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贈与契約書のひな型と作成ポイント|生前贈与でトラブルを防ぐために
2023.07.14
贈与契約をする場合、あわせて「贈与契約書」を作成しておくことが推奨されます。
税務調査などで贈与契約の内容に疑問を持たれた際は、贈与契約書を提示することで解決できる可能性が高いからです。
一方で作り方などに問題があると、その効力を正しく発揮できないので注意しなくてはなりません。
本記事では贈与契約書とは何かや作成するメリット、書き方、注意点についてまとめています。
贈与契約をする際はトラブルを予防するためにも、本記事を参考に贈与契約書を作成することをおすすめします。
贈与契約書とは、贈与契約を結んだことや贈与契約の内容を証明するための書類です。
贈与者が受贈者へ無償で財産を与える贈与契約は、当事者間の合意によって成立します。
贈与契約を結ぶにあたって、必ずしも贈与契約書は必要ありません。
当事者間の口約束だけでも、贈与契約は成立するからです。
しかし、贈与契約書を用意するメリットは大きく、贈与契約時にはあわせて契約書を作成することが推奨されます。
贈与契約書を作成するメリットとして、次の3つが挙げられます。
以下、それぞれの詳細についてひとつずつみていきましょう。
贈与契約書を作成することで、当事者間の認識違いによるトラブルを防げます。
贈与契約書自体は、当事者間の合意があれば口約束でも結ぶことが可能です。
ただ口約束では、その有無や内容について「言った・言わない」の水掛け論となり、争いに発展してしまうことも少なくありません。
贈与契約を結ぶ際に贈与契約書を作成しておけば、あとから当事者間で契約の有無や内容を客観的に確認できます。
そのため「言った・言わない」のトラブルを避けられるわけです。
また、民法第550条では、口約束での贈与契約は当事者それぞれの判断でいつでも取り消せると定めています。
(書面によらない贈与の解除)
第五百五十条 書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
引用元:民法 | e-GOV
贈与契約書を作成しない場合、贈与者・受贈者いずれかの気が変われば、他方の合意を得なくてもいつでも契約を取り消せてしまうわけです。
たとえば、お店を開業するための資金として1,000万円を、家族に提供してもらうよう口約束を交わしていたとします。
そのうえで、いざその資金が必要になったとき、贈与者である家族に「そんな約束していない」と契約を反故にされたとしましょう。
口約束だけで贈与契約を結んだ場合、少なくとも法律的には相手を責められないのです。
贈与契約書を作成しておくことで、契約の取り消しにはお互いの合意が必要となります。
そのため、相手から勝手に贈与契約を反故にされるトラブルを避けられるわけです。
贈与契約書を作っておくことで、特別受益に関する相続人同士のトラブルを防ぐことができます。
特別受益とは、被相続人が生前に一部の相続者に対して贈与した特別な利益です。
たとえば、被相続人である父親が子どもの一人に、自動車や自宅の権利を贈与していればそれが特別受益となります。
遺産相続協議の際は、相続を公平に保つため特別受益も考慮して相続財産の分割がおこなわれるのです。
特別受益の有無や内容は、遺産分割協議の際に争いのもとになることが少なくありません。
ほかの相続人から「本当はもっと多く贈与されていたのではないか」などと、疑われてしまう可能性もあるのです。
贈与契約書を作成しておけば、贈与契約の事実や内容を客観的に示すことができ、遺産分割協議時のトラブルを防げます。
生前贈与は相続税対策の手段としてよく使われますが、税務調査に指摘されることが少なくありません。
贈与契約書を作っておけば、仮に税務調査から指摘を受けても、生前贈与の内容を否認されにくくなります。
どういうことか理解するため、ひとつの例で考えてみましょう。
たとえば被相続者である父親が生前、子ども名義の口座を開設し、その口座に100万円振り込んで子どもに贈与したとします。
10年後に父親が亡くなった場合、この100万円は本来であれば相続財産としてカウントされず相続税の対象にもなりません。
しかし、この贈与が税務署に名義預金とみなされた場合、相続税の対象となってしまいます。
名義預金とは、口座の名義人とお金を出したほうが異なる預金のことです。
父親が子どものために子どもの名義で預金をしていれば、名義預金となり相続税の対象となります。
この例では、100万円を贈与される際に贈与契約書を作っておけば、税務署に生前贈与の事実を証明できるのです。
従来は、相続が開始される前の3年以内に、被相続人から相続人へ贈与された財産は相続税の対象とされていました。
このルールは、亡くなる直前に被相続人が相続人に財産を贈与し、相続税の課税を逃れるのを防ぐためのものです。
2023年度の税制改正により、この期間が3年から7年に変更されました。
従来と違い、今後は相続開始前7年以内の贈与が、相続税の対象とされることになったのです。
なお、2024年以降の生前贈与から、このルールが適用されるわけではありません。
以下のように、少しずつ期間が延びて2031年以降に7年となります。
【相続税の対象となる生前贈与の期間】
相続発生時期 生前贈与の加算対象期間 ~2026年 3年 2027年 最長4年 2028年 最長5年 2029年 最長6年 2030年 最長7年 2031年~ 7年 引用元:国税庁 | 令和5年度 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし
※参照先を基に、筆者が表を作成
【参考記事】「令和5年度税制改正」(令和5年3月発行) : 財務省
贈与契約書を作成する場合の、大まかな流れは次のとおりです。
以下、それぞれの手順についてみていきましょう。
贈与契約書を作成するためには、まず契約書に記載すべき贈与の内容を確認します。
この確認作業は、もちろん贈与者・受贈者の両者でおこない互いの認識を合わせることが必要です。
贈与内容の確認が済んだら、贈与契約書を作成します。
この作業は、贈与者・受贈者のいずれかのみでおこなっても構いません。
なお必要事項さえ明確に記載されていれば、贈与契約書の様式や書式については自由です。
手書きのほか、パソコンで作成することもできます。
【贈与契約書に記載すべき6つの項目】
贈与契約書は必ず2通作成し、贈与者・受贈者の双方が署名捺印をおこない、この2通が対であることを証明するため割印を押します。
そのうえで、贈与者・受贈者がそれぞれ1通ずつ保管しておくことが必要です。
ここでは、現金・不動産・株式を贈与する際のパターンごとに雛形を紹介します。
これら雛形を、実際に贈与契約書を作成する際の参考にしてください。
贈与契約書
贈与者 アシロ太郎(以下「甲」という)は、受贈者 アシロ花子(以下「乙」という)と、下記条項により贈与契約を締結する。
記
第1条 甲は、現金500万円を乙に贈与するものとし、乙はこれを承諾した。
第2条 甲は、第1条に基づき贈与した現金を、20●●年●●月●●日までに、乙が指定する銀行預金口座に振り込むものとする。この振込に要する費用は甲の負担とする。
この契約を締結する証として、この証書2通を作成し、甲乙双方が記名捺印のうえ、各1通を保有するものとする。
令和__年__月__日 (甲)住所 東京都新宿区●—●●—●● 氏名 アシロ太郎 印 (乙)住所 東京都新宿区●—●●—●● 氏名 アシロ花子 印 |
贈与契約書
贈与者 アシロ太郎(以下「甲」という)は、受贈者 アシロ花子(以下「乙」という)と、下記条項により贈与契約を締結する。
記
第1条 甲は、甲の所有する下記の財産を乙に贈与するものとし、乙はこれを承諾した。
(土地) 所在 ●●区●●丁目 番地 ●●●●●●●● 地目 ●●●●●●●● 地積 ●●●●平米
(建物) 所在 ●●区●●丁目●● 家屋番号 ●●●●●●●● 種類 住宅 構造 木造●●●● 床面積 ●●●●平米
第2条 甲は、第1条に基づき贈与した財産を、20●●年●●月●●日までに、乙へ引き渡すとする。また、その所有権移転登記を行う。所有権移転登記手続に関わる一切の費用は乙の負担とする。
第3条 本件不動産に係る公租公課は、所有権移転登記を行うまでに相当する部分は甲の負担と市、その翌日以降に相当する部分は乙の負担とする。
この契約を締結する証として、この証書2通を作成し、甲乙双方が記名捺印のうえ、各1通を保有するものとする。
令和__年__月__日 (甲) 住所 東京都新宿区●—●●—●● 氏名 アシロ太郎 印 (乙) 住所 東京都新宿区●—●●—●● 氏名 アシロ花子 印 |
贈与契約書
贈与者 アシロ太郎(以下「甲」という)は、受贈者 アシロ花子(以下「乙」という)と、下記条項により贈与契約を締結する。
記
第1条 甲は、甲の所有する下記の財産を乙に贈与するものとし、乙はこれを承諾した。
(1)●●●●●●株式会社 ●口
(2)●●証券 ●株
第2条 甲は、第1条に基づき贈与した財産を、20●●年●●月●●日までに、乙へ引き渡すとする。
この契約を締結する証として、この証書2通を作成し、甲乙双方が記名捺印
のうえ、各1通を保有するものとする。
令和__年__月__日 (甲) 住所 東京都新宿区●—●●—●● 氏名 アシロ太郎 印 (乙) 住所 東京都新宿区●—●●—●● 氏名 アシロ花子 印 |
贈与契約書を作成する際は、必要事項を漏れなく記載する以外にも、いくつかの注意点があります。
以下、主な注意点についてひとつずつみていきましょう。
土地や建物などの不動産を贈与する場合、贈与契約書に収入印紙(印紙)を貼付する必要があります。
贈与契約書に価格の記載がないのであれば、200円の印紙が必要です。
価格の記載がある場合は、金額に応じた印紙を用意します。
贈与税が発生しない基礎控除額(110万円)の贈与を繰り返し、相続財産を減らす相続税対策が使われることが多いです。
ただ長期的に、同じ金額の贈与を繰り返していると定期贈与と判断され、高額な贈与税が課せられる可能性があります。
定期贈与とみなされないための手段として、贈与をおこなうたびに贈与契約書を作成するのが有効です。
こうすれば、定期的な贈与ではないことの証明になります。
受贈者が未成年である場合、贈与契約書にその受贈者の法定代理人も署名・捺印する必要があります。
両親がいれば、法定代理人は一般的に両親です。
なお署名捺印するのは、両親のいずれか一方でも問題ありませんが、両親ともに署名捺印しておくと安心です。
両親が署名捺印する場合、受贈者の署名捺印の下に、受贈者と同じ書式の署名捺印を記載します。
ケースによっては、さまざまな点に注意して、慎重に贈与契約書を作成しなくてはならないことも考えられます。
そういったケースでは、贈与契約書の作成を専門家に任せると安心です。
以下、具体的にどのようなケースで、贈与契約書の作成を専門家に依頼すべきかみていきましょう。
相続税対策が目的で贈与契約書を作成する場合、適切な専門家に依頼することが推奨されます。
たとえば相続税対策では、さまざまな税金に関する知識や処理が必要になるので、税理士のようなプロに任せれば安心です。
また遺産相続で親族間の利害が対立し、将来的なトラブルが予見されるのであれば弁護士に依頼することが推奨されます。
弁護士なら贈与契約書作成にあたり、できる限りトラブルがおきないよう考慮してくれる上に、有効なアドバイスを貰うことも可能です。
不動産や株式のような高額な財産を贈与する際は、税理士などの専門家に贈与契約書の作成を依頼することが推奨されます。
高額な財産の贈与ではまとまった金額の贈与税が発生する可能性があり、事前に贈与税額を算出してもらった方がよいためです。
また、贈与する財産の種類や条件によっては、贈与税を節約可能な特例などのルールが使える可能性も少なくありません。
専門家であれば、そういった可能性を発見し、必要な対応についてアドバイスしてくれます。
負担付贈与のように、複雑な条件の贈与をおこないたい場合は、弁護士などの専門家に贈与契約書の作成を依頼することが推奨されます。
負担付贈与とは贈与者が財産の贈与にあたって、受贈者に何がしかの負担を求める贈与の種類です。
負担付贈与の例として、以下があげられます。
負担付贈与のように複雑な贈与は通常の贈与に比べ、トラブルが起こりやすいのは否めません。
たとえば負担付贈与では、約束通り負担が果たされなかったり、贈与物に問題があったりして当事者間で争いが発生することがあります。
このようにトラブルになりやすい複雑な贈与では、あらかじめ弁護士に贈与契約書の作成を依頼すると安心です。
弁護士はトラブルを防いだり、仮にトラブルが発生しても解決しやすくしたりといった考慮をしながら贈与契約書を作成してくれます。
贈与契約書の作成にあたっては、ほかにもわからないことがでてくるかもしれません。
ここでは、贈与契約書に関してよく聞かれる質問をいくつか紹介します。
贈与契約書の作成にあたり、書式や様式に関するルールは特にありません。
必要な事項がきちんと明示されていれば、任意の書式で作成できます。
手書きのほか、パソコンで作成することも可能です。
公証役場にて贈与契約書を公正証書にして、確定日付を入れてもらうことにより信頼性を高めることができます。
贈与契約書は私的な書類であり、公的な書類に比べ税務調査などの際に改ざんを疑われやすいのは否めません。
しかし確定日付入りの公正証書にすることで、その日付時点でその内容の贈与契約書が存在したことを公的に証明できます。
さらに作成時の原本が公証役場に保存されていることから、改ざんされていないことを証明できるのです。
死因贈与とは、贈与者が亡くなったときに贈与が実行される種類の贈与契約です。
死因贈与契約書は、死因贈与についてまとめた贈与契約書を指します。
死因贈与契約書を作っておくことで、贈与者が亡くなった際に遺産トラブルが発生するリスクを軽減可能です。
なお被相続人が自分が亡くなったときに相続財産を誰に渡したいかは、遺言書にまとめることもできます。
遺言と死因贈与は以下にあげるような違いがあり、状況に応じて適した種類を選ぶとよいです。
どちらを選んだ方がよいかわからない場合は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
税務調査の際に提示する証拠として、贈与契約書だけでは十分とは言えません。
贈与契約書は、あくまで契約の内容を証明することだけが役割の書類だからです。
以下にあげる対策もしておくことで、税務調査の際に疑われにくくなります。
過去におこなった贈与で、贈与契約書を作成していなかったということもあるでしょう。
その際、日付をさかのぼって贈与契約書を作成してはいけません。
日付をさかのぼって契約書を作成することを、「バックデイト」と呼びます。
バックデイトは文書偽装行為にあたり、税務調査で発覚すると重いペナルティ(重加算税)が課されてしまう可能性があるのです。
過去の贈与で贈与契約書を作成していなかった場合は、その贈与についての覚書を作成しておくことをおすすめします。
覚書に、過去におこなった贈与の詳細をまとめておくわけです。
このような覚書であれば、バックデイトにはあたりません。
なお覚書を作成しても、贈与契約書と同等の証拠としては扱ってもらえないので注意してください。
ただし覚書を作成することで、名義預金と認定されてしまうなどのリスクを減らすことは可能です。
覚書に贈与者・受贈者の共通認識をまとめておけば、あとから認識に差異が生じて相続トラブルになるのも予防できます。
以下、覚書のサンプルを記載するので作成時の参考にしてください。
覚書
贈与者 アシロ太郎(以下「甲」という)は、受贈者 アシロ花子(以下「乙」という)は、本日、下記の事項をお互いに確認した。
第1条 甲は20●●年●●月●●日に乙の▲▲銀行××視点に送金した1,000万円は、甲から乙に贈与するものとして送金したものであり、乙はこれを承諾していた。
上記の事項をお互いに確認したので、これを証するため、本覚書を2通作成し、甲乙双方が記名捺印のうえ、各1通を保有するものとする。
令和__年__月__日 (甲) 住所 東京都新宿区●—●●—●● 氏名 アシロ太郎 印 (乙) 住所 東京都新宿区●—●●—●● 氏名 アシロ花子 印
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贈与契約書は贈与契約の事実と内容を証明するための書類です。
贈与契約自体は口約束でも可能ですが、トラブルを防止し税務調査の際の証拠として示すためにも贈与契約書を作成することが推奨されます。
贈与契約書を作る場合は、まず当事者間で贈与内容について確認することが必要です。
その後、贈与者・受贈者のいずれかが贈与作成書を2通作成し、それぞれ1通ずつ保管します。
贈与契約書は必要な事項さえ記載されていれば、様式や書式は問われません。
手書きのほか、パソコンで作成することも可能です。