交通事故における通院慰謝料とは、交通事故に遭った被害者が通院をした際に加害者に対して請求できるお金のことをいい、自賠責基準と弁護士基準という2つの基準で算定する金額が違ってきます。
交通事故の慰謝料においては、入院により生じた慰謝料と通院により生じた慰謝料を併せて入通院慰謝料とすることが一般的で、慰謝料も細かく分けると下記の3つがあります。
請求項目 |
内容 |
入通院慰謝料 |
交通事故が原因で通院または入院した場合に請求できる慰謝料 |
後遺障害慰謝料 |
交通事故が原因で後遺症が発生した場合に請求できる慰謝料 |
死亡慰謝料 |
交通事故が原因で被害者が死亡した場合に遺族が請求できる慰謝料 |
今回は、入通院による慰謝料に焦点をあてて、交通事故の入通院慰謝料の計算方法と、被害者が損をしないために適正な慰謝料を請求するための手順をご紹介していきます。
もっと高額な通院慰謝料を請求するためには
保険会社が提示する通院慰謝料は適切なものであるとは限りません。しかし、あなた自身で交渉してみても対応してもらえないことも少なくないでしょう。
交通事故問題に注力している弁護士に依頼すれば、「裁判基準」という法律に基づいた基準で通院慰謝料を請求しますので、今より高額な慰謝料を獲得できる可能性が高まります。
弁護士が交渉すればのちに裁判になることも考慮し、保険会社は対応するしかなくなり、あなたは怪我の治療に専念できるようになるでしょう。
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この記事を監修した弁護士
梅澤 康二弁護士(弁護士法人プラム綜合法律事務所)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。
交通事故で通院慰謝料額が決まる要素
まずは通院慰謝料が決まる要素からご紹介していこうと思いますが、主な要素としては下記の3点があります。
下記ではこの3つについて詳しく解説していきます。
通院期間が長いほど高額になる
交通事故によって発生する慰謝料とは、「被害者が加害者から受けた精神的苦痛の分はしっかり払ってください」という請求権であり、慰謝料はその精神的苦痛を金額で表したものですので、当然ながら、通院期間が長くなればそれだけ請求できる金額は高額になっていきます。
期間別・基準別の通院慰謝料の額(単位:万円)
通院のみ |
むち打ち症など場合
(自賠責) |
弁護士基準 |
任意保険基準
(推定) |
1月 |
8万6,000円
(4万3,000円) |
28(19)万円 |
12.6 |
2月 |
17万2,000円
(16万8,000円) |
52(36)万円 |
25.2 |
3月 |
25万8,000円
(25万2,000円) |
73(53)万円 |
37.8 |
4月 |
34万4,000円
(33万6,000円) |
90(67) 万円 |
47.8 |
5月 |
43万円
(42万円) |
105(79) 万円 |
56.8 |
6月 |
51万6,000円
(50万4,000円) |
116(89) 万円 |
64.2 |
※1:初診から治療終了日を21日とし実際の通入院は10日間だったと仮定し、2020年3月31日までは4,200円、2020年4月1日より後に発生した事故に関しては4,300円で計算しています。
※2:弁護士基準の()内はむちうち等の他覚症状がない負傷の慰謝料
冒頭で、自賠責基準と弁護士基準については触れましたが、実は保険会社が独自で持つ「任意保険基準」と呼ばれるものもあります。
公には公表されていないものですので説明は省略しますが、自賠責基準以上、弁護士基準以下だと思っていただければと思います。
この通院慰謝料は通院に対してかかった金額だけで、治療費などはまた別途、「休業損害」として計算します。
休業損害とは
交通事故に遭い仕事を休んでしまうとその期間の収入や利益が減ってしまいます。この仕事を休業した期間の補償を目的としたものを休業損害と言います
引用元:休業損害とは|職業別の計算方法や請求時の流れを解説
自賠責基準では実通院日数が重要
先ほどご紹介した、「表:期間別・基準別の通院慰謝料の額」は、簡単に算出するために日弁連という機関が算出したものですが、厳密に通院慰謝料を計算する際は、「実際に何日間通院したのか」が重要になってきます。
- 入院期間+通院期間
- 実通院日数(入院期間+通院期間の中で実際に病院に通った日数)×2
この二つを比べて、少ない方に4,300円/日をかけて計算しますので、実際に何日間通院したのかは正確に把握しておくことが大事です。
通院頻度が少ないと慰謝料の減額に繋がる
通院に対する一応の基準として、以下の規定があります
- 1週間に少なくとも2日程度は通っていること
- 表に記載がないほど治療期間が長引いた場合は前の月数の該当額との差額を考慮する
- 症状が特に重い場合は2割増程度の金額まで加算する
参照元:交通事故の法律知識(第4版)
詳しい内容は、弁護士に相談してみることをおすすめします。
一般的には入院期間とセットで計算することが多い
これまで通院だけを見てきましたが、日弁連が公表している「赤い本」には、下記のように入院と通院をセットにした算定表が公開されていますので、基本的にはこの表を見ながら、どこに該当するのかを見ていただくのが確実かと思います。
通常の弁護士基準による入通院慰謝料の表(単位:万円)

むち打ち症で他覚症状がない場合に適用される入通院慰謝料表(単位:万円)

通院慰謝料の計算例
では実際に通院慰謝料を計算してみましょう。
通院期間を定める
3月1日に事故に遭い、3月28日までを通院期間とし、治療期間は28日(1日~28日)、実際に通院した実治療日数を12日とした場合は、下記のようになりますね。

実際の計算例
自賠責基準の場合
治療期間:28日
実通院期間:12日 × 2=24
24日×4,300円=103,200円
もし、28日間の治療期間中に15回の通院をした場合は以下になります。
治療期間:28日
実通院期間:15日 × 2=30
28日 × 4,300円 = 120,400円
通院期間が多い方が慰謝料は高く請求できそうですが、自賠責保険の上限額は126,000円ですので、通院日数を増やせばそれだけ慰謝料が増額するわけではないことに注意しましょう。
もし被害者側の過失が大きい場合や、加害者が任意保険に加入していないといった場合、自己負担分の費用(特に治療費)がこの枠を圧迫する可能性があります。
いずれにしても、状況によってもどのタイミングで打ち切るべきかの判断はなかなか難しいと思いますので、損をしたくない場合は、なるべく早く弁護士などに相談されるのが良いでしょう。
弁護士基準の場合
弁護士基準の場合は「通常の裁判所基準による入通院慰謝料の表(単位:万円)」を参照して、下記に該当する金額を算出していくという流れになります。

できるだけ高額な通院慰謝料を獲得するには弁護士基準で計算する
最後に、通院慰謝料をできるだけ多く請求する為に、弁護士基準で請求するうえで必要なことをご紹介していきます。
- 通院期間が28日の場合
- 自賠責基準:12.04万円
- 弁護士基準:53万円
このように約5倍の差が生まれますので、交通事故に遭ったら弁護士に相談するのが最も賢い選択と言えますね。
闇雲に弁護士基準を主張しても相手にされない
弁護士基準で慰謝料を請求することで増額するという表現を使いましたが、厳密に言えば「被害者が損をしない為の適正な金額になった」と言った方が正しいかもしれません。
自賠責保険や保険会社の基準は最低限保障を主軸にしていますので、どうしても自賠責の金額ではまかないきれないと言った問題は残ります。
しかし、被害者がただ弁護士基準を主張しても保険会社の担当者からは相手にされないことも多いので、やはり弁護士に相談し、「どうして弁護士基準の慰謝料が必要なのか」という部分を詰めていくのが理想と言えます。
慰謝料請求が得意な弁護士に依頼
では、弁護士に相談する場合は誰でも良いのかというとそういうわけでもありません。
交通事故の問題は複雑になりますから、交通事故について詳しい弁護士に相談・依頼しないと保険会社との示談などでマイナスに働く可能性もあるでしょう。
弁護士の選び方
そこでまず注目すべきは下記の3つです。
交通事故案件を多く扱っていること |
過去に交通事故の示談交渉をどの程度解決しているのかを聞いてみましょう。 |
わかりやすい説明をしてくれること |
交通事故では、後遺症と後遺障害のように、法律で使われる難しい専門用語がたくさんあります。経験が豊富な弁護士は、これらを正確にわかりやすく説明してくれます。 |
訴訟経験の有無 |
実際に支払われる慰謝料に差が出る可能性があります。実際に訴訟を起こした経験はあるのか、聞いてみましょう。 |
費用
弁護士に依頼した際の費用も気になる部分だと思いますので、簡単にご紹介させていただくと、最もウェイトが高いのが成功報酬金で、経済的利益の20%が相場と言われています。
- 相談料:10,000円/時(無料の事務所も多い)
- 着手金:20万円から30万円前後が相場
- 報酬金:経済的利益の20%前後
例えば、慰謝料を50万円請求していて、それが300万円に増額した場合、増額分250万円の10%ですから、25万円が報酬金になります。
この場合の弁護士費用の総額は45万円から55万円程度になりますね。
費用が心配なら弁護士費用特約を利用
もし着手金が支払えないとなった場合、まずは自分の加入する自動車保険に「弁護士費用特約」がないかを確認しましょう。
弁護士費用特約とは、自動車保険につける特約のことで、加害者側に対して損害賠償請求を行うときに生じる相談料や依頼時の費用を保険会社が負担するというものです。

【関連記事】交通事故弁護士に必要な費用の種類と相場|費用を抑えるポイントは?
最後に
今回は通院慰謝料を中心にご紹介してきましたが、慰謝料はこの他にも「後遺障害慰謝料」と「死亡慰謝料」があり、さらに「休業損害」「逸失利益」など、すべてを合わせた損害賠償として計算し、請求していくものですので、請求漏れをして損をしないように確実に請求していきましょう。
【関連記事】交通事故の休業損害はいくらもらえる?|職業別の計算方法と必要書類
【関連記事】交通事故の後遺障害等級とは?症状別等級と慰謝料・逸失利益の目安を解説
この記事の調査・編集者
みーさん
2017年にライターとしてアシロに入社し、主に交通事故とIT分野の執筆に携わる。2019年によりIT媒体の専任ディレクターになり、コンテンツの執筆・管理などを行っている。