その他労働問題
問題社員の正しい辞めさせ方は?不当解雇・違法な退職強要を避けるためのポイント
2024.09.09
日本の企業の多くは退職金制度を導入しているため、退職をしたときには退職金が受け取れると考えている方が多いことでしょう。
しかし、退職金制度は任意の制度であるため、退職金が受け取れるかどうかは就業規則や労使慣行(労使間で当然に認められる事実)によって異なります。
そのため、退職金を請求したいなら、支給要件や必要な証拠などについて正しく理解しておくことが重要です。
この記事では、退職金の未払問題に困っている方に向けて、退職金制度に関する基礎知識、未払の退職金を請求する際のポイント、雇用主に退職金を請求する手段などを解説しています。
また、退職金の未払問題を解決するには弁護士に相談するのがおすすめですので、弁護士に相談・依頼するメリットについても紹介します。
一般的に多くの企業では退職金制度を多く導入していますが、本来、退職金制度は任意の制度であるため、当然のこととして請求できるわけではありません。
また、退職金を請求できる場合であっても、消滅時効が成立している場合は請求権の行使が困難となります。
まずは、そのような退職金に関する概要や時効といった基本事項について確認しましょう。
退職金とは、雇用されている企業から退職時に一括で支払われる給与・手当のことです。
日本では多くの企業が導入している制度ですが、実は、労働基準法などに、雇用主に一律で退職金の支払を義務付ける規定は設けられていません。
そのため、就業規則で退職金制度が規定されている場合は別ですが、そうでなければ会社が従業員に対して退職金を支払う義務はありません。
退職金は,賃金と違って,当然に請求できるものではありません。
退職金は,退職金規程や,職場慣行として確立している場合などにより,使用者に支払が義務づけられている場合に限り,請求することができます。
引用元:(7) 退職金に関する事件 | 裁判所
退職金の請求には消滅時効があり、労働基準法第115条の規定により「賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間」とされています(なお、附則により、当分の間、「退職手当の請求権はこれを行使することができる時から五年間」とされます)。
そのため、退職金を請求できるようになってから5年以内に請求しなければ、それ以降は退職金を受け取れなくなってしまいます。
退職金を受け取りたい場合は早めに請求の手続きをおこないましょう。
(時効)
第百十五条 この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
退職金は当然に請求できるものではないため、一定の条件を満たしている必要があります。
また、雇用主に退職金を請求する場合は、雇用主が支払義務を争う限り、雇用主が退職金の支払義務を負っていて、自身に受給資格があることを証明する必要があります。
ここでは、退職金を受け取れるケースや、退職金を請求するのに必要な証拠について確認しましょう。
一般的に以下のようなケースであれば退職金を請求できます。
勤務先の就業規則に「退職金の支給」に関する規定が設けられている場合は、会社に対して退職金を請求することができます。
なお、退職金の支給は任意ですが、退職金制度を設ける場合は就業規則に、適用される労働者の範囲、退職金の支給要件、計算方法や支払方法、支払の時期などを規定しなければならないルールとなっています。
労働基準法第89条3号の2
三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
就業規則に「退職金の支給」に関する規定が設けられていない場合でも、慣例的に退職者に対して退職金が支払われているケースであれば、雇用主に退職金を請求できる可能性があります。
しかし、退職金の労使慣行の有無については判断が難しいため、裁判で争ったとしても、必ず退職金が認められるというわけではないので注意しましょう。
この事件は、任意退職した原告が、退職金規定や慣行に基づいて退職金が支給されるべきであるとして、退職金の支払を請求したものです。
東京地裁は、ほかの退職者には退職金が支払われていること、そのうえ勤続年数2年6ヵ月の退職者にも支払われたことなどを考慮し、勤続年数に応じた退職金を支給する慣行が成立していたと認めました。
【参考記事】労働基準判例検索-全情報
この事件は、自己都合で退職した原告が、従業員に退職金を支払う慣行があるとして、退職金の支払を請求したものです。
しかし、東京地裁は、退職金の計算式が反復継続して使われていないことや、原告以外にも退職金の支給を受けていない人がいることなどを考慮し、退職金を支払うかどうかは代表者の裁量的判断に基づくものであったと判断しました。
【参考記事】労政時報 第88回 槇町ビルヂング(退職金に関する労使慣行)事件
未払の退職金を請求する場合は、以下のような証拠を用意する必要があります。
雇用主に退職金の支払を請求する場合、雇用主が「退職金を支払う義務を負っている」といえる証拠が必要です。
一般的には、退職金に関する規定が記載されている就業規則、労働契約書、労働条件通知書などが挙げられますが、採用資料に退職金に関する説明があったり、退職金を示唆するメールがあったりする場合も証拠になり得るでしょう。
退職金を請求する場合、就業規則などにある支給要件を満たしている必要があります。
一般的に退職金の支給要件は勤続年数で定められることが多く、勤続証明書、健康保険証、社員証、給与明細書などで証明することができます。
もし、そのほかに支給要件があった場合は、その要件を満たしていることを証明できる証拠も用意しておきましょう。
未払の退職金を請求する方法には、内容証明郵便を利用して雇用主に請求する、裁判外紛争解決手続(ADR)を利用する、少額訴訟を利用する、弁護士に退職金請求の手続を依頼するといったことが考えられます。
ここでは、退職金が未払のときに採れる手段のうち4つの手段とそれぞれの特徴について確認しましょう。
労働者自身が雇用主に対して退職金を直接請求する場合、日本郵便の「内容証明郵便」を利用することをおすすめします。
内容証明郵便には「いつ、いかなる内容の文書を誰から誰宛てに差し出されたか」を証明してくれるため、退職金を請求した事実を証明できるようになります。
あとから「言った・言ってない」というトラブルを防げるでしょう。
裁判外紛争解決手続(ADR)とは、裁判手続を使わずに公正な第三者が仲裁・調停・あっせんなどをして法的トラブルを解決する手段のことです。
裁判手続と比べて、費用が安く迅速な解決が期待できることが特徴となっています。
退職金の未払問題で裁判外紛争解決手続を利用したい場合は、以下のような窓口に相談するとよいでしょう。
退職金の金額が60万円以下の場合は、通常訴訟ではなく「少額訴訟」という手続が可能です。
少額訴訟は、法律トラブルを迅速に解決することを目的に作られた制度であり、原則として1回の審理で判決が言い渡されます。
少額訴訟を提起したい場合は、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に訴状を提出しましょう。
労働問題が得意な弁護士に退職金請求の手続を依頼することも可能です。
弁護士に相談・依頼した場合は、退職金を受け取れるかどうかのアドバイスがもらえたり、雇用主との実際の交渉を任せたりすることができます。
弁護士に相談・依頼するなら「ベンナビ労働問題」を使い、労働問題に注力している弁護士を探すことをおすすめします。
退職金の未払問題に労働者ひとりで対応することも可能ですが、「雇用主に全く相手にされない」という事態もあり得ます。
そこで、おすすめなのが、事前に労働問題が得意な弁護士に相談・依頼しておくことです。
ここでは、退職金が未払の際に弁護士に相談・依頼したほうがよい理由について解説します。
退職金を請求するためには、就業規則に支払う旨の記載があったり、慣例的に退職金を支払っていたりする必要があります。
就業規則に記載があれば判断しやすいですが、慣例的な場合は客観的に判断するのが難しいです。
労働問題が得意な弁護士であれば、そのような場合でも退職金を受け取れるかどうかのアドバイスをしてくれるでしょう。
労働問題が得意な弁護士に退職金の未払問題について相談することで、退職金請求に必要な証拠の種類や集め方を教えてもらえます。
また、証拠の中には雇用主が管理しているものもあり、そのような場合は最終的には文書提出命令などの手続が必要になり得ます。
弁護士に正式に依頼すれば、このような法的手続にも対応してもらうことができるでしょう。
弁護士に正式に依頼をすれば、会社との交渉や法的手続などを一任することが可能です。
内容証明郵便や少額訴訟などの手続は労働者ひとりでもできますが、専門的な知識・経験が必要になるため負担が大きいといえます。
その点、弁護士に依頼すれば交渉や手続を一任できるため、少ない負担で退職金の獲得を目指すことができます。
最後に、退職金に関するよくある質問・疑問に回答します。
懲戒解雇の理由によっては、退職金が一切支払われない場合もあります。
懲戒解雇であったとしても退職金を全く支払われていない場合は、裁判で争えば退職金の一部が認められることもあります。
しかし、着服や横領などの重大な不法行為があった場合は、「労働者に対する退職金不支給が適法である」と判断されることもあります。
地域の労働基準監督署では、賃金や残業代の未払に関する相談を受け付けています。
しかし、退職金は「賃金と異なり当然に請求できるものではない」ため、状況次第では労働基準監督署に相談しても対応してもらえない可能性があります。
就業規則に退職金の規定があり、未払の事実を証明できる場合には、相談してみるとよいでしょう。
会社の退職金制度は、事業の途中でも変更・廃止することが可能です。
しかし、就業規則上の退職金制度の変更・廃止は「就業規則の不利益変更」に該当するため、一定の要件を満たす必要があるほか、適切な手続を経てから変更・廃止などをしなければなりません。
そのような要件を満たさず、また必要な手続がないまま退職金制度が廃止・変更された場合は、裁判などで争うと退職金の支払いが認められる可能性があります。
退職金が受け取れるかどうかは、就業規則や労使慣行によって異なります。
また、退職金を受け取れる場合であっても、請求したからといって雇用主が応じてくれるとは限りません。
そのような退職金の未払問題で困っているときには、労働問題が得意な弁護士に相談・依頼するのがおすすめです。
「ベンナビ労働問題」には労働問題が得意な弁護士事務所が多数掲載されているため、自分の希望に合った弁護士を見つけられるでしょう。