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贈与契約書のひな型と作成ポイント|生前贈与でトラブルを防ぐために
2023.07.14
不動産を購入した際、不動産登記をしなければ他の者に対して、不動産の所有権を主張することができません(民法177条)。
しかし現在は、相続で不動産を譲り受けた場合、不動産登記をすることなく他の者に所有権を主張することができます。
相続時に所有権登記をしなくても特に問題は生じませんから、相続登記を怠るケースは多数あります。
しかし、2024年をめどに、政府は相続を原因とした不動産の所有権の移転についても不動産登記を義務化する予定です。
政府が相続の際、不動産登記の義務化を検討し始めたきっかけは東日本大震災です。
特に、津波の影響で所有者不明の土地がたくさんできてしまったことが大きな要因です。
津波被害に遭った土地の不動産登記を確認しても、相続を原因とした不動産登記が義務化されていないため、登記簿に記載されている所有者が何10年も前に亡くなっていて、誰に相続されたのかがわからないという事案が頻発したのです。
所有者不明の土地は、東日本大震災後の復興事業で用地買収の妨げとなりました。
民間有識者の研究会の16年の推計では、所有者不明の土地は全国で約410万ヘクタールにも上り、40年には北海道本島に匹敵する約720万ヘクタールに広がる計算です。
民間の有識者間で組織された「所有者不明土地問題研究会」によると、対策しないまま2040年になれば、 経済損失額は少なくとも累計約6兆円(※)になるというデータが出ています。政府にアクションを起こさせる、インパクトの大きな数字だったということでしょう。
※内訳について、算出可能なコスト・損失額を試算すると、2016年単年での経済的損失は約1,800億円/年。
2040年までに所有者不明の土地面積が増えることを考慮に入れると、 2040年単年での経済的損失は約3,100億円/年となり、累積で約6兆円に相当する額となる(算出不可だった項目があることも考えると、実際には損失額がより大きくなる可能性もある)。
>相続登記の義務化の経緯や放置した場合のリスクについて詳しく見る(弁護士法人A&P 瀧井総合法律事務所)
冒頭で触れた通り、現状相続登記は義務ではありませんが、政府が本格的に検討した結果、2024年より義務化される見込みとなりました。
最後の登記から50年以上もたつ土地は大都市で6.6%(宅地に限ると5.4%)、中小都市などで26.6%(田畑で23.4%)あります。
多くは登記簿上の名義人がすでに死亡し、そのままになっている可能性があります。
その理由のひとつは、相続登記に法的な義務がないことです。申請期限もありません。
直ちに名義を変えなくても、遺族に不都合が生じるわけではありません。
また、手続きが煩雑で、自力で行うのが難しいことも要因です。
司法書士に頼めば報酬を支払う必要があり、登録免許税もかかります。
これらの手続きを面倒だと感じ、放置しがちになります。
長い年月が過ぎるとさらに厄介なことになります。
相続登記の申請の際には、故人の土地を誰が引き継ぐかを確定するための「遺産分割協議書」の添付が必要になります。
この遺産分割協議書を作成するときには、すべての法定相続人が話し合って署名・押印する必要があります。
年月の経過とともに親族の数が増え、法定相続人の数もどんどん増加してしまうでしょう。
放置すると、遺産分割協議書を作って相続登記をすることは実質不可能になってしまいます。
また、固定資産税の節税対策で、意図的に相続登記をしないケースが、地方を中心に多いといわれています。
固定資産税や、建物管理費などを支払う際には、登記簿上の名義人が求められるのが通常です。
そのため、「義務ではないなら登記しなくてもいいや」と考えてしまうのでしょう。
相続登記は義務ではないといっても、やはりデメリットは生じてしまいます。
今回はデメリットを3つほど紹介します。
不動産に関する権利は、民法により、登記していなければ第三者に対して主張(対抗)できないことになっています(177条)。
相続した不動産を売却する場合、相続人は自らが所有者であることを証明する必要があるので、登記上の名義人になっておかなければなりません。
また、不動産の登記は実態に即して行われている必要があり、被相続人から買主に対し、直接、所有権の移転登記をすることはできません。
要するに、相続した不動産を売却するときには、その前提として相続登記は必須になります。
いずれ売却しようと考えている場合には相続した段階で他の手続きと一緒に不動産登記をしてしまうのもいいかもしれません。
相続登記をするには「登記していない土地(不動産)が多いワケ」でも紹介した通り、遺産分割協議書が必要となります。
また、相続で譲り受けたまま放置されていた不動産を売却しようと考えた際には、相続登記が必要です。
相続によって不動産を譲り受けてから長い間放置したあとに不動産を売却しようとすると、相続人が増えて権利関係が複雑となり、遺産分割協議書を作成することが困難になってしまいます。
自分の子や孫の代に複雑な不動産登記手続きを残さないためにも、早めに相続登記をすることが大切です。
相続人のなかに借金がある人がいて支払いが滞っている場合、債権者に不動産の相続持分を差し押さえられてしまうかもしれません。
遺産分割協議が終わるまで、不動産は共同相続人が法定相続分に応じて共有している状態です。
債権者は法律に則って、借金がある相続人の法定相続分を差し押さえる可能性があります。
遺産分割協議がまとまっていても、相続登記を済ませていないと、不動産を差し押さえた債権者に対し、それが自分のものだと主張できません。
民法909条で『遺産分割の効力は第三者の権利を侵害できない』と規定されているからです。
共同相続人のうちの1人が最終的にその不動産のすべてを取得したいと考えている場合は、債権者に対して弁済をし、差し押さえを解いてもらう必要があるでしょう。
義務化に向けて、登記をしない場合の罰則を設けようという案も出てきています。
ただし、その必要性について国民に十分周知した上で理解を得ないと、実効性に欠けるという指摘もあります。
また、相続をしたからといって財産がたくさん手に入るとは限らず、相続税や固定資産税に加えて登録免許税や司法書士に依頼した場合の報酬など、支出も増えてきます。
そこに罰則で経済的負担を強いることはやり過ぎという感じもします。
不動産登記制度の本来の趣旨である所有者の権利保全から、目的や実態が逸れないように議論が進められる必要があるでしょう。
不動産の相続登記の義務化がおこなわれるのは、現在2024年がめどとなっています。
施行にかけて相続登記の申請が殺到するおそれもあるので、今のうちから所有している不動産の相続登記をすることをおすすめします。
相続人や権利関係が複雑になっている場合には、司法書士に依頼してみてはいかがでしょうか。