その他労働問題
問題社員の正しい辞めさせ方は?不当解雇・違法な退職強要を避けるためのポイント
2024.09.09
業務が原因となってうつ病を発症してしまい、会社に損害賠償請求できるかどうかを知りたい方も多いでしょう。
仕事が原因でうつ病のような精神疾患を発症した場合は、一定の要件を満たすことで、会社に責任を問うことができます。
具体的には労災請求と損害賠償請求で、それぞれ別々に手続きを進められます。
法律の専門家である弁護士を味方につけておくと、さらにスムーズに交渉ができるでしょう。
本記事では、労災保険請求と損害賠償請求の方法を解説します。
仕事が原因でうつ病になった場合、労災認定や会社に対して損害賠償請求をすることができます。
しかし上記の目的を達成するためには、大前提として仕事が原因でうつ病を発症したということを、証明しなければなりません。
会社に対してうつ病の責任を追及したいという方は、弁護士に依頼する事をおすすめします。弁護士に依頼すると下記の様なメリットをうけられます。
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仕事上のストレスでうつ病を発症した場合、仕事が原因であると認められれば、会社に責任を問うことができます。
労災が適用されれば労災請求ができ、それとは別に損害賠償を請求できます。
労災は労働災害の略であり、仕事場もしくは通勤途中で発生した怪我や病気を指します。
業務が原因でうつ病を発症した場合も、労災として認められる可能性があります。
労災が認められれば、労災保険の申請が可能です。
労災保険申請の一般的な流れは、労働者本人が人事労務担当者に申請し、会社側が労働基準監督署の手続きをします。
ただしうつ病が労災と認められるには、仕事が原因でうつ病が発症したことを証明する必要があります。
労災と認められるための要件は、以下の3つです。
要件の詳細は、次の項目で扱います。
労災が適用されるためには、業務による強い心理的負荷が認められるとともに、仕事以外にうつ病の原因がないことが重要です。
労災だけではなく、損害賠償の請求も可能です。
損害賠償請求が認められるためには、以下の2点を主張・立証する必要があります。
労災と同様に、まずはうつ病の原因が仕事であることを立証する必要があります。
それから職場の安全配慮義務違反も主張しなければなりません。
たとえば「日常的に長時間労働に従事させられており、適正な労働環境を要求していたものの、改善されることがなかった」場合は、安全配慮義務違反に当たります。
損害賠償の請求は、労働災害補償を受けていなければ全額賠償となります。
一方、補償を受けていた場合は、その分が控除されて支払われます。
うつ病の原因が会社にあり、労働災害の療養として休職しているケースを考えてみましょう。
この場合、会社は原則としてその労働者を解雇できません(労働基準法第19条第1項)。
もし解雇をした場合は不当解雇になり、無効となります。
この状態で自らの意思で退職をした場合は、基本的には自己都合退職として扱われます。
自己都合退職は、会社都合退職に比べて、失業保険などの関係で不利になります。
しかし、うつ病で退職せざるを得なくなり、なおかつその原因が会社にある場合は、自己都合退職であっても特定理由離職者に該当するケースが多いです。
特定理由離職者として認められれば、会社都合退職と同じように失業保険が支給されます。
うつ病の労災認定要件は「認定基準の対象となる精神障害であること」「業務による強い心理的負荷が認められること」「業務以外の要因により発病したとは認められないこと」の3つです。
それぞれの要件の詳細を確認することで、労災についてより深く理解できるでしょう。
認定基準の対象となる精神障害は、厚生労働省によって公表されています。
疾病の種類は以下のとおりです。
なお認知症や頭部外傷による障害、アルコール薬物による障害は、認定基準の対象としては認められていません。
業務でよく起こる精神障害は、うつ病や急性ストレス反応であり、上記の②と③にあたります。
業務による強い心理的負荷は、まず「特別な出来事に該当する出来事がある場合」と「特別な出来事に該当する出来事がない場合」の2つのパターンに分けられます。
「特別な出来事に該当する出来事」とは、以下の2つです。
心理的負荷が極度のものは、業務上での生死に関わる病気や怪我、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などの項目が定められています。
また長時間労働を評価する内訳は、「発病直前の労働時間」「発病前の1か月から3か月間の労働時間」「恒常的な労働時間」の3とおりです。
「特別な出来事に該当する出来事がある場合」は、心理的負荷の総合評価が「強」に値します。
そうでない場合は、具体的な出来事を評価し、「強」「中」「弱」の3段階で評価します。
ここで「中」「弱」と判断されれば、労災にはなりません。
厚生労働省は「業務以外の心理的負荷評価表」を定めており、これによって心理的負荷の強度を評価します。
業務以外の要素と、会社の業務内容と照らし合わせ、うつ病の原因がどれなのかを慎重に判断していきます。
業務以外の心理的負荷評価表は、出来事の累計を以下の6つに定めています。
また業務以外の心理的負荷以外にも、個体側要因の評価も行われます。
たとえば、会社に入社する前から精神障害の既往歴があったり、アルコール・薬物などの依存症に陥っていたりした場合は、会社の業務が原因であるとは限りません。
よって労災が認められにくくなります。
労災が認められた場合に受けられる補償は、以下の7種類です。
それぞれの補償を理解しておくことで、労災が認められた後もスムーズに行動できるでしょう。
療養給付は、労災で療養を受ける際に、必要な療養やその費用が支給される補償です。
具体的には、病院に支払う治療費が給付され、療養に必要な費用にあてられます。
診療費や検査費用、画像費用、薬剤料、医学的処置・手術・入院にも適用されます。
一般の怪我や病気の場合、患者は病院の窓口で医療費を支払います。
しかし労災が認められている場合は、患者ではなく労災保険に直接請求されるため、患者が窓口で料金を払う必要はありません。
療養給付を受けるためには、労災が認定された本人もしくはその遺族などが、労働基準監督署長に届け出る必要があります。
本人の住所ではなく、所属する会社の所在地を管轄する労働基準監督署が対象なので、事前に確認しておきましょう。
休業補償給付は、労災によって労働ができなくなり、賃金を受けられない場合に申請が可能です。
労災が認められると、病気の療養のために休業することになるでしょう。
しかし、この期間、給料は発生しないため、場合によっては生活が困窮します。
働けない期間をカバーするための給付として理解するとよいでしょう。
休業補償給付は、療養開始の4日目から支給され、通常の給料の80%が支給されるようになっています。
支給内容としては、給付基礎日額の60%相当額と特別給付金の20%相当額です。
休業補償給付を受けるためには、療養給付と同じく所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。
障害補償給付は、労災によって発生した怪我や病気を治療した後に、後遺症として障害が残った際に申請可能です。
うつ病を発症し、精神科に通うなど治療を施したとしても、元どおりに戻らない可能性があります。
そうなれば従来のどおりに働くことが困難になり、将来的に収入の減少が見込まれます。
障害補償給付は、このようなケースに対応する補償です。
障害の程度は第1級〜第7級まであり、その程度に応じて定期的に支給されます。
たとえば第1級と判断された場合は、313日分の年金が支給されることになります(第7級は131日分)。
なお障害補償給付には一時金方式もあり、労災が認定された時点で一括支給される仕組みも存在します。
傷病補償年金は、療養開始後1年6か月以降に、以下の状態が続く場合に支給されます。
傷病等級は、厚生労働省が定めているもので、病気の状態を表す等級です。
眼や口、神経系統など身体の様々な部分で判断されます。
たとえば「神経系統の機能又は精神」の項目であれば、傷病等級は以下の表のようになります。
第1級 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、常に介護を要するもの |
第2級 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、随時介護を要するもの |
第3級 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、常に労務に服することができないもの |
障害の程度に応じて、給付基礎日額の313日分〜245日分の年金が支給されます。
葬祭料は、労災により死亡した人の葬祭を行う時に支給されます。
葬祭料は、その葬儀の費用を補償する役割が与えられています。
労災保険の葬祭料は、実際にかかった葬儀費用が補償されるのではなく、厚生労働大臣が定める一定の金額が給付されます。
具体的には315,000円に、給付基礎日額の30日分が加えられた金額です。
その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分が支給されます。
遺族補償給付は、労災によって死亡した遺族に対して支給されるものです。
労働者が死亡した時、主に労働者によって扶養されていた配偶者や、その子どもが受け取る権利を持っています。
労働者の父母、祖父母、孫、兄弟姉妹も給付の対象者です。
遺族補償給付には、遺族等年金と遺族等一時金の2種類があります。
遺族等年金を受け取る遺族がいない場合や、対象者が権利を失っている時は、遺族等一時金が支給されます。
年金は遺族の数に応じて支給され、245日分〜153日分の年金となります。
遺族特別年金と遺族特別給付金の支給内容をまとめると、以下のとおりです。
介護補償給付は、一定の障害の程度で介護を受けている場合に支給されます。
具体的には、以下のどちらかに当てはまる人が対象です。
介護は常時介護と随時介護に分かれます。
さらに介護費用を支出している場合と、家族などの介護により、費用を支出していない場合があります。
保険給付の内容は、以下の表のようになります。
介護の種類 | 費用の支出状況 | 給付される金額 |
常時介護 | 介護費用を73,090円以上支出している | 介護費用の支出額(上限171,650円) |
介護費用を支出していない(または支出額が73,090円を下回る) | 73,090円 | |
随時介護 | 介護費用を36,500円以上支出している | 介護費用の支出額(上限85,780円) |
介護費用を支出していない(または支出額が36,500円を下回る) | 36,500円 |
参考:厚生労働省
うつ病で労災を請求する場合は、まず医療機関での診察を受ける必要があります。
医療機関からうつ病を発症している旨の確定診断が出たら、労働基準監督所に申請書を提出し、調査を行ってもらいます。
その後、労災支給・不支給決定の通知が届くという流れです。
労災を請求する際にまずやるべきことは、医療機関での診察です。
労働基準監督署に申請書を提出するためには、医師からうつ病の確定診断を出してもらう必要があります。
医師による診断は、労災認定を左右する重要な項目なので、必ず確定診断を出してもらいましょう。
医療機関での診察を受ける際は、医師とのコミュニケーションが重要です。
自分の病状をなるべく詳細に伝え、正確に診断してもらいましょう。
診断内容は、労災認定をする際に必ずチェックされるため、カルテの内容で結果が分かれると言っても過言ではありません。
医師からうつ病の確定診断が出たら、労働基準監督署に申請書を提出します。
単純な負傷であれば会社の協力を得られる可能性もありますが、精神疾患の場合は基本的に自分で申請することになります。
申請書は厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
どの給付を選択するかによって申請書の様式が異なるため、自分の状況に合ったフォーマットを選びましょう。
申請書に必要事項を記入して、管轄の労働基準監督署に提出すれば、2つ目のステップは終了です。
なお、労災を裏付けるような証拠(うつ病の場合はパワハラの証拠など)があれば、それも一緒に提出するようにしましょう。
有力な証拠と判断されれば、労災として認定される可能性が高くなるためです。
労働基準監督署は、提出された申請書の内容に応じて、労災に該当するかどうかの調査を開始します。
会社関係者の事情聴取から始まり、会社から資料を提供してもらったり、担当医の話を聞いたりします。
申請書を提出した本人も事情聴取の対象です。
前の項目でも確認したように、うつ病の原因となった出来事が証明できれば、労災として認定してもらえる確率が高まります。
事情聴取の段階でも、何か有力な証拠になりそうなものがあれば、積極的に提供しましょう。
労働基準監督署が様々な資料を集めた後に、専門部会を開いて検討が行われます。
その後、労災の認定・不認定の判断をし、申請者に対して通知をします。
これで労災の申請から、認定・不認定までの一連の流れが終了します。
労働基準監督署によって、認定・不認定の判断がなされ、申請者に労災支給・不支給決定の通知が届きます。
労災の支給が認められた場合は、通知に先立って電話が来ることもあります。
労災の申請から認定までにかかる期間は、一般的に2〜3か月程度と言われています。
とくに早い場合は、1か月程度で認定される例もあります。
ただし、うつ病のような精神疾患は、一般的な怪我や病気と比べて、労災の認定・不認定が難しくなるでしょう。
労災として認定するためには、精神疾患の発症の原因が会社になければいけません。
そのため有力な証拠がない限り、認定・不認定の判断が下せず、調査に時間がかかることになります。
より慎重な調査が必要になるため、申請から認定・不認定の判断まで、6〜12か月程度かかるケースも多いです。
労働基準監督署の不認定に納得がいかない場合は、不服申し立て、つまり再審査の請求が可能です。
再審査請求ができるのは、不認定の決定があったと知った日の翌日から3か月以内で、それを過ぎてしまうと請求できません。
うつ病のような精神疾患は、通常の傷病に比べて認定・不認定の判断が遅くなりがちです。
情報の収集に時間がかかってしまい、申請した日から1年後に不支給の決定が通知されることもあります。
そこからさらに再審査の請求をするとなると、途方もない時間がかかり、申請者の負担も計り知れません。
申請から認定までの期間が極めて長いことは、うつ病の労災認定における大きな課題のひとつです。
通常の怪我であれば、会社が協力して労災を申請してくれます。
しかし精神疾患の場合、会社が労災の申請に協力してくれるケースは少なくなります。
会社としては、「労働者のうつ病の原因が会社にある」と認めたくないでしょう。
そのためうつ病のような精神疾患を患ったケースでは、自分で労災の申請をしなければなりません。
労働基準監督署に提出する申請書類の中には、事業主が記入する部分もあります。
しかし会社からの協力を得られない場合は、その旨を労働基準監督所に相談すれば、事業主記入部分が白紙のままでも提出できます。
会社が労災申請に対して非協力的な場合、その後の調査でも、労働者に有利な発言をすることはほとんどないでしょう。
そのため、普段から客観的な証拠を集めておくのが大事になります。
労災は会社が加入している保険の「保険給付」から支払われます。
会社が労災保険に入っていない場合、給付がもらえないのではないかと考える方も多いでしょう。
しかし会社が労災保険に入っていない場合でも、労働者には保険給付が行われます。
そもそも労災保険に入っていない会社は、故意や重大な過失などの要素に基づいてペナルティが貸されます。
故意に労災保険加入の手続きを取らなかった場合は、労災給付金額の全額を徴収することになるなど、事業者にとってはかなり重いペナルティとなります。
たとえ会社が労災保険未加入であっても、困るのは事業者だけです。
労働者には通常どおり給付されるので安心しましょう。
労災保険で受けられない補償もいくつかあります。たとえば休業補償給付は、給付基礎日額の60%相当額と、特別給付金の20%相当額が支払われます。
しかしこれらの合計は80%であり、実際にかかった費用のすべてが給付されるわけではありません。
葬儀費用も、一律315,000円に給付基礎日額の30日分が加えられた金額、または給付基礎日額の60日分です。
それを超える費用を補償してもらうことはできません。
うつ病などの精神疾患を発症する際、強い精神的苦痛を受けることになります。
しかしこれらの慰謝料も、労災保険には含まれません。
慰謝料は、労災保険とは別に損害賠償請求を行う必要があります。
仕事が原因でうつ病などの精神疾患を発症した場合、労災の申請とともに、損害賠償を請求することも可能です。
労災請求が認められなかった場合や、そもそも労災請求をしていない場合でも、損害賠償の請求ができます。
労災の請求と損害賠償の請求は、別々に処理されるものです。
一方が認められたからと言って、即座にもう一方が認められるわけではありません。
労災保険と慰謝料で、同じ補償内容を二重で受けるのも不可能です。
損害賠償を請求するためには、会社側に安全配慮義務違反や使用者責任(使用者の不法行為責任)があったことを立証する必要があります。
そのため、労災の申請に比べるとややハードルが高くなります。
うつ病で会社に損害賠償を請求できるケースは、大きく分けて「安全配慮義務違反」と「使用者責任」の2つがあります。
両者はそれぞれ異なる特徴を持っているため、別々に理解し、自分のケースはどれに当てはまるのかを判断しましょう。
安全配慮義務は、労働者の生命や身体の安全を確保する義務です。
身体面にとどまらず、精神面にも適用されます。
長時間労働によってうつ病などの精神疾患を発症した場合、安全配慮義務違反に該当する可能性があるでしょう。
安全配慮義務は、使用者に対して課されるもので、労働者の生命や身体の安全を確保する義務です(雇用契約法第5条)。近年はストレス社会とも言われており、様々なストレスから労働者がうつ病などの精神疾患にかかるケースも増えています。
安全配慮義務は、労働者の身体的な安全はもちろん、精神的な健康に対しても適用されます。
安全配慮義務の一環として行われているのが、ストレスチェックです。
平成27年12月から施行されており、50人以上の従業員を抱える事業所を対象としています。
厚生労働省によってストレスチェックのリストが作成されており、簡単な質問に答えることでストレスレベルを判定できます。
安全配慮義務違反とされるケースは、様々なものが考えられます。
たとえば施設や整備のメンテナンスをしっかりと行わず、それが原因で労働者が怪我をした場合、安全配慮義務違反に問われる可能性があるでしょう。
他にも社用車のメンテナンスが原因で、労働者が事故を起こしてしまった場合、安全配慮義務違反になることがあります。
精神的な健康でよくある例としては、長時間労働による健康被害や、パワハラ・嫌がらせによる精神疾患の発症です。
厚生労働省によれば、以下を「過労死ライン」と定めています。
このような事実が認められた場合、安全配慮義務違反に該当する可能性があります。
安全配慮義務違反以外にも、使用者責任を問われる場合があります。
使用者責任は、民法第715条によって規定されており、従業員の不法行為の責任を会社が負うものです。
セクハラ・パワハラ問題をはじめとして、様々なケースが考えられます。
使用者責任は、民法第715条によって規定されている項目で、不法行為によって損害を与えた加害者(の使用者)が賠償の責任を負うものです。
たとえば使用する労働者が、不法行為によって第三者に損害を与え、労災が発生したとします。
もちろん悪いのは実際に危害を加えた加害者なのですが、加害者を使用する存在として、会社に使用者責任があるとみなされます。
使用者責任が成立するためには、以下の3つの要件が必要です。
使用者責任が問われるケースとしてよく挙げられるのが、セクハラやパワハラなどのハラスメント問題です。
ハラスメントの加害者はもちろん、その使用者である会社にも使用者責任が問われる可能性があります。
たとえばうつ病を発症した人が、日常的に上司から暴言を浴びせられていたケースを考えてみましょう。
暴言の証拠となる録音や、残っていたメモなどが証拠になり、会社が使用者責任を問われる可能性があります。
また同僚が使用した重機によって怪我を負った場合も、使用者責任による損害賠償を請求されることがあります。
怪我を負わせた同僚に悪意がない場合でも、被害者に損害が発生しているため、会社が補填をして均衡を保つ必要があります。
会社が賠償責任を負う範囲として、含まれるのが治療費です。
身体的・精神的なものを問わず、何らかの傷病を抱えた場合は、必ず医者に診てもらいます。
そこで発生する治療費は、賠償責任の範囲になります。
病院に行くためには、ガソリン代や電車代などの交通費がかかります。交通費や慰謝料も賠償責任の範囲内になるでしょう。
責任の範囲で覚えておきたいのが、休業損害と逸失利益です。
休業損害は、治療している期間、働けずに収入が減少することによる損害です。
また逸失利益は、もし通常どおり働けていれば得られたであろう利益です。
これらの損害と、義務違反行為の因果関係が認められれば、賠償責任の範囲内になります。
慰謝料の金額は、様々な要素の影響を受けます。ハラスメントの場合は、その悪質性によって金額が変わってきます。
たとえば内容が非常に悪質であったり、身体的な暴力が加わっていたりすると、当然支払うべき慰謝料は大きくなるでしょう。
加害者の立場や、その人数も重要です。
加害者の立場が上であればあるほど、ハラスメントとしての性質が強くなり、責任が重くなります。
また複数の加害者がいる場合、嫌がらせの域を出て「いじめ」に発展しているため、より悪質なものとして認識されます。
ハラスメントが長期間にわたっているかどうかや、結果的に労働者が退職や自殺に追い込まれたかどうかも重要な要素です。
これらはすべて「悪質性」が共通しているため、キーワードとして覚えておきましょう。
会社に損害賠償を請求する流れとしては、まずパワハラを証明するための証拠を集めます。
損害賠償の請求を有利に進めていくために、法律の専門家である弁護士を味方につけましょう。
弁護士を通じて交渉・労働審判手続きを申し立て、解決されない場合は民事訴訟を起こします。
損害賠償を請求し、認められるためには、「労働者側に損害が発生した」ことを主張・立証しなければなりません。
こちらに証拠がなければ、会社側もパワハラを認めることはないでしょう。
そのためにも、まずはパワハラを受けたという証拠を集めましょう。
証拠を集める段階で、会社の人事部にパワハラの相談をするのもおすすめです。
人事部に相談するメリットとしては、まず単純に労働者からの訴えによって状況が改善される可能性があることです。
2つ目のメリットは、もし人事部が対応してくれなかった場合、「会社に相談しても改善してくれなかった」証拠として利用できることです。
会社は安全配慮義務を負っているため、環境を改善してくれなかった事実が証明できれば、とても有利に働きます。
損害賠償の請求には、高度な法律の知識が要求されます。
万が一裁判になった場合、自分1人ではどうにもならないでしょう。
事前に弁護士に相談しておくことで、会社との交渉が進めやすくなります。
弁護士は友人・知人に紹介してもらう他にも、広告やインターネット経由など、様々な探し方があります。
近年は無料で相談を受け付けている事務所も増えているので、無料相談を上手く活用し、自分に合う弁護士を選びましょう。
弁護士にも様々な専門分野があり、パワハラなどの労働問題を得意とする弁護士もいます。
弁護士を選ぶ際は、労働問題の実績が多い弁護士に依頼しましょう。
カテゴリーで絞って弁護士を探したい場合は、ポータルサイトが便利です。
弁護士とおおまかな方向性を決めたら、まずは弁護士を通じて会社と交渉しましょう。
弁護士と一緒に交渉することで、裁判の可能性をちらつかせることができるため、会社に大きなプレッシャーがかかります。
ある程度規模の大きい企業であれば、ブランディングが非常に重要です。
損害賠償が発生し、それが世間に知れ渡ってしまえば、ブランドイメージの低下を招く恐れがあります。
そのため会社によっては、裁判を恐れて和解をしてくれる可能性もあるでしょう。
この時点で和解になった場合は、そのまま和解金が支払われる可能性があります。
会社側が交渉に応じなかったり、和解条件に納得しなかったりする場合は、次のステップである労働審判手続きに進みます。
労働審判手続きは、労働問題の速やかな解決を目指す方法で、地方裁判所に設置されている制度の1つです。
労働審判委員会を通じて話し合うため、通常の交渉よりも円滑に進む可能性があります。
訴訟手続きとは異なるため、非公開で行われます。
労働審判手続きの流れとしては、話し合いの後に労働審判委員会が審理し、原則として3回以内の期日で終えることになっています。
裁判所のデータによれば、平均審理期間は77.2日で、70.5%の事件が3か月以内に終了しています。
労働審判手続は、最終的に紛争解決か訴訟移行のどちらかになります。調停が成立した場合は、もちろんそのまま紛争解決になります。
労働審判に対しては異議申し立てができ、異議がある場合は、審判が失効します。
この場合、紛争が解決しないため、そのまま民事訴訟に移行します。
交渉と労働審判手続で解決しなかった場合は、民事訴訟へと進みます。民事訴訟はいわゆる裁判で、訴える相手の現住所(会社の現住所)を管轄する裁判所に訴状を提出するのが一般的です。
なお不法行為に基づく損害賠償を請求する場合、不法行為が行われた場所を管轄する裁判所に提出しても構いません。
たとえば普段は支店に勤めており、そこでハラスメントを受けていた場合は、本社の住所ではなく支店の住所を基準にすることもできます。
民事訴訟は、短期間で終わるものもあれば、判決までに1年かかるものもあります。
判決までの期間が延びれば延びるほど、弁護士に支払う費用も多くなるため、ある程度の心づもりをしておきましょう。
労災請求や損害賠償請求で証拠になり得るのは、主に以下の6つです。
どんなにささいなものでも、証拠として機能することがあるため、必ず取っておきましょう。
労災請求や損害賠償請求を行う場合は、医師の診断書が必ず必要です。
労災請求が認められるためには、認定基準の対象となる精神障害であるという条件を満たさなければなりません。
うつ病など精神疾患を発症したという医師の診断書があれば、それが証拠となります。
労災請求や損害賠償請求の証拠集めは、「ストレスが原因の病気になった」という証拠である、医師の診断書を起点として始まります。
医師の診断書がなければ、精神疾患が発症した証明ができないため、その他の証拠もすべて無意味になってしまいます。
いろいろやるべきことはありますが、まずは医師の診断書を入手しましょう。
タイムカードやシフト表など、勤務状況が分かる書類も重要です。
タイムカードで労働時間や残業時間を確認することで、労働者に対する安全配慮が適切であったかを判断できます。
発症直前の1か月の残業時間が100時間を超えていれば、安全配慮義務違反に該当する可能性があります。
とくに損害賠償の請求は、会社のストレスが原因で精神疾患を発症したと主張・立証しなければなりません。
こちらが証拠を集めようとするのと同じように、会社側も会社にとって不利な証拠を削除しようとします。
タイムカードの打刻は、逃れようのない証拠として機能するので、とても有用です。
ただしタイムカードは会社の所有物なので、持ち出す前にコピーをするか、携帯電話のカメラなどで撮影しておくのがおすすめです。
ボイスレコーダーやスマートフォンでの録音も、証拠として大きな効果を発揮します。
日常的にパワハラを受けている場合は、暴言などの音声を録音しましょう。
データの移動がしやすい媒体で録音しておくと、証拠として提出する際に便利です。
とくに会話は「あなたはあの時こう言った」「私はそんなことは言っていない」という水掛け論になりやすいため、録音がとても重要になります。
パワハラを受けそうなシーンが予測できるのであれば、その時に録音しておきましょう。
なお、他人に無断で録音する是非が問われることも多いですが、民事訴訟では問題なく証拠として提出できます。
ただし暴言を吐かせるために挑発をするなど、あまりにも悪意のある方法は避けましょう。
メールの文章や送信時間などの記録も有力な証拠になります。
メールで理不尽な要求や暴言をされた場合は、削除せずに取っておきましょう。
またメールの受信・送信時間が、労働時間や残業時間を推定するために役立ちます。
タイムカードを強制的に切らされる職場であっても、メールの送受信記録が残っていることで、長時間労働の証明になります。
業務メールは会社の機密に関わる情報が記載されていることもあるため、すべてコピーやプリントアウトするのは避けましょう。
ただし民事訴訟の証拠に使うなど、合理的な理由があれば、一部コピーやプリントアウトをするのも認められます。
最も単純で安全な方法は、パソコンの画面を携帯電話などのカメラで撮影することです。
とくに理由がなければ、自分のスマートフォンなどで撮影するのがよいでしょう。
部署異動や転勤の通達も、パワハラの証拠としては有力です。
妊娠や出産を機に閑職へ飛ばしたり、配置転換を無理に要求したりするケースは、パワハラとして認められる可能性があります。
不当な配置転換を拒否し、さらに執拗に配置転換を迫られた場合も、パワハラとして認定されやすいです。
過去には、以下のような判例があります。
書面やメールなどの様式を問わず、部署異動や転勤の通達はなるべく残しておきましょう。
日記や業務日報など、ささいなメモもなるべく残しておきましょう。
たとえば手帳に日々のパワハラの詳細を記載することで、パワハラの証拠として提出できます。
主に書き込む内容は、「日付」「発言者」「発言内容」です。
なるべく詳細に書いておくことで、証拠として分かりやすくなります。
業務日報に日時と合わせて業務報告を記載しておくことで、労働時間の証拠にもできます。
データを労働者自身が作成すれば、作成日時の情報が保存されるため、細かい業務の状況が分かります。
ただし業務資料は、許可されていない限りは、外に持ち出すことはできません。
無理矢理外に持ち出した場合は、窃盗罪(刑法第235条)に問われる可能性もあるため、やめておきましょう。
労災請求や損害賠償請求は、自分から動き出さない限り、泣き寝入りになるケースも多いです。
しかし申し立ての作業は、高度な法律の知識が要求されます。
労働者ひとりでは太刀打ちできない場面も多くあるでしょう。
労災請求や損害賠償請求を考えている場合は、法律の専門家である弁護士に相談しましょう。
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仕事のストレスが原因で、うつ病のような精神疾患を発症した場合、会社に責任を追及できる可能性があります。
労災の要件を満たせば労災が認められ、それとは別に損害賠償の請求もできます。
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労災の認定基準については、こちらの記事で詳しく解説されています。あわせてご確認ください。参考:労災の認定基準|うつ病・腰痛・コロナはどうなる?認定されなかった場合は? | mediment