遺産相続の手続きを進めている方の中には、特別受益について悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
相続では、相続人の最低限の取得分である遺留分の主張や特別受益の主張などによって、相続人間の相続財産の分割が不公平にならないようにできます。
しかし、特別受益を主張しても、相手から反論されて争いが始まり、話し合いが進まないというケースもあります。
このような相続トラブルを解決するためには、相続問題に注力する弁護士への依頼が有効です。
本記事では、特別受益の証拠になるものや主張する場合の流れ、弁護士に依頼するメリットなどを解説します。
特別受益とは
まずは、特別受益の定義や対象などの基礎知識を解説します。
特別受益の定義
特別受益とは、「被相続人から遺贈を受けたり生前贈与を受けたりして得た利益」のことです。
遺贈とは、遺言により被相続人の財産を譲り受けることです。
また、生前贈与においては、婚姻や養子縁組により生計を立てる目的で利益を受けた場合も特別受益とみなされます。
特別受益が認められる場合には、特別受益の持ち戻しがおこなわれます。
特別受益の持ち戻しとは、「相続の開始時点における被相続人の財産に、すでに受け渡された特別受益を加える」ことです。
ほかの相続人が特別受益を受け取っていれば「生前に被相続人から財産を先に受け取った」と解釈されるため、相続財産の計算にその分を反映できます。
特別受益の持ち戻しを正しくおこなえば、相続人間での不公平を是正することが可能です。
特別受益の対象
特別受益とみなされるものは、「遺贈、婚姻や養子縁組のための贈与・生計を立てる資本とするための贈与」などです。
遺贈は、目的を問わず全てが特別受益とみなされます。
一方、被相続人から生前贈与された財産のうち特別受益としてみなされるのは、「婚姻や養子縁組のための贈与、または生計を立てる資本とするための贈与」だけです。
例えば、婚姻や養子縁組の際の支度金や持参金などが該当します。
被相続人から土地を贈与されたり、生命保険や学費を支払ってもらったりした場合も特別受益とみなされます。
なお、基本的に被相続人の孫は相続人にはならないため、原則として孫への贈与は特別受益にはなりません。
ただし、実質的に相続人に対する贈与とみなされる場合は、特別受益として認められる可能性があります。
特別受益の時効
特別受益には時効がありません。
遺留分計算の場合にのみ相続開始前から10年以内のものを対象とする制限がありますが、遺産分割においては時効がありません
そのため、被相続人の死亡から数十年以上前に贈与がおこなわれていた場合も、特別受益とみなされる可能性があります。
相続財産の計算においては、相続開始時の価額に特別受益の価値を換算します。
特別受益を受けてから長い年月が経っていれば、価額が大きく変動している場合もあるでしょう。
特別受益の計算方法
ここでは「相続開始時点において、被相続人Aの財産が3,000万円ある」と仮定した場合の特別受益を計算します。
相続人は、長男X・次男Y・三男Zの3人であり、いずれもAの実子です。
XはAの生前に1,500万円の贈与を受けていて、Yは遺言でAから1,000万円の贈与を受けることが決まっており、Zは特別受益が一切ありません。
このような場合、Xが受け取った特別受益を含めると、分割する財産の合計は「3,000万円+1,500万円=4,500万円」となります。
法定相続分を計算するために財産を3等分すると、相続人1人あたりの相続財産は1,500万円です。
ただし、XはAの生前に1,500万円を受け取っているため、相続開始後には一切財産を受け取れません。
一方、Yは遺言による 1,000万円の贈与があって残りの500万円を受け取ることができ、Zは相続財産を3等分した1,500万円を受け取れます。
相続財産を計算すると、状況によっては相続分がマイナスになるケースもありますが、この場合に相続人が財産を補填する必要はありません。
ただし、該当する相続人の相続分は0円になります。
【ケース別】特別受益の証拠になるもの
ほかの相続人が被相続人から特別受益を受け取っている場合、遺産分割協議において主張することになります。
詳しくは「特別受益の証拠を集めて主張する場合の流れ」で後述しますが、主張する場合は特別受益の受け取りを第三者に認定してもらう必要などもあり、客観的な証拠を示すことが重要です。
特別受益の証拠になるものは状況に応じて異なり、ここではケースごとに解説します。
【関連記事】特別受益の主張に反論する方法について詳しく知る
現金・預金が贈与された場合
現金や預金の贈与について特別受益を主張するには、お金の流れがわかるよう、被相続人から相続人へ金銭が受け渡された事実がわかる証拠が必要です。
例えば、預貯金の通帳残高や取引履歴などが必要になります。
ただし、実際に贈与されたものによっても、具体的に必要な証拠は異なります。
内容によっては、金融機関などの関係機関への問い合わせが必要な場合もあるでしょう。
車が贈与された場合
車が贈与された場合は、売買契約書や車検証などが証拠になります。
また、購入前後の預貯金の通帳残高や取引履歴なども車購入資金に関しての証拠として認められる可能性があります。
不動産が贈与された場合
不動産が贈与されたときは、登記事項証明書が証拠になります。
登記事項証明書を見れば、不動産の所有権がいつの時点で誰から誰へ移っているのかわかるためです。
また、不動産の購入のための費用が渡されていた場合は、不動産売買契約書・購入前後の預貯金の通帳残高・取引履歴などをもとに、援助された費用の金額や受け渡し時期などを把握する必要があります。
生活費の支払いを援助してもらった場合
被相続人に生活費を支払ってもらっていた場合は、被相続人の預貯金の通帳残高や取引履歴などが証拠となります。
また、現金の受け渡しに関する連絡やメモも証拠になるでしょう。
学費の支払いを援助してもらった場合
学費の援助を受けていた場合は、学費の領収証などが証拠になります。
学校に問い合わせて、金額や納入時期を確認するのもよいでしょう。
事業資金を出してもらった場合
事業資金の支援についても、被相続人の預貯金の通帳残高や取引履歴などが証拠として役立ちます。
相続人の開業時期と照らし合わせて支出の時期が近ければ、事業資金の支援がおこなわれたという事実を証明しやすくなります。
また、事業承継のために株式を受け渡された場合には、それを証明するための資料が必要です。
借金を肩代わりしてもらった場合
被相続人が相続人の借金を返済していた場合は、借入先から発行された完済証明書や取引履歴などが証拠になります。
特別受益の証拠が認められないケース
特別受益を主張しようとしても、認められないケースなどもあります。
ここでは特別受益の証拠が認められないケースを3つ紹介します。
1.相続人以外が贈与や遺贈を受けた場合
特別受益は、被相続人による相続人への贈与や遺贈などが対象となります。
そのため、「被相続人が相続人の子ども(孫)の生活費を支払っていた」というような相続人以外に対する贈与や遺贈については、特別受益にならないのが原則です。
2.被相続人の持ち戻し免除があった場合
特別受益の持ち戻し免除とは、被相続人が「特別受益の持ち戻しの計算はおこなわずに遺産分割をおこなってほしい」などと意思表示することです。
意思表示の方法について特に決まりはありませんが、遺言書や生前贈与契約書などにておこなうのが通常で、このような場合も特別受益は認められません。
3.婚姻期間20年以上の夫婦間で不動産を贈与した場合
2019年7月1日から施行開始した改正民法により、婚姻期間20年以上の夫婦間での不動産の贈与については「特別受益の持ち戻し免除の意思表示をしたもの」と推定されます。
したがって、このようなケースでは、基本的に特別受益は認められません。
特別受益の証拠を集めて主張する場合の流れ
ここでは、特別受益を主張する場合の流れについて解説します。
【特別受益の証拠を集めて主張する場合の流れ】
- 特別受益の証拠を準備する
- 遺産分割協議で特別受益を主張する
- 遺産分割調停を申し立てる(遺産分割協議が不成立の場合)
- 遺産分割審判に移行する(遺産分割調停が不成立の場合)
1.特別受益の証拠を準備する
まずは、特別受益を主張するための証拠を集める必要があります。
状況によって必要となる証拠は異なるため、もし自力での証拠集めが不安な場合は、相続問題が得意な弁護士などにアドバイスしてもらうことをおすすめします。
2.遺産分割協議で特別受益を主張する
特別受益の証拠を準備できたら、遺産分割協議にて主張することになります。
相手が特別受益を受け取った事実を認めれば、持ち戻しの計算をしたのち遺産分割へと移ります。
3.遺産分割調停を申し立てる(遺産分割協議が不成立の場合)
特別受益の証拠を準備したうえで主張しても、なかには相手が事実を認めない場合もあります。
そのような場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てましょう。
遺産分割調停では、調停委員が当事者の間に入り、話し合いでの解決を目指します。
4.遺産分割審判に移行する(遺産分割調停が不成立の場合)
遺産分割調停をおこなっても解決しない場合は、遺産分割審判に移行します。
遺産分割審判では、証拠や主張などをもとに、裁判所によって特別受益に関する判断が下されます。
もし審判内容に納得いかない場合は、高等裁判所に「即時抗告」という不服申立てをおこなうことも可能です。
特別受益を主張する場合に弁護士に依頼するメリット
特別受益を主張するときは、弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士なら法律知識に基づいて的確な主張ができるため、自力で対応するよりも特別受益の主張を効果的にすることが期待できます。
相手が反論している場合でも、決定的な証拠を集めるためのサポートをしてもらえるでしょう。
また、相手との交渉対応だけでなく、調停や審判などの手続きの代理も依頼できます。
特に特別受益を含む相続財産の計算は煩雑であり、大きな負担となります。
弁護士に依頼すれば、特別受益だけでなく相続手続きの大部分をサポートしてもらえるため、精神的なストレスを大幅に軽減できるでしょう。
まとめ
特別受益とは、相続時点の財産以外に被相続人から相続人へ受け渡された利益のことです。
ほかの相続人が特別受益を受け取っているにもかかわらず、こちらの主張に対して反論してきた場合は具体的な証拠を示す必要があります。
しかし、自分の力だけで有力な証拠を提示するのは簡単ではありません。
特別受益の主張に反論されている場合や、相手を納得させるための証拠集めが難しい場合などは弁護士への相談・依頼がおすすめです。
弁護士であれば、特別受益に関する証拠集めのサポートを受けられるだけでなく、特別受益を含めた遺産分割協議の代理対応なども含めて依頼できます。
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