その他労働問題
問題社員の正しい辞めさせ方は?不当解雇・違法な退職強要を避けるためのポイント
2024.09.09
職務怠慢・著しい能力不足・ハラスメントなどにより、周囲に悪影響を及ぼす「問題社員」。会社としては、すぐにでも問題社員を辞めさせたいと考える気持ちもわかります。
しかし、問題社員を辞めさせたい場合には、不当解雇に当たらないように注意が必要です。
不当解雇をしてしまうと、問題社員の側から法的な請求を受け、会社が多額の損失を被ってしまう事態になりかねません。
問題社員を辞めさせるにしても、適宜弁護士のアドバイスを避けつつ、不当解雇を避けながら慎重にご対応ください。
今回は、問題社員の正しい辞めさせ方について、不当解雇や違法な退職強要を避けるためのポイントを中心に解説します。
会社にメリットをもたらさないどころか、むしろ悪影響を生じさせる「問題社員」の行動パターンは様々です。
社内規程を遵守しない従業員がいると、職場内の規律が乱れてしまいます。
社内規程違反を放置していると、他の従業員にも違反行為が伝播して、会社全体の統率が取れなくなってしまう事態になりかねません。
そのため、社内規程違反を犯す問題社員に対しては、懲戒処分を含む厳しい対応を検討する必要があります。
正当な理由のない遅刻・中抜け・早退は、明確な就業規則違反です。
遅刻・中抜け・早退の多い問題社員は、仕事に対するやる気がないように見えてしまうため、他の従業員からの信頼を得られません。
そのため、他の従業員が問題社員に仕事を任せることを嫌がるようになり、暇になった問題社員がさらに遅刻・中抜け・早退を繰り返すという悪循環に陥ってしまいます。
会社としては、なぜ遅刻・中抜け・早退を繰り返すのかを問題社員からヒアリングし、改善策を話し合うべきでしょう。
従業員の能力には個人差があるので、多少仕事の出来が悪い従業員がいたとしても、ある程度仕方のない部分があります。
しかし、他の従業員と比べて著しく仕事の遂行能力が低い従業員は、会社全体の業務に支障を来しかねない「問題社員」と言うべきでしょう。
能力の低い問題社員に対しては、根気強く改善指導を行うことが必要です。
しかし、採算の改善指導にもかかわらず一向に改善しない場合には、解雇を含めた対応も視野に入ってきます。
人付き合いには得手不得手があるため、従業員全員に人当たりの良さを求めるのは酷かもしれません。
しかし、仕事をする以上は、多かれ少なかれ他人と関わる必要のある場面は発生します。
コミュニケーションに関して、会社の従業員としてもっとも問題があるのは、適切な頻度で報告・連絡・相談をしない場合です。
報告・連絡・相談をしない問題社員は、仕事上の問題点を一人で抱え込んでしまったり、業務量がひっ迫していることを周りに言えずに潰れてしまったりするおそれがあります。
報告・連絡・相談を含めて、同僚とのコミュニケーションがうまくいっていない問題社員に対しては、上司などがサポートして改善を図ることが望まれます。
パワハラ・セクハラなどのハラスメント行為を働く従業員は、他の従業員の仕事に対する士気を下げ、場合によっては離職に追い込むきわめて有害な問題社員です。
職場の雰囲気を良好に保ち、また優秀な人材がハラスメントにより離職する最悪の事態を防ぐためにも、ハラスメント行為をする問題社員には毅然と対応する必要があります。
労働者の立場は、労働基準法をはじめとする法令によって厚く保護されているため、会社は従業員に対して強く当たりづらい立場にあります。
この会社の弱みに付け込んで、あまりにも過剰に権利を主張して、会社を攻撃する問題社員が一部に存在します。
労働者が会社に対して正当な権利を主張することは、何も問題ありません。
しかし些細な会社の不手際の揚げ足をとって騒ぎ立てたり、上司からの指導をむやみやたらにパワハラ呼ばわりしたりすれば、会社に協力する気がないと見られても仕方がないでしょう。
労働者としての権利を過剰に主張する問題社員は、取扱いを間違えると法的トラブルに発展する可能性が高いため、会社にとっては非常に面倒な存在です。
従業員に何らかの非違行為があったとしても、上司などによる指導を通じて改善するのであれば、長期的に見れば特に問題ありません。
しかし、再三指導を行ってもなお問題行動に改善が見られない場合には、懲戒処分を含めた厳しい対応をとる必要があります。
従業員に問題行動が見られる場合でも、十分な検討と適切な手続きを経ずに解雇してしまうのは危険です。
安易に問題社員を解雇すると、不当解雇を巡るトラブルに発展するおそれがあります。
「不当解雇」とは、解雇要件を満たさない違法・無効な解雇を意味します。
解雇には「懲戒解雇」「整理解雇」「普通解雇」の3種類があり、それぞれの要件を満たさない場合には解雇が違法・無効となります。
特に「解雇権濫用の法理」(労働契約法16条)は、すべての解雇に適用され、会社による安易な解雇の歯止めになっています。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
引用元:労働契約法16条
「懲戒解雇」「整理解雇」「普通解雇」の概要および要件は、以下のとおりです。
「懲戒解雇」とは、従業員の就業規則違反を理由に、懲戒処分として行われる解雇です。
懲戒解雇を適法に行うためには、以下の要件を満たす必要があります。
①就業規則上の懲戒事由に該当すること | 少なくとも一つの懲戒事由に該当しなければなりません。 |
---|---|
②懲戒解雇に客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当であること | 懲戒解雇の客観的合理性・社会的相当性の有無は、違反行為の悪質性や、改善指導の結果などを考慮して判断されます。 |
「整理解雇」とは、会社の経営不振などを理由に行われる解雇です。
整理解雇を適法に行うためには、以下の4要件を総合的に高いレベルで充足しなければなりません。
①整理解雇の必要性 | 経営不振の程度が著しく、整理解雇が真にやむを得ない状態にある場合にのみ、整理解雇の必要性が認められます。 |
---|---|
②解雇回避努力義務の履行 | 整理解雇を行う前に、他の手段を尽くして解雇を回避する努力が求められます。 (例) ・経費節減 ・役員報酬の減額 ・希望退職者の募集 ・出向 ・一時帰休 ・新規採用の削減 |
③被解雇者選定の合理性 | 整理解雇の対象とする従業員は、客観的に合理的な基準に基づき、公正に選定する必要があります。専ら上司などの好み・主観によって整理解雇の対象者を選んではいけません。 |
④解雇手続きの妥当性 | 整理解雇の実施につき、説明・協議を通じて、労働者側(本人・労働組合等)の納得を得る努力が求められます。 |
「普通解雇」とは、懲戒解雇・整理解雇以外の解雇全般を指します。
普通解雇を適法に行うためには、以下の要件を満たさなければなりません。
①労働契約上の解雇事由に該当すること | 少なくとも一つの解雇事由に該当する必要があります。 |
---|---|
②普通解雇に客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当であること | 普通解雇の客観的合理性・社会的相当性の有無は、解雇事由に当たる事情の深刻さや、解雇以外の方法による改善可能性の有無などによって判断されます。 |
上記の各解雇要件を踏まえて、解雇が違法・無効となる場合の例を見てみましょう。
従業員が1度だけ無断欠勤をしたことを理由として、懲戒解雇した。 |
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一般に無断欠勤は懲戒事由に当たりますが、1度だけの無断欠勤であれば、まずは改善指導による是正を試みるべきでしょう。 したがって、1度だけの無断欠勤を理由にいきなり懲戒解雇することは、客観的合理性・社会的相当性を欠き違法・無効と考えられます。 |
会社が経営不振に陥ったために整理解雇を行ったが、役員報酬は、従前の高額な水準が維持されたままだった。 |
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整理解雇を行う前には、解雇を回避するため、役員報酬のカットを含めた他の手段を尽くすことが求められます。 役員報酬のカットにより経費節減を図る余地があるにもかかわらず、先に整理解雇をすることは違法・無効と考えられます。 |
他の従業員よりも仕事の出来が悪い従業員を、特に改善指導を行うことなく、能力不足を理由に普通解雇した。 |
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著しい能力不足は、労働契約上の解雇事由に当たるのが一般的です。 しかし仕事の出来ない従業員については、直ちに見放すのでなく、できる限り改善指導を行うことが求められます。 何ら改善指導を行うことなく、能力不足を理由に行われた普通解雇は違法・無効と考えられます。 |
会社が一方的に行う解雇とは異なり、従業員の意思で退職する場合には、厳しい解雇要件は適用されません。
そのため、不当解雇を避ける目的で、会社が従業員に対して任意の退職を勧める「退職勧奨」を行うケースがあります。
しかし、退職勧奨が強要にわたる場合には、不当解雇の問題を生じる可能性があるので注意が必要です。
退職勧奨を受けた従業員が実際に退職するかどうかは、従業員の自由な判断によって決めるべき事柄です。
もし退職勧奨が、実質的に従業員に対して退職を強要するものであった場合、会社による一方的な解雇と差がありません。
そのため強制にわたる退職勧奨(退職強要)については、厳格な解雇要件が適用され、違法・無効と判断される可能性が高いです。
退職勧奨が強制にわたるものかどうかは、退職勧奨の言動や状況を総合的に考慮して判断されます。
例えば、以下に挙げるような態様で退職勧奨を行った場合、違法な退職強要に当たると考えられます。
解雇要件を満たさない解雇や、違法な退職強要を行うと、会社は不当解雇による以下のリスクを抱えることになってしまいます。
不当解雇は違法・無効なため、会社は従業員の復職要求を拒むことができません。
復職を認めざるを得ないとなると、人員の余剰が生じて人件費が嵩むうえ、場合によっては再度の配置転換が必要となります。
職場にも混乱を生じることが予想されるため、解雇した従業員に復職される事態は、会社にとって好ましくないでしょう。
解雇期間中に従業員が就労できなかったことについては、不当解雇をした会社に専ら責任があります。
そのため、解雇期間に対応する従業員の賃金請求権は失われず、会社は従業員に対して賃金全額を支払う義務を負います(民法536条2項)。
会社にとっては、全く働いていない従業員に対して賃金を払うに等しく、経済的に大きなダメージを被ってしまうでしょう。
従業員が退職する方向で和解をまとめるとしても、会社は従業員に対して、多額の解決金を支払うことになる可能性が高いです。
少なくとも賃金の3か月分程度、多ければ賃金の12か月分程度かそれ以上を支払うことになるため、いずれにしても会社にとっては経済的なダメージとなってしまいます。
以上のように、不当解雇とみなされた場合には会社は大きなダメージを受けます。
解雇の対応にあたっては事前に弁護士に相談するなどして、慎重に進めることが望ましいでしょう。
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会社として、悪影響をもたらす問題社員をすぐにでも辞めさせたいという気持ちは理解できます。
しかし、安易な解雇や退職強要を行うことのリスクを踏まえると、以下の手順で段階的な対処を行うことをお勧めいたします。
まずは改善指導を行い、問題社員の更生を促すのが賢明です。
実際に更生してくれればそれで良いですし、複数回にわたって改善指導を行った実績があれば、後に懲戒処分等を行った際に適法性が認められやすくなる側面もあります。
上司による指導や、人事部による面談などを使い分け、根気強く改善指導を行いましょう。
改善指導を行ったにもかかわらず、問題社員に更生の兆しが見られない場合、退職してもらうことを検討する段階に入ります。
しかし、できる限り解雇という形はとらずに、退職勧奨によって任意の退職を促すのがよいでしょう。
ただし退職勧奨は、違法な退職強要に当たらないようなやり方で行う必要があります。
基本的には人事担当者などが1対1で、脅しのような言動を用いずに淡々と説得しましょう。
また、強要がなかったことを証拠化するために、毎回議事録を作成して従業員の同意を得ることも考えられます。
退職勧奨に従業員が応じない場合は、懲戒処分である懲戒解雇または諭旨解雇を検討しなければなりません。
ただし、解雇要件を満たしていないと無効になってしまうため、事前に十分な法的検討を行う必要があります。
もし現時点で解雇要件を満たしていないと判断される場合には、さらなる改善指導などを積み重ねて、解雇が正当と認められるだけの状況を作りましょう。
解雇を行うに当たっての準備や、解雇の適法性に関する法的検討については、弁護士へのご相談をお勧めいたします。
「ベンナビ弁護士保険」のここが「スゴい」
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会社に悪影響を及ぼす問題社員であっても、安易な解雇は会社にとって非常に危険です。
まずは改善指導を試みたり、退職勧奨によって任意の退職を促したりして、できる限り解雇以外の手段で問題を解決できるように努めましょう。
どうしても問題社員を解雇せざるを得ない場合には、解雇の適法性について、十分な法的検討を行うことが必要です。
解雇要件を満たしていないのに従業員を解雇してしまうと、不当解雇を主張されて深刻なトラブルに発展しかねません。
弁護士に相談すれば、解雇を行うに当たっての準備や、解雇の適法性等についてアドバイスを受けられます。
問題社員を辞めさせたい場合には、トラブルを回避するため、事前に弁護士までご相談ください。