その他労働問題
問題社員の正しい辞めさせ方は?不当解雇・違法な退職強要を避けるためのポイント
2024.09.09
適応障害を発症した方のなかには、休職を検討している方もいるでしょう。
ただし、適応障害を原因とする休職はそもそもできるのか、またどのくらい休職するべきなのか、休職中の給与などについて気になる方も多いのではないでしょうか。
本記事では適応障害で休職はできるのか、また、休職期間や休職中の過ごし方・給与についても詳しく解説します。
適応障害とは、ストレスが原因で社会生活に支障が生じた状態のことです。
適応障害で就労ができなくなった場合は休職の理由になりますし、休職期間中は給与や手当を受け取れます。
詳しく解説します。
厚生労働省では適応障害を次のように定義しています。
日常生活の中で、何かのストレスが原因となって心身のバランスが崩れて社会生活に支障が生じたもの。
原因が明確でそれに対して過剰な反応が起こった状態をいう。
原因となるストレスの種類はケースによって異なりますが、仕事や人間関係、生活環境などが挙げられます。
一般的には、適応障害による就労不能は休職の理由になります。
前提として法律には休職に関する規定はないため、企業側が休職制度を設けることは義務付けられていません。
休職制度を設けるかどうかは企業の判断で決められます。
そのうえで、休職制度は多くの企業で採用されています。
適応障害によって職場での労働に影響を及ぼしている場合は、休職の理由として認められることが多いでしょう。
もっとも、勤続年数等により、休職制度の対象となっている従業員の範囲が限定されている場合や取得できる休職期間が異なる場合も多いので、詳しくは、勤め先の就業規則を確認してください。
会社によって異なりますが、休職期間中は給与や手当が支給されないことが一般的です。
給与の支給がない場合は傷病手当金を申請することが可能です。
詳しく解説します。
労働基準法には、休職中の従業員に給与を支払うべき義務があると記載されておりません。
ただし、適応障害の原因が企業側にある場合は、給与が支払われる場合もありますので、会社の就業規則を確認してみましょう。
給与が支払われる場合でも企業によっては一部しか支払われないケースもあるため、詳細は企業の人事や上司に確認してみるとよいでしょう。
休職中に給与が全て支払われない、または一部しか支払われない場合(傷病手当金の金額よりも少ない場合)は、健康保険制度を利用して傷病手当金を申請できます(ただし、業務上・通勤災害による場合等は申請することができません)。
傷病手当金は、健康保険に加入している労働者が一定期間以上、病気やけがで働けない場合に支払われる給付金です。
支給期間は最長で1年6か月、支給額は1日あたり標準報酬日額の3分の2になります。
適応障害で休職する際の手続きの流れは次のとおりです。
それぞれの手続きを詳しく解説します。
まずは、医療機関で適応障害の診断を受けます。
心身の不調を感じており仕事に影響を及ぼす程度であるなら、一日でも早く医療機関で診断を受けるのがおすすめです。
診断後は、診断書の作成を依頼しましょう。
診断書は休職や傷病手当金の申請に必要になります。
適応障害の診断を受けたら、会社に休職申請をおこないます。
会社によっては休職申請の書式が決まっている場合もあるので確認しておきましょう。
なお、休職申請をおこなう際は、医師からの診断書を一緒に提出することが一般的です。
休職することが決まったら、傷病手当金の申請を検討しましょう。
傷病手当金の申請は、会社から案内を受けることができる場合が多いため、まずは会社に問い合わせをしてみましょう。
傷病手当金は健康保険に加入している労働者が病気やけがで一定の期間以上働けない場合に、支払われる給付金です。
傷病手当金の申請書は、全国健康保険協会の公式ホームページでもダウンロードできます。
申請書には基本的な情報のほかに、病状や休職期間などを詳細に記入しましょう。
また申請書には、会社や医師に記入してもらう必要がある欄もあるので注意してください。
申請書は会社が加入している健康保険組合へ提出します。
一般的には会社から提出されることが多いですが、本人が直接提出してもかまいません。
申請書の提出後、審査がおこなわれ支給が決定されると支給決定書が送られてきます。
適応障害の回復から仕事復帰までの流れは次のとおりです。
それぞれの流れを詳しく解説します。
まずは、医療機関で復職可能な状態であるかの診断を受けます。
職場復帰の可否は、主治医や産業医などの見解を総合的に考慮して判断されます。
主治医は支障なく日常生活を送れているか、出社が可能な状況かといった基準をもとに職場復帰が可能か判断することが多いです。
職場復帰にあたっては、会社から主治医の診断書が求められます。
診断書には、問題なく就業が可能と判断される根拠について、できる限り具体的に書いてもらうようにしましょう。
一方で産業医は、フルタイムでの勤務ができる状態か、会社が求めるような業務の遂行が可能かを判断します。
場合によっては、産業医は従業員の同意を得たうえで主治医と連携し会社復帰可否の判断を下すことも少なくありません。
このとき、従業員の個人情報を守る目的で「職場復帰支援に関する情報提供依頼書」といった名称の書類の記入・提出を求められることがあります。
医療機関で復職可能と診断されたら、会社に復職の意思を報告します。
会社の人事部や上司に直接伝える方法のほかに、書面で伝える方法もあるでしょう。
復帰時期や復帰後の仕事内容など具体的な計画を示し、職場と状況を共有することが重要です。
会社によっては、従業員がスムーズに完全復帰できるように「リハビリ出勤制度」を設けていることがあります。
リハビリ出勤制度とは、ゆっくりと段階的に従業員の完全復帰を目指すことを目的とした制度です。
従業員はこの制度を活用し、無理なく職場に戻ることができます。
リハビリ出勤の主な種類は、以下のとおりです。
模擬出勤とは通常の勤務時間内にデイケアなどで簡単な作業をおこなったり、図書館などで過ごしたりすることです。
模擬出勤は、職場復帰に向けたリハビリの一環として選ばれることが多いです。
通勤訓練とは自宅から普段の通勤経路を使って職場の近くまで移動し、一定の時間過ごしてから帰宅する方法を指します。
通勤訓練も、リハビリの一環として選ばれることが多いです。
試し出勤とは、職場などに一定の期間に限って試験的に出勤する方法を指します。
試し出勤はほかの方法と同様にリハビリ目的で活用されるほか、職場復帰の可否を判断するために選ばれます。
なお、必ずしも勤務先がリハビリ出勤制度を用意しているとは限りません。
制度の有無や利用可否については、会社に問い合わせて確認する必要があります。
リハビリ出勤などを経て心身ともに働く準備ができていると感じたら、会社判断のもとで仕事に復帰します。
完全な仕事復帰は上司や人事部との相談により決定されるでしょう。
また、完全復帰の際も軽い業務から対応したり、短時間の勤務から開始したりして、徐々に通常の業務に戻す方法が推奨されます。
適応障害と休職に関するよくある法的トラブルは次のとおりです。
それぞれの法的トラブルを詳しく紹介します。
休職申請をしたのに企業側が認めてくれないというケースです。
たとえば以下の状況では、企業が休職を拒否するのは違法にあたる可能性があります。
休職制度が労働契約や企業の就業規則に明記されている場合、規定に従って休職を求めることは、労働者の正当な権利として認められています。
したがって、休職の条件を適切に満たしている状況で企業が休職を拒否する行為は、契約違反となり違法行為として扱われる可能性があるのです。
また、従業員が職務中にけがをしたり、業務に起因して病気になった場合は、企業は費用を負担して必要な治療を認める必要があります。
労働災害による休業に関しては労働基準法第75条で以下のように定められています。
第八章 災害補償 (療養補償) 第七十五条 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
引用元:労働基準法|e-Gov法令検索
労災による傷病で働けない状態であるにも関わらず、企業が休職を拒否する行為は違法とみなされる可能性があります。
また、企業が暴行、脅迫、監禁、そのほかの不当な手段により、従業員の意志に反する労働を強制することは許されません。
強制労働の禁止については労働基準法第5条で以下のように定められています。
(強制労働の禁止) 第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
引用元:労働基準法|e-Gov法令検索
労働者が休業申請をしているのにも関わらず、無理やり職場に連れて行ったり、脅迫によって出社を強いたりする行為は違法です。
企業から休職を認めてもらえない場合は労働基準監督署に相談したり、弁護士を通じて休職の通知をしたりする方法があります。
労働を監督する公的機関や法律のプロが第三者として関わることで、休職が認められる可能性が高まるでしょう。
病状が回復したのにも関わらず、職場への復帰が認めてもらえない場合があります。
休職期間中の治療により傷病が治癒し就労可能な状態になった場合は、復職が認められることが一般的でしょう。
休職制度の目的は病気やけがを治すための時間を与え、労働者が再び働けるようにすることです。
したがって、傷病が治癒し就労可能になった場合には、復職が認められます。
また、完全復帰できる状態ではなくても、簡易的な業務から復帰したり、比較的短期間で完全復帰できたりする場合、企業側の復帰の拒否は違法とみなされる可能性もあります。
職場復帰を認めてもらうためにも、症状が回復したことの証明として医師の診断書を用意し、自身の健康状態を示しましょう。
それでも受け入れてもらえない場合は弁護士等への相談をおすすめします。
就業規則に休職制度の定めがあるにも関わらず解雇されるケースもあります。
休職制度は労働者に認められた正当な権利です。
適応障害で休職中に、あるいは休職を申請したにも関わらず解雇された場合は、不当解雇にあたる可能性もあります。
このような場合も弁護士への相談が有効です。
自身の権利を守るための適切な法的手段を講じましょう。
適応障害と休職など労働トラブルについて相談できる窓口は次のとおりです。
それぞれの窓口を詳しく紹介します。
総合労働相談コーナーは、労働局や労働基準監督署内に設置された労働者のための相談窓口です。
休職や適応障害に関する相談を含め、労働問題に関するあらゆる分野について専門的なアドバイスを提供します。
相談は無料でおこなえるうえに、相談内容は外部には漏れません。
労働法規に関する知識をもつ専門職員が、個々の状況に合わせてアドバイスをしてくれます。
労働問題の専門家である弁護士も、相談窓口として利用できます。
適応障害や休職に関連する問題は個々の事情のみでなく、労働法や企業の就業規則などが複雑に関係するため専門家の意見が必要です。
弁護士は具体的な法的措置を提案したり、場合によっては労働者の代わりに企業と交渉したりします。
初回相談が無料の事務所もあるので、まずは一度相談してみましょう。
「ベンナビ労働問題」を活用すれば、労働問題に注力している弁護士を探せます。
ベンナビ労働問題は全国の労働問題に注力している弁護士を検索できるオンラインサービスで、弁護士の経歴や得意分野などの情報が詳しく掲載されています。
お住まいの地域や相談したい問題など、自身の状況に合わせて絞り込み検索が可能です。
ベンナビ労働問題を使えば、自分の状況にぴったりの弁護士を簡単に探せるでしょう。
適応障害の休職手続きを弁護士に相談・依頼するメリットは次のとおりです。
それぞれのメリットを詳しく解説します。
休職制度について専門的な相談ができます。
適応障害のような精神疾患の場合は、休職や復職の可否やタイミングについて企業と労働者との間で意見が食い違うこともあるでしょう。
休職制度は企業ごとに異なるため、自分の権利を正しく理解することが重要です。
弁護士は労働法の専門家なので、休職制度の解釈や適用について的確なアドバイスを提供できます。
会社とのやり取りを弁護士に一任できます。
適応障害を抱えているとストレスを伴う交渉は身体的、精神的な健康に影響を及ぼす可能性もあるでしょう。
特に、なかなか休職を認めてくれない企業の場合は交渉も難航しがちなので、負担が大きくなります。
弁護士に対応を依頼することで企業との交渉はもちろん、書類手続きや裁判対応なども任せられます。
自身で対応するよりも身体的、精神的な負担を大幅に軽減できるでしょう。
労働審判を申立てたり訴訟を起こしたりする場合も、弁護士に対応を任せられます。
会社との交渉がまとまらない場合は、労働審判・訴訟手続きを通じて解決を目指します。
しかし、労働者自身で法的な手続きの対応をするのは負担が大きいです。
弁護士に依頼することで、法的手続きの準備や対応に手間や時間をかけることなく、スムーズに労働問題を解決に導けるでしょう。
仕事が原因の適応障害で、労災申請をする場合の手続きの流れは次のとおりです。
まず、医師から適応障害の診断を受け、仕事が適応障害の原因であることを明確に示す診断書を作成してもらいましょう。
次に、適応障害が職務上の事由で発生した旨を会社に通知し、労災保険の適用を求めます。
あとからトラブルになるのを避けるため、書面での通知がおすすめです。
会社に通知したあと、労災の請求書を最寄りの労働基準監督署に提出します。
会社を経由して提出することも可能です。
請求書の提出後に労働基準監督署にて労災にあたるか審査されます。
なお、適応障害のような精神疾患の労災認定は、医師の診断書があっても必ず認定されるものではありません。
業務内で受けた負荷が適応障害発症の原因になっていたのかどうかが、請求書や診断書、根拠資料を総合的に考慮して判断されます。
労災に認定されると、給付金が支給されます。
【参考】うつ病で労災請求をする際の流れ|認定の基準や難しいわけ、証拠についても解説
適応障害と休職に関するよくある質問は次のとおりです。
それぞれの質問にわかりやすく回答しているので、ぜひ参考にしてみてください。
適応障害とうつ病は、どちらもストレスや心理的な負荷が原因で発症する精神的な病気ですが、主な違いとして以下2つがあげられます。
まず適応障害は原因となるストレスが明確なのに対し、うつ病の場合はそれが適応障害ほどにはっきりしません。
そのうえで適応障害は、ストレスがかからなくなると症状が改善します。
たとえば職場にストレスの原因がある場合、休日に自宅で過ごすときは症状が発症せず普通に生活ができるのです。
一方、うつ病はストレスがかからない状態でも、うつ状態が続きます。
そのため適応障害に比べ日常生活への影響も大きいといえるでしょう。
適応障害やうつ病が疑われる場合、なるべく早く医師の診察を受けるようにしましょう。
適応障害の休職期間は個々の症状や重症度、治療の進行状況などにより大きく異なります。
軽度の場合は、1~3ヵ月程度ですが、休職期間が半年以上になることも少なくありません。
適応障害は心身ともに完全に回復できるまで相当の時間がかかります。
早急な復職よりも、徹底した治療と自身の健康状態を最優先することが重要です。
治療初期は様子を見るために「1か月間の自宅安静」のような場合もありますが、病状の状況を鑑みて休職期間が延長されることが多くなっています。
休業中であっても、基本的には社会保険料の支払いが必要です。
ただ、会社によっては一旦代わりに社会保険料を立て替えてくれるケースもあります。
休職中で給与が支払われない、または減額されているなどで支払いが難しい場合は、会社に問い合わせてみるとよいでしょう。
社会保険料を立て替えてもらった場合、あとでまとめて支払うことができる場合もあります。
適応障害の休職に関しての困りごとは、弁護士へ相談するのがおすすめです。
休職制度は企業によって異なるため、手続きも複雑です。
弁護士は休職制度に関しての法的なアドバイスだけでなく、会社との交渉や労働審判・訴訟に向けた対応も可能です
「ベンナビ労働問題」を使えば、労働問題に詳しい弁護士を簡単に探せます。
適応障害の休職について困っているなら、ぜひ弁護士に相談してみてください。
専門家のアドバイスとサポートがあれば、休職中も安心してすごせるのでスムーズに仕事復帰しやすくなります。