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2024.09.12
家族信託は認知症対策として注目されており、成年後見制度では実現できない財産管理が可能になります。
家族に財産管理を任せたい方にはおすすめの制度ですが、家族信託の仕組みはあまり知られていないため、以下のような疑問もあるのではないでしょうか。
家族信託は「家族専用の信託契約」になるので、営利を目的としておらず、契約内容も自由に設定できます。
ただし、万能な認知症対策ではないため、自分や家族に向いているかどうか、十分に検討する必要があるでしょう。
ここでは、家族信託をおすすめできる人や、弁護士に依頼するメリットなどをわかりやすく解説しています。
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家族信託は委託者・受託者・受益者の3者で成り立つ仕組みになっており、賃貸マンションなどの経営では以下のような運用ができます。
マンションの所有者が認知症になると、賃貸借契約や工事業者との契約ができなくなるため、賃貸経営は凍結されてしまいます。
しかし、家族信託では財産の管理権を受託者に移すので、父親が認知症になっても各種契約が可能になり、賃貸経営の継続が可能になります。
認知症対策には成年後見制度もありますが、原則として本人の財産を減らせないため、父親の預金から修繕工事代などをスムーズに支払えない可能性もあります。
家族信託が注目されている背景として、高齢者人口の増加と認知症リスクの増大が挙げられます。
総務省統計局の公表データをみると、2022年9月15日現在の推計では高齢者人口が以下のようになっています。
さらに、厚生労働省がまとめた「認知症施策の総合的な推進について」をみると、2025年には5人に1人が認知症有病者になると推計されています。
少子化や人口減少には歯止めがかかっていないので、近い将来、人口の少ない若年層が多くの認知症有病者を支えなくてはならない、といった状況も予測されるでしょう。
成年後見制度だけでは本人とその家族を支えきれないため、一気に家族信託の注目度が高くなったようです。
【参考】高齢者の人口(総務省統計局)
【参考】令和元年6月20日公表の「認知症施策の総合的な推進について」(厚生労働省老健局)
家族信託は以下のような人におすすめなので、当てはまる方は相談を検討しましょう。
家族信託は自分で信託プランを設計できるので、柔軟な財産管理をおこないたい人におすすめです。
成年後見制度でも財産管理はできますが、財産を減らす行為や、投資などの積極的な運用は原則的に認められません。
たとえば、「株価が上がったので売りたい」と思っても、株式の売却は投資行為になってしまうため、十分な利益が見込める場合でも売却は許可されないでしょう。
一方、家族信託では受託者に処分権限を与えられるので、財産の所有者が認知症になっても、受託者の判断で売却が可能になります。
家族信託では次の受益者となる第2受益者を指定できるので、障がいのある子どもや孫へ財産を渡したい人にもおすすめです。
障がいのある人は経済的な自立が難しいため、遺言書でまとまった財産を渡すケースもありますが、知的障害の場合はどうやって財産を管理するか?という問題が生じます。
また、障がいを持つ孫がいる場合、親の収入が不安定、または低所得だったときは、孫に何らかの生活保障が必要になるでしょう。
遺言書や成年後見制度では解決できない問題ですが、家族信託で収益物件を信託財産にすると、将来的には子どもや孫に家賃収入を受け取ってもらえます。
賃貸事業の経営者であれば、家族信託のメリットを十分に活かせます。
賃貸マンションなどのオーナーが認知症になると、賃貸借契約や管理会社との契約が結べなくなるため、賃貸経営は凍結状態になってしまいます。
また、修繕工事の契約や、滞納家賃の請求もできなくなるので、収益物件が負の財産になってしまうでしょう。
しかし、家族信託では受託者が賃貸経営を継続してくれるため、安定的な家賃収入を確保できます。
賃貸経営を引き継ぐ家族が決まっている場合、自分が元気なうちに管理権を移転させると、経営ノウハウの承継も早く完了するでしょう。
中小企業の経営者が家族信託を利用すると、事業承継の際に発生する問題を解消できます。
たとえば、経営者が委託者兼受益者となり、後継者を受託者として持株を信託すると、経営者が認知症になっても後継者が議決権を行使してくれます。
後継者の育成が不十分であれば、現在の経営者に指図権を持たせておくとよいでしょう。
また、経営者の妻や夫を第2受益者に指定すると、経営者が亡くなっても信託財産からの配当を受け取れるので、配偶者の生活保障も可能になります。
後継者を信託財産の帰属権利者にしておけば、経営者夫婦が亡くなった後も事業を続けてもらえるでしょう。
家族信託には遺言書を補完する機能があるので、契約形態を受益者連続型にすると、以下のような家族構成でも財産の一族承継が可能になります。
【家族構成と信託財産の例】
父親が「配偶者・長男・次男の子」の順で自宅を承継させたいと考えていても、遺言書では配偶者しか相続人に指定できません。
また、配偶者が長男に遺言書を残してくれたとしても、次に長男が遺言書を作成しないまま亡くなると、自宅の所有権は長男の妻と二男で分割することになります。
この時点で自宅は共有状態になってしまうため、二男の子に100%の所有権を相続させることは難しくなるでしょう。
ただし、家族信託では以下のように受益者を連続させることが可能です。
一族承継したい不動産などがあるときは、受益者連続型の家族信託で解決できるでしょう。
家族信託は営利目的の商事信託ではないため、基本的に財産の管理コストがかかりません。
「無償で財産管理を任せるのは気の毒だ」という場合は、信託契約で受託者の報酬を決めておくとよいでしょう。
賃貸マンションなどを信託財産にするときは、管理会社に支払う委託手数料を基準として、家賃収入の5~10%程度が信託報酬の相場になります。
ただし、家族信託を専門家に依頼すると80万円~100万円程度の費用がかかるので、導入コストだけは準備しておく必要があります。
家族信託を導入する場合、弁護士に依頼すると以下のメリットがあります。
家族信託が必要ない家庭もあるので、弁護士に判断してもらうとよいでしょう。
弁護士に家族信託の設計を依頼すると、最適な信託契約を提案してくれます。
家族信託を利用するときは、誰を受託者や受益者にするか、何を信託財産にするか、何年続けるかなど、細かな条件指定と長期的なプランが必要になります。
また、家族信託は委託者の意向が優先されてしまうため、受託者の判断を誤るケースもあるでしょう。
たとえば、老後の面倒をみてくれている長男を受託者にしたくても、財産管理や運用の観点からみると、長女や次男が適任かもしれません。
弁護士は感情論に流されず、冷静に現状分析してくれるので、失敗しない家族信託を設計できます。
弁護士が家族信託の設計や契約に関わると、家族全員の理解を得やすくなります。
家族信託では財産管理の権限が受託者に集中するため、仕組みをよく理解していない家族がいると、収益物件などの生前贈与と勘違いされるケースがあります。
誤解が生じると受託者が孤立する可能性があるので、家族信託に関わらない家族には弁護士から説明してもらうよいでしょう。
弁護士は家族からの質問にもすべて対応してくれるので、複雑な信託契約でも全員に納得してもらえます。
弁護士に信託監督人を依頼すると、財産管理が適正かどうかチェックしてもらえます。
信託監督人には以下の権限があるので、受託者による財産の使い込みも防止できるでしょう。
本来、受託者の業務は受益者が監督し、不正がおこなわれていないかチェックしますが、受益者が未成年者や障がい者の場合は監督が困難です。
家族間で監督するとチェックに漏れが出てしまうケースもあるので、監督業務を確実におこないたいときは、弁護士に信託監督人を依頼してください。
弁護士に受益者代理人を依頼すると、受益者が認知症になった場合でも、本人の代理人として受託者へ財産管理や処分を指示してもらえます。
受益者代理人は家族を指定しても構いませんが、受託者と対立関係になる可能性が高いので、家族とのしがらみがない弁護士が適任でしょう。
弁護士に家族信託の契約を依頼すると、遺留分の侵害が発生しないように契約内容を検討してもらうことができます。
家族信託で第2受益者を指定している場合、相続が発生した際に第2受益者は信託受益権を取得することになります。
信託受益権は遺産分割が不要な「みなし相続財産」になりますが、過去の裁判では遺留分の対象とする判決も出ているので注意が必要です。
遺留分の侵害が発生すると、高確率で相続トラブルになってしまうので、一部の財産だけを信託するなど、弁護士のアドバイスが必要になるでしょう。
家族信託の契約に弁護士が関わっていると、信託契約の見直しにもすぐに対処してもらえます。
契約に関わった弁護士は財産や家族構成、家族信託を導入した経緯を知っているので、状況に応じた変更契約をすぐに立案してくれるでしょう。
弁護士を交えて認知症対策を検討すると、家族信託以外の財産管理も提案してくれます。
家族信託には身上監護の機能がないため、医療や介護関係の契約を優先したいときは成年後見制度の利用、または家族信託と成年後見制度の併用を検討すべきです。
どちらも本人や家族の使い勝手を考慮する必要があるので、弁護士に説明してもらうとよいでしょう。
家族信託によって遺留分の侵害が発生した、または受託者が信託契約を逸脱して暴走するなど、何らかのトラブルがあったときは弁護士に紛争解決を依頼できます。
弁護士が間に入ると和解できる可能性が高いため、調停の申し立てや裁判を起こす必要がなくなるでしょう。
なお、弁護士は訴訟関係の手続きもすべて代行できるので、調停や訴訟に発展した場合でも、有利な展開になるように弁護活動をおこなってくれます。
家族信託を利用するときは、以下の流れで手続きを進めます。
家族信託の契約書は自分で作成したものでも構いませんが、信託口口座を開設するときには公正証書が必要です。
また、不動産を信託財産にするときは、所有権移転とともに信託登記も必要になるので、登記申請書や公正証書などを法務局に提出してください。
信託登記が完了すると家族信託のスタートとなりますが、自分で対応できない手続きがあれば、弁護士に依頼しておきましょう。
家族信託の手続きは弁護士以外にも依頼できますが、各専門家には以下の特徴があるので、何をどこまで依頼するか、ケースバイケースの判断になるでしょう。
司法書士には家族信託の手続き全般を依頼できますが、トラブルが発生した場合、簡易裁判所で140万円以下を争う裁判しか代理人になれません。
家族関係が円満であり、かつ将来的にもトラブルが起きないと予測されるようであれば、司法書士に家族信託を依頼するとよいでしょう。
なお、登記申請は弁護士でもおこなうことはできますが、司法書士のほうが登記申請業務に詳しいため、家族信託の契約書を弁護士が作成し、信託登記だけ司法書士に依頼するケースもあります。
行政書士は紛争解決と登記申請に対応できないので、家族信託を依頼するときは以下の業務に限定されます。
家族同士に対立関係がなく、信託登記も自分で対応できるようであれば、行政書士に家族信託を依頼してもよいでしょう。
税理士にも家族信託の契約書作成や必要書類の収集を依頼できますが、信託登記と紛争解決には対応していません。
なお、収益物件を信託財産にすると、従来どおりの所得税申告が発生し、受託者も「信託の計算書」を税務署に提出する必要があります。
税務署対応を専門家に任せたい方は、家族信託に詳しい税理士へ依頼してみましょう。
家族信託コーディネーターと家族信託専門士は民間資格になっており、それぞれ以下のような違いがあります。
どちらも信託登記と紛争解決には対応していないので、トラブルが発生したときは自分で対処しなければなりません。
ただし、弁護士や司法書士がコーディネーターや専門士と同等の知識を有している場合であれば、ほとんどの業務をワンストップで依頼できます。
家族信託の手続きを弁護士に依頼すると、信託財産の額に応じて以下の費用がかかります。
弁護士費用の最低金額は30万円ですが、手続き全般を依頼すると、公証役場や金融機関に出向いた際の交通費や、1時間1万円程度の日当が発生します。
なお、法律相談料は基本的には有料ですが、初回分を無料にしている弁護士が多いので、家族信託を検討している方は、まず無料相談からスタートしてみましょう。
参考:家族(民事)信託の手続き費用は?安くする方法や弁護士費用相場も解説
認知症になった方の財産は凍結状態になりますが、家族信託を導入しておけば、受託者が適正に財産管理してくれます。
ただし、家族信託は長期的な運用になるため、受託者が途中で亡くなる、または信託財産に追加や変更が生じるなど、さまざまなトラブルを想定しておかなければなりません。
また、家族関係が良好とはいえない場合、将来的にはトラブルに発展する可能性もあります。
家族信託が最適な認知症対策になるのか?と迷っている方は、まず弁護士に相談してみましょう。
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