労働者を雇用する企業は、労働基準法を遵守しなければなりません。
労働基準法に違反すると、労働基準監督署による行政指導等の対象となるほか、損害賠償責任や刑事罰のリスクも生じてしまいます。
弁護士のアドバイスを受けながら、労働基準法に違反しないようにコンプライアンスを強化しましょう。
本記事では、労働基準法違反に当たる企業の行為、違反のリスクや予防策などについて解説します。
本記事を参考にして、自社が労働基準法をきちんと遵守できているかどうか振り返りましょう。
会社は労働基準法を守らなくてはならない
労働者(従業員)を雇用する会社は、労働基準法を遵守する義務を負います。
労働基準法とは、労使関係における労働条件の最低ラインを定めた法律です。
労働者は使用者から支払われる賃金に生活を依存し、使用者に対して弱い立場に置かれるケースが非常に多いです。
このような状況では、労働者が使用者によって、劣悪な条件で働かされて搾取されてしまうリスクが高いと考えられます。
そこで労働基準法では、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たせるように、労働条件の最低ラインを定めて使用者に遵守を求めています。
労働者は、労働基準法で守られているのです。
会社が労働基準法に違反した場合、労働基準監督署による行政指導や刑事罰の対象になります。
会社としては、労働基準法に定められているルールを正しく理解した上で、そのルールの遵守に努めなければなりません。
労働基準法違反に当たる主な行為
労働基準法では、労働条件に関してさまざまなルールが設けられています。
以下に挙げるのは、労働基準法違反に当たる使用者の行為の代表例です。
- 事前の予告なしの解雇および解雇予告手当の不支給
- 36協定で認められていない時間外労働・休日労働を命じること
- 賃金(残業代)の未払い
- 休憩を適切に与えないこと
- 有給休暇を与えないこと
- 産前産後休業・育児休業・介護休業を取得させないこと
- 就業規則の作成・届出義務違反
- 労働基準監督署への申告を理由とする不利益な取り扱い
- 違約金や損害賠償額の予定を定めること
- 国籍・信条・社会的身分・性別による差別
事前の予告なしの解雇および解雇予告手当の不支給
会社が労働者を解雇する際には、事前に解雇を予告するか、または解雇予告手当を支払わなければなりません。
具体的には、以下のいずれかの対応が必要になります(労働基準法20条1項、2項)。
- 30日以上前に解雇を予告する
- 30日分以上の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払う
- 解雇を事前に予告しつつ、解雇予告手当も支払う(解雇予告手当として平均賃金の1日分を支払うごとに、30日の解雇予告期間を1日短縮できる)
上記のうちいずれかの対応をおこなわず、解雇予告義務または解雇予告手当の支払義務を果たさなかった場合は、労働基準法違反に当たります。
36協定で認められていない時間外労働・休日労働を命じること
労働者を働かせることができる時間は、原則として法定労働時間が上限とされています(労働基準法32条1項、2項)。
法定労働時間を超える労働を「時間外労働」といいます。
※法定労働時間:原則として1日当たり8時間、1週間当たり40時間
また、労働者には1週間につき1日、または4週間を通じて4日の休日を与えなければなりません(労働基準法35条1項、2項)。
この労働基準法の規定に基づいて付与される休日を「法定休日」といいます。
法定休日に労働者が働くことを「休日労働」といいます。
労働者に対して時間外労働または休日労働を指示するためには、「36協定」と呼ばれる労使協定を締結しなければなりません。
36協定には、時間外労働や休日労働を命ずることができる場合や、その上限時間(日数)などのルールが定められます。
会社が労働者に対して時間外労働や休日労働を指示できるのは、36協定によって認められた範囲内に限られます。
36協定の上限を超えて時間外労働や休日労働を指示することや、そもそも36協定が締結されていないのに時間外労働や休日労働を指示することは、労働基準法違反です。
賃金(残業代)の未払い
労働者に対しては、毎月1回以上一定の期日を定めて、通貨で直接賃金の全額を支払わなければなりません(労働基準法24条1項、2項)。
賃金の一部でも支払いが遅れた場合は、労働基準法違反となります。
労働者が仕事上のミスなどをした場合でも、その弁償金を賃金から天引きすることは、全額払いの原則に反するため認められません。
会社が一方的に賃金から弁償金を天引きした場合は、天引き額が未払いとなるため労働基準法違反に当たります。
また、会社は労働者に対して、最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません(労働基準法28条、最低賃金法)。
賃金の支払額が最低賃金を下回った場合は、不足額が未払いとなるため、やはり労働基準法違反に当たります。
休憩を適切に与えないこと
使用者は労働者に対して、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、労働時間が8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければなりません(労働基準法34条1項)。
労働者に対して休憩を適切に与えないことは、労働基準法に当たります。
休憩時間は、労働者の自由に利用させなければなりません(労働基準法34条3項)。
言い換えれば、休憩時間中の労働者は、労働から完全に解放されている必要があります。
たとえば会社の指示があれば業務に対応しなければならない「手待ち時間」は、休憩時間として認められません。
休憩時間が実質的に手待ち時間となっている場合は、労働基準法違反に当たる可能性が高いと考えられます。
有給休暇を与えないこと
雇入れの日から起算して6か月間以上継続勤務した労働者のうち、対象期間※中の全労働日の8割以上出勤した者に対しては、労働基準法の規定に従った日数の年次有給休暇を付与しなければなりません(労働基準法39条1項~3項)。
※対象期間:以下の期間
(a)雇入れの日から起算して6か月後に付与される年次有給休暇について
→雇入れの日から起算して6か月間
(b)(a)の後1年ごとに付与される年次有給休暇について
→付与日の前1年間
労働者に対して年次有給休暇を付与しない行為は、労働基準法違反に当たります。
なお、年次有給休暇は原則として、労働者の請求する時季に与えなければなりません(労働基準法39条5項)。
事業の正常な運営を妨げる場合は付与時季の変更が認められますが、そうでない場合に労働者の有給休暇取得請求を拒否すると、労働基準法違反に当たるので注意が必要です。
産前産後休業・育児休業・介護休業を取得させないこと
会社は、6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性労働者が休業を請求した場合は、その者を就業させてはなりません(=産前休業、労働基準法65条1項)。
また、産後8週間を経過しない女性を就業させてはなりません(=産後休業、同条2項。ただし、産後6週間経過後は、支障がないと医師が認めた業務に就かせることができます)。
出産する女性労働者に、産前産後休業を適切に取得させなかった場合は労働基準法違反に当たります。
また育児・介護休業法では、一定の年齢に満たない子を養育するための「育児休業」や、要介護状態の家族を介護するための「介護休業」の付与などを使用者に義務付けています。
育児休業や介護休業を適切に付与しない場合は、育児・介護休業法違反となります。
就業規則の作成・届出義務違反
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成したうえで、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署に届け出なければなりません(労働基準法89条)。
就業規則の作成および届出の義務を怠った場合は、労働基準法違反に当たります。
労働基準監督署への申告を理由とする不利益な取り扱い
事業場において労働基準法違反の取り扱いがなされている場合には、労働者はその事実を労働基準監督署に申告できます(労働基準法104条1項)。
労働者が労働基準監督署への申告をおこなったことを理由として、会社が労働者に対して解雇その他の不利益な取り扱いをすることは認められません(労働基準法104条2項)。
もし申告を理由に労働者を不利益に取り扱った場合は、労働基準法違反となります。
違約金や損害賠償額の予定を定めること
会社は、労働契約の不履行(仕事上のミス、無断欠勤など)について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはなりません(労働基準法16条)。
労働契約等において、違約金や損害賠償額の予定を定めた場合は、労働基準法違反となります。
国籍・信条・社会的身分・性別による差別
会社は、労働者の国籍・信条・社会的身分を理由として、賃金・労働時間その他の労働条件について差別的取り扱いをしてはなりません(労働基準法3条)。
また、労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取り扱いをしてはなりません(労働基準法4条)。
これらの規定に違反する差別的な取り扱いをした場合は、労働基準法違反に当たります。
労働基準法違反を犯した会社が負う法的責任とリスク
会社が労働基準法違反を犯した場合は、以下のリスクを負うことになってしまいます。
- 労働基準監督官による是正勧告
- 未払賃金・損害賠償など金銭の支払い
- 刑事罰を受けることもあり得る
- 離職率の上昇・人材確保の難航
- 労災による労働者の離脱
労働基準監督官による是正勧告
労働基準法違反の疑いがある事業場に対しては、労働基準監督官による臨検(立ち入り調査)がおこなわれることがあります。
臨検に当たっては労働基準監督官が事業場内の様子を調べるほか、事業場に対して帳簿・書類の提出を求め、さらに会社担当者や労働者に対して尋問をおこないます(労働基準法101条1項)。
臨検の結果、労働基準法違反の事実が認められた場合は、労働基準監督官が事業場に対して是正勧告をおこないます。
是正勧告を受けた事業場は、速やかに労働基準法違反の状態を是正しなければなりません。
是正勧告に従わない場合は、後述するように刑事罰を受けるおそれがあるので注意が必要です。
未払賃金・損害賠償など金銭の支払い
労働基準法違反によって賃金が未払いとなった場合や、労働者が損害を受けた場合には、会社は労働者に対して金銭を支払う義務を負います。
違反の規模などによっては、多額の金銭の支払いを強いられて経営が傾くおそれがあるので要注意です。
刑事罰を受けることもあり得る
労働基準法違反に当たる行為の多くは、刑事罰の対象とされています。
主な違反行為と法定刑は以下のとおりです。
主な違反行為 | 法定刑 |
・強制労働をさせること | 1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金(労働基準法117条) |
・労働者からの中間搾取 ・最低年齢未満の児童を労働させること ・坑内労働の禁止および制限に違反すること | 1年以下の懲役または50万円以下の罰金(労働基準法118条) |
・解雇予告義務または解雇予告手当の支払義務に違反すること ・違法に時間外労働をさせること ・賃金の不払い ・休日を適切に付与しないこと ・休憩を適切に付与しないこと ・年次有給休暇を適切に付与しないこと ・産前産後休業を適切に付与しないこと ・労働基準監督署への申告を理由に不利益な取り扱いをすること など | 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金(労働基準法119条) |
・雇用時に労働条件を明示しないこと ・休業手当を適切に支払わないこと ・就業規則の作成、届出義務に違反すること | 30万円以下の罰金(労働基準法120条) |
実際に労働基準法違反に当たる行為をした者だけでなく、その者を雇用している会社も、両罰規定によって刑事罰の対象となるので注意が必要です(労働基準法121条)。
特に労働基準法違反の態様がきわめて悪質である場合や、労働基準監督官による是正勧告に従わない場合は、行為者や会社が刑事訴追されるリスクが高まります。
重大な労働基準法違反を避けるためのコンプライアンス強化に取り組むとともに、労働基準監督官の是正勧告には速やかに従いましょう。
離職率の上昇・人材確保の難航
事業場において労働基準法違反が横行すると、労働環境の悪化に伴って離職率が上昇し、さらに新規採用による人材の確保も難航することが懸念されます。
優秀な人材が定着しないようになってしまうと、中長期的な観点から、会社の業績が傾く可能性が非常に高いので要注意です。
労災による労働者の離脱
労働基準法に違反する過酷な労働環境で働かせると、労働者は心身のバランスを崩してしまうリスクが高まります。
業務上の原因によるケガや病気などは「労働災害(労災)」に当たります。
この場合、労働者が療養のために離脱してしまうことがあるほか、会社は労働者に対して損害賠償責任を負う可能性が高いです。
労働基準法違反を防ぐためのコンプライアンス対策
事業場における労働基準法違反を防ぐため、会社としては以下のコンプライアンス対策をおこないましょう。
- 労働基準法のルールを正しく理解する
- 労働時間を適切に管理する
- 弁護士のアドバイスを受ける
労働基準法のルールを正しく理解する
会社の経営者・管理職・人事担当者などは、労働基準法のルールを正しく理解することが非常に重要です。
定期的にコンプライアンス研修を実施するなどして、どのような行為が禁止されているのか、何をしなければならないのかなどをきちんと把握しましょう。
労働時間を適切に管理する
労働基準法違反が問題になる多くのケースでは、会社が労働時間の管理を適切におこなっていません。
不適切な労働時間の管理は、違法な長時間労働や残業代の未払いなどに繋がり、労働基準法違反の原因となります。
勤怠管理システムによって機械的に労働時間を管理し、残業については許可制とするなど、労働時間の適切な管理に努めましょう。
弁護士のアドバイスを受ける
労働基準法のルールについて分からないことがある場合は、弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。
顧問弁護士と契約しておけば、人事・労務管理に関するトラブルや疑問点について、いつでも相談できるので安心です。
労務コンプライアンスの強化に取り組む企業は、顧問弁護士との契約をご検討ください。
まとめ
労働基準法では、会社が遵守すべきさまざまなルールが定められています。
労働基準法に違反すると、労働基準監督官の是正勧告や刑事罰、労働者に対する損害賠償等のリスクを負うので要注意です。
事業場における労働基準法違反の発生を防ぐには、弁護士のアドバイスを受けながら労務コンプライアンスを強化することが効果的です。
労働基準法違反に起因するトラブルを防ぎたい会社は、お早めに弁護士へご相談ください。
参考:労働基準法32条|基礎知識と法改正のポイント、フレックスタイム制度との関連は? | HRドクター