その他労働問題
問題社員の正しい辞めさせ方は?不当解雇・違法な退職強要を避けるためのポイント
2024.09.09
退職勧奨とは、企業が従業員に対して「会社をやめてほしい」などと伝え、退職を勧めることです。
退職勧奨は、あくまでも話し合いによる合意退職を目指すための行為であり、一方的に労働契約を終了させる解雇とは異なります。
退職勧奨を行うだけでは違法ではありませんが、その方法によっては、不法行為に該当する可能性があります。
そこで本記事では、退職勧奨と解雇の違い、状況ごとの対処法について解説していきます。
退職勧奨とは、会社が従業員に退職するように促す行為を指します。
退職勧奨は、会社と従業員があくまで話し合いをおこなったうえで合意退職するということを目的としており、従業員と円満に雇用契約を終了させるための手段となります。
退職勧奨は解雇とは異なり、会社側からのお願いであるため、労働者には断る権利があります。
あくまでも、退職勧奨は話し合いによって従業員に退職を促すものであるため、労働者が退職したくない場合は無理して退職を決意する必要はありません。
万が一、ご自身の意に沿わない強制的な退職をされそうになった場合は、きっぱりと断ることも大切です。
退職には、会社が従業員に対して解雇通知を渡して一方的に解雇する「会社都合退職」と、従業員が自らの意思で会社に退職届を提出して退職する「自己都合退職」の2種類があります。
それぞれには、次のような違いがあります。
【会社都合退職と自己都合退職の違い】
会社都合退職 | 自己都合退職 | |
失業保険(失業給付金 | ・7日ほどで受け取ることができる ・給付日数が長い(90〜330日) ・最大支給額が約260万円 | ・約2ヵ月の給付制限がある ・給付日数が短い(90〜150日) ・最大支給額が約120万円 |
退職金 | 全額支給 | 減額される可能性あり |
経歴・再就職 | ・履歴書に解雇理由とともに「会社都合により退職」と記載する ・基本的に影響を受けることはない | ・履歴書に「一身上の都合により退職」と記載する ・転職希望先の志望動機に繋がるような、前向きな理由の説明が必要 |
このうち、会社からの退職勧奨に従った場合は、会社都合退職になります。
退職勧奨と解雇の違いは、労働者の同意が必要か否かにあります。
退職勧奨は、雇用主が労働者に対して自主的に退職を促す行為であり、労働者は自分の意思で退職を決定します。
一方、解雇は、雇用主が労働者の同意なく、一方的に雇用を終了する行為のことをいいます。
また、解雇といっても、3つの種類があり、以下のようにそれぞれ特徴が異なります。
【解雇の3つの種類】
会社側が退職勧奨をしてくる理由には、業績低迷や業務の見直し、コスト削減だけでなく、従業員を解雇しにくいことが関わっていることも考えられます。
なぜなら、退職勧奨することによって、会社には解雇を避けられるというメリットがあるためです。
会社が従業員を解雇するには、さまざまな法律上の条件をクリアし、「無断欠勤や遅刻が多い」「著しく協調性に欠ける」など、解雇が認められるだけの合理的な理由が必要です。
たとえ従業員側の問題によって解雇したとしても、解雇に値する客観的かつ合理的な理由が認められなければ、のちに労使間でのトラブルに発展するおそれがあります。
そのため、退職勧奨によって退職をしてもらったほうが、会社にとっても都合がよいといえるのです。
本項では、違法となりえる退職勧奨の具体例を紹介します。
この事件は、市の職員からしつこく退職することを勧められた事案です。
下関商業高校事件 (S55.07.10最一小判)
【事案の概要】
(1) Y市立高等学校の男性教諭X1、X2は、退職勧奨の基準年齢(57歳)になったとして、初回の勧奨以来一貫して応じないと表明しているにもかかわらず、Y市の職員から執拗に退職を勧奨されたことから、X1らはY市と教育長・同次長に、違法な退職勧奨により被った精神的な損害として各50万円を賠償するよう請求したもの。
一審判決では、Xたちの請求を一部認容しました。
その後、Y市は上告したものの、最高裁は上告を棄却。
Y市に損害の賠償を命じました。
この事件は、希望退職に応じなかった労働者に対して、職場の上司らが暴力行為や嫌がらせ行為、仕事差別によって退職に追い込んだ事案です。
エール・フランス事件 東京高判平8.3.27 労判706-69
(1)事件のあらまし
一審原告側労働者X(被控訴人)は、フランスに本社を置く航空会社である一審被告側使用者Y1(被控訴人)の従業員である。Y2はY1代表者、Y3らはY1の労働組合役員らでありXの同僚である。Y1では、労働組合との本社再建に関する労使協議の結果、希望退職の募集が行われることになった。このY1の希望退職募集に際し、Xは、Y3から希望退職届の提出を強く求められたが、これに応じなかった。Y3らは、希望退職に応じようとしないXに対し、顔面への殴打、大腿部への足蹴り、鉄製ファイル棚に後頭部を打ち付けるなどの暴行のほかにも、ゴミ入れを頭に被せる、衣服にコーヒーをかける、Xの机の上にXを中傷する落書をする、机にコーヒーで湿らした新聞紙を入れる、灰皿の灰を投げつける、罵声を浴びせる等の行為を繰り返し、また、このほかにも仕事差別を行った。
判決では、上司らの暴力行為などについて、Y1・Y3に連帯して慰謝料200万円および弁護士費用30万円の支払いを命じました。
加えて、仕事差別についても、Y1・Y2に連帯して慰謝料100万円の支払いを命じています。
この事件は、とある幼稚園に勤務していた女性が園長から中絶を迫られたり、退職を強要されたりして損害賠償を求めたものです。
今川学園木の実幼稚園事件
大阪地裁堺支部平14.3.13判決
労判828号59頁結論
A園長による一連の行為が、妊娠を理由とする中絶の勧告、退職の強要及び解雇であり、当時の雇用機会均等法8条(現行法9条)の趣旨に反する違法な行為である。事案の概要
Y学園が経営するK幼稚園に勤務していたXが、K幼稚園のA園長から、中絶を迫られたり、退職を強要されたりしたこと等を理由に、A園長及びY学園に対し、A園長については不法行為に基づき、Y学園については法人の理事の不法行為責任に基づき、それぞれ、損害の賠償を求めた事案。
判決では、A園長による一連の行為が、当時の雇用機会均等法第8条(現行法第9条)の趣旨に反した違法行為であることが認められました。
フジシール(配転・降格)事件
大阪地裁平12.8.28判決
労判793号13頁結論
配転命令は権利の濫用であり無効。事案の概要
関連会社Aのソフトパウチ技術開発部門に部長として出向していたY社の社員X(当時54歳)に対し、以下の経緯を経た上で、Y社筑波工場でのインク担当業務への配転【配転命令①】及び関連会社B奈良工場への「印刷関連」業務への配転【配転命令②】がなされたところ、Xが、配転命令①及び②が無効であることを前提として(1)XがAのソフトパウチ部に勤務する雇用契約上の地位にあることの確認(2)配転命令①及び②により被った精神的損害に対する慰謝料の支払い(3)配転命令①により部長職を解かれたことによる役職手当及び住宅手当減額分相当額の支払い等求めた事案。
Xはこのほか、降格処分の無効および同降格にともなう賃金減額相当額の支払いを求め、これら請求については認容されています。
退職勧奨に同意する場合、以下のポイントを押さえておく必要があります。
退職勧奨に同意する場合、会社から必ず退職勧奨通知書をもらいましょう。
退職勧奨通知書とは、その名のとおり、会社が従業員に対して退職を促す際に配布する書類です。
定型的な書式が存在するわけではないため、書類の内容に関しては会社によって異なります。
退職勧奨通知書の内容については、自分が納得できる条件にしてもらうようにしましょう。
なぜなら、退職勧奨に応じるかどうかは、あくまでも労働者の自由であるためです。
条件に合意できたら、必ず退職合意書を作成してもらいましょう。
退職合意書とは、会社と労働者との間で退職の合意が成立した場合に、その合意内容を記載して作成する書面です。
そうすることで、退職条件について双方が合意した内容を具体的に記載することができるだけでなく、会社からの退職勧奨による退職であることを明示することができます。
退職する際に会社へ請求できるものは、以下のとおりです。
特に退職勧奨の解決金の相場は、給与の1ヵ月分〜6ヵ月分となりますが、法律上の決まりとして定められているわけではありません。
退職勧奨の解決金額は、事案により変動することを理解しておきましょう。
退職勧奨に同意する場合、自己都合退職にしないことも重要です。
自己都合退職と会社都合退職で大きく異なる点として、失業保険の給付開始までの日数があります。
自己都合退職にした場合、失業保険の受給まで2ヵ月〜3ヵ月の待機期間があり、会社都合退職よりも受給できるタイミングが遅くなってしまいます。
そのため、会社都合退職にしたほうが労働者にとって有利に働くといえます。
退職勧奨を拒否する場合は、以下のポイントを押さえる必要があります。
退職勧奨を拒否する場合、退職する意思はないことを伝えることが何よりも重要です。
あなたにも生活があるため、いきなり会社を辞めるとなれば、生活していけるかどうかの不安が高まってしまいます。
そのため、素直に応じる必要はないのです。
断り方としては、口頭での意思表示でも問題ありません。
しかし、「言った」「言わない」などのトラブルを防ぐためにも、退職勧奨を拒否する旨を記載した「退職勧奨拒否通知書」を提出することをおすすめします。
退職金や解雇予告手当の支給は断るのも、覚えておくべきポイントです。
退職勧奨を拒否するので、退職金を受け取ると、退職に合意したことになるリスクがあります。
また、退職勧奨を拒否して、解雇された場合、解雇予告手当を請求すると、解雇を容認したと認定されることがあるので、解雇を争う場合には、解雇予告手当を請求しないでください。
仮に退職勧奨を拒否したことで、会社から自宅待機といわれた場合でも、業務指示を求めることが重要です。
そもそも、会社から自宅待機を命令する行為について、意図的に孤立させる目的がある場合は違法となります。
自宅待機を指示された場合も業務指示を求め、働く意思があることを表明することで、自宅待機期間中であっても、会社に対して、賃金を請求することができます。
しつこく退職勧奨をされた場合の対処法は、主に以下のとおりです。
退職勧奨を受けた場合、まずは直接上司や人事部に面談を求め、退職勧奨が適切でないことを伝えることです。
労働者は、法に基づき正当な理由なしに解雇されることを防ぐ権利があります。
口頭で伝えてもかまいませんが、あとになって「言った」「言わない」などのトラブルに発展しかねません。
メールや文書など、やり取りの内容が記録される方法を取るほうがよいでしょう。
退職勧奨がしつこいのであれば、労働局や労働基準監督署に設置されている総合労働相談コーナーに相談することもひとつの方法です。
総合労働相談コーナーでは、労働に関するさまざまな悩み・問題を相談することができます。
違法な退職勧奨をしていると判断された場合は、会社に対して助言や指導をおこなうこともあります。
また、労使間での話し合いを紛争調整委員が仲介し、問題の解決を図るあっせん手続を利用することもできます。
【関連記事】総合労働相談コーナーとは|公的相談窓口の評判や活用法を解説
違法な退職勧奨をやめるよう交渉しても会社が応じない場合、地方裁判所に労働審判を申し立てるという方法があります。
労働審判は原則3回以内の期日で、話し合いによる解決を目指す手続きで、迅速かつ的確に公正な判断をしてもらえることが期待できます。
会社からの退職勧奨に応じなかったことで解雇された場合、不当な解雇と判断され、解雇が無効となる可能性があります。
なお、労働審判の手続きや流れについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
【関連記事】労働審判の流れを解説|労働審判を活用する際の手続きと解決フロー
会社に対して退職勧奨をやめるように求めても応じてくれない場合、裁判所に対して退職勧奨の差止めの仮処分を申し立てる方法という方法もあります。
ただし、仮処分の申し立ては法律に則って、差し止めが必要であるという客観的な証拠の提出が求められます。
申し立てはご自身でおこなうこともできますが、弁護士に相談・依頼して進めることをおすすめします。
退職勧奨を受けたときに弁護士に相談・依頼をするメリットは、以下のとおりです。
1つ目のメリットは、会社からの退職勧奨が違法かどうかわかることです。
弁護士は労働法に精通しており、違法な退職勧奨に対する知識と経験を有しています。
彼らは労働法に関するプロですから、退職勧奨の内容や背景を検証し、労働者の権利を適切に評価します。
違法な退職勧奨が見つかれば、適切な法的対応を提案し、適正な処遇を求める手続きをサポートしてくれます。
弁護士に相談することで、ご自身の権利を守り、適正な処遇を得る道筋を見出すことができるでしょう。
2つ目のメリットは、証拠の集め方についてアドバイスがもらえることです。
弁護士は法的な観点から、どのような証拠が重要であり、労働者の権利を守るのに役立つかを知っています。
彼らは証拠を収集する方法や、必要な書類や記録を整理する指導をおこない、証拠を適切に保存するための助言を提供します。
弁護士の指導により、労働者は退職勧奨に対する違法性を裏付けるための強力な証拠を収集することが可能です。
3つ目のメリットは、会社との対応を全て任せることができることです。
弁護士は労働法に精通し、法的手続きを専門的に担当します。
労働者は複雑な法律問題に直面する可能性がありますが、弁護士は適切なアドバイスと指示を提供し、法的な手続きを代行します。
労働者は自分の権利を守るために必要な証拠収集や文書作成などを弁護士に委ね、退職勧奨が違法であると証明するための専門的なサポートを受けられるでしょう。
4つ目のメリットは、自分が望む退職条件になるよう交渉してもらえることです。
弁護士は労働法に詳しく、雇用契約や労働関連の問題解決に長けています。そのため、彼らは労働者の権利を理解し、会社との交渉において最適な戦略を立ててくれます。
法的知識と経験を活かし、適正な条件での退職、適切な給与の確保などを助けてくれるでしょう。
5つ目のメリットは、弁護士は労働法に通じ、違法な退職勧奨に対して労働者の権利を保護します。
未払いの給料や残業代があれば、弁護士は適切な手続きを踏み、未払い給料や残業代の請求をしてくれます。
労働者の権利を守るために、弁護士に相談することで公正な処遇を得るチャンスが増すでしょう。
最後に、退職勧奨に関するよくある質問の回答をします。
退職届にサインをしてしまったら、会社都合退職に変えることは難しくなります。
そのため、退職勧奨を拒否するのであれば、退職届へのサインは回避しましょう。
自己都合退職を会社都合に変更したいのであれば、ハローワークに申請する必要があります。
ハローワークは、あらかじめ集めた証拠を基に会社へ事実確認をします。
報告内容と事実が一致した場合は、自己都合退職から会社都合退職に変更できる場合があります。
退職勧奨によって精神疾患を患った場合は、労災として認められることがあります。
労災とは、業務が理由で病気になった際に補償を受けられるものです。
しつこく退職勧奨を受けて適応障害やうつ病などに発展した場合は、労災申請してみることを検討してみてください。
退職勧奨をされた場合、必ずしも受け入れる必要はありません。
意に沿わない退職勧奨の場合、一度落ち着いて会社からの退職勧奨を拒否することが大切です。
どれほど威圧的な態度で言われたとしても、カッとなって退職届にサインしてしまっては会社の思うつぼです。
退職勧奨に法的な強制力はないため、納得できないのであれば明確に拒否の意思表示をしてください。
そのうえで、もしも悪質な退職勧奨を受けているようであれば、早めに弁護士に相談することをおすすめします。