場合、贈与税の計算方法は以下のとおりです。
- 一般税率の場合:(500万円-110万円)×20%-25万円=53万円
- 特例税率の場合:(500万円-110万円)×15%-10万円=48万5,000円
※基礎控除(110万円)を適用
生前贈与で現金1,000万円が贈与された場合
生前贈与で現金1,000万円が贈与された場合、贈与税の計算方法は以下のとおりです。
- 一般税率の場合:(1,000万円-110万円)×40%-125万円=231万円
- 特例税率の場合:(1,000万円-110万円)×30%-90万円=177万円
※基礎控除(110万円)を適用
現金手渡しで生前贈与をおこなう場合のポイント
現金手渡しで生前贈与をおこなう場合、やり方によっては生前贈与と認めてもらえないことなどもあります。
以下では、現金手渡しで生前贈与する際のポイントを解説します。
毎年贈与する際に贈与契約書を作成する
まず大切なのは、贈与契約書を作成することです。
贈与契約書とは贈与があった事実をのちに証明する際に有効な書類で、作成しておくことで税務署から確認があった際に提示することができます。
また、贈与契約書は毎年贈与をするたびに作成するようにしましょう。
贈与契約書を作成していないと贈与の証拠が残らず、まとめて贈与したものとみなされたり、定額贈与とみなされたりして課税されるおそれがあります。
贈与契約書の作成方法
贈与契約書を作成する場合、特に法律上で定められた形式はありません。
弁護士などの専門家に依頼せずに個人で作成しても問題ありません。
作成時は、最低限以下のポイントを押さえておきましょう。
- 贈与をおこなった日付を記載する
- 誰が誰に贈与したのかを記載する
- 何を贈与したのかを記載する
- 贈与者と受贈者の住所・氏名を記載する
- 贈与者の実印で押印する
- 受贈者が未成年の場合は受贈者名と親権者名を記載する
- 公証役場で確定日付をもらう
贈与契約書はパソコンで作成することもできますが、双方が納得して契約を交わしたことを記録するためにも、署名や日付については自筆で記入するのがおすすめです。
現金手渡しで贈与する場合には領収書を作成し、現金は口座へ全て入金するなどして記録を残しておきましょう。
こうすることで、万が一税務調査がおこなわれた場合でも贈与に関する説明・証明がしやすくなるでしょう。
なお、贈与するものが不動産や株式などの場合は手続きがやや面倒になるため、税理士などに相談するのがおすすめです。
相続開始前3年以内~7年以内の生前贈与は相続税の課税対象になる
相続が発生した際、被相続人が亡くなる以前におこなわれた一定期間の生前贈与については「相続財産」とみなされて相続税の課税対象となります。
これまでの課税対象は「相続開始前3年以内の生前贈与」でしたが、2023年度税制改正により「相続開始前7年以内の生前贈与」へ対象範囲が順次拡大されます。
隠していた生前贈与がバレた場合はペナルティが課される
現金手渡しによる生前贈与を隠していてバレた場合、延滞税・無申告加算税・重加算税などのペナルティを課せられる可能性があります。
延滞税とは納税が遅れた際に課される税金で「納付期限の翌日から2ヵ月以内であれば年7.3%」「2ヵ月以降では年14.6%」の加算となります。
無申告加算税とは期限内に申告しなかった際に課される税金で、「税務署からの指摘後に申告をおこなう場合」や「指摘前に申告をおこなう場合」などで税率が異なりますが、5%〜30%の加算となります。
重加算税とは意図的に無申告・過少申告した際に課される税金で、「無申告の場合は40%」「過少申告の場合は35%」の加算となるほか、過去5年以内にも課されている場合はさらに10%の加算となります。
生前贈与で相続税を節税する方法
税金には非課税枠や特例制度などが設けられています。
ここでは、どのような節税方法があるのかを解説します。
暦年贈与を利用する
被相続人が存命中に暦年贈与をおこなって相続財産を減らしておくことで、相続が発生した際に相続税を支払わずに済む場合もあります。
相続税には「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」という基礎控除枠が設定されています。
たとえば、法定相続人が1名の場合、遺産が3,600万円を下回っていれば相続税はかかりません。
生活費・教育費として生前贈与する
生活費や教育費として贈与されたお金は、贈与税がかかりません。
生活費には、日常生活でかかるお金のほか、治療費・養育費・子育て費用なども含まれます。
教育費には、学費・教材費・文房具代などが含まれます。
しかし、非課税になるのは必要になるたびに生活費や教育費として正しく贈与されたもののみです。
生活費や教育費などの名目で受け取っていても、実際には預金をしたり株式の購入をしていたりすると贈与税がかかるため注意が必要です。
非課税枠を使って生前贈与する
贈与税にはさまざまな非課税枠が存在し、うまく利用することで節税につなげることができます。
以下では、非課税枠の一部を紹介します。
住宅取得資金贈与の特例
住宅取得資金贈与の特例とは、住宅を購入するために贈与を受けた現金のうち、一定額までが非課税となる制度のことです。
非課税の限度額は、省エネ・バリアフリーの住宅用家屋などの場合は1,000万円、それ以外の住宅用家屋の場合は500万円となっています。
注意点として、適用対象は2026年12月31日までと定められています。
期限は年々延長されていますが、延長されるたびに限度額なども見直しされているため、気になる方は早めに利用することをおすすめします。
教育資金一括贈与の特例
教育資金一括贈与の特例とは、30歳未満の子どもや孫に教育資金を贈与する際に、一定額まで非課税となる制度のことです。
非課税の限度額は、子ども・孫1人につき1,500万円までです。
贈与されたお金は、入学金・授業料・修学旅行費などの学校に関わるものはもちろん、学習塾や習い事などの費用に充てることも可能です。
しかし、学校以外への支払いは500万円までしか非課税にならないため、計画的に利用しなければなりません。
なお、2023年度税制改正により適用期限が2026年3月31日までに延長となりました。
また、これまでは贈与された金額を30歳までに使いきれなかった場合、残額にかかる贈与税の税率は受贈者の年齢によって特例税率もしくは一般税率のどちらかが判断されていましたが、改正後は一般税率へと統一されました。
そのほか、これまでは贈与者の相続が発生した時点で子どもや孫が23歳未満の場合や在学中の場合などは課税対象外でした。
しかし、今回の改正により、相続税の課税価格が5億円以上となる場合には、これらの条件があったとしても課税対象となります。
結婚・子育て資金の一括贈与の特例
結婚・子育て資金の一括贈与の特例とは、子どもや孫の結婚・出産・育児の費用を贈与した際に、一定額まで非課税となる制度のことです。
非課税の限度額は合計1,000万円まで、このうち結婚資金にあてられるのは300万円までと決まっています。
そのほか、受贈者は18歳以上50歳未満と定められています。
また、2023年度税制改正により、 適用期限が2025年3月31日までに延長されたほか、贈与された資金を50歳までに使いきることができなかった際の残額にかかる贈与税の税率が、特例税率から一般税率へと変更されました。
生命保険
生命保険には加入者が亡くなった際に受け取れる死亡保険金が設定されていますが、死亡保険金にも非課税枠があります。
非課税枠は「500万円×法定相続人の数」で、法定相続人が3名の場合は「500万円×3名=1,500万円」までが非課税となります。
生前贈与の現金手渡しに関するよくある質問
ここでは、生前贈与の現金手渡しに関するよくある質問について解説します。
生前贈与は現金手渡しでもバレる?
税務署は細かい部分まで入念にチェックをおこなうため、たとえ現金手渡しという形であっても基本的にバレてしまいます。
隠していた生前贈与がバレた際は追徴課税が発生してしまうため、期限内に漏れなく申告手続きを済ませておきましょう。
現金の手渡しはいくらまでならOK?
贈与税の基礎控除額である110万円までであれば、非課税で受け取ることができます。
現金手渡しで200万円を生前贈与したら贈与税はかかる?
贈与税の基礎控除額である110万円を超えるため、贈与税がかかります。
贈与税の計算方法としては、一般税率・特例税率ともに「(200万円-110万円)×10%=9万円」となります。
現金で生前贈与するにはどうしたらいい?
現金で生前贈与する際は、贈与の証拠を残しておくことが大切です。
税務署から確認があった際に提示できるよう、贈与のたびに贈与契約書を作成しておくことをおすすめします。
まとめ
現金手渡しでの生前贈与は隠していても税務調査でバレる可能性が非常に高く、バレた際は追徴課税などが発生してしまいます。
相続税や贈与税などを節税したいのであれば、暦年贈与をおこなったり、さまざまな非課税枠や特例制度を活用したりしましょう。
生前贈与などの相続に関する疑問や不安が少しでもある方は、相続問題に注力している弁護士や税理士などの専門家への相談をおすすめします。

