その他労働問題
問題社員の正しい辞めさせ方は?不当解雇・違法な退職強要を避けるためのポイント
2024.09.09
退職には、「自己都合退職」と「会社都合退職」の2種類がありますが、具体的に何が違うのか理解できていない方も多いのではないでしょうか。
しかし、どちらが適用されるかによって退職後の待遇が大きく変わってくるため、両者の違いは正しく理解しておくべきです。
そこで本記事では、「会社都合退職」と「自己都合退職」の違いについてわかりやすく解説します。
自身にとってできるだけ有利な方法で退職したい方は、ぜひ最後までチェックしてみてください。
自己都合退職と会社都合退職には、主に4つの違いがあります。
退職後の生活や就職活動に大きくかかわることなので、一つひとつのポイントをしっかりと押さえておきましょう。
自己都合退職と会社都合退職の違いのひとつに、退職理由が挙げられます。
自己都合とは、自らの事情に基づいて労働契約を終了することで、一方、会社都合とは会社側の都合により労働契約を終了することです。
それぞれの退職理由には、具体的に以下のようなものが考えられます。
自己都合退職 | 会社都合退職 |
---|---|
●引越し ●キャリアアップのための転職や起業 ●仕事や人間関係への不満 ●結婚 ●育児 ●病気や介護 ●懲戒処分 | ●経営破たん ●業績悪化に伴うリストラ ●退職勧奨 ●契約内容と実態の相違 ●不当な給与カットや未払い ●通勤が困難な場所への事業所の移転 ●慢性的な残業 ●パワハラやセクハラなどの被害 |
失業手当の取り扱いも、自己都合と会社都合によって異なってきます。
自己都合と会社都合における失業手当の開始日・期間は、以下のとおりです。
自己都合退職 | 会社都合退職 | |
---|---|---|
受給開始日 | 原則として2ヵ月7日後 | 7日後 |
受給期間 | 90日~150日 | 90日~330日 |
自己都合退職・会社都合退職にかかわらず、失業手当を受け取るには、ハローワークに求職の申込みをおこなってから7日間の待機期間を過ごさなければなりません。
加えて、自己都合退職の場合は原則として2ヵ月間の給付制限があります。
そのため、ハローワークへの申込から原則として7日と2ヵ月が経過しなければ給付を受けられません。
会社都合退職の場合は給付制限がないので、申し込みから7日経過すれば給付が始まります。
受給期間は自己都合退職・会社都合退職ともに、被保険者であった期間などによって変動します。
とはいえ、被保険者期間が1年以上ある場合は、基本的に会社都合退職のほうが優遇されることを覚えておきましょう。
自己都合退職をした場合でも、特定理由離職者にあたる場合は給付制限がありません。
そのため、ハローワークへの申込みから7日間が経過すれば、失業手当を受給できます。
特定理由離職者とは、やむを得ない理由により離職した人のことです。
自己都合退職であっても、以下のような正当な退職理由がある場合には、特定理由離職者に含まれます。
なお、特定理由離職者に該当するかどうかを判断するのはハローワークであり、労働者自身が決めることではありません。
迅速に失業保険を受領したい場合は、退職後すぐにハローワークへ相談しましょう。
一般的に、自己都合退職は会社都合退職よりも退職金が減額される傾向にあります。
入社後1~3年程度で退職した場合は、退職金がもらえないケースもあるので注意が必要です。
減額の程度や減額の有無は会社によって異なるため、まずは雇用契約書や就業規則を確認するようにしてください。
なお、自己責任でおこなう確定拠出年金は、退職理由による減額が基本的にないことも頭に入れておくとよいでしょう。
自己都合退職と会社都合退職では、履歴書への記載内容にも違いがあります。
転職活動をするときには、履歴書に前職の退職理由を記載するケースが一般的です。
自己都合退職の場合、履歴書には「一身上の都合により退職」と記載することになるでしょう。
一方で、会社都合退職の場合には、履歴書に「会社都合により退職」と記載することになります。
会社都合での退職の場合は、面接で退職理由を詳しく聞かれるケースも少なくありません。
次に、退職する際の具体的な手続きを見ていきましょう。
自己都合か会社都合かによって細かな違いがあるので、参考にしてみてください。
まずは、退職の意思表示をおこなうことが重要です。
自分の直属の上司に対して「退職させていただきたい」という旨を伝えます。
民法上、期間の定めのない雇用契約の解約は2週間前までに申し入れなければなりません。
ただし、就業規則に異なる定めがある場合は、その定めを優先してください。
とはいえ、少なくとも退職希望日の2ヵ月前には、退職の意向を上司に伝えるべきでしょう。
関係者への挨拶や後任者への引継ぎなどを考えたうえで、退職に向けた十分な時間を確保することが大切です。
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
引用元:民法 | e-Gov法令検索
会社が従業員を解雇する場合、30日前までに予告しなければならないことが法律で定められています。
予告の手段にルールはありませんが、口頭で伝達された場合はトラブルを防止するためにも、解雇理由証明書などを求めるようにしましょう。
なお、解雇までの期間が30日に満たない場合は、不足する日数分の手当が支払われます。
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
引用元:労働基準法 | e-Gov法令検索
退職する際には、会社に貸与された物品を返却する必要があります。
返却できていない物があると、退職後に会社まで届けたり、費用を弁償したりしなければなりません。
自己都合・会社都合にかかわらず、返却すべき貸与物は漏れなく洗い出してください。
たとえば、以下のような物は返却を求められることがあります。
万が一、物品が損傷している場合は、事前に報告しておきましょう。
退職時には、今後必要になる書類などを会社から受け取らなければなりません。
特に以下の3点は転職先に提出する必要があるので、確実に受け取るようにしてください。
また、転職先が決まっておらず、失業給付を受ける予定であれば離職票も発行してもらいましょう。
一般的には、退職後10日程度で郵送されるはずです。
厚生年金基金に加入していた場合は、厚生年金基金加入員証も返却されます。
将来、厚生年金基金加入員証をもとに年金の請求手続をおこなうことになるので、大切に保管しておきましょう。
会社都合退職というべき理由があるにもかかわらず、会社から自己都合退職にされてしまうケースも少なくありません。
ここでは、会社都合退職を勝手に自己都合退職にされないための3つの対処法を紹介します。
それでは、各対処法のポイントを詳しく見ていきましょう。
自己都合退職にされないためには、退職届に「会社都合による退職」と書くことが重要です。
「一身上の都合」と記載すると、「自己都合での退職」という意味に捉えられる可能性があります。
会社によっては、退職届には詳細な理由を書かず、「一身上の都合」と書くのがマナーとされていることもあるかもしれません。
しかし、会社都合退職の場合には、「会社都合による退職」と明記しておくことをおすすめします。
会社都合退職を自己都合退職にされるおそれがある場合は、退職届ではなく退職理由を記した退職合意書を作成しましょう。
退職合意書とは、会社と労働者の退職に関する合意内容をまとめた書類のことです。
会社都合退職であることを明記しておけば、会社側も合意していることになるので、あとで反論される心配がなくなります。
もちろん、退職届を提出したあとでも遅くありません。
退職理由や退職条件などの合意が形成された時点で、退職合意書の作成に着手してください。
会社都合退職を自己都合退職にされないよう対処するためには、証拠を集めることも重要です。
会社都合退職といえる理由があるにもかかわらず、離職票に「自己都合退職」と記載されてしまった場合、ハローワークに対して異議申し立てをおこなわなければなりません。
その際、会社都合退職であることを裏づける証拠を提示できれば、退職理由の訂正が認められやすくなります。
たとえば、以下のような書類や記録は有効な証拠となり得るので、できる限り多く集めておきましょう。
自己都合退職を会社都合退職に変更する方法は、主に以下2つです。
それでは、順番に解説します。
引用元:ハローワーク「記入例:雇用保険被保険者離職票-2」
会社都合退職というべき理由があるにもかかわらず、自己都合退職とされた場合は、ハローワークに対して離職理由の異議申し立てをおこないましょう。
ハローワークが関係書類の確認や事業者への聞き取りなどをおこない、異議申し立てが正当だと判断した場合には、離職理由を会社都合退職に訂正してもらえます。
異議申し立てをおこなう際は、離職票の具体的事情記載欄に退職に至った経緯などを記入し、「⑯離職者本人の判断」で異議有りに印をつけてください。
そのうえで、離職票や証拠資料などをハローワークに提出しましょう。
会社都合退職を自己都合退職として扱われた場合は、訴訟を提起して会社都合かどうかを争うのもひとつの方法です。
裁判で勝訴し、会社都合退職であることが認められれば、会社側も従わざるを得なくなります。
そのため、労働法や雇用契約書に基づき、会社都合といえる正当な理由が存在する場合は、裁判で争うことも視野に入れて弁護士に相談してみてください。
ここでは、会社都合退職として認められた裁判例を紹介します。
本件は、事実が確認できないのにもかかわらず、不正行為の疑いをかけられたことなどを理由に労働者が退職した事例です(東京地裁平成6年3月7日)。
労働者は病院側の一連の不法行為により退職を余儀なくされていることから、「病院の都合による解雇」に準ずるものとして認められました。
その結果、会社都合の乗率による退職金の支払いが命じられています。
本事件は、転勤命令を拒否した労働者が、会社から転勤義務があるように誤信させられ、退職届を提出した事例です(水戸地下妻支平成11年6月15日)。
労働者は義務のない退職届を提出する立場に追い込まれていたことから、会社都合退職が認められました。
その結果、会社都合による退職金の支払いが命じられています。
本件は、労働者が業務遂行能力の問題などを理由に会社から身の振り方を言及され、退職届を提出した事例です(大阪地裁平成19年6月15日)。
会社側は退職届を直ちに受領し、一切引き留めなかったことから、従業員の退職が会社の利益となるものであったとみなされ、会社都合退職が認められました。
その結果、会社都合退職と自己都合退職の退職金差額の支払いが命じられています。
退職について弁護士に相談・依頼するメリットは、主に以下3つです。
少しでも有利に退職手続を進めたいのであれば、弁護士への依頼を積極的に検討してみてください。
弁護士に退職の相談・依頼をするメリットは、会社との交渉や退職手続などを代理してくれることです。
退職に関するトラブルには、さまざまな法律が関与しています。
そのため、法的な知識のない個人が自力で解決しようとすると、トラブルの複雑化・長期化を招くことにもなりかねません。
弁護士に相談・依頼すれば、法律に基づいて会社との交渉を進めてくれるので、自身に有利な条件で退職できる可能性が高まります。
さらに、煩雑な書類作成なども全て任せられるため、手間や時間をかけずに問題を解決することが可能です。
また、弁護士に依頼したあとで、会社と直接やり取りすることは基本的にありません。
上司や同僚との関係性が悪化している場合に、顔を合わせずに済むこともメリットといえるでしょう。
未払い給料や残業代の請求に関して代わりに対応してくれる点も、弁護士に依頼するメリットです。
未払い給料や残業代は、雇用契約や就業規則、就労状況などを踏まえたうえで算定する必要があります。
そのため、自力で対応しようとすると、算定ミスが見つかり、会社から相手にされなくなることもあるでしょう。
弁護士であれば、個々の事情に応じた方法で適正な金額を算定することができます。
また、算定作業に用いる証拠が不足している場合には、弁護士から会社に対して関係書類などの提出を要求してもらうことも可能です。
請求金額の算定に時間を欠けてしまうと状況が悪化する可能性もあるので、できるだけ早く弁護士に依頼することをおすすめします。
ハラスメント加害者に対する損害賠償請求に対応してもらえることも、弁護士に相談・依頼するメリットといえるでしょう。
ハラスメントの証拠を集める方法をアドバイスしてもらったり、相手方との交渉を代行してもらったりすることができます。
状況次第では訴訟で争うことも考えられますが、その場合でも、裁判所とのやり取りや法定での主張などに関して一貫したサポートを受けられるはずです。
パワハラやセクハラによって精神的な苦痛を受けている方は、弁護士への依頼を前向きに検討してみてください。
労働問題が得意な弁護士を探す際は、「ベンナビ労働問題」がおすすめです。
ベンナビ労働問題には、退職トラブルやハラスメント問題などの解決実績が豊富な弁護士が多数掲載されています。
居住地や相談内容の絞り込み機能もあるため、自身にあった弁護士を効率よく検索することができるはずです。
また、無料相談やオンライン相談の可否、休日相談の有無といった細かな条件も設定できるので、有効に活用してみてください。
最後に、自己都合退職・会社都合退職に関するよくある質問を紹介します。
同様の疑問を抱えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
退職理由をごまかすと、経歴詐称に該当する可能性があります。
経歴詐称とみなされた場合、内定取り消しや懲戒解雇になるケースもあるでしょう。
会社都合か自己都合かは、離職票を確認したり、前の会社に照会をかけたりすればすぐにわかることです。
就職活動をおこなう際は、退職理由を正直に申告し、事情を聞かれた際にも事実を偽りなく説明するようにしてください。
派遣切りにあった場合、以下の条件に該当するのであれば、会社都合退職となります。
上記以外のケースでも、契約期間終了時に更新の希望が聞き入れられず、新たな仕事の案内もなかった場合などは特定理由離職者に該当し、失業保険の長期受給や給付制限期間の免除が認められるケースがあります。
ただし、契約が任期満了になる前に仕事を紹介され、正当な理由なく断った場合は自己都合退職と判断されることもあるため、注意してください。
企業が会社都合退職にしたがらない理由として挙げられるのが、助成金に関する問題です。
会社によっては、従業員の雇用に関して国の助成金を利用している場合があります。
そして、助成金の受給要件には、「6ヵ月以内に会社都合退職者を出していないこと」などと定められているものも
あるため、会社側はできるだけ会社都合退職を避けようとしてくるのです。
退職理由は失業手当の受給要件や退職金の金額、履歴書の記載内容など、さまざまな場面で影響してきます。
そのため、会社都合退職といえる理由があるにもかかわらず、自己都合退職とされた場合には決して放置せず、ハローワークへの申し立てなどによって訂正を求めるようにしましょう。
退職について会社とトラブルが起こっている場合や、退職に関係する手続きに不明な点がある場合は、速やかに弁護士に依頼することをおすすめします。
労働問題を得意とする弁護士であれば、個々の状況に合わせた最善の対処法を提案してくれるはずです。